ここは、トキワシティ。カントー地方で最後、つまり、八つ目のバッチがあるトキワジムのある町。
本来この町は、あまり賑わうこともなく、ひっそりとしている。町も、正直あまり大きくない。
しかし、こんな町が今日はいつもとは違った雰囲気を醸し出している。観光客が異常に多い。いや、おそらく彼等の九割ほどは観光客ではないだろう。
大まかに言えば観光客ということになるのだろうが。
そして、彼等の目的地はただ一つに集中している。トキワジムである。
今日は、天才トレーナー、ヒサシの初ジム戦が行われる日だった。
会場となるトキワジムには、観客でごった返していた。初夏の暑さ以上の熱気が、そこには漂っていた。
午前八時。ヒサシとなったミュウツーが、バトルフィールドに登場した。その瞬間、大きな声援が、観客席から聞えてきた。
いつもとは違い、全体的に落ち着いたイメージの服装。そして、傍らのベルトには、モンスターボール、いや、マスターボールがただ一つ。
ミュウツーは暗がりから日の当る、バトルフィールドギリギリの外、白線のすぐ目の前に立った。
ミュウツーは観客席を見渡した。そしてふと、不適な笑みを浮かべながら対戦相手を睨みつけた。
観客からの応援のそこそこ静まり返った頃、中央にいた司会らしき人物がマイク片手に話し始めた。
「・・・えぇ、皆さん。本日は、わずか十三歳でポケモンリーグの頂点まで上り詰めた天才トレーナー、ヒサシさんの、就任後初のジムバトルです!
挑戦者は、ヒワダタウン出身のゴールドさんです。彼は今まで、カントーのジムリーダーをわずか一年足らずで下してきた兵です!
まさに、天才トレーナー同士の戦いです!」
ミュウツーはその言葉に、聊か不満を抱いたのか、表情を変えた。だがそれも、ほんの一瞬のことだった。
「えぇ、では、初めにバトルルールから。ルールは、挑戦者にゴールドさんは、六匹まで使用可能です。
・・・で、ヒサシジムリーダーは、なんとミュウツー一匹で戦います!」
その瞬間、観客席がどよめいた。ミュウツーは少し、気をよくしたようだ。
「挑戦者にのみ、ポケモン交代が許され、ヒサシジムリーダーは、ミュウツーを引っ込めた時点で負け決定です!
・・・それでは、試合を始めたいと思います!」
司会のその一言で、ジムは一瞬にして静寂になった。不思議なくらい、雑音が消えた。
そしてミュウツーの表情も、対戦者のゴールドという少年の顔も、引きつった。
手には何時の間にか、マスターボールが握られていた。対戦者のゴールドの手にも。
司会がマイクを口元に近づける。観客達は思わず身を乗り出さんばかりにその光景に釘付けになった。
「試合・・・開始!」
ミュウツーがボールを投げる前に、一気に観客がどよめいた。
司会の声と同時に、ミュウツーはヒサシの入ったマスターボールを投げた。
そして相手も、モンスターボールを投げた。二つに光が、ジム内を一瞬だけ照らした。
・・・遂に、始まってしまった・・・
ヒサシは心の中で、悲鳴を上げた。ヒサシは目を開けた。自分が今立っている場所。それは、何時もポケモンという動物達が戦いを繰り広げるフィールド。
本来なら、人間がそんなところ踏み入れることは決してない。だが今は、それが現実となってしまった。
周りの歓声が、思いのほか五月蝿かった。が、それ以上に、フィールドを照らすライトが眩しい。
ヒサシはそんなことを考えつつも、一番心の中はこのことでいっぱいだった。
・・・もう、お終いだ・・・
ポケモンと人間に戦い。勝つ方は誰が考えたって容易に分かる。しかも、敗者はズタズタになるまで戦わされる。
勝負など、する意味はない。が、今更自分の名誉を捨てるわけにはいかない。こうなったら、ミュウツーの指示通り動くしかない・・・
ライトの向こう、対戦相手のポケモンが判明した。案外小さなその形容。黄色い色が一際目立つ。
世界中の人間を、魅了し続けるそのポケモン・・・それは・・・
ピカチュウだった。ヒサシは拍子抜けするような対戦相手の登場に、ちょっとした余裕さえ感じていた。
・・・これなら、勝てるかも・・・
ヒサシは内心、そんなことを考えていた。
屋外の特設ジム。太陽の光は、雲に遮られる気配は全くない。
ヒサシが、このピカチュウに遮られる気配も、全くなかった。
だが・・・時として、油断していると・・・