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彼の緑、彼女の緑
- 1 :影龍 :2008/05/04(Sun) 21:55:27 ID:3Os88uKk
- どうも。初めまして。
一応さっきふれあい掲示板のほうで挨拶してきた影龍という者です。
いや、まぁ。
ポケモン小説と名乗ってる割に、初め数回ポケモンが一匹も出てきません(汗
なんだかアレな感じですが、できれば読んでくれると幸いです。
- 2 :影龍 :2008/05/04(Sun) 21:56:17 ID:3Os88uKk
- 01.
旅に出ます。探さないでください。
トガミ リンネ
P.S お兄ちゃんのお金5000円とモンスターボール10個ほどもらっていきます。盗まれたわけではないので安心してね
ああ。
なるほど。
寝る前と何か風景の変わった部屋も、何か心配になって見てみた財布から金がごっそり抜き取られていたのも、リュックの中に詰め込んでたモンスターボールが明らかに減っているのも、コレで全て説明が付く。
そーかそーか。
旅に出たのか。
「って、納得できるかあぁっ!」
トキワシティ中央部住宅地トガミ家二階、午前5時34分27秒。
トガミ シンリは叫んだ。
叫ぶしか、その場をどうにかする方法が無いように思えた。
- 3 :影龍 :2008/05/04(Sun) 21:57:39 ID:3Os88uKk
- 02.
「旅に出なさい。」
数秒後、自分の口から「は?」と言う言葉が出てたのは、自然な反応だと思う。
ウェーブの掛かったセミロング、モチモチしてそうな肌、そして満面の笑顔。
それが、自分の目の前にある母の顔だった。
もちろんそれに対峙するのは自分。母の息子と言っても、受け継いでいるモノは何一つ無い。黒い髪に、樹海の奥を思わせる深緑色の目。全体的に冷静そうな顔立ち。
この二人が対峙して、親子だと気付く人はほぼいないだろう。
「だから、旅に出るついでにリンネを探してきてって言ってるの。」
自分とは決して似つかない顔が、笑顔を崩さず告げてくる。
「え、いや、ちょっと、え?今の文章なんか変じゃなかった?」
「どこも変じゃないわよ?」
自分の問いかけに、間もおかずに断言してくる。笑顔が異様な威圧感を醸しだし、妙に怖い。
「何か、主立った用件とついでの用件が逆じゃなかった?」
「気のせいよ?」
ああ、何か後ろにどす黒いオーラが見える。何だアレ。守護霊か?疫病神か?
「『旅に出るついでにリンネを探してきて。』どこも変じゃないでしょう?」
「待って!絶対におかしい!普通『リンネ探してきて』だろ!?」
反論した途端、母の「うふふ」と言う声と共に、悪寒が走る。自分は次の瞬間死んでるんじゃないだろうか?
「シンリももう13だし、ポケモンも持ってるでしょ?今からでも遅くないから、ポケモンリーグに挑戦してきなさい。」
「いや、だから…!ッああ!もうさぁ!」
落ち着け、落ち着け自分。
このまま言い合ったって母のペースに飲まれて言い負ける。
落ち着いて言葉を選ぶんだ。OK?
「旅には出ないで彫刻を作っていきたいって三年前、10歳の誕生日の時言ったろ?」
「今回リンネが家出した理由は何かしら?」
う。しまった。そこから来たか。
「ソレとコレとは話は別で、」
「ソレって主立った家出の理由の一つじゃない?」
くう。無理矢理にでも話を逸らさなければ負ける。今でさえ大ピンチなのに、これ以上状況悪くなるのは最悪だ。
「それで別に旅に出る必要ないし、警察に頼めば、」
「警察に頼んだ所で家出人扱い。自分がそうなったと知ったらリンネはどうする?」
うぐ。確かにそうだ。何をしでかすか分かったモンじゃない。
「そんなことになる前に、原因の一つであるあなたがケジメ付ける必要があるでしょ?」
うう。確かにそうかもしれない。
「それに。リーグに挑戦してないシンリが止めに行っても、反発されるだけだよ?」
ああ。リンネの場合、絶対そうだ。ろくに話を聞かずに逃げる。
そんなわけで、シンリは母に完敗した。
- 4 :影龍 :2008/05/04(Sun) 21:58:20 ID:3Os88uKk
- 03.
