素敵なる恋心と敵わぬ大敵(2/2)

母さんが教えてくれた。

ニドランほどに雌雄の差がはっきりしているポケモンは今現在人間に発見されているポケモンの中でもかなり珍しいのだと。

それが何処からの情報なのかは知らないけど、しかしそれは真実のように見えた。

少し前までこの辺りに居たポッポやオニスズメは、少なくとも雄や雌で容姿が全く違ったり、ということは無かったから。

続けて母さんはこうも言っていた。

外見だけでなく特徴や中身も雄と雌で違うのだ、と。

例えば雌の体内に含まれる毒は雄のそれに比べてかなり強力だと。

例えば雄の聴力は耳の筋肉が雌に比べて発達しているおかげで雌を大きく上回っていると。

そこまで思い出して、ぼくはようやく理解した。

彼女が何が起こっているのか理解できていなかった事。

ぼくには聞こえていた「人間が来た」という言葉が、彼女には聞こえていなかったのだろう。

彼女は知らなかったのだろう。

「く……」

痛悔する。

彼女を置いて逃げた事を。

あれから暫くしてぼくは穴から出たけれど。

人間の姿も彼女の姿も、無かった。

それがどういう事なのかは充分に理解できたけれど。

それがどういう事なのか、ぼくは理解できなかった。

――誰か。

教えないで。

あれから幾日も経って。

ぼくは――想い続けていた彼女に再会した。

その体に傷は無く。

あの日出会ったときのままで。

無事のようだ。ぼくは安堵する。

「――この間は……ごめん」

ぼくは、彼女の目を見ることが出来ない。

「逃げたのは、人間が、来たから、だった、の?」

彼女を見ないままに、ぼくは頷いた。

「顔を、上げて、欲しい、の」

その言葉に、ぼくは彼女の顔へと視線をやる。

澄んだ、朱色の瞳。

ぼくは、一つだけ決意した。

「突然で、悪いんだけど――」

その瞳は、どこか哀しげで。

「――ぼくは、君のことが」

その瞳は、どこか淋しげで。

「好き……なんだ」

……反応は、無かった。

瞳が、更に寂しげに。

変化した、だけだった。

「……ごめん、ね」

彼女の手が、ぼくの手に触れる。

暖かい手。柔らかな手。

そんな感触を感じた瞬間の事。

黒い影が現れて、彼女を抱き上げた。

「行くぞ、チャプ」

その影は、そう言って。

彼女の頭を、その大きな手で撫でた。

彼女はとても――幸せそうだった。

「また、会いましょう」

彼女はそれだけ言うと、その人間の体に身を預けた。

絶望感。

ぼくは一体。

何なのだろう。

確かにあの人間の側にいた方が、彼女にとっては幸せだろう。

少なくともぼくと時を共に過ごすよりは。

快適――なのだろう。

そして結局、ぼくが得た物は何も無かった。

温もりを――貰えると、思ったのに。

なんという笑い種だろう。

ぼくは彼女の残り香の残る自らの手を、足元の柔らかな土に押し付けた。

<Fin>

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