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Blue Sky 第二部
- 1 :エンタ :2007/08/04(Sat) 21:25:44 ID:nMqzbP/M
- ごぶさたです、エンタです。
お待たせしました(待ってない人も)、第二部の書き込みを
カメのようにトロい更新頻度ながらもやっていきたいと思います。
本日某メッセに行って、改めてポケモン人口の多さを知り…少しでも多くの人に読んでもらいたいと強く思いました。
応援よろしくお願いします!
P.S.あなたは某メッセでタッチペンを口にくわえた不審者を見かけたりしましたか?笑
- 2 :エンタ :2007/08/04(Sat) 21:30:26 ID:nMqzbP/M
- プロローグ セカイの神話
セカイははじめ、無であった。
混沌のうねりが混ざり合い、
やがてひとつの命が生まれでた。
はじまりという者が生まれでた。
はじまりは、セカイに秩序(モノ)を与えるため
ふたつの分身を作った。
時間が生まれた。空間が生まれた。
さらにはじまりは、セカイに思想(ココロ)を与えるため
みっつの命を生み出した。
知識が生まれた。感情が生まれた。意思が生まれた。
セカイが形容(カタチ)を持ったので、
はじまりは眠りについた。
時間を生み出した分身は、
輝く金剛より太陽と月を形づくった。
光が生まれた。影が生まれた。
三日月と新月が、新たなモノを生み出した。
空間を生み出した分身は、
白き宝珠よりみっつの色を生み出した。
赤、緑、青が彩るセカイに、
空が生まれた。大地が生まれた。海が生まれた。
みっつの命は、太陽と月を真似て星を生み出した。
願うココロが生まれた。
赤い命は、大地から鉱物を形づくり
みっつの永遠を生み出した。
また、大地を幾重にも重ねあわせて
巨大なる陸地を作り上げた。
青い命は、海から生物を形づくり
回遊する小さき命を生み出した。
小さき命は心を分かち合い、身体を分かち合った。
そして幾つもの生命が海の底を回遊しはじめた。
緑の命は、空に天国を形づくり
すべてのモノに平等なる死を与えた。
命は、時間と空間に伴って輪廻した。
やがて、おわりという者が生まれでた。
おわりはもうひとつのセカイを作った。
セカイに表と裏が生まれた。
命輝くモノは、はじまりが作ったセカイに息づいた。
命失ったモノは、おわりが作ったセカイにもどった。
太陽と月、星たちは空に浮かべられ、それらの光は虹を生み出した。
海の底には全ての生命を総括する銀色の王者が君臨した。
大地を駆け巡るみっつの獣より、やがて炎が生まれた。雷が生まれた。風が生まれた。
虹の翼は、緑の命の盟友となり、
熱すなわち命を司る力を分かち合った。
銀の翼は、強すぎる力ゆえに孤独となり、
海の底への来訪者を拒む圧力を作った。
分身のひとつは、時間の自由をたったひとつの妖精にだけ許した。
分身のひとつは、空間の自由をたったふたつの夢幻にだけ許した。
時間の自由を許された妖精は時を渡ることができるようになった。
空間の自由を許された夢幻は姿を偽ることができるようになった。
みっつの命は最後に、生命に知識と感情と意思を与えた。
やがてヒトが生まれた。ぽけもんが生まれた。
神々が手を煩わせなくとも、生み出されたヒトとぽけもんは自分たちで命を増やしていったので、
ふたつの分身とみっつの命も眠りについた。
はじめのぽけもんは、あるいは幻であった。
ヒトは言葉を生み出した。
神々が生み出したセカイを世界と名づけ、
続く秩序、穏やかなる思想を、平和と名づけた。
そしていつまでも平和を願い尊ぶココロを感謝と名づけた。
しかし、最初の神々が眠りについたことでそれらの秩序、思想は乱れはじめた。
いつしか、赤と青が対立した。
みっつの命のうちのひとつが作った
「憎しみ」という感情によるものだった。
赤は、眠りについた分身が作った太陽を勝手に動かして日照りをおこし海を枯らした。
青は、眠りについた分身が作った月を勝手に動かして水を引っ張り上げ大地を沈めた。
見かねた緑が、ヒトとぽけもんの力を借りて赤と青の怒りを鎮めた。
多くのいのちが裏のセカイへと消えていった。
緑は、分身が残した宝珠を使い赤と青のココロをわけて封印した。
残った緑の宝珠は、神の住まう天空と約束を交わしたヒトのココロを繋ぐ宝となった。
そうして世界は元に戻った。
ヒトとぽけもんは、今も神々のもとに。
- 3 :エンタ :2007/09/22(Sat) 17:45:04 ID:SWvUuOa.