とまぁ、かくかくしかじかで。
トガミ シンリは(半強制的に)旅に出ることになった。
のは、いいんだが。
「ちょっと待てーっ!?」
そう叫んだのは、彼が二階に上がって準備を始めてから10分後だった。
「シンリ〜?どうしたの〜?」
極めて呑気な母の声。多分だれも見てないのにまだ笑顔なのだろう。
が、シンリにそんなこと考えている余裕はなかった。
凄い形相でドタドタと階段を下りると、母を無視し玄関に向かう。
外に出るわけでもなく玄関前で足を止め、車のチェックでもするかのように様々なところに指を向ける。
頭に手を当て記憶を整理し、ある事実を導き出すと同時に、シンリは落ち込んだ。
「どうしたの?」
「〜っ。あー。大変だよお袋。緊急事態だ。リンネが俺のポケモン持っていった。」
「まぁ、大変ねぇ。」
「くそうリンネめ…捕まえたらただじゃ置かないぞ…。とっ捕まえたら一週間ぐらい犬耳と首輪付けて生活させてやる…。その間の食事全部ポケモンフーズにしてやるぅ…」
言ってるお仕置きがかなりマニアックであることにツッコミもせず、母はニコニコと笑いながら、お仕置きの追加内容を呪いのように呟くシンリに言った。
「でも、良かったじゃない。ポケモンがいれば一安心よ。もし何かあっても何とかなるじゃない。」
「いや、そのポケモンに問題があるんだ。」
おそらくリンネはリュックのチャックを全部開けたのだろう。
暗闇の中、手当たり次第に10個盗って行ったのだ。中身なんて確認しているはずがない。
シンリが気まずそうな表情で頭をかいてるのを見て、母は何かを感じ取ったらしい。
うーんと一度唸って、その問題について言ってみる。
「問題って、一体何?放っておくと目からビーム出すとか?」
「いや、そんな珍妙なヤツじゃなくて。」
「鼻からうどん食べるとか?」
「そんな珍妙な仲間はいないって。そんな変なのじゃなくて、単純なやつらさ。ただ単純だけに手が掛かるってこと。」
シンリが深刻に話すのを聞いて、今度こそ母は何か感じ取ったらしい。
「どんな風に単純なの?」
シンリは苦笑した表情…喜ぶべきか悲しむべきか悩んでいる顔で、母に告げた。
「俺の仲間内で最も強いヤツと最も人見知りなヤツ。」
- 5 :影龍 :2008/05/09(Fri) 22:21:39 ID:CGRBVYVk
- 04.
兄の部屋から路銀とモンスターボールを盗み出し、キッチンから適当に長持ちする食材とポケモンフーズを盗んで、トガミ リンネは深夜0時ジャスト、旅に出た。
一瞬眠いとも思ったが、それはこれから旅に出るという興奮で消し飛んでいた。
別にポケモントレーナーになるのに年齢制限はないが、トレーナーとして旅に出るのは最低でも10歳からと決められている。今回のケースはそれを完全に違反していた。
だが、別に良いではないか。
あることをやりたいのにできない人と、できるのにやろうとしない人では、私の中では雲泥の差がある。
三年前に旅に出たサヨノお姉ちゃんは、数日前テレビでポケモンリーグカントー大会でベスト16の栄光と共に映っていた。
目指すのはあそこだ。
理由なんて必要ない。
憧れるモノに手を伸ばして何が悪い?
何も悪くないではないか。
そう思いながらリンネは家を出る。
いつもが移出するときと変わりのない一歩が、凄く重く感じた。
そして二歩目。体が完全に家から出る。
ただそれだけのことなのに、何だろうこの開放感は?
空も飛べると思うほどに、体が軽くなった。
今まで引きずっていた重石が、全て吹き飛んだ。
自由だ。
その感傷に浸った後は、ちゃんと鍵を閉めて、鍵を郵便受けに放り込み、走り出す。
驚くほどスピードが出た。脚に熱がこみ上げ、彼女の脚はどんどん加速していく。
自動車の全く通らない、街灯のみが照らす道を走り抜ける。
風が頬を撫でるのが、この上なく心地よい。
そして彼女は産まれ故郷となるトキワシティに別れを告げ、進んでいった。
天然の迷路にして、カントー地方最大の樹海。トキワの森に。
- 6 :影龍 :2008/05/09(Fri) 22:23:08 ID:CGRBVYVk
- 05.
