岩というものは本当に硬いのだろうか。――タケシはその細い目を閉じ、思考する。
良い結論は、浮かばない。
傍らにあった石を握り締めると、彼は「畜生」と呻くように漏らした。
汗に塗れた手の中で、何より硬き筈の石が砕ける音を聞いた。
――ニビシティのポケモンジムには、二日前から戸口に「臨時休業」の札が提げられていた。ニビは元々挑戦者の少ない地域なので二日や三日程度の休業など、特別困る事は無い。そんな事も考えて予定した、三日間の休業であった。
今から三日前の日付が変わる直前。――ニビジムに、一人の少女がやって来た。
聞けばその少女は、ジョウトという地から来たジムリーダーを志している者だという事だった。
良いだろう、胸を借りるつもりで来い。――と、大見得を切ってタケシはその少女の挑戦を受けたのだったが。
――しかし、負けてしまった。
負けること自体はそれほど珍しい事ではない。だけれど。
少女の使っていたのは、イワークに良く似たポケモンであった。顎の部分がしゃくれた様なその体は、夜の光を浴びて白銀に輝いていた。
そのポケモンはゴローニャの体当たりを軽く受け止めると、その長い体を大きく振りかぶりゴローニャ向けて振り下ろした。
――刹那。
次の瞬間、タケシのゴローニャは目を回しながらジムの床に倒れていた。
その様子を見て、少女はポケモンをボールに戻しながらわずかに笑んだ。
「そのポケモンは、『はがね』という最近発見されたばかりのタイプを含んでいます。――言わずもがな、その硬さは完璧です。いえ、鉄壁とでもいうべきでしょうかね。――ああ、バッジは要りませんよ、これからジョウトに戻るところですから。それでは、失礼致します」――タケシは、ゴローニャをボールに戻すのも忘れ立ち竦んでいた。
「師匠……」
遠い昔に師と慕っていた一人の男の顔を思い浮かべつつ、タケシは呼び掛ける。
「一体、どうすれば良いというのでしょう?
何をしろというのでしょう?」
誰も居ないジムに呼び掛けたところで、返事が返ってくる筈も無く。
しかし、タケシは呼び掛ける。
「岩というものは硬いのでしょうか?
――ならば鋼とは何なのでしょう?」
音は、虚しく。響き、続ける。
「師匠――助けて下さいよ……」
と、その時。
「了解した」
そんな低く唸るような声と共に、ジムの扉が開き、
「師匠――!」
剥き出しにされた逞しい上半身。肩に掛けられた白い袋。
其処には、ポケモン界での最高峰ともいえる四天王の一員――シバが立っていた。