モノクロテレビに映る映像のような世界。白と黒のただ二色で構成された世界。
――何の脈略もなく何の筋書きもなくただ其処に、私と誰かの二人だけが、存在していた。
「久しぶりです……ね」
誰かの声。それは恐らく、私に最も近く最も遠い彼。
顔を見たのは――何年振りだろうか。
「久々だな。元気にしていたか」
ええ、とその誰かは頷く。
「――そうか。私正直、心配していたんだ。手ぶらで地方を出たお前をな」
「あれから俺は一件、盗みをしました」
私の言葉を聞いているのかいないのか。――彼はゆっくりと、独白する。
「そして、悪を滅ぼすという名目で――三人、人を殺しました」
言葉に出てきた、『悪』。
その言葉が表すものは……判っている。
「それが、俺の罪です。俺一人の、罪です」
そうして彼は一旦口を閉じ。
「敵対した俺を――貴方は許してくれますか」
聞きたくなかった言葉。返答は決まっていて、そして判っていた。
「貴方に敵対したのでもなく、貴方のやり方に敵対したのでもない。――正直な話、敵対したかったんです」
そう言った後彼は、悪に、と俯きながら付け加えた。
「敵対する事が正しかったとは思わない。ただ俺は、悪を滅ぼすという正義の立場に――立ってみたかった」
「そんな立場には――立てたのか」
言葉に対し小さく、いいえ、と自嘲する。
「俺も、悪」
返す言葉は、無い。
「悪が悪を滅ぼす。この図式を世は理解しません。したとしても、仲間割れ、裏切り……そんな言葉でしか」
当時の私が彼に抱いていた怒り。急にそれが不当なもののように思えてきた。
マフィアのボスの息子という一つの肩書きから抜け出せずに苦悩した彼が――哀しく思えてきた。
「生まれは一生を大きく左右する、と判りました。悪の道理に則って悪を滅ぼすなど――其れこそが悪なのですね」
「――すまなかった」
懺悔、していた。
未だに幸せにしてやれていない我が子へ。
無理矢理この子を産ませてしまった、天国のあいつへ。
そして、私自身へ。
「いえ。これは俺の運の弱さです。貴方が詫びる事は――無い」
若き頃の私によく似た目でそう言って。
「――これが俺の生き方です。俺はこうして生き抜いていきます」
眩しさに何も見えなくなり。
暗闇に全てを遮断され。
気付いた時には……汗で。
全身が濡れていた。
これは。
許されざる夢。
組織を選び親子の縁を切った私には。
息子を敵対させてしまった私には。
許されざる、夢。
あいつは一体今何処で、何を。
そして私は一体今何の為に、何を。
――これは、許されざる夢。
<Fin>