「って、人がそんなに長く走れるワケ無いよね…」
そんなこと呟きながら、リンネは森の中をとぼとぼ歩く。息が切れて、肩でぜえはあと息をしている状態だ。
何故調子に乗ってスカートなんて穿いてきたのだろうか。長く伸びた雑草の先が、ちくちく脚に刺さって痛い。
「お兄さんに似てるね」とか「何かキリッとしてるね」とか「結構美少女の部類に入る顔だよね」とか言われる顔も、疲労で完全に崩れている。知っている人が見たら「うわ。」と言うだろ。いや、絶対言う。
「森も抜けられそうにないし…今日はここで野宿かぁ…。幸先悪いなぁ…。」
さっき家を飛び出した元気はどこへやら。完全に意気消沈している。
せめてもう少しマシな、雑草のないところに行こうとすると、何かが背中に落ちてきた。
一瞬、体が凍る。
背中の物体は、何が起きたか分からず手探りするように、4本の脚を蠢かす。
リンネを恐怖のどん底にたたき落とすには、充分すぎた。
「い」と「り」と「や」の中間のような奇声(改め、悲鳴)を目一杯上げて、残された力一杯に逃げ出す。
目を閉じて走っていた彼女は、何かに躓いて顔面から派手に転倒した。
「うぅ。痛い…。」
何とか起きあがると、そこには草木は生えてなかった。
代わりに、その周囲の草木を死滅させるほどのゴミ山があった。
「何…コレ…」
リンネとしては、自らの故郷、緑の町トキワシティを囲むトキワの森は、木々の覆う雄大な自然だと思っていた。
そこに、こんなゴミ山があるなんて、思いもしなかった。
茫然とするしかない。
「森が泣いてる…?」
唐突に、そんな感じがした。何故かは分からないが、第六感に語りかける何かがあった…気がした。
もっと細部まで確認しようとしたが、脚が動かなかった。擦りむいた痛みと、腰が抜けたことで立ち上がれないのだ。
というか、このままでは歩くことすらままならない。つまり、ココで野宿というわけだ。
「どうしようかな…」
ココでは助けも呼べない。自分を運べるポケモンもいない。それどころかポケモンも持ってない。
どうするべきかと思っていると、不意にゴミ山の上に浮かぶ何かが見えた。
- 7 :影龍 :2008/05/09(Fri) 22:27:24 ID:CGRBVYVk
- 06.
どの世界に置いても、ナワバリというのは死活問題である。
ナワバリを持たないものは弱って死ぬ運命。だから、ナワバリは命と同じ価値がある。
そして、目の前には敵がいる。前のナワバリを奪い取った者と、同類の敵が。
姿形は違えども、目の前には敵の同類がいるのだ。
ならば、敵は排除すればいい。
目の前の浮遊物がマタドガスとドガース3匹であることに気付いたのは、中央のリーダー格と思われるマタドガスが大きく息を吸ったときだった。
実物を見たことはなかったが、数日前テレビで見たポケモンリーグでは、マタドガスが大きく息を吸って“ヘドロばくだん”を放つ姿があった。
少々違うが酷似するモーションをとるマタドガスが何をしようとするのかは、すぐに理解できた。
ポケモンの攻撃なんて受けたこと無い。ましてどくタイプのポケモンのワザなんて。
アレが当たったらどうなるんだろう。怪我をする程度では済まないかもしれない。最悪、死が待っている。
私が死んだらどうなるんだろうか。
いや、別に考えたってどうにかなることでもないか。なにやってんだろな、私。
ホント、何やってるんだろう。馬鹿馬鹿しい。
その瞬間、目の前の球体がはじけ飛んだ。
「ナイス奇襲だ、セキリュウ!」
目の前のヒトカゲに声援を送る。うまい具合にリーダー格のマタドガスを弾き飛ばしたお陰で、他のドガースも困惑気味だ。
正直、ココまで上手くいくとは思わなかった。
おそらくこの場で一番驚いているのは、タツミヤ ゲン本人であると思う。
5日かけてマサラタウンからこのトキワの森まで来て、突然の奇声(悲鳴)に叩き起こされ、奇声(悲鳴)の主に文句言ってやろうと声の走っていった方に向かったら、こんな状況。
少女…いや、歳は大して変わらない気もするが、とにかく女性が野生ポケモンに襲われていて、手を出さないとなれば男が廃る。
で、今に至る。
何か馬鹿なことをしたのではないかと思うが、そんなこと今はどうでも良い。
この状況を打破することが先決だ。
- 8 :影龍 :2008/05/16(Fri) 22:20:06 ID:ObSJ44Dg
- 07.
