異聞・三國志(3)

遼水の近くは静寂に包まれており、赤々とかがり火が陣地を照らしている。

その静寂を破るように、複数の馬蹄が硬い地面を叩く音が響く。

数頭の、炎で道を照らす赤い馬が、具足をつけ、剣を佩いている人間を乗せて、陣地に向かっていた。

陣地の中、唯一光の漏れている幕舎の前で先頭の赤い馬は止まり、馬上の青年は炎馬から降り、幕舎の中に入る。

他の馬に乗っていた兵士たちは、他の幕舎へ散り散りに向かっていった。

「やあ洪楠殿、やっと来られましたか」

幕舎のなかでは、地図を広げ、何やら軍議の様な事をしていた。

全て赤の甲冑に身を包んでいる、何やら参謀っぽい人が、入ってきた将軍風青年に声をかける。

「多少遅れたが、物資の輸送の手はずは整えた。後は、戦略を練り、向こうへ突撃するだけだ」

青年将軍は、椅子に腰掛けながらそう呟いた。

ドスッ。いきなり幕舎の屋根に巨大な矢が突き刺さる。弩砲独特の風切り音と共に、陣地の中の陣太鼓が鳴らされる。

「……何なんだこれは?程何(テイカ)」

洪楠は、程何と、目の前の参謀に訊く。

「敵襲ですね。洪楠殿も臨戦態勢を!!敵を撃破します」

そう言うと、程何は幕舎を出て、起きだした兵士に指示を与える。

恐らく、夜襲であろう。まだ戦闘準備も出来ていないと思っているのか知らないが、こちらにとっても好都合。

程何は内心ほくそえみ、声を張り上げた。

「全員槍構え。密集方陣を敷きます。騎馬隊は、陣地内での戦闘は行わず、先の広場にて遊撃戦を展開しなさい。

弓兵部隊は槍、騎馬たいの援護をすること。」

物々しく甲冑を着た兵士が集結するが、それよりも早く、敵の歩兵部隊が陣地に切り込んできた。

「……出撃だ。全員、敵の増援を阻止するために、広場で遊撃戦を展開する。全員、これ以上の敵を陣地に入れさせるな」

先頭の洪楠以下、全員が赤い甲冑を身にまとい、赤い炎を持つ炎の馬、ギャロップに乗っている。

騎都尉洪楠の赤備え、炎騎馬隊である。都でもその勇名は高く、数々の反乱軍鎮圧に一役買っている。

ギャロップ達は嘶いているが、剣戟の音が鳴ると、自然と静かになり、臨戦の態勢になった。

「全隊、連続突撃の戦法を取る。第一隊、俺に続け」

後方の軍楽隊が太鼓を一度打つと、洪楠以下一〇〇騎がまず突撃を開始する。

洪楠の騎馬隊が他の騎馬隊と違い、かなりの勇名がとどろいている理由は、多彩な戦法にある。

この連続突撃は、その中でも代表的なもので、一〇〇騎ごとに部隊を分けて、一気に時間差で突撃することである。

その速度と、馬上から放たれる長槍の一撃で敵に打撃を与え、加速するために敵から離れ、

また次の一部隊が突撃、その部隊も突撃準備、次の部隊が突撃、といったことを繰り返す戦法である。

そのため、洪楠の騎馬隊は、一〇〇〇という少数でありながら、どんな大軍にも大打撃を与えることが可能だ。

第一、洪楠の部隊が、広場より陣地に浸透しようとしている歩兵部隊に突っ込む。

いきなりの奇襲に、敵の部隊は大打撃を受け、指揮、連絡系統が混乱し始めた。

その中、洪楠の第一部隊が加速するために敵集団から離脱。

すぐさま第二部隊が突撃する。

その繰り返しと、陣地内からの槍の密集方陣に、弓兵の援護射撃で、敵軍を壊滅的な状態にした。

「敵はあらかた片付きました。残りの兵も向こう岸に撤退しました。それでは、今日は休ませ、明日明朝から急襲するというのはどうでしょう」

洪楠の隣に来た程何が、洪楠に訊ねてみる。

しかし洪楠は、

「いや、俺たちは被害が小さい。あと少ししたら援軍が来るはずだ。援軍と共に今夜中に揚武平原に上陸し、敵を破る」

洪楠がそう言うと、程何はうなずき、先ほどの幕舎へ入っていった。

洪楠も、援軍到着までの一刻ほど寝ようと、従者に伝え、自分の幕舎へと向かった。

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