- 第1話 あれから
神無月、二十四日。
あの決戦から3ヶ月が経った、ホウエン地方。
朝日に映える、白いシーツ。
スバメたちの、にぎやかなさえずり。
平和そのものを顕現したかのような、穏やかな世界。
この世界に、平穏を破り去る悲劇の災厄が訪れようとは、誰一人として予想だにしなかった。
「朝ごはんできたよー!! 起っきろーッ!!」
バサバサバサーッ。スバメたちがさえずりをやめ、森からいっせいに飛び立った。
「…ハルカ。パパ思うんだが…もう少し静かに出来ないか?」
「こうでもしなきゃ起きないでしょ、あの二人は」
ハルカが手に持っているのは、フライパンとおたま。
そう、彼女が繰り出したのは中国4000年の歴史を誇る超必殺技、『食器起こし』である。
「それに、ユウキがいた頃はもっとひどかったんだから、マシなほうよ」
ガチャッ。扉の開く音。
「…おはよー、ハルカちゃん、コブちゃん」
「おはよ。さ、ごはんだよ。顔洗ってきて。センリさんは寝癖なおす! 髭も剃る!!」
「…ん」
倹約家のナツコの提案により現在大空家の水道やガスは止まっているので、食事は苧環家でしている。
二人は寝ぼけ眼をこすりこすり、苧環家の玄関をくぐった。
「…はぁ。毎度思うけど、ジムリーダーのああいう姿って見たくないよね」
「センリは普段気取っているから余計にな」
全員が食卓について数十秒。さっそくハルカが口を開いた。
「センリさん、今日のジムは確か午後からだったよね?特訓つきあってよ」
「ん? ああ、別にいいが…最近そればかりだな」
「だ、だって…アイツがホウエンを離れてる間に強くなってたらどうしようって。落ち着かなくてさ」
ハルカは恥ずかしそうに顔を背けながらもにょもにょと喋った。
「だいじょうぶだろう。今のお前なら、十分にチャンピオンとも渡りあえる。トウキも次期ジムリーダー候補にお前を推していたしな」
「トウキは若いから、そんなのまだまだ先の話でしょー」
「いや、彼はもともとサーファーになるのが夢だったんだ。先代ムロジムリーダーが引退したとき島で一番強かったのがトウキだった」
と、センリお得意の薀蓄語りはこの後30分続いた…。
「そういえば、今日って何日だっけ?」
「二十四日」
「十八日」
さっそく意見が食い違った。
「何度も言ってるでしょ。うちのカレンダー変えようって」
そう、苧環家のカレンダーは何故か旧暦なのだ。1年を15ヶ月とし、霜月朔日が大晦日になったりする覚えづらい暦だ。
「そういえば、マナカちゃんが遊びに来るって言ってたわね」
「護衛でバンリもな」
「何から護衛するつもりなのかしらねぇ…」
トレーナーとしての腕前はバンリのほうがはるかに上だが、マナカも別に弱いというわけではない。むしろ強いほうの部類に入る。
「じゃ特訓は無しかな?積もる話もあるだろうから」
「別に気にする必要はないぞ」
「んーん。遠慮しなくていいよ」