左を見ると、必死の形相で少年が走ってくる。少年と言っても、自分より数歳年上に見えるが。
正面から見るとオールバック。どうやら長い黒髪を後ろで束ねているらしい。ポニーテールとは違うが、動物の尻尾のように細長く揺れている。
どことなく兄に似てる感じがした。輪郭とかが特に。だが、大きな違いはその目が黒かったこと。兄のような深緑色ではない。
しかし、白いTシャツに黒いズボンとは、シンプルと言えばいいのか何なのか。虫食いに悩まされそうな格好だった。
彼は私の前で止まり座ると、「大丈夫か?」と聞いてきた。
私が「大丈夫」とボソリと言うと、周囲を見渡し、「立てるか?」と言って手を差し伸べてきた。
その手に掴まり立ち上がろうとするが、腰に力が入らず立ち上がれなかった。
どうやらこの女の子は、ポケモンに襲われた事で驚いて腰が抜けたらしい。
短い栗色の髪には素朴なヘアピンを付けており、瞳は動揺している要に見えたたが新緑に光っていた。通常時なら、「しっかりしてそうな美少女」といったところか。
大きなバックを持っているところを見ると旅に出たポケモントレーナーだが、何で長旅にスカートなのかがよく分からない。上も半袖で、虫食いに悩まされそうな格好だった。
しかし現状は少々キツイ。
確かに奇襲は成功したが、それで倒せるほどのダメージをあのマタドガスに与えることは、今のセキリュウには無理な話だ。せめてヒトカゲからリザードに進化してくれればいいが…。
と、そんなこと考えているうちに、セキリュウが後ろに飛び退いてきた。
見るとかなりダメージを負っている。トレーナーの指示無しでココまで持ちこたえたのはさすがと言うべきか。
だが、とにかく逃げるしかない。
多少嫌がられるかもしれないが、彼女のバックを肩に掛け、彼女を背負う。
腰が抜けてるからか大した抵抗はなく、急いで立ち上がると元いた場所に逃げようと走り出した。
その時だった。
コン、と乾いた音が響いた瞬間、通常の一回りも二回りもでかい、大型のスピアーが後ろに現れたのは。
- 9 :影龍 :2008/05/16(Fri) 22:23:23 ID:ObSJ44Dg
- 08.
スピアー どくばちポケモン
コクーンの進化形。凶暴な性格で、獲物を見つけると集団で襲いかかってくる。高速で飛び回り、お尻にある猛毒の針で攻撃する。
条件反射か、いつの間にか開けていたポケモン図鑑には、そう書かれていた。
身長、1mとも。
じゃあ、目の前にいるスピアーは何者だ?
この大の大人のような、2m近くあるスピアーは?
周囲が暗い。状況がよく分からない。
己の体内時計が正しければ、とうに深夜だ。今出る必要性はどこにもない。
今は“我が主”の家にいるはずなのに、何故産まれ故郷のこの森にいるのか?
場所は分かる。時刻も曖昧だが分かる。己が誰かはとうに理解している。
なのに、目的が謎とはよく分からない…が、優先してやるべきコトができたらしい。
何が「ナワバリ」だ?
まぁ良いだろう。敵意を持って挑んでくる輩に手加減するような戦闘は、ここしばらくやっていない。
加減の仕方も忘れた。ただ、敵を全力で貫くのみ。
其れが己のためであり、“我が主”のためだ。
一閃。
兄から盗んだモンスターボールから出てきた、大人顔負けの巨体を持つスピアーの攻撃は、そうとしか表現できなかった。
大きな羽を使うわけでもなく、侍のように踏み込んで、ガトリング砲でも打ち出すような“みだれづき”と居合い斬りの如き“シザークロス”。
正直、恐怖を覚えた。
ヴ…と、羽音が聞こえてくる。
目の前には…いや、少年のヒトカゲの前に、スピアーは悠然と存在していた。
スピアーが鳴き声をあげ、ヒトカゲは必死に手をバタバタとさせ、何かを説明しているようにも見える。
数秒後、説明が終わったのか、羽音以外の音が消える。
巨大なスピアーは星の煌めく夜空を見上げるだけで。
数分が経った。
そして、動きがあった。
「…!!後ろに跳べ!セキリュウ!」
その声と同時に、巨大スピアーがセキリュウと呼ばれたヒトカゲを、右腕の大針で刺し飛ばした。
- 10 :影龍 :2008/05/16(Fri) 22:25:52 ID:ObSJ44Dg
- 09.
