Blue Sky 第二部

1 :エンタ2007/08/04(Sat) 21:25:44 ID:nMqzbP/M
ごぶさたです、エンタです。

お待たせしました(待ってない人も)、第二部の書き込みを
カメのようにトロい更新頻度ながらもやっていきたいと思います。

本日某メッセに行って、改めてポケモン人口の多さを知り…少しでも多くの人に読んでもらいたいと強く思いました。
応援よろしくお願いします!

P.S.あなたは某メッセでタッチペンを口にくわえた不審者を見かけたりしましたか?笑

39 :エンタ2008/05/06(Tue) 19:01:28 ID:dHycQM..
第35話 ドサイドン

「…いいぞ。そのくらいやる気を見せてくれれば問題ない。いよいよもって、伝承のポケモンとやらに会うのが楽しみになってきた」
 新種のポケモンを前にしてなお、冷静かつ不敵な表情をしていられるシンジに、ナミキは改めて感心した。
 彼としては、既に自分の手持ちの2体が新たな進化を遂げているわけだから、ここまで来れば驚かないといった開き直りもあるのだろうが。
「いいか、サイドン。かえんほうしゃを…」
 ふと、このポケモンは既にサイドンではないことに気づく。
「そうだな、お前に新しい名前をつけてやる」
 シンジは進化したサイドンの身体をじっくり観察し始めた。一回り巨大化した体躯に、鉄球のように変化した尻尾、そして何より大砲のような形状をした両腕。そう、まるで戦闘兵器のようなポケモンだった。
「…そうだな、超弩級のサイドンだから…お前はドサイドンだ!」
「そっ…そのネーミングは、ダサイドン…」
「………」
 ナミキのあんまりなツッコミ。やはり彼には、ネーミングセンスが皆無なのであった。
 しかし、2人は知る由も無かった。その名が、後にそのポケモンの正式名称となろうとは…。

 町のど真ん中で、黙々とぼんぐりを打ち続けるシンジ。鈍い金属音が、ミオシティ中に響き渡る。
 そう広くない町だ。すでに彼の噂は人々に知れ渡り、住人皆が知る伝承に挑むという青年を一目見ようと集まってきている。
 すぐ傍で、絶え間なくぼんぐりに炎を放ち続けるドサイドン。時折、シンジの額から噴き出す汗が熱された金床に滴りジュッと音を立てた。
 やがてぼんぐりを打ち終わり、シェルとしての加工は残すところ冷却のみとなった。しかし急激に冷やすと脆くなる危険性がある。れいとうビームなどもってのほかだった。
 いまだ赤く輝き続けるシェルは、ナミキが自宅に持っていった。潮風に当てるのもあまりよくない。
 ゆっくりゆっくりシェルを冷やしている間、今度はネットの作業を開始する。手元がよく見えるよう、ピントレンズを左目に装着した。
 浮かぶのは、2人の師匠の顔だ。
「…大丈夫、できるさ」
 自分自身に向けて呟き、たった一枚しかないヤミカラスの羽根をゆっくりと解き始めた。
 ゴクリ。誰かが生唾を飲み込む音。
 緊張の糸が限界まで張り詰めた中、作業は開始された。

「…でき、た…」
 冷却の済んだシェルに、ネットを編み込む。最後にしてもっとも重要な作業が、今、完了した。
 ダークボールの完成だ。
 どっ、と歓声が巻き起こる。シンジも、今まで周りにギャラリーがいることなど気づいていなかったかのように驚いた。
「な、なんだ…!?」
「おめでとう! みんなアンタの働きっぷりを褒め称えてるのさ!」
「やるじゃねぇか、兄ちゃんよ!!」
「漢(オトコ)見せてくれるねぇ!!」
「お疲れ様ですっ」
 船乗り達や先ほどのアロマな女性が、次々に彼に労いの言葉をかける。シンジもどことなく嬉しそうな表情で、手ぬぐいとゴムを外し、汗を拭く。
「いい頃合いだな、日は沈んだようだ。これでしんげつじまへの道が示される。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!」
 造りたてのダークボールから発された力強い光が、海の向こうに真っ直ぐ伸びていた。
「よっしゃ、テメェら! 舵をとれ!! 目指すは北! 挑むは伝承!! しんげつじまに向け、面舵いっぱいヨーソローってなモンだァァ!!!」
『ウォォォォオオオオ!!!!!』
 一斉に挙がる鬨の声。新月の下を、一艘の船が北へと奔(はし)り出した。

「…もし、そこの方」
 船を見送るひとりの女性に、男が背後から声をかけた。アロマな女性は振り向いて会釈しながら、笑顔で言った。
「こんばんは。今日はよく話しかけられる日みたいです。あなた方も図書館へ?」

