「洪楠殿。もうそろそろ時間です」
誰かが自分を起こそうとしているのが分かり、すぐに洪楠は起きた。起きた洪楠に水を注いだ杯が渡される。
「俺の剣は?」
渡された水を受け取り、従者に訊ねる。
「ここにあります。そろそろ出発の準備をいたしましょう」
従者は、一礼して洪楠の剣を渡すと、すぐに幕舎から出て行った。
洪楠も、すぐに赤い甲冑に着替え、剣を佩き、幕舎から出た。
外は慌しかった。それもそうであろう。今から敵陣に奇襲を掛けようと言うのだから。
そんな中でも、程何は迅速に指示を出していた。
「第一隊は騎馬隊。川岸到着後、援軍到着を待つこと。歩兵隊も、弓兵を包むように槍兵が陣を組みます。
それには、現存歩兵の半数ほどが。残りは陣地防衛に徹してください」
あわただしく斥候が動き回り、色々な話し声が聞こえてくる中、程何は、そう指示を出す。
準備するのにそんなに時間はかからなかった。
騎馬隊は、先ほど進発したため、恐らくもう川岸に居るだろう。
そう思うと、歩兵部隊に進発の合図を出した。
「歩兵、全部隊出発。揚武平原に進む」
「ここで止まれ。歩兵部隊と合流し、援軍到着と同時にこの川を渡る」
洪楠が右手を横に伸ばすと、後ろの騎兵隊は、隊列が崩れることも無く、綺麗に止まった。
恐らく、洪楠の騎馬部隊の強さは、ここから来ているのだろう。
隊列が整っている。完璧な訓練の証拠ではないだろうか。
戦う訓練よりも、まず意思の疎通を図ろうとしている。
すると、半刻も経たぬうちに、歩兵部隊が川岸に到着した。
「洪楠殿、そろそろですね」
程何が洪楠の隣に来て、洪楠に囁く。
「ああ、奴らは約束の時間に間に合わせるさ」
程何は洪楠に一礼すると、自分が受け持っている歩兵部隊のほうへ戻っていった。