こういう場合、貫き飛ばしたとでも言うんだろうか。
巨大スピアーの右腕の針は、セキリュウの胴に刺さり、セキリュウを今自分たちの近くに立っている木に叩き付けた。
避ける指示は飛ばしたが、意味はなかったらしい。完全に俺のミスだ。
「すまない、セキリュウ。ゆっくり休め…!」
セキリュウをモンターボールに戻し、…とりあえず困った。
手持ちはいる。しかし、あの“毒球達”を一瞬で倒したところを見ると、弱点をついていっても効果はないだろう。
逃げる。コレも無理だ。あのスピードでは、翻った途端ザクリとやられるだろう。
鎮める。さっきセキリュウが説得してだめだった。他に交渉できるヤツなんて…
待て。このスピアーはどっから出てきた?何だかんだ凄い迫力で忘れていたが、今背中にいる少女のバックからこぼれ落ちたモンスターボールに入っていたモノだろう?
待て。なら、もしかしてこのスピアーは、御主人様を誘拐されるかもしれないと怒っているのか?なら方法は一つ。誤解で攻撃されるなら、謝って真実を話す。コレに限る。
とにかく、自分の背後の木にもたれ掛かるように少女を座らせ、とにかく交渉。ひたすら交渉。
「待て、スピアー。別にお前の御主人様に手を」
と言ったところで、スピアーの右の針が頬を掠った。
反射的に避けたから良いものの、避けなかったら顔面コースだったぞ、今。
「…って、殺す気かぁ!?」
ゴロンと地面を転がって、とにかく体勢を立て直そうとする。
同時に、胴を狙って左の針が突っ込んできた。
「こんの…セイリュウ!“ずつき”!」
ゲンは咄嗟にモンスターボールを取り出し、そこから出てきたタツベイが思いっきり頭を振りかぶる。
火花が散った。
方や、起き上がりの相手の腹を狙うアッパーに似た一撃、方や、全体重と遠心力をかけた一撃。
当然、全体重をかけたタツベイ…ゲンのセイリュウの“ずつき”がスピアーの針を弾き飛ばし、そのまま胴体にも一撃が入る。
ある程度相殺されたとしても、胴体への一撃はスピアーの闘争本能に火を付けたらしい。
その気を悟ったのか、セイリュウは数歩引いて身構え、ゲンは右の拳を左手に打ち込む。
面倒くさいのはやめた。今は、己の信念、コイツをぶちのめそうとする己の『悪意』に従うだけだ。
「せっかく温厚に事を済ませてやろうと思ったんだが…!恩を仇で返すとは上等だ!行くぜセイリュウ!俺達に敵無しってのを教えてやろう!」
- 11 :影龍 :2008/05/31(Sat) 22:44:08 ID:iJE9Xxng
- 10.
「セイリュウ!“ずつき”!」
先に動いたのはゲンのセイリュウだった。種族がタツベイの割にはなかなか俊敏な動きで、真っ直ぐスピアー目指して突進する。
が、もちろん、そのスピードも「タツベイにしては」での話で、通常のスピアーより速い目の前の大型スピアーの前には無力だった。
あっさり避けられ、その後ろに立っていた木にぶつかる。
大型スピアーはその隙を衝き、大きく振りがぶりながらセイリュウに接近する。
「…!セイリュウ!“まもる”!」
金属音が響く。
間一髪、何とか攻撃は防げた。半透明で緑の球体がセイリュウを包み込み、スピアーの針はそれに阻まれていた。
すぐさま“まもる”は解けて、セイリュウは地を踏みしめる。
「よし…!セイリュウ!そのまま“ずつき”だ!」
今度はスピアーの巨体が仇となり、セイリュウの“ずつき”はスピアーの腹部に直撃した。
スピアーが後方にふっとんで、着地する。見た感じでは結構良い攻撃だった。
…が、当のスピアーは大してダメージを受けてないようにも見える。
(今の攻撃のダメージを、自分から後ろに跳んで少なくした…!?どんなバケモンだよ!)