ピンポーン
と、噂をすれば影、苧環家のチャイムが鳴らされた。
「はいはいー」
ガチャッ。
「ちーっすっ!!おはよーございまーす、博士、おじさんおばさん、ハルカちゃん!!」
「朝からテンション高いね」
勢いよく入ってきた少女は、大空マナカ。そして後ろにその父、大空バンリ。
「あ、すいません。朝食の途中だった。ほら出直すぞ、マナカ」
「いや何で」
遠慮深いバンリおじさんを、ハルカがツッコミつつ引き止める。
「一緒に食べなよ。遠慮は要らないって」
「そぉ? んじゃ、お言葉に甘えて〜♪」
最初っから遠慮する気などさらさらなかったようにも見受けられる…。
「今夜はミナモでパーティーだよね。一足早いけど、ここで騒いどくかーっ」
「これマナカ…」
「テレビ♪テレビ♪」
「まったくマナカは…いつまでたっても子供だなぁ」
それはあんたが過保護+親バカなのが原因だ、とは思っていても誰も言わない。
「…ん? あれって…」
「どしたの? ハルカちゃん。ニュースなんて面白くないよ?」
「違う…あれ…」
『トクサネ海岸に打ち上げられた無人の潜水艦…未完成のはずの「かいえん1号」と思われる』
そう。誰一人として予想だにしなかった。
これから起きる真の事件を…その、結末を。
- 4 :エンタ :2007/09/22(Sat) 17:45:30 ID:SWvUuOa.
- 第2話 時の旅路
「…風が強えーな、今日は」
「そう? 緊張してるんじゃない? やっぱり」
ジョウト地方、コガネシティ。
二人の男女がポケモン育てやの建物から出てきた。
金田一ゲンキと、空木ユウキ…通称アオイ。
彼らはもう一度シンジに会うために、セレビィのものと思われるタマゴを大事にあたため続けてきた。
アオイはポケモン育成の施設が豊富で知り合いも多いジョウトポケモン育てやさんに下宿。
そのタマゴが大昔のものである故か、孵化には通常の数十倍近い時間を要する事を告げられた。
ゲンキは孵化の知らせを一刻も早く受けられるよう、常にアオイの傍にいた。
そして、昨日の深夜。
3ヶ月の時間をかけて、ようやくセレビィが誕生した。
そして2人はウバメの森へ向かった。
大切な友に、もう一度会うために…。
「今回は、混乱を防ぐために時間軸の調整はしないわ。私たちが会うのは別れてから3ヶ月後のシンジ…ってことになる」
「心配か? あいつは3ヶ月くらい戦場にホッポリ出したって、死ぬようなタマじゃねーだろ」
「む…その言い方、少し失礼かなぁ」
「あーはいはい。そんじゃあま…行くとしますか!」
3ヶ月前に2人が通った時の扉は、ゲンキの配慮により最小限の規模で開いたまま放置してあった。
全てはこの時のためだ。
「今度はドジらないようにね。私は助けてあげられないし」
「ドジんねーよ!」
「それじゃあ…お願いね、セレビィ」
キィィィィィィィィィィィィィィィィン…!