「いいえ、アナタに用があるのですよ…マドモワゼル」

40 :エンタ2008/06/04(Wed) 17:54:15 ID:hvaa2aOw
第36話 宝珠と巫女

「でもさ、こうして巫女が3人揃うって、初めてじゃないかな?」
 ルネシティに向かう道中、ペリッパーの口の中でマナカが唐突に言った。
「そう…ですね。私とマナカさんは決戦の後よくおしゃべりしていましたけれど…」
「申し訳ないです」
「あ、いやいや別にミズホちゃんを責めてるわけじゃないって」
 ミズホは、ホタルからのファイヤーに乗せていくとの申し出を自ら断った。マナカとヒスイに、謝らなければならないと思ったからだ。
「…そのことだけでは無いです。私は、巫女は本来、ホウエンの平和のために在らねばならないというのに。私は闘争と破滅の片棒を、望んで担いでいたのです。それと知って協力していたのです」
「う〜…で、でもそれはその、さ。ホラ」
 マナカが口ごもっていると、助け舟でも出すかのようにヒスイが喋り始めた。
「ミズホさんにはミズホさんなりの正義があったのでしょう? それを貫くための方法が、少し私たちと違っていた…それだけのことですよ。私はあなたの為そうとした正義を否定しませんし、あなたなりに導き出した考えを咎めもしません」
 ヒスイが優しく諭すように言った。普段の彼女はふわふわしていてどこか天然だが、こういう時は力強い意志があらわになる。
「…前から思ってたんだけどさ、ヒスイちゃんて見かけによらずアツいよね」
「へ? そ、そうですか?」
「なんていうか。あたしの知ってる『そーゆー人たち』と似てるって思ってさ」
 そーゆー人たち。それだけで、何か2人には伝わるものでもあったのだろうか。
「…それ、ユウキさんのことですか?」
「もしくは、ホタルさん…?」
「あっはは。さぁねー。違うかもしれないし、そーかもしんない。片っぽだけかもしんないし、両方かもしれないね?」
 はぐらかしているのか、誘導しているのか。いまいち意図の掴めない返答だった。何も考えてないのだろうか。
「ふふっ」
「あはははっ!」
「……くすっ」
 その瞬間を、2人は見逃さなかった。
「あー!! 笑ったよ!!」
「ええ、やっと笑ってくれましたねっ♪」
「え、あ!? あ、うぁ…!?」
 当然、困惑もする。
「そ、その…」
「ほら、やっぱり笑ってるほうが絶対いいって! 楽しいし、嬉しいし。笑ってる人も、それを見てるこっちも」
「そう…でしょうか」
「それとも一番大事な笑顔はホタちゃんのためにとっときたい?」
 ミズホの顔が爆発したように赤くなった。
「そ、そのへんにしておきましょうよ、マナカさん…」
「あはは、ちょーっとイジメ過ぎちゃったかな? ごめんごめん。ほら、もう着いたみたいだよ」
 ペリッパーのくちばしを、コツコツとノックする音がした。

「しかしスゲェな。人を背中に乗せるならともかく、口に入れて運ぶなんてよ」
「溺れているポケモンを救助するためとも言われているからな。それなりの大きさは必要なんだろう。私のペリッパーは通常よりいくらか大きいが」
 ファイヤーをボールに戻しながら感心して言うホタルに、ミクリが説明する。何だかんだで、この2人もすっかり普通に接していた。
「んっん〜!! いい空気だねぇ〜」
 いささか狭い口内で凝った身体を伸ばしながらの深呼吸。
 かつて火口だった場所がカルデラ湖となり、そこに人が住まうようになったのがルネシティのはじまりだ。かつて太古の昔、グラードンとカイオーガが激突したのがこの地といわれ、今でもいくつもの伝承が残っている。
 その名残のひとつが、彼らの目の前にある洞窟の入り口……めざめのほこら。神の意識に最も近い場所。
「この奥に、宝珠を保管してあるんだ」
 見張り番をしていたルネシティジムのトレーナーと思しき女性に話を通し、一行はめざめのほこらの深部へと向かった。
「…なんだか、海底洞窟の雰囲気と似ています」
「同じさ。海底洞窟には神の肉体が、そしてここには神の意識が眠っている。ここで宝珠を破壊すれば、神の肉体は失われるだろう」
 それはつまり、マグマ団とアクア団の目的である神の力の利用を完全に阻止するための手段。
 彼らの暗躍によって形作られた神のイレモノを壊し、神を神に戻す。そのための方法。
 最後にして最大の懸念を取り払うために、彼らは宝珠を壊すのだ。

「さあ、着いたぞ」
 おくりびやまの頂上と同じように、深い霧に包まれた空間。その中心に、3つの宝珠が設置してあった。

41 :エンタ2008/06/21(Sat) 23:38:18 ID:BUHs/.jc
第37話 宝珠を破壊せよ

「さぁ、皆自分の宝珠を手に取ってくれ」
 3つの台座の中心に立ったミクリが指示をする。
 マナカはべにいろのたまを、ミズホはあいいろのたまを手に取った。
「まずは、それぞれの神の意志にアクセスしてくれ。彼らの意識を眠らせるんだ」
 言われたとおり、彼女らは宝珠に向かって念じ始めた。が、マナカは集中できないのか、すぐに息を切らしてしまった。
「はぁっ、はぁっ、これ、案外キツイね…」
「無理をさせてすまない。私は何もしてやれないが…、頑張って、くれ」
「…OKっ」
 再び、汗に濡れた額を宝珠にぴたりとくっつける。
「ヒスイ君、きみはレックウザの意識にアクセスしてくれ」
「えぇっ!? こ、ここからですか?」
 驚くのも無理はなかった。ヒスイがレックウザの意識にアクセスできるのは、そらのはしらなどレックウザの付近のみである。
 2匹の意識に最も近い場所、つまりホウエン最深部であるめざめのほこらからの神通は、困難をきわめるであろうことは分かりきっていた。
「…無理は承知だ。しかし、2匹が完全に眠ったのを感知できるのはおそらくレックウザだけ。マナカくんとミズホくんには、干渉する力はあっても感知する術はない」
 べにいろ、あいいろのたまとそらいろのたまでは、そもそもの由来が異なる。
 前者の二色は、かつてレックウザがグラードン、カイオーガの意識を封印した楔。対してそらいろのたまは、レックウザが人の心を繋ぐための宝として人間に預けた物である。そう、ダイゴは言っていた。
「きみがレックウザと意識を共有することで、2匹が完全に眠るのを感知することができる。そのタイミングで、宝珠同士をぶつけ合わせ破壊する…。3人の巫女の力が揃わないと上手くはいかないんだ」
 ヒスイが躊躇いがちに台座に置かれた宝珠に目をやる。確かに、記憶が戻ってからは宝珠に触れても意思を支配されることは無くなった。危険は、きっと無いと思う。
「…わかりました。やって…やってみます」
「ありがとう。頼んだ…」
 そらいろのたまを手に取る。色は変わらない。向こうに拒絶の意思は無い、ということだろうか。
 そっと目を閉じ、力を込める。

