あれは恐らく、幻だったのだろう。
闇夜の見せた幻覚。
日常に見えた幻想。
そうとでも考えなくては……やっていられない。
あの夜私が見た姿は、幻視で。
追っていたあの姿は、幻像で。
そうとでも考えなくては……やっていられない。
現物を、実物を、逃してしまったなどとは――信じたくはない。
しかし、無駄に幻覚を追いかけていたとも――信じたくはない。
矛盾と正当の狭間で立ち竦んでいるのが、私なのだろう。
真相は、見えている。
あれは幻覚などではなく、一匹のポケモン。
通った水が澄み渡るという言い伝えが実在している以上、あれはポケモン。
実際の所は。
あの少年に取られたあのポケモンを忘れようと。
あのポケモンを記憶からなんとか消し去ろうと。
自分に都合のいいように考えているだけなのだ。
記憶を消す為。全てを忘れる為。
――――――――――?
待てよ、と私は思い直す。
記憶を消すなら。全てを忘れるなら。
打って付けの行為があるじゃないか、と。
あの少年の背中が、遠く眩しい。
私は一瞬の躊躇も無く。
青空の下、舌を噛み切った。
薄れゆく意識の中。
水色の美しい幻影が目の前を駆け抜けて行ったような気がしたが、それは多分気のせいだったのだろう。
<Fin>