再びあの音が聞こえ始めた。時が、狭い扉を流れてゆく音が。
「…何か忘れてないか?オレら」
「…さあ? 何を? にじいろのはねは持ってるでしょ?」
彼は虹の翼の継承者として、にじいろのはねを数枚所持していた。
「まあ…いいか。大丈夫だろ」
「時間がもったいないよ。早く行こ」
「だな。よっし、飛び込むぜ!」
2人は156年という深い深い穴へ、飛び込んだ。
が、やはり2人は大事なことを忘れていた…。
セレビィは、ジーエスボール以外のボールを受け付けない。
そしてジーエスボールは156年前のシンジが持ったままなので、2人の手元にはない。
その結果…。
「いてて…いつもながら、慣れねーぜ」
「いつもって…まだ2回目でしょ」
2回目だというのに、今回もゲンキはアオイの下敷きになっていた…。
アゲトのほこらを出て森の出口に差し掛かると、ゲンキが呟いた。
「…着いたの、か…」
「のんびりしてるヒマはないよ。シンジを探そう」
「そだな。…って、ん?」
最初にモンスターボールの中のセレビィの異変に気づいたのは、ゲンキだった。
「せ、セレビィ!?」
セレビィの体が、燃えるように赤くなっていたのだ。
「ど…どういうこと!?」
「見ろタマゴ! 時の扉が!」
ゲンキの指差した先では、時の扉がどんどん大きくなり周囲の木々を飲み込んでいた。
「暴走…!? しっかりして、セレビィ!!」
「やっぱジーエスボールじゃないとダメなのか…!? いったんセレビィを出すぞ!!」
セレビィがボールから出るや否や、時の扉の引力がいっそう強くなった。
「ぅうっ…吸い込まれる…!?」
「やべぇっ、羽根が!!」
にじいろのはねが時の扉に吸い込まれ、見えなくなっていく。
2人は地面に伏せ、強力すぎる引力に抗った。
「そう長くはもたねーぞ…!!」
「でも、どうすれば!?」
「…全く、世話の焼ける奴等だ」
1匹のポケモンが黒い風のように現れ、時の扉の前に立った。
「扉を押し閉ざせ! その“プレッシャー”で!!」
「まにゃぁぁぁぁぁぁ!!」
そのポケモンの鳴き声が聞こえたかと思うと、引力がみるみるうちに弱まっていった。
「今のうちだ、立て2人とも!」
言われるがままに、ゲンキは差し出された手をつかんだ。
あたたかくて、懐かしいその手を…。
扉が、閉じた。
けど、今度は違う。隣には彼がいる…。
「久しぶりだな、2人とも」
時を越えた親友…銀シンジが。
- 5 :エンタ :2007/11/02(Fri) 19:00:50 ID:IOahIDy6
- 第3話 おかえりなさい
マニューラ かぎづめポケモン たかさ 1.1m おもさ 34.0kg
さむい ちいきで くらす ポケモン。
4、5ひきの グループは みごとな
れんけいで えものを おいつめる。
じゅもくや こおりの ひょうめんに
するどい ツメで ふしぎなもようを
きざみ なかまに あいずを おくる。
「登録完了っと…」
「済んだかタマゴ? マニューラが緊張してガチガチに固まってるんだが…」
「あー、ごめんなさい。緊張しちゃいましたねー」
顔の赤くなったマニューラの頭を、アオイの手が撫で回す。
シンジは「横取り女」の呼称に不便さと申し訳なさを感じていたらしく、ゲンキ同様「タマゴ」と呼ぶことにしたらしい。
「しっかし驚いたぜー。ニューラって本当に進化するんだな」
ゲンキは以前冗談で「まだニューラか」とか言ったことがある。
「そのようだな。北で戦わせた途端に進化したんだ。環境も関係あるのかもしれないな」
「はいっ、大変勉強になりましたー」
「…マニューラ、もういいぞ。戻れ」
ちょっぴり残念そうなマニューラを、シンジがボールに戻す。
「ところで、この3ヶ月間、お前たちは何をしていたんだ?」
興味本位で聞いたはずが、2人は大激怒した。