戦闘中、ひっきりなしに羽ばたいていたのはこのためか。目の前のスピアーは基本的に脚力…本来、スピアーのような羽を使って移動するポケモンが脚力だけでここまでの機動性を出せることが異常なのだが、その脚力で攻撃、回避を行う。
只でさえ異常なその脚力をサポートするのが、延々と続いている羽ばたきなのだろう。
加速、停止、方向転換、その他諸々。
元々のスピアーとしての能力をココまで器用に使うというのは、化け物と呼んで申し分ない。
“すつき”を喰らわせたセイリュウ本人も驚きを隠せないらしく、次にどうしたらいいのかとしきりにトレーナーであるゲンを見る。
と言っても新米トレーナーのゲンに、この化け物スピアーに対抗できる策を即座に考えられる訳も無い。
そうやって手をこまねいていると、今度はスピアーがセイリュウに接近、というか突進してきた。
いきなりの事というか予想できたことなのだが、対策を練っていたゲンからすればいきなりのことだったらしい。
それはトレーナーであるゲンの指示を待っていたセイリュウも同じ事で、もう既に回避できない位置までに針が接近していた。
「セイリュウっ!避けろぉ!」
その声と同時に、セイリュウはセキリュウと同じように後ろに刺し飛ばされた。
- 12 :影龍 :2008/05/31(Sat) 22:46:02 ID:iJE9Xxng
- 11.
後方に気がなかったのは幸いだったか。もしあれば打ち付けられてそのまま倒れていただろう。
刺し飛ばされたセイリュウは、数メートルふっとんでアクロバティックにくるくる回転しすたっと着地した。
「セイリュウ!大丈夫かッ!?」
見れば大丈夫でないことは分かるのだが。立っているとは言え、スピアーの一撃はセイリュウに只ならぬダメージを負わせた。
立っているのがやっと、と言うほどでもないだろうが、今のをもう一撃喰らうとひんしは免れない。
恐るべきはスピアーのレベルと技術と言ったところか。
(しかし…トレーナーの指示無しであそこまで戦えるってなると、相当場数踏んでるな。戦い方が体に染みこんでンだ。スピアーみたいな虫タイプは格闘戦が強いし、今のはイイ線行ったが格闘戦じゃあ勝ち目はない。
こんな森の中じゃ、迂闊に炎ワザ使ったら周りに燃え広がって自分も火だるまだな。森は虫ポケモンの相手が得意とする場所だし、下手に考えて戦うと負ける…。)
新米とはいえ、ゲンもトレーナーだ。数分間戦えば自分と相手の力量の差ぐらい分かる。
そして現状では、勝てる見込みのないことも。
戦う前からも勝つ見込みは少ないと思っていたが、この圧倒的な力を見るとわずかにあった希望さえ打ち消される。
(と、言っても、逃げるわけにもなぁ…)
さっきから後方の少女は声を発していない。
驚いているのか怖いのか、勝負に水を差さないためか。
よくは分からないが、少女が人間襲うようなスピアーを止めないところを見ると、このスピアーは彼女のポケモンじゃないことが分かる。
モンスターボールから出てきたところを見ると、誰かのポケモンというのは確かだ。家族の内の誰かのポケモンを勝手に持ち出して旅に出て、今に至ると言ったところか。
(つまり、後ろで腰抜かしてる女の子はただの足手まといって事か。)
力の差、手持ち3匹の内1匹は気絶。更に一体もダメージを負い、足手まといのいるこの状況。
逃げることすら、望みは薄くなってきた。
(…こうなりゃあ、正々堂々とかも言ってられなくなるか…!)
そうして彼は、腰のボールに手を伸ばした。
- 13 :影龍 :2008/05/31(Sat) 22:49:22 ID:iJE9Xxng
- 12.