「ッ!?!?」
 両の腕に、雷が迸ったような衝撃を受けた。危うく宝珠を取り落としそうになる。

「ヒスイ君!?」
「す、すみま…せ、ぁぐっっ!!」
 なおも電撃はバヂバヂと薄気味の悪い音を立てながらヒスイの腕に流れ込んでくる。
「拒絶の…意思が…!? 宝珠から力が逆流しているのか! ヒスイ君ッ!」
「こっちに来んじゃねぇ!! テメーはミズホとガキんちょの面倒見てろ!!」
 はっ、と振り返ると、マナカは今にも倒れそうなくらいにふらつき、肩で息をしていた。慌ててミクリが身体を支える。
「…すまない! ヒスイ君を頼む!!」
「へっ。それでいーんだよ」
 ホタルが懐からキラキラと輝く何かを取り出す。
「それは…?」
「こうえんのはね。不死鳥ファイヤーの羽毛だ。こいつをこうして、使うんだよ!!」
 燃えるように煌く羽根を、ヒスイに向けてかざす。すると、心なしかヒスイの顔から疲労の表情が薄らいだように見えた。
「外傷が無くて助かったぜ。こいつは命に灯す不死の炎。怪我さえなけりゃすぐさま全快よ」
 かつての友を解毒したファイヤーの炎を思い出す。浄化と回復に長けた、生命の炎だ。
 電撃によるヒスイの身体へのダメージを、受けたはしから回復していく。これにより、ヒスイはレックウザの意識にアクセスし続けることができた。…少なくとも、身体的には…だが。
「…驚いた…。生命の導者以外にも、逆流衝動を防げる者がいたとは…」
 その煌きに魅入られたように、ミクリはただホタルのかざす羽根を見つめていた。
「何だよ、見とれやがって。そんなに不思議か? 伝説の炎だから無理もねぇけどよ」
「いや…。今まで私は、炎など、略奪し破壊するのみの野蛮な力に過ぎないと思い続けてきたのだが…与えることも、できるのだな…。そう、そんなことを考えていた」
「ヴァーカ。破壊するためにやってんだろ」
「それもそうだ」
 やがて、そらいろのたまに変化が起きた。電撃がより一層激しくなったのだ。それとほぼ同時に、ヒスイが声を振り絞って叫んだ。

「今ですっっ!!!」

「ホタル!!」
「任せろッ!!」
 マナカとミズホのもとに駆け寄り、宝珠を両手に取る。途端、マナカがドサッと地面に倒れた。
「ミズホくん、伏せろ!」
 渾身の力を振り絞り、両手に持った宝珠を思い切りぶつける。ビシッ、ピキッ、と軋るような音がした直後、ひび割れた箇所から突風のような衝撃波が巻き起こり、宝珠が弾け飛んだ。

 そっと目を開くと、霧は晴れ、宝珠のカケラが洞窟の壁面中に突き刺さっていた。
 ホタルの着けていた手袋はズタズタに破れ、血が滴り落ちている。それを見ながら彼は、笑っていた。
「ははっ…。ははは。ははははっ! やった!! やったぞ!! ざまァ見やがれ、マツブサァ!!!」

 ドスッ。

「…っ!?」
 背中に走る激痛。
「ホタルさんっ!!」
 ネイティオの、ドリルくちばし。
「ま、まさか…!?」

「…………」
 そらいろのたまを手に、ネイティオを従えた少女が、ただ無言で佇んでいた。

42 :エンタ2008/06/21(Sat) 23:38:42 ID:BUHs/.jc
第38話 昏き微睡・其の一

「さぁ、着いたぜ」
 船乗りナミキの声で、シンジは我にかえった。
 見れば、真っ黒な空と海の中、ぽつんと浮かぶ小島に数艘の船が寄せられていた。
 疲れて…眠っていたのか。
 たかだかボール1個で精根尽き果てるとは、何とも情けない。師匠には遠く及ばない。…精進せねば。
「おい、兄ちゃん?」
「あ、ああ。すまない」
 考え事をしていると周りが見えなくなるのは、彼の悪い癖だった。
「ここがしんげつじま…か」
 ぽつりと呟いたのはシンジではなくナミキの方だった。当然だ。その存在の真偽さえあやふやだった幻の島に、いま自分がこうして船をつけているのだから、感慨深くもなる。
「ここにダークライが…」
「お、おい。あまり進みすぎるなよ。何しろ相手は闇を司る伝承のポケモンなんだからな?」
 しんげつじまの存在が明らかになったことで、ナミキの中に段階的にダークライの存在に対しての確信が芽生えていた。今となっては伝承すら疑うことなどできはしない。
「わかっているさ。船乗りの皆はここで待機していてくれ。もし何かあったら迎えに来てくれると助かるがな」
「なんだ、ちゃんとビビってんじゃねぇか」
「周到な措置と言ってもらいたい」
 とはいえ、シンジも確かにビビってはいた。
 それが自分でわからないほどバカではないし、自分の力も弁えているつもりではある。
 ただ、過去に一度伝承のポケモン――セレビィを捕獲した経験があるという過信が、ほんの少しの油断を招いていた。
「では、行ってくる」
 明かりも何も無い真っ暗闇の森の中へ、シンジは勇んで足を踏み入れた。