「何してたかだとー!? こっちの苦労も知らねーで!!」
「ここに私たちがこれたのは、このセレビィをタマゴからですねっ、3ヶ月もかけて孵したからなんですよっ!?」
「わ、わかったわかった。わかったから落ち着いてくれ」
「これが落ち着いてられるかよ!!」
「そういうシンジは何してたんですか!!」
「お、俺か? 俺はお前たちと別れた後北に戻って…ニューラがマニューラに進化して…それから南に…そして」
シンジは何かを見つけたのか苦笑し、視線の先を指差して「あいつらに出会った」と言った。
「おーい、シンジー!!」
4、5人のポケモントレーナーが駆けてくるのが見えた。
「お、おいおいアレって…」
「ダークポケモン戦争の英雄…レオンハルト?」
「お前らも見るのは初めてではなかったな。あいつらが…俺の戦友だ」
- 6 :エンタ :2007/11/02(Fri) 19:01:12 ID:IOahIDy6
- 第4話 英雄たち
トレーナーたちは、シンジの前で立ち止まった。
「まったく…探したよ、シンジ」
顔に白いラインが走っている少年…レオンハルトが言った。
「すまないレオ。扉の存在を感じたものだからな。慌てて飛んできてしまった」
「え…? じゃあ、シンジくん未来に戻っちゃうの…?」
この子は以前この時代に来たときにレオに『ミレイ』と呼ばれていた少女だ。
『トオン』と呼ばれていた少年が言った。
「シンジさん、そっちの人たちが?」
「ああ。未来の世界の親友だ」
どうやら彼らは、シンジが未来からやってきた事を信じてくれているらしい。
シンジの手持ちにはこの時代では研究されていないポケモン(ノクタス)がいたので不思議もないのだが。
「…ほー。本当に金色の瞳をしてる」
レオが興味深そうに言った。
「あんただってそーだろが」
「人のを見るのは初めてだよ。ある意味感動だなぁ」
「もうっレオ、ジロジロ見てちゃ失礼でしょ!」
「あででで!!」
ミレイがレオの耳を引っ張りながらとがめた。
「別に気にしてねーよ」
「ほら! 彼もそう言ってるのに! まったくミレイは乱暴も…のぁぁあででで!?」
今度は逆側の耳。
「…賑やかで楽しい3ヶ月間だったんじゃねーか?」
「勘弁してくれ」
「あははは…初めての人はビックリするよね」
トオン少年が申し訳なさげに言った。
「ラプソとチェレスはどうした?」
「かたっぽが迷子になって、もうかたっぽがそれを探しに行ったよ」
「あいつの迷子癖はどうにかならないのか?」
すると少し離れたところから声がした。
「うっせー! あたしゃ好きで迷子になってるわけじゃねーよっ」
「ラプソ姐!」
「も〜、ラプソちゃんってばバトル山のほうに行っちゃうんだから、探したよぉ☆」
ズカズカと大股で歩いてくる女性に、ほんわかした感じの芸人風の女の子が後をついて来ていた。
「…ん? 山なんてこの辺にあったか?」
ゲンキたちが今いるのは、156年後にコガネシティがあるはずの場所、つまり森の真ん中だ。
「…バトル山は…今からしばらく後に、ニューシャドーの攻撃で消し飛ぶ」
シンジがゲンキに耳打ちした。途端にゲンキの顔が青くなった…。
「もう行くのか?」
「ああ。あまり長居しても、別れが辛くなるだけだしな」
シンジがジーエスボールを取り出した。
「もう辛いよぉ〜…☆」
「ちょっ…泣くなよチェレス! あたしまで…うぅッ」
「ハハ。別に二度と会えない…ってわけでもあるか、やっぱり」
シンジがゲンキたちに目をやって俯きぎみに呟いた。
「でも、俺はお前らのことを忘れない。だからお前らも覚えててくれ。それが俺たちの絆になる」
「うん、ぜったいぜったい忘れないよ!」
時の扉が開き、帰る準備が出来た。
「…そうだシンジ、今まで聞かなかったけど…」