「セイリュウっ!“かげぶんしん”っ!」
ヴン…と、古いテレビをつけたような音と共に、セイリュウの分身6体がスピアーを取り囲む。
と、同時に、ゲンも走り出した。腰に手を当て、大型スピアーの見据えながら、スピアーから見て左の方向へ走っていく。
それを真似るかのように、セイリュウも左へ回り出す。正しくはセイリュウ“達”と言った方が正確だが。
スピアーから見てすれば、攪乱に見えたのだろう。本体がどれか分からなくして、分身に体力と注意の方向を奪わせるために。
スピアーは羽ばたきを強め、脚に力を溜めて一気に上に飛ぶ。
しかしその上には、スピアーが溜めを作っている時にゲンの放り投げたモンスターボールがあった。
「オウリュウ!思いっきり“でんこうせっか”!」
スピアーがボールの存在に気付いたのに0.1秒遅れて、ボールから弾き出されるようにヤンヤンマが飛び出してきた。
オウリュウと呼ばれたヤンヤンマは、空中で不意を突かれ体制を整えることのできないスピアーに対し“でんこうせっか”を放ち、そのまま地面に激しく叩き付ける。
「オウリュウはそのまま上空へ!セイリュウは“ずつき”だ!」
その指示に従いオウリュウが空に飛んだのを確認すると、6体のセイリュウ…内5つは分身だが…はスピアーに躍りかかった。
追い打ちをかけるかのような“ずつき”はスピアーの腹部にめり込み、“でんこうせっか”による土埃を更にひどくした。
「オウリュウ、セイリュウ、距離取って準備しろ。気、抜くなよ…」
正直今のであのスピアーがくたばったとは思わない。威力が弱まっていたとはいえセイリュウの“ずつき”を二度も喰らって、蚊に刺されたほどにも感じてないようなヤツだ。
コレで倒れていたら今までの努力の意味が無い気さえしてくる。
と、そんなこと気にしていられる余裕もなく、周囲に特有のピリピリとした空気が漂う。
(ま、正直なところコレで倒れていてくれたらどんなに嬉しいか…)
などと思っていたら、土埃から何かが上に向かって飛び出した。
「…っオウリュウ、“みきり”!」
オウリュウの目が土埃から出てきた何かを捉え、その動きを見切り、戦闘機が大型ミサイルを避けるかのような回避を披露した。
まとわりついていた土埃をふりほどいたスピアー目がけ、オウリュウは急接近する。
「よし!そもまま“でんこうせっか”だ!」
ギュン、ギュンと先ほどよりも速いスピードでスピアーに接近し、そのまま突っ込む。
が、それはあっさりかわされてしまった。見切られたのだ。
「アイツも“みきり”使ったのか…?なら、そう何度も使えない。オウリュウ、連続して行け!」
とくせいの“かそく”により、スピードと威力を増す“でんこうせっか”。
しかしそれは、いとも容易く避けられていく。
「くそっ!何で当たらない!?もう“みきり”は使えないだろ!?」
ゲンが焦った、次の瞬間。オウリュウの上をとったスピアーが、針を打ち下ろした。
- 14 :影龍 :2008/05/31(Sat) 22:53:01 ID:iJE9Xxng
- 13.
地面に激突するすれすれの所で、オウリュウは無理矢理体を曲げ、そのままほぼ直角に低空飛行に入る。
砂塵を巻き上げ、ゲンの近くでUターンすると、そのままゲンの頭上に滞空した。かなりダメージを負ったらしく、痛みをこらえているようにも見える。
そんなオウリュウの様子が目に入っていないかのように、ゲンは狼狽していた。
「アイツ…どんな手品使った…?“かそく”したオウリュウの攻撃をどうやって…!?…って、うおぉ!?」
ゲンが狼狽している隙を衝いて、スピアーが突進してくる。
ゲンを狙ったのかオウリュウを狙ったのか、両方を狙ったのかは分からないが、ゲンがかがみオウリュウが上空に逃げて避けたその一撃は、地面ギリギリで軌道を替え、弧を描いた後に空中で体勢を立て直す。
「こノッ…!オウリュウ、“みやぶる”!」
オウリュウの目から放たれる黄色く半透明な光線は、スピアーを捉え、そして
「そのまま“でんこうせっか”!」
また“かそく”したオウリュウは、弾丸のような速度でありもしない方向へ突っ込んでいく。
無論、スピアーに当たるわけもない。スピアーはただ空中に留まっているだけなのに、オウリュウはその横を凄いスピードで突き抜けていった。
「え…?」
としか、言いようがなかった。
「“みきり”じゃないとしたら、回避率を上げたんじゃなかったのか!?…もしかしてこっちの命中率を!?」
その読みは的確だった。
あくまで主の命令に従うオウリュウは、もう一度スピアー目がけて“たいあたり”する。
が、その攻撃も大きく的を外れ、スピアーの横を空しく通り過ぎる…前に、スピアーの針が動いた。
針は高速で進むオウリュウを的確に捉え、今度こそ地面に叩き付ける。
ゲンの横を高速で通り過ぎたオウリュウは、砂塵を巻き上げ地面を横滑りしながら、木にぶつかって目を回していた。
「くそっ…。戻れ、オウリュウ!」
ゲンの取り出したモンスターボールから放たれる赤い光に飲まれて、オウリュウはモンスターボールに身を収める。
空中戦の戦闘用員もいない、残り一体は重傷。客観的に見れば、絶体絶命だ。
が、ゲンは口の端を上げて笑っていた。
「今だっ!セイリュウ!」
空中に留まるスピアーの後方の木から、セイリュウが飛び出した。
そして、思いっきり振りかぶって、スピアーの胴体目がけ“ずつき”をした。
- 15 :影龍 :2008/05/31(Sat) 22:55:31 ID:iJE9Xxng
- 14.
