一人の少女がヤマブキに住んでいた。
頭は良く、運動もでき…そしてアイスが好きな完璧な少女。
そんな少女が11歳の頃の事だった。
ある日、親子そろって、シオンタウンに新しく出来たポケモンの為の塔――ポケモンタワーへ、お参りに行くことになった。
「私、怖いの苦手だな…。――終わったら、タマムシデパート行こうね!約束だよ!」
そんな事を云いながら、仲良く入っていく様は、誰が見ても普通の親子にしか見えなかった――。
全部で四階建てのタワーの中は、どこか懐かしい感じがした。
懐かしい、というより古ぼけた感じ、といった方が正確かもしれない。
――ケケケケケ。
二階へ上った途端、そんな声が聞こえ、彼女は慌てて振り返った。
しかし、そこにはどこか怪しい雰囲気を感じさせる墓石が置いてあるだけだった。
…きっと、気のせいだ。空耳ってやつだ――。
そう無理に自分に言い聞かせ、彼女はわざとらしくコクンと頷いた。
――ヒヒヒヒヒ。
またさっきと同じ、地の底から聞こえてくるような声に、彼女はまた振り返った。
すると、そこには紫色の何かがフワフワ浮いていた。
体があるようで無いその「何か」は、少女を見るとニタッと笑って見せた。
「ア、ア…アレ…」
父と母を突っつき、それを指差してみせる。
しかし二人とも、何も見えない様子で首をかしげる。
「あそこにいるじゃない!フワフワ浮いてる!」
二人は目を凝らすが、相変わらず何も見えないようだ。
演技とも思えないその様子に、彼女は怖くなってきた。
――バア!
そんな声がした途端、彼女の目の前にさっきよりもハッキリした何かが現れた。
「ファ…ファ…ファ…」
声を出そうにも声が出ない。
彼女の意識は、そのまま薄れていった――。
「ファックション!」
大きなクシャミと共に、彼女は静かに目を開ける。
目覚めたそこは、タマムシシティのポケモンセンターの椅子の上だった。
母が心配そうに、顔を覗き込んでいる。
「…大丈夫?」
やや青ざめた顔の母の言葉に、彼女はゆっくり頷く。
…あれは幻覚なんかじゃない。本物の幽霊だ――。
そんな事を考えながら起き上がる。なぜか体が痛かった。
窓からなんとか見えるポケモンタワーは、遠くにあるにも関わらず、入る前より大きく見えた。
「じゃあ、このままデパート行こっか!」
母は元気付けてくれようとしているのだという事はわかっているのだけど、なぜかそんな気になれなかった。
「ごめん。そんな気分じゃなくなっちゃった。私は先に帰るから、二人で行って来て」
それだけ告げると、足は家へと向けて走り出していた。何もかもが怖かった。
家に入り、急いでドアを閉める。靴を脱ぐと、気持ちを落ち着かせようと、冷蔵庫からアイスを取り出す。
食器棚の引き出しからスプーンを取り、自分の部屋へ駆け込む。
「いただきまーす!」
アイスを一口食べると、心が落ち着いた。
夢だったんだ、何もかもが。幽霊も、声も――。
そんな事を考えながら、スプーンを見つめる。
スプーンをジーッと見つめていると、自分が逆さまに映っていて面白い。
そして――気付くとスプーンは曲がっていた。
………………。
彼女は黙り込んだ。そして、暫しの沈黙の後、こう確信した。
…私は超能力者――エスパーなんだ。人に見えないものが見えるんだ――と。
――あれからどれだけの時が経っただろう。
彼女は、ヤマブキジムのジムリーダーとなっていた。
エスパーポケモンを扱う、完全無敵のジムリーダー。名はナツメ。
「……挑戦?」
ナツメが黙って見つめるその先には、一人の少年がいた。
「マサラタウンから来たのね」
少年は少し驚いた様子でナツメの顔を見る。
「何気なくスプーンを持ったら曲がって…。それから私はエスパーなの」
そう言うと、ナツメはモンスターボールを投げた。
中から出てきたのはユンゲラー。
続いて、少年もボールを投げると、言った。
「いざ、勝負!」