Blue Sky 第二部

44 :エンタ2008/07/06(Sun) 19:48:02 ID:Bk1mNjCo
第40話 昏き微睡・其の二

「おい、いくら何でも遅すぎねぇか?」
 岸で待機しているナミキが、仲間たちに呼びかけた。
 彼の帰りが思っていたより遥かに遅い。何かあったら呼びに来てくれと言われていた以上、このままのんびり待っているままというわけにもいかない。
「心配性なんだよ、ナミキさんは」
「そうそう。何かあったら合図のひとつやふたつくらい出すだろ」
 ドーン、と大きな音がしてあたりが光に包まれた。
「ほら、あんな風に……って!?」
「合図だ!!」
 森の中心から上がった号砲、いや花火というべきか、その「合図」があった方向を、船乗り達が一斉に振り向いた。
「行くぞ、お前ら!!」
「お、おう!」
 方向感覚には自他共に評価できる技能を持つ船乗り達は、寸分の狂いもなく合図のあがった場所へと揃って駆け出した。

 ――暗い。
 ここはどこだ?
 俺は確か、あのポケモンと戦っていたはず…。いや、戦えてすらいなかったかもしれない。気がついたら攻撃を受けていた。
 その後、どうなった? 眠った――のか? いや、そんな生易しいものではない。
 あいつも言っていた、与えられるのは永眠だと。
 俺は、死んだのか? …ならここは、地獄か。見くびりすぎていたな、伝承のポケモンとやらを。
 しかし、それなら何故この世界はこんなにも穏やかなんだ?
 あのポケモンは、付近で眠る者に悪夢を見せるとあいつは言っていた。だとしたら、俺は何故悪夢に苛まれていない?
 考えられる理由は……ヤツが、俺から離れた?
 バカな。
 せっかく技を当てた相手に、何もせずに去る? 馬鹿げている。敵意がないのなら、最初から攻撃などするはずもない。
 ならば、誰かがヤツの気を引き、俺から遠ざけている…?
 まさか船乗りの皆が?
 まずい。彼らは戦闘手段と呼べるものを持っていない。太刀打ちするには、あまりにも無力だ――!!
 ……ん?
 なんだ、この光は。つきのひかりに似た、淡い光だ。
 どういうことだ? ここは地獄、いやヤツの作り出した暗闇ではないのか?
 この、闇の切れ間から差し込むような微かな、しかしハッキリとした光は――何なんだ?
 !? くっ、眩し…これでは、目を開けるほか…!
 …目を、開ける?
 道理が間違っては、いない…か……?

「気がついた!!」
 シンジは、眠りから覚めた。周囲には、明かりを持った船乗り達が囲むように立ち尽くしている。ナミキが月のような輝きを放つ羽根をかざしながら言った。
「クレセリア様のご加護だな。昔、せがれが眠ったきりになってうなされ続けてたときも、旅人に譲り受けたこの羽根で起こすことが出来たんだ」
「あいつの言っていた特殊な方法とは…これのことか」
 シンジは、よろめく身体を無理に起こした。
「ここへはどうやって…?」
「号砲さ。こいつが撃ったみてぇだな」
 見ると、背後でサイドン…いや、ドサイドンが、心配そうにシンジを見下ろしていた。横になった状態から見上げると、かなりの迫力だった。
「一足先に目覚めていたと、そういうわけか…」
 シンジが感謝の気持ちを込めて弱々しく微笑みかける。それから、草の生い茂る地面に手をつき、飛ぶように起き上がった。
「お、おい!! まだ…」
「俺が森に入ってから、どれくらいの時間が経った?」
「え? い、1時間くれぇか…な」
「なるほど。まだ大丈夫だ。夜は長い」
「おいおい、リベンジしに行く気かよ!?」
「その羽根とやらがあれば、何度でも起こしてもらえるんだろう?」
「一回くらっただけで疲労が半端じゃねぇんだぞ!? 何度もこいつで起こしたって、兄ちゃんの体力がもつかどうか」
「なら、起きなくなるまでの戦いだ。伝承に挑むんだ、ちょっとやそっとで済まないことは理解している」
「んなこと言ったってよ……!!」
 ナミキの言葉を無視し、シンジは再びダークボールを手に取る。
「ヤツの居場所は、こいつが答えてくれる。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!!」
 闇色をした力強い光が、森の奥へと伸びてゆく。光は、しんげつじまではなくダークライを目指していた。
「皆はここで待機だ。ついでにこいつは借りていく。来い、ドサイドン!!」
「あ、おい待ちやがれ!! 俺のたいまつ!!」
 船乗り達の制止も聞かずに、シンジとドサイドンは光が示す方へと走って行ってしまった。

「ドサイドン、大丈夫か?」
 図体がでかいくせに、走ってシンジについていこうとしたものだから、息が上がっている。ドサイドンの歩幅ならば、普通に歩いていれば引き離されることもないだろうに、とシンジは呆れる。種としての頭の弱さは、サイホーンの時から変わらないのだろうか?
「まったく…ん? なんだ、この音は」
 ドサイドンをハイパーボールに戻しながら、シンジは微かな音を聞いた。
 風ひとつない森の奥、ダークボールの光が指し示す方向から、甲高い旋律が流れてくる。
 暗黒と静寂を好むであろうダークライが、自ら音を出しているとは思えない。
 なら、考えられる答えはただひとつ。
(俺からダークライを遠ざけた張本人、もうひとりのトレーナーが…この先にいる!!)
 確信とともに駆け出し、草を掻き分ける。
 道なき道を行き、やがて、最初にダークライと出くわした場所とよく似た、開けた空間に出た。

 たいまつで照らし出した、その顔は……シンジも知る人物のものであった。

「お、お前は……椿木ワビスケ…!?」

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