「思ったほどではないな」
 新月の夜、人里から遠く離れた海の上…。視界は最悪だろうと思っていたが、いざ目が慣れてくると案外とよく見えるものである。
 木を避け、草を掻き分け進むことができるほどには、シンジの視界は良好だった。
 方向感覚には自信がある彼が、森をどんどん奥へ奥へと進んでいくと、やがて開けた場所に出た。
「いかにも何か出そうな場所だな」
 冗談まじりに呟く。ドサイドンをボールから出した。
 腰につけてあったダークボールを取り、神経を研ぎ澄ます。作ったときから、このボールで捕獲すると決めていた。
 耳を澄まし、その伝承のポケモンの足音を聞き取ろうとする。…何も聞こえない。静寂。静寂。
(…こっちか?)
 一応、耳を澄ましながらでも全方位に気を配ることは重要である。そう思い立った彼が振り返った瞬間――

 目が合った。

 青く、暗い光を宿した双眸。
 息を呑む。
 あまりに突然のことで、何をしていいか分からなかった。
 相手はぷかぷかと浮かんでいた。だから足音が聞こえなかったのか。
 と、黒い衣のような身体からいきなり脚が生えた。いや、隠していた脚を出したというのが正しいのだろう。

 両の手で、眼前に広がる景色よりも黒い球体を形作り、
 相対するシンジの足元に向かって投擲する。

 その一連の動作を、ただ呆けて見ていることしかできなかった。
 気付いたときには遅かった。
 一人と一匹は、すでに相手のわざの支配下にあった。

『そのダークを冠するわざとは、何なんだ?』
『…“ダークホール”。永眠へと誘う暗闇の淵』
『永眠……!?』

『そのわざにだけは気をつけろ。喰らったが最後、特殊な方法を使うまで悪夢から醒めることは絶対に無い』

「くっ……しま、っ」
 ドサッ。音を立てて、シンジが崩れ落ちる。途端にもがき苦しみ、大量の汗をかき、悲痛な叫びを上げはじめた。
「がっ…あ、あぁああぐぁあああああああっっ!!!!」

『喰らうと、具体的にどうなるんだ』
『詳しいことはわからん。しかし、そのわざを喰らえば醒めることの無い眠りに陥り、付近から相手が離れるまで悪夢に苛まれ続ける。もっとも離れる頃にはすでに、夢中において精神崩壊を起こしているだろうが…』
『…まさか…』
『もちろん、わざの組成はダークオーラだ。つまりは……』

 ――お前が『葬る』と称している、ダークわざによるポケモンの精神完全破壊と似たようなことになるだろうな――

 叫び声は、そこで止まった。

43 :エンタ2008/06/21(Sat) 23:39:00 ID:BUHs/.jc
第39話 黒空の神子・其の一

「ヒスイ…君……?」
 そこにいたのはヒスイのはずだった。
 だが、その瞳は曇り空のように黒く淀み、恐ろしいほどに感情を持たなかった。
「ふむ。久しいな、この身体は」
「貴様……!! ヒスイ君ではないな!?」
「そうだ。あの穏和で臆病なか弱い少女が、このような大胆な行動を取るとでも?」
 冷たい床に横たわるホタルを足蹴にし、ヒスイだった少女は変わらぬ声音で言い放った。
「…っ!!」
 イーブイが、ボールから放たれ、ヒスイだった少女の脚に体当たりをかます。
「ホタルさんから離れてください!!」
「…天罰を受けるか、巫女よ。こことて聖域の一部。足を踏み入れし者がたとえ巫女であっても容赦はかけぬぞ」
 ネイティオがイーブイに向き直る。
「…キミは、何者だ…?」
「わたしは空の意志を伝える者。何と呼ぼうが、貴様らの勝手だ」
 言うが早いか、ネイティオがイーブイに向かってくちばしを突き出しながら突進した。すんでのところでそれをかわす。
「く…レ、レジアイス!!」
 たとえ相手がヒスイの姿をしていようと、傍観はできない。ミクリは受け取ったばかりのレジアイスを出した。
「…貴様らと戦う理由はわたしには無いが…空がお怒りだ。貴様らが聖域を傷つけ、宝珠を破壊した以上…手加減する理由も無くなった」
 宝珠を破壊した、ということに対しての態度を見て、ミクリは異変を感じた。
「空の神ではない…?」
「無知とは愚かしいな人間。空の神とわたしの言う空は、別の空だ」
「どういうことだ…。貴様が言っている『空』とは、そらいろのたまの先にいる何者かとは…レックウザのことではないのか?」
「貴様に何を話しても、解することもできまい。おとなしく空の裁きを受けよ」
 ネイティオがレジアイスに向かって突撃してきた。イーブイが体当たりで迎え撃とうとするが、高く飛ばれては届かない。レジアイスのれいとうビームも、照準がまるで定まらないようだった。
「くそっ……!!」
「遅いな」
「な、なぜですか!? なぜネイティオが、あんなに早く動けるのです!!」
「人間のお前たちにはわかるまいが…偉大なる空の暗示を受ければこの程度の速度上昇はわけも無い」
 無茶苦茶な、とミクリは思ったが、今相手にしているのは正体不明の存在だ。何を持ち出されても不思議ではない。そう自分に言い聞かせ、心を凪ぐ水面の様に落ち着けた。
「…撃て!」
 掛け声と同時に、レジアイスの両手から太めのれいとうビームが射出され見事にネイティオに命中した。
「…ふん」
 モンスターボールにネイティオを戻し、新たにトゲチックを繰り出す。
「…手持ちを全滅させれば、とりあえず攻撃はやめてもらえそうですね」
「彼女の手持ちは…ネイティオとトゲチックだけのはずだ」
 レジアイスが再びトゲチックに狙いをつけた。しかし、そこにすでにトゲチックの姿は無い。
「なっ…!?」
 途端に、轟音が巻き起こった。レジアイスが、四方八方から連射されたシャドーボールに襲われたのだ。
 センリの使用するシャドーボールとは違い、空気中から影のカタマリを作り出して撃ち出すタイプのものだ。命中率はセンリのものに劣るが、速射性に長けている。
「いつの間に…!? くっ、素早い!!」
 ミズホは、頭を抱えながらブツブツと呟いていた。
「こんな…イーブイがサンダースのままだったら…。私が未熟じゃなかったら、はかいこうせんは喰らわなかったはずなのに…」
「過ぎたことを悔やむな!! 頼むぞ、ヒンバス!!」
 ふらつくレジアイスをサポートするため、ヒンバスをボールから出す。
「雑魚が。この巫女の育てたようなポケモンにも後れを取るとは」
 しかし、ミクリは知っていた。ヒスイはセンリの教えを受けたトレーナーであること、トゲチックとネイティオはもともとジムリーダー所有クラスのポケモンであることを。
「速さで勝てないなら…ほかの何か…何でもいい、勝てる力が欲しい!!」
「落ち着けミズホ君!! 願っても戦況は覆らない!! ヒンバス、ミラーコートを半球状に!!」
 シャドーボールが次々に跳ね返される。しかしその全てを、トゲチックは飛びながらかわしていた。
「かわす…回避…? そうです、それなら…!!」
 ブツブツと呟いているミズホをよそに、ミクリは苦渋の決断をする。
「ミズホ君、イーブイの回復を怠らないでくれ! いささかスマートでない手段をとる!! 戻れ、ヒンバス。レジアイス、あられ!!」
 レジアイスが両手を振り上げると、吹雪のように激しいあられが巻き起こった。伝説のポケモンだけあって、力の大きさは並大抵ではない。
「……!!」
 ふと、イーブイの身体に変化が現れ始めた。光り輝く体。これは、進化の兆しである。
「…まさか…この条件下でイーブイが進化することがあるというのか…!?」

