「虫ポケモン博士」――それが、友達との間でのぼくのあだ名。
でも、それが思い込みだ、って事に気が付いた。
所詮、井の中にいた蛙は大きな海では泳げない。
ぼくだって、それと同じ。
でも、それならそれでいい。ぼくは、井戸の中でのんびりと泳ぐから――。
ぼくが、そう思い知ったのは、今から二時間前。
一人の少年が、2vs2の公式バトルをぼくに申し込んできた。
その少年はなんと、ぼくに挑む人としては珍しく、ぼくと同じ――虫ポケモンを使ってきた。
「ぼくに虫ポケモン同士の戦いを挑むなんて――」
余裕の笑みでそう言ったぼくを、その少年は複雑な表情で見ていた。
その少年はまず、コンパンを出した。
そのコンパンのレベルは、ぼくの一番手――トランセルとだいたい同じのようだった。
そして――審判の笛と共に、勝負が始まった。
素早さは相手の方が上だったようで、少年のコンパンは激しく地面を蹴り――そして、跳んだ。
トランセルの真上に来たところで、コンパンは粉を撒き散らす。
「トランセル、避けろ!」
しかし、広範囲に撒かれた粉を避ける事はできない。
粉を浴びたトランセルは、転がり――そのまま、起き上がらなかった。
「トランセル!」
「……一撃か」
少年が、ややつまらなさそうにつぶやく。
「まだ次がある。――行け、ストライク!」
ストライク。頼りになる、ぼくの切り札。
「はじめるよ!」
ぼくの言葉と共に、ストライクが空気を切り裂く。「ストライク、れんぞくぎり!」
ストライクが、何度もコンパンに斬りかかる。
相手は、何も言わない。黙って、コンパンを見ている。
と、その時――ストライクの動きが止まった。
「ストライク……?」
「コンパン、サイケこうせん!」
少年の指示で、コンパンの目からレーザーのような光線が――と思うと、ストライクはジムの壁に叩きつけられていた。
「ストライク、戦闘不能。よって、挑戦者の勝ち!」
予期せぬ事態に少し焦ったように、審判が言った。
「ストレート勝ちか。――ボーリングで言うと、ストライクってやつだな」
ぼくは、彼に、ポケモン勝負では負けたが、ユーモアのセンスでは勝てる、と確信した――。
今まで、試合に負けることはあっても、相手が悪かった、と思い込んできた。
でも、今回は違う。相手は虫ポケモン。そして、レベルは同じ。――完全なる敗北だ。
――考えてみれば、ぼくの知識は書物で得たものでしかない。
虫ポケモンと触れ合う――それを前にやったのはいつだっただろうか。
「ストライク――」
ぼくは、ストライクをボールから出した後、言う。
「遊びに行こうか。――森なんてどうだ?」
「シュワッ!」
ストライクのこんなに嬉しそうな声を久々に聞いたような気がする。
ごめんね。もう、無理しなくてもいいんだよ――。