(さっきの『準備しろ』でココまで動いてくれるのは、コイツだけだよな)
嬉しく思いながら、セイリュウにもっと指示しやすいように移動する。ポケモンバトルにおいてトレーナーの死角というのは重要なのだと教わった事からの行動。
スピアーとセイリュウは空中で体勢を整えることができないらしく、揉み合いながら落下した。
スピアーは体を回してセイリュウを振り払い、セイリュウは後方に飛んで体勢を立て直す。
両者は対峙し、睨み合った。
先に動いたのは、スピアーだった。両目を紅く光らせ、セイリュウに突進する。
セイリュウはぐあっと顎を開き、向かってくるスピアーに“かみつく”。
しかし、その攻撃は少々ピントがずれていた。
(セイリュウの攻撃のピントがずれてる…?待てよ、「両目を光らせ」…?まさか、“フラッシュ”か!?)
“フラッシュ”によって命中率を下げられたセイリュウの攻撃を、スピアーは体を捻りするりと避ける。
いや、避けるどころか、突撃してきているスピアーの頭にヒモ付きで付いてきたような針の一撃を、セイリュウの顔面に放っていた。
セイリュウは何とか体を仰け反らせ、某ハリウッド映画風な避け方をしてみせるが、タツベイという種族の体型上の問題でそのまま仰向けに倒れてしまった。
タツベイという種族以上の体型上の問題とは、二つある。
一つは身長に対し顔がでかいこと。二、三頭身しかないのに、CG技術を駆使したような回避は無理だ。やったところでコケるのがオチとなる。
二つ目はその頭部である。固く頑丈なことで知られているタツベイの頭部だが、逆を言えば固い分重い頭となる。60pほどの体に40s以上の体重があるのはそのせいだ。そんな頭で体を仰け反らせた場合、当然コケる。
まぁ、そんなわけでセイリュウは仰向けの、完全に隙だらけな状態になってしまったわけである。
コケた代償としてスピアーの攻撃は回避できた。
しかし、攻撃を振り切った後のスピアーはすぐに体を捻り、隙だらけのセイリュウに狙いを定める。
「セイリュウッ、“まもる”!」
狙いを定めたスピアーの攻撃は、ゲンの指示による防御で何とか防がれた。
が、そのまま針を突き出した状態から、スピアーは思いっきり両手を後ろに下げた。
次の瞬間、耳をつんざくような金属音が響く。歯ぎしりにも近い、連続した金属音。
ガトリング砲を放つようなスピアーの“みだれづき”は、鉄以上の高度を誇るセイリュウの“まもる”に対し、獰猛な乱撃を加えていた。
“まもる”と言う防御技は、ポケモン体内のエネルギーを放出し強固な壁を作る技で、そうそう連続でやったり長時間の発動はできない。
それを知っているかは分からないが、スピアーの“みだれづき”はその長時間の使用をせざるを得ない程の猛撃だった。
このままでは負ける…。いや、もう負けたか。
そう、ゲンが絶望した時。
ゲンの傍らに、一陣の風が吹いた。
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Colorful Board System Version1.01 by ミライいろ。