一億光年。――奴は、それだけの距離を、在り得ないほどにわずかな時間で進んだ。
タケシさんに挑戦するだけでも凄いというのに、奴はもう八つのジムバッジを手に入れたという。
「――すげえなあ」
そう呟きつつ、奴と戦った時の記憶を辿る。
まだ鮮明な映像が、俺の中で再生される。
『タケシさんに挑むなんて、一億光年早いんだよ』
そう言い、俺がボールを構えた。
奴は何も言わず、ゆっくりとボールを投げ、そして。
――完敗だった。
「一億光年は、時間じゃない。――距離なんだな……」
また、呟いてみる。
この言葉は、奴に負けたときに呟いた言葉。
忘れては居ない。これを言った刹那の空気の動きさえも、くっきりと覚えている。
あの瞬間、奴とその周辺は輝いた。――決して比喩的表現などではなく、輝いていたのだ。
「あーあ……」
結局、あいつは光より在り得ないほどに速いスピードで進んだのだ。
光でも一億年掛かるような道のりを、まるで呼吸でもするかのように。
それはいわゆる才能という奴だろう。羨ましいとは思うが、それ以上に尊敬してしまう。
――と、一人のトレーナーがジムへと入ってきた。
俺は、やれる事をやるだけだ。だからこそ、どんな奴にだって本気で挑む。
タケシさんの為、そして自分の為に。
一億光年という地点を目標に、俺もまた、一歩を踏み出そうとしていた。
<Fin>