――お月見山のふもとにあるポケモンセンターに訪れるトレーナーは、殆どが右も左もわからぬ新米だと考えてよい。――だからこそ、「詐欺師」も儲かるのだ。
そして、その男も詐欺師だった。
タイル張りの壁にもたれつつ、通信機をいじっている。
かなり眠そうな顔つきだったが、誰かに通じたらしく、大きく咳をして話し出す。
「もしもし。――ああ、どうもどうも。こんな遅くに申し訳ございませんです、はい」
それは、昼間トレーナーを相手にしている時とはまた別の表情、口調。
いや、別とはいっても、悪っぽい、という点では同じなのかもしれない。
「――はい。本日は、五つ。――二千五百円です、はい」
五つ、というのはコイキングの売り上げだ。――「五匹」と呼ばないのは、「ポケモンをモノのように扱う」という、彼の、そして彼の属する組織のポリシーなのかもしれない。
――と、男の表情が曇る。通信機を持っていない左手の指を口に近づけたかと思うと、いきなり爪を噛みだした。
「うーん……えー、あー、いえ。これ以上高くすると、流石に……ええ」
スラリと長い中指の爪を噛みながら応じる男。
薬指に移ろうとしたところで、相手が何か洒落でも言ったのか愛想笑いしてみせる。
「はい、暫くはこれで頑張ります。――では、そちらもお仕事頑張ってくださいね、はい」
そこまで言うと男は、通信機を傍らに置いていたカバンの中へしまう。
その後、安心したような声を漏らすと、そのカバンを持ち上げた。
せこい詐欺師と世を震わす組織との関わりなど、誰も考えない。
男はがらんとしたセンター内を軽く見回すと、外に出、暗い闇へと溶けて行った。
<Fin>