国史一伝(1)

武は、もう31になっていた。

17で旗挙げし、各地で転戦すること12年。やっと手に入れた安住の地であった。

聳え立つ城の上から見る弐備の町を見るたび身震いがする。自分が、こんなことをやっていていいのか。

幼いころ誓った夢。それは今現実となっている。だが、何かが足りない。

それは分からないが、何かとてつもなく身近にあり、そしてそれを得るには難しいものだと感じていた。

空を見上げるたびにそんなことを考えていた。

「失礼致します」

入ってきたのは利一だった。若干21歳の青年だが、光るものがある。武が一番信頼している部下であった。

「殿、御月見山方面で呂家徒団の残党が暴れているとの報告が民から上がっております」

「呂家徒団か」

呂家徒団は数年前に壊滅した。だがその団員たちは結びつきあい、盗賊として各地で強盗まがいのことをやっているらしい。

「して、兵力は」

「それが約2000といわれておりますが」

「2000だと」

武は思わず唸りをあげた。

「はっ。既に御月見山に配備された衛兵は全滅しているとのことです」

「今我が軍が動かせる兵は」

「ポケモンたちも合わせて800。常盤方面に配置した兵たちも合わせれば1000は優に越えますが」

「手勢がたったの800ではまず倒すことはできぬ」

「殿、何を弱気なことを。我ら精鋭部隊で打ち破ってご覧に入れます」

呂家徒団の怖さを知っていた。それも幼き日のころに。

あの時襲われ、自分を庇って殺された父。そのときの残像はいまでも脳裏に焼きついている。

忘れようとしても忘れられない。そればかりか、いつも思い出してしまう。

だから戦った。そして今の自分があるのだ。だが、今、そして昔の自分を踏み倒したい。

新たな自分に向かって歩むために。それには利一のような勇気が必要だった。

「私も年を取ったものだ。お前のような血の気が盛んな時代もあったのだが」

「殿は今の殿でよいのです。冷静沈着、智謀にも長けている殿がわざわざそのようなことをしなくてもよろしいのです」

「弐備に腰を据えて2年。民も我らを信頼している。今こそ動くときか」

「華雫の霞殿も動くでしょう。挟み撃ちならば勝機はあります」

同盟国の華雫の大名・霞の動向はこの戦で重要なところだ。

もし裏切られたら一巻の終わり、敵の水軍が攻勢に出れば我らのイシツブテ軍団などひとたまりもないだろう。それが一番心配だった。

「裏切りが怖い。霞がそんなことを企てているかどうかは分からんが」

「コラッタ・ポッポによる伏兵を用意しておきます。近辺の豪族もこちらに協力していますので」

「わかった。これで憂いはなくなった。出陣するぞ。利一、お前に我が隊のサンド達100匹を譲ろう。お前の手勢では足りないだろうからな」

「ありがたきお言葉にございます」

「そうかしこまるな。お前とは兄弟みたいなものだからな」

「そんな滅相もない」

二人は声を上げて笑った。このままでいたいが、そうしてもいられない。

「いくぞ、利一。敵は大軍だ。できるだけ損失を少なくする。何よりもこれが重要だ」

「心得ております、殿。私もこの二年間、ただ日々を過ごしていたわけではないので」

「兵に出陣の命を出せ。すぐ出発する。霞の動向にはよく注意しろ」

「では、先にいかせてもらいます」

そう一言言うと、利一は早足で部屋をあとにした。

―――乱世。乱世だからこそ自分が輝ける。まだ青い光を放っている空を見ながらそんなことを考えていた。

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