「どうした?ヒサシ君?頭が爆発したか?」
ミュウツーが、嫌味ぽくそう言った。
「・・・・・・」
ヒサシが、急に笑い声を止めた。部屋は静寂に包まれた。
とは言っても、外では小鳥、というよりは、ポッポ達の囀りが絶え間なく聞えている。
完全な静寂が訪れることは、まずない。
「・・・ありえねぇ・・・ありえねぇんだよ!」
不意に、叫ぶようなヒサシの声が、その静寂を打ち破った。
そしてヒサシはそう言った瞬間、右手の拳を作り、ミュウツーに向かっていった。
そう、ヒサシはミュウツーに殴り掛かっていったのだ。その、白い腕で・・・
だがヒサシは、無力、そして、無知だった。
その時、ヒサシの殴りかかった右手が、急に空中で止まった。いや、正確には、何かの力が作用し、止めさせられている。
「・・・なっ・・・何だ?」
叫ぶヒサシ。ミュウツーは両手を組んで、それでも、殴りかかってきた“自分”の腕を眺めつつ、こう言った。
「・・・残念だが、ヒサシ君。心移しで体を入れ替えても、心以外は全て元のまま・・・つまり、私はサイコキネシスを使えるのだよ!」
ミュウツーがそう言った瞬間、ヒサシが宙に浮かび上がった。空中浮遊するヒサシの身体、いや、“ミュウツー”の身体。そして・・・
・・・ドンッ・・・
ヒサシは床に叩きつけられた。狭い室内。そんなにヒサシとミュウツーとの距離はない。
しかしヒサシは、自分の無力さを感じたのか、もうミュウツーに殴りかかろうとはしなかった。
ヒサシは不意に、時計に目を移した。時計の針は、七時四十分を指していた。その時、ヒサシの脳裏にあることが過った。
・・・ジム戦・・・
「おや?どうした?」
「・・・今日、俺の初のジム戦があるんだよ!」
「・・・なんだ、そんなことか」
ミュウツーは興味ナシ、と言わんばかりに投遣りに言った。
「俺・・・ミュウツー一匹で戦うって言ったんだぜ!」
そう、ヒサシはミュウツーを捕まえた時、ミュウツー一匹で戦うと宣言してしまっていたのだった。
今更それを撤回するわけには行かない。しかし、今の身体では・・・
「・・・お前が、ミュウツーとして出ればいいじゃないか」
「へぇ?」
ミュウツーの爆弾発言。ヒサシも聞き流す訳にはいかなかった。
「お前が、ミュウツーとして出ればいいだけの話だ!」
ミュウツーのその言葉を聞いて、ヒサシは目の前が真っ暗になった。
ミュウツーとして、俺が戦う。つまり・・・俺がポケモンと戦うということ・・・
朝に日差しは、窓の隙間から止めど無く光を送り続けていた。
これは、まだほんの序章。だが、これは今のヒサシにとって、全てであった。