 ミクリの予想は当たった。

 イーブイが進化した。
 今までにない、新たな姿へと。

44 :エンタ2008/07/06(Sun) 19:48:02 ID:Bk1mNjCo
第40話 昏き微睡・其の二

「おい、いくら何でも遅すぎねぇか?」
 岸で待機しているナミキが、仲間たちに呼びかけた。
 彼の帰りが思っていたより遥かに遅い。何かあったら呼びに来てくれと言われていた以上、このままのんびり待っているままというわけにもいかない。
「心配性なんだよ、ナミキさんは」
「そうそう。何かあったら合図のひとつやふたつくらい出すだろ」
 ドーン、と大きな音がしてあたりが光に包まれた。
「ほら、あんな風に……って!?」
「合図だ!!」
 森の中心から上がった号砲、いや花火というべきか、その「合図」があった方向を、船乗り達が一斉に振り向いた。
「行くぞ、お前ら!!」
「お、おう!」
 方向感覚には自他共に評価できる技能を持つ船乗り達は、寸分の狂いもなく合図のあがった場所へと揃って駆け出した。

 ――暗い。
 ここはどこだ?
 俺は確か、あのポケモンと戦っていたはず…。いや、戦えてすらいなかったかもしれない。気がついたら攻撃を受けていた。
 その後、どうなった? 眠った――のか? いや、そんな生易しいものではない。
 あいつも言っていた、与えられるのは永眠だと。
 俺は、死んだのか? …ならここは、地獄か。見くびりすぎていたな、伝承のポケモンとやらを。
 しかし、それなら何故この世界はこんなにも穏やかなんだ?
 あのポケモンは、付近で眠る者に悪夢を見せるとあいつは言っていた。だとしたら、俺は何故悪夢に苛まれていない?
 考えられる理由は……ヤツが、俺から離れた?
 バカな。
 せっかく技を当てた相手に、何もせずに去る? 馬鹿げている。敵意がないのなら、最初から攻撃などするはずもない。
 ならば、誰かがヤツの気を引き、俺から遠ざけている…?
 まさか船乗りの皆が?
 まずい。彼らは戦闘手段と呼べるものを持っていない。太刀打ちするには、あまりにも無力だ――!!
 ……ん?
 なんだ、この光は。つきのひかりに似た、淡い光だ。
 どういうことだ? ここは地獄、いやヤツの作り出した暗闇ではないのか?
 この、闇の切れ間から差し込むような微かな、しかしハッキリとした光は――何なんだ?
 !? くっ、眩し…これでは、目を開けるほか…!
 …目を、開ける?
 道理が間違っては、いない…か……?

「気がついた!!」
 シンジは、眠りから覚めた。周囲には、明かりを持った船乗り達が囲むように立ち尽くしている。ナミキが月のような輝きを放つ羽根をかざしながら言った。
「クレセリア様のご加護だな。昔、せがれが眠ったきりになってうなされ続けてたときも、旅人に譲り受けたこの羽根で起こすことが出来たんだ」
「あいつの言っていた特殊な方法とは…これのことか」
 シンジは、よろめく身体を無理に起こした。
「ここへはどうやって…?」
「号砲さ。こいつが撃ったみてぇだな」
 見ると、背後でサイドン…いや、ドサイドンが、心配そうにシンジを見下ろしていた。横になった状態から見上げると、かなりの迫力だった。
「一足先に目覚めていたと、そういうわけか…」
 シンジが感謝の気持ちを込めて弱々しく微笑みかける。それから、草の生い茂る地面に手をつき、飛ぶように起き上がった。
「お、おい!! まだ…」
「俺が森に入ってから、どれくらいの時間が経った?」
「え? い、1時間くれぇか…な」
「なるほど。まだ大丈夫だ。夜は長い」
「おいおい、リベンジしに行く気かよ!?」
「その羽根とやらがあれば、何度でも起こしてもらえるんだろう?」
「一回くらっただけで疲労が半端じゃねぇんだぞ!? 何度もこいつで起こしたって、兄ちゃんの体力がもつかどうか」
「なら、起きなくなるまでの戦いだ。伝承に挑むんだ、ちょっとやそっとで済まないことは理解している」
「んなこと言ったってよ……!!」
 ナミキの言葉を無視し、シンジは再びダークボールを手に取る。
「ヤツの居場所は、こいつが答えてくれる。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!!」
 闇色をした力強い光が、森の奥へと伸びてゆく。光は、しんげつじまではなくダークライを目指していた。
「皆はここで待機だ。ついでにこいつは借りていく。来い、ドサイドン!!」
「あ、おい待ちやがれ!! 俺のたいまつ!!」
 船乗り達の制止も聞かずに、シンジとドサイドンは光が示す方へと走って行ってしまった。

