夜、漆黒の闇。その世界には一筋の光も無い。
勿論、町まで行けば光はある。――だがポケモンには縁の無い世界だ。いや、『ポケモン』という例えではなく、『私』という名の『ポケモン』に縁が無い、といった方が正しそうだ。
遠くの町の小さな光が、今消えた。
ウォオォォォーン。
私の遠吠えだけが独り歩きする。夜の世界に生きるポケモンは独りであることが非常に多い。いや、進んで独りになったポケモンが多い、というべきか。
勿論、私もその部類に入る。仲間と一緒なんて……考えたことも無かった。
僅かな月明かりだけが漆黒の闇を照らす。『夜』の世界は飲み込まれた方が負けなのだ。――この数年、身にしみて感じた。
弱者は生き残れない世界――、私はそこで生きることを決めていた。
今日の月明かりは、何時にも増して暖かかった。
「貴方も……独りなんですの?」
ん、誰だ……? 私に話しかけてくるポケモンなんて居なかった筈だが……?
そっと振り返って見ると、私とは別種族のポケモン――ヘルガーの雌が座っていた。美しい――ポケモンだ。毛並みの艶を見ればあの獣(ポケモン)が人の手によって育てられたんだ、ということが私には分かった。
「お嬢さん、こんなところに何かようですかな? ここは貴女のような美しい方が来るところではありません、直ぐに元の場所に戻った方が身の為ですよ」
私は随分と優しくしたつもりだった。それで立ち去ってくれると思っていた。でも。
「いえ、私は立ち去りません――いえ、立ち去れないのです。今晩は貴方の近くに……居させて下さい」
「何があったのかは知りませんが、私に出来ることならば協力しましょう。どうぞ」
静かに何時も私が寝床としている洞窟へと案内した。この洞窟に私以外のポケモンが最後に足を踏み入れたのは何時であっただろうか、そんなことを思わず考えてしまった。
「ここが寝床です。あまり綺麗ではありませんがこんなところでよければどうぞ」
「ありがとうございます。突然のお願いで――断られるかと思いましたわ」
「貴女の様な美しい方の誘いなど断れませんよ、私は外に居るので」
それだけ言って、私はそっと彼女の側を離れようとした。だが、彼女は私のボロボロの毛をそっとつかみ、
「隣に……居て欲しいのです。いい……ですよね」
――予想外の返事。全ての始まり。
『夜』は全てを飲み込む。嫌なことも、楽しかったことも、全て『夜』が吸い尽くしてしまう。
『夜』はそれをエネルギーにし、人の気持ちを昂ぶらせ、自分の感情を制御出来なくさせる。
――失敗した。手が……早すぎたか。
朝が来た。そのまま彼女は、消えた。
何故彼女は私の前に現れたのか、私には判らない。今の私が唯一理解できることは、彼女が本当に居たかどうか判らない、という根本的に何の解決にもならないことだけだ。
ただ、彼女は独りになった私に何かを与えてくれたような気がしないでもない。
今も目を閉じれば、彼女の温もりが――伝わってくる。整えられた毛並み、高く美しい声……、全てが懐かしい想い出だ。
――今の私は独りだが何か暖かいものに包まれているような気がした。そして、また今日も夜が来る。