「ドサイドン、大丈夫か?」
 図体がでかいくせに、走ってシンジについていこうとしたものだから、息が上がっている。ドサイドンの歩幅ならば、普通に歩いていれば引き離されることもないだろうに、とシンジは呆れる。種としての頭の弱さは、サイホーンの時から変わらないのだろうか?
「まったく…ん? なんだ、この音は」
 ドサイドンをハイパーボールに戻しながら、シンジは微かな音を聞いた。
 風ひとつない森の奥、ダークボールの光が指し示す方向から、甲高い旋律が流れてくる。
 暗黒と静寂を好むであろうダークライが、自ら音を出しているとは思えない。
 なら、考えられる答えはただひとつ。
(俺からダークライを遠ざけた張本人、もうひとりのトレーナーが…この先にいる!!)
 確信とともに駆け出し、草を掻き分ける。
 道なき道を行き、やがて、最初にダークライと出くわした場所とよく似た、開けた空間に出た。

 たいまつで照らし出した、その顔は……シンジも知る人物のものであった。

「お、お前は……椿木ワビスケ…!?」

45 :エンタ2008/07/06(Sun) 19:48:24 ID:Bk1mNjCo
第41話 黒空の神子・其の二

「こ、この子は…?」
「イーブイの、新たな進化形だというのか!? しかし何故…」
 困惑する2人をよそに、ヒスイの身体を乗っ取っている何者かは、状況を理解しているかのように呟いた。
「ちっ。『永久氷壁』の影響か。この状況下で進化を遂げるなどと、まったくもって悪運の強い巫女だ」
 言ってから、『彼女』はしばし自分の言葉を反芻する。
「いや…『海幸(ラッキー・カード)』の能力のうちなればこそ、その進化も必然…か」
 途端にトゲチックが背中の羽根を輝かせ、空を飛びまわるスピードをさらに上昇させる。
(このポケモンは筋がいい。さっきのやつに比べて、さほど強い暗示を与えなくともかなりの速度を誇る)
 命令無しで、シャドーボールを四方八方から乱射する。
 トゲチックの体力も徐々に削られ、完全に不利となり始めた『彼女』に、もはや全力を出さない理由は存在しなくなった。
「さぁ、影に果てろ!! 愚かな人間どもよ!!」
 撃ち出された全てのシャドーボールが、ほぼ同時にミズホたちに襲い掛かった――。

「……なぜだ」
 ヒスイではない何者かは、憎々しげに呻いた。
「なぜ一発も命中していない!?」
 全てのシャドーボールをその身に受けたかに見えたミズホとイーブイの進化系は、『彼女』の予想に反してまったくの無傷だった。それどころか、状況が理解し切れず立ち尽くすミクリと、そのポケモン、レジアイスまでもが。
「ふふふ……。ラッキー、でした」
「全て…回避した!? バカな、そんなことが!!」
「そこに1%でも確率が存在しているなら、私の望み方次第でその確率を引き当てることができる。どうやら私の能力は、そういうものだったようですね」
 さっきまでとはうって変わって得意げに、ミズホが微笑を浮かべる。
「巫女の能力は、生まれた時から発現している。私の場合は自覚無しに使っていたですが、先ほどの攻撃の中で、確かに声を聞いたです。ラッキー・カード…とね」
「レジアイスを自分のもとに『運良く』流れ着かせたのも、遥か海底から『運良く』生還できたのも、その能力か…。し、しかしトレーナーの経験から考えて、今のシャドーボールが外れる確率は0%だったはず。どうやって回避率を生み出したんだ…?」
 戸惑いながらも冷静な意見を述べるミクリに、ミズホは笑って答えてみせた。
「この子の能力みたいです。砂に隠れて敵を討つ砂漠のポケモンに似た、あられに紛れ、敵の攻撃を回避するとくせい――そう、言うなれば「ゆきがくれ」ですね」
「そんな僅かな確率から、全てのシャドーボールを回避するという恐るべき事象を引き当てたというのか…」
「くっ…。この私が、敗北…だと? おのれ…!」
 本来の目的――『彼女』の言う、空の裁きを与えられず敗北したことに、『彼女』は怒り、震えていた。
 意識を回復しはじめたホタルがよろよろと立ち上がり始める。
「さぁ…きみは負けた。おとなしく、ヒスイ君の身体を返してもらおうか」
「ちっ…覚えていろ。空は必ず、再び貴様ら人間を潰す! これは土産だ、とっておけ!」
 鬼のような形相が一瞬にして崩れ、眠るように目を閉じたヒスイが冷たい床へと倒れ込んだ。
「ヒスイさんっ!!」
 あられが止み、それでも寒さの残るほこら内の状況に混乱したホタルが、ミクリに向かって悪態をついた。
「寒ッ!? おいどういうことだアホミクリ、状況説明しやがれ!!」
「…悪いが、どうやらそんな悠長なことを言っている暇はないらしい。ミズホ君、ヒスイ君を急いでこっちへ!!」
「えっ!? は、はい!!」
 ミズホがヒスイの身体を抱きかかえて、ミクリの傍へと移動した。青い水晶のようなものがところどころ床に刺さっている。これはあいいろのたまの破片なのだと思い出すのに、そう時間はかからなかった。
「おい、どうなってんだよ!!」
「こっちへ来るな!!」
「…あァ? 意味が…」
 いまだボールに戻していなかったレジアイスのパンチが、ホタルを反対側の壁へと突き飛ばしていた。
「っ痛!! おいテメェ、何しやが」

 ズズゥゥゥゥゥゥウウウウウン……

「………は?」
 罵倒しようとした相手は、すでに視界の先にいなかった。
 あるのは、黒い水晶のちりばめられた壁だけ。
「み、ミズホ!? ミズホっ!!」
 壁の向こうと思しき場所から、声が聞こえる。
「だ、大丈夫ですぅぅ」
「無事なのか!? 良かった…」
 心からの安堵。すでにホタルにとって、ミズホはここまで大きな存在になっていたということらしい。
「ホタル、聞こえるか?」
「ああ、聞こえてるぜ。何なんだよこれぁ」
「どうやら、我々を良く思わない黒空という者が、このほこらを出口ごと埋めてしまったようだ。分断されたのも、計算のうちだったのかもしれないが…」
「…下らねぇごたくはいい。こっから脱出する方法を、さっさと教えやがれ」
「そのつもりだ。…なに、由緒正しくとも地下施設だ。緊急時の経路は用意されている。…しかし、そちら側にだけだ」
「何だと!? テメェ、それじゃミズホはどうなるってんだ!!」

「少しは私やヒスイ君の心配もしてほしいものだな…。しかし、手段はちゃんとある。まずは私の指示に従うんだ」
 厳かに告げるミクリの声に、ホタルはむすっとしながらも押し黙った。

46 :エンタ2008/08/07(Thu) 15:12:47 ID:fOjkhMwI
第42話 昏き微睡・其の三

 暗闇の中で、ダークライと激しい戦闘を繰り広げるハブネークと、そのトレーナー。
 シンジのかわりにサミット実行部に入った、椿木ワビスケであった。今は、大人の姿をしている。
「なぜお前がシンオウに…!?」
 ワビスケも、ようやくシンジに気づいたのか、攻防の中話しかけてくる。
「ほう、もう目が覚めたでござるか。笛の音で起こせるのはポケモンだけと思っていたが…」
 彼女の手には、あの有名な「ポケモンのふえ」が握られていた。ひとたび吹くだけで、どんなに深い眠りに落ちたポケモンも目を覚ますといわれる代物だ。言うなれば、その力をさらに強力にしたものが、ヒサヤの『呼笛(シンフォニック・アラーム)』である。
「兄者の見よう見まねでござるが、そのサイドンもどきの目を覚ますのには十分だったでござろう?」
 言いながら、足元に次々放たれる球体を、身軽に飛びかわしていく。シンジはその光景に、ただただ感嘆した。
「って、何をボーッとしているんだ俺は」
 自分の目的は、ダークライの捕獲だ。もしかするとワビスケは、ここにダークライを捕まえに来たのかも知れない。いや、しんげつじまの存在を知り、そこに潜入する以上、目的は確実に同じなはずだ。
 ならば、渡すわけにはいかない。シンジにも、トレーナーとしてのプライドというものがある。
「ダークライは渡さん」
「!? お主、邪魔立てするか!?」
 ダークライとワビスケの間に、シンジが割って入った。
「どうやってここに来たのかは知らないが、ダークライは俺が捕獲する。お前は引っ込んでいろ」
「さっきまで眠り呆けていたくせに、傲慢な…ッ!!」
「黙れ、来るぞ!!」
 ダークライが手をかざした一瞬に、ワビスケのハブネークがダークホールをくらい、眠らされてしまっていた。
「く……!!」
「ハブネークをボールに戻せ! 悪夢を見せられるぞ!!」
「何ッ!? くっ、戻るでござる、ハブネークッ!!」
 ビクビクと痙攣し始めたハブネークを、すぐさまボールに戻す。
「モンスターボールの安息効果が、ハブネークをヤツの悪夢から遠ざけてくれる」
 ボールに戻せば回復する異常には、いくつも種類がある。ポケモンの精神を安らげることにより、混乱したり興奮したりといった状態を回復することが出来るのだ。
(ふみんのとくせいを持つドンカラスがいてくれれば、多少は楽になったかもしれないが…贅沢は言っていられん)
 ハイパーボールからドサイドンを繰り出し、戦闘態勢に入る。
「椿木ワビスケ、ヤツの行動パターンに特徴は?」
 少し戸惑いながらも、ワビスケは先ほどまでの戦いで得た情報を、冷静に口にする。
「…この森にはいくつも似たような広場が点在する。黒い球体を10発ほど撃ち終えると、ヤツは隣の広場に移動するでござる」
「なるほど。では、俺がここで残りのダークホールを耐え切る。その間に、お前は次の広場へ行ってヤツを待ち伏せろ。休む隙を与えずにじわじわと弱らせるんだ。お前の得意の手法だろう?」
「協力して捕まえよう、と…そう言いたいのでござるか」
「むろん、最終的にどちらが捕獲することになろうとも恨みっこ無しだ」
 少し沈黙をおいてから、ワビスケはゆっくりと頷いた。
「さぁ、早く行け!!」
 言うまでもなく、といったところか。凄まじいスピードで、ワビスケは森の奥へと消えた。
「…また会ったな、ダークライ」
 蒼白の眼は、いまだこちらに敵意を投げ続けている。黒い手をかざし、再び球体を作り出す。
「ドサイドン、かえんほうしゃだ!!」
 手の砲口から発射された熱と光を伴った攻撃が、容赦なくダークライのフィールドを奪い取る。広場に円状に放たれた炎が照らし出したダークライの姿は、それでもなお闇より濃い暗黒色だ。
「これで互角だ」
 シンジが不敵な笑みを浮かべた。

「さあ、根比べといこう! 伝承のポケモンよ!!」

47 :エンタ2008/08/07(Thu) 15:13:16 ID:fOjkhMwI
第43話 黒空の神子・其の三

「まず、お前の背後の壁に、色の違う一角があるだろう」
 ホタルは、ミクリの言葉に従いそれを探すが、そんなものは見つからない。
「んなもん無ェぞ!」
「よく見ろ。わずかにくすんだ色の壁があるだろう」
 目を凝らしてそれを探すと、やがてこれか? と思うものが見当たった。しかし、ひとたび目を離せばまた見失ってしまいそうなほどのわずかな違いで、とても意図的なものとは思えなかった。
「見つかったか?」
「いや、よくわからねぇ」
「押してみろ」
 言われたとおりに、その部分を手で押してみる。…とたんに、音を立ててホタルの足元の床が無くなった。
「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
 ホタルとその傍に横たわっていたマナカは、いきなり無くなった床の下の奈落に、なすすべなく自由落下していった。

 派手な水音とともに、身体に激痛が走る。
「ゴボゴボゴボ…………ぶはっ、いっでぇぇぇえええ!!!」
 理不尽なまでの痛みにホタルは心の中でミクリに悪態をついたが、すぐに「もし下が岩だったら」と思い立ち、身震いした。
「そ、そうだ! ガキんちょは!?」
 水に浮かんだままキョロキョロとあたりを見渡すと、すぐに人の手らしきものが波音を立てて助けを求めているのに気づいた。
「お、おい!!」
 慣れない手つき足つきで水を掻き、なんとか音の近くに寄って手を引っ張りあげる。
「ぷはぁっ、はぁ、はぁ、はぁ…い、いやぁぁああ!!!」
「おっ、落ち着け!!」
 引っ張りあげた手にしがみ付きながら、マナカが泣き叫ぶ。顔は暗くて見えないが、明らかに泣いているとわかる声だった。
 さっきまで気絶していて、目が覚めたら水の中にいて息も出来ないのだから、パニックになるのは至極当然だが。おまけに周囲は真っ暗で、ホタルから手を離すことの恐怖はまさに倍加していた。
「あ、あた、あたしっ、泳げないのぉ!! いやっ、死んじゃうぅ!!!」
「死にゃしねぇよ、ヴァカ!! 黙って身体の力抜け!! でねぇと沈むぞ!!」
「はぁっ、はぁっ、で、でも…!」
 逆効果と思ったのか、ホタルが両手を押さえつけるのをやめても、マナカはホタルの服にしがみついて離れない。おかげで身動きが取りづらく、一緒に溺れてしまいそうだった。
「つかお前、みずポケモン持ってんだろ!! そいつ出せそいつ!!」
「えっ、あぅ、あ……。と、とって〜!!」
「はァァ!?」
 マナカはどうやら、片手でも離すのが嫌らしい。ホタルにぴったりしがみついたまま、腰のボールを取ることをホタルに要求した。
「は、はやくぅぅ…」
 哀願するような声音。
 バルビートを出して明かりをつけることも考えたが、マナカの泣き顔が目と鼻の先にあることを思い、取りやめる。…別に俺はガキにゃ興味ねぇが、この状況で明かりをつけるのはいろいろとヤバイ気がする。
「仕方ねェな……っと、この辺か?」
「っきゃあ!? どど、どこ触ってんのッ!!」
「うるせェクソガキ!! 暴れんなボケ!!」
「ひゃわっ!?」
 やや強引に腰からボールを引ったくり、中のポケモンを繰り出した。
「ったく、面倒かけさせやがって……よ!!」
 ボールから出てきたのは、ミロカロスではなく…カイリキーだった。
「ガ、ガウッ!? ブクブクブク」
「あァァもぉお何でだぁああああ!!?」

 やっとのことでミロカロスを出し、その背中に乗ることに成功した2人だったが、ホタルの疲労は半端ではなかった。
「…で、何でまだくっついてんだよ」
「だって、落ちるの怖いもん……」
「だぁぁあウゼェ!! 離れろ!!」
 ミロカロスの体長は6mもあるので、人が2人背中に乗ったところで何ら問題はなかった。今はバルビートが2人を照らし、イルミーゼとファイヤーが出口を探して飛び回っている。
「もーっ、可愛い女の子が密着してるんだからもっと喜びなよっ」
「…今すぐ突き落としてやろうか」
「そしたらミロロちゃんがホタちゃんのこと振り落とすもん。みちづれだもーん」
「あぁムカつく!! ガキってムカつく!!」
 マナカほどではないが、ホタルもカナヅチの部類に入る男だった。振り落とされてはたまらない。
「畜生め…ここ出たら、覚えとけよ」
「え? 何か言った?」
「ここ出たら、ルネの湖に頭から突き落としてやるから覚えとけッつったんだよ」
「えぇ!? …じゃあずっとここにいる」
「ざっけんなクソガキ!!」
 そんな不毛なやり取りを繰り返していると、ファイヤーが何かを見つけたのか、2人に向かってくえーっと鳴いた。
「お? 何かあったのか、ファイヤー!」
「ミロロちゃん、あそこまでお願いっ」
 マナカの命令にミロカロスはこくりと頷き(この動作で2人とも落ちそうになった)、高スピードでファイヤーのもとへと泳いでいくのだった。

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Colorful Board System Version1.01 by ミライいろ。