レオが別れ際に言った。
「…未来は明るいか?」
「…ああ。とてもな」
「良かった。…それじゃあな!」
レオが笑顔で3人に手を振った。
扉が閉じるまで、シンジもずっと手を振っていた。
「シンジ…本当に良かったのか?」
「俺が残ると言っても聞かないだろう?」
「それは…」
「それに…あそこは少し居心地が悪い。誰がいつ死ぬか、俺は知ってるんだからな…」
「あ…」
しばらく無言の時間が続いた。
「…そういえば…まだ言ってなかったな」
「はい?」
「…ただいま」
2人は少し面食らったが、満面の笑みで答えた。
「…おかえりなさい」
「遅せーよ、バーカ」
はざまの出口から漏れる光が、3人を照らした。
- 7 :エンタ :2007/11/02(Fri) 19:01:35 ID:IOahIDy6
- 第5話 3つの進化の石
「…久しぶりのこの時代だと言うのに」
「ん? 何か言った?」
「何でお前がいるんだあああぁぁぁぁ!!!!」
ヒワダの森の中で、3人はツクシに会ってしまった。
「まーまー、抑えてやれシンジ。こいつは悪くないんだから」
「ああそうだな。悪いのはお前のタイミングだ!」
「ヒドイ言いようだなぁ…せっかくみんなにお客さんが来てるのを知らせようと探してたのにさ」
どうやら今回は確信犯らしい。
「お客…? いったい誰でしょうね?」
「俺に聞かれてもな…」
「まずコウメさんの家に訪ねてきて、僕が頼まれて育て屋に2人を呼びにいったんだ。そしたら少し前に森に行ったって言われて」
「それは…ご苦労様ね、ありがとう」
「今コウメさんの家にいると思うから、ついてきてよ」
「なあ、シンジ…これからさ、どうする?」
ヒワダに向かう森の小道で、ゲンキが問う。
「どうすると言われてもだな。お前はどうするんだ」
「さあ。特に行きたいところもねーし」
「あのな…」
どうしようもない理由でさっそく会話が行き詰った。
「ねえ、じゃあみんなでホウエンに戻りましょうよ!」
「絶ッ対に嫌だ!! また諜報部の手伝いをさせようというんじゃないだろうな!?」
どうやら即答で断るほど嫌らしい。
「…いいえ。戦いはもう終わりましたから」
「そ…そうなのか?」
「おう。オレたちの華麗な活躍でな!」
「そうか…よかった。お前らが無事で何よりだ」
2人がきょとんとする。
「何だ? ジロジロ見て」
「予想外の答えだなーって思ってよ」
「本当ですよ。3ヶ月でこんなに変わるものなんですか?」
「…うるさい! ホラもう着くぞっ」
コンコン。ツクシがドアを叩いた。
「…お入り」
「じゃ、僕はこれで。知らない人って苦手なんだ」
3人はドアを開け、薄暗い家の中に入っていった。
中で待っていたのは…。
「や、久しぶりだねみんな」
「ん、お前は…」
「ダイゴ様ぁ!?」
「は!? 様!?」
「やかましいわい!!もう少し静かにできんのかい!?」
コウメの怒号が飛んだ。
「……おばあさま……お体にさわります……」
「あら、ミドリちゃん! お久しぶり、大きくなったね」
「……どうも……」
「君たちは知らないだろうけど、戦いが終わった数日後にスグルがここにきてね」
「名残惜しそうにしておったわ。小僧ッコがナマイキな、涙を隠すなど」
「泣いてたのか!? あのキザヤローが? こりゃいーや」
「…まったく…お前こそさっき俺に会った時号泣したくせに」
慌ててゲンキが話題を変えた。
「それよりダイゴ、オレ達に用でもあんの?」
「いや、たいした用じゃないよ。お土産を渡しにきただけさ」
「土産? どこかへ行っていたのか」
「ああ、父さんの行方を捜して…ね」
何かを尋ねようとしたシンジの手をアオイがつねった。
「ついでに趣味の石探しもやってるわけだが…よいしょっと、ホラこれ」
ダイゴが3つの石を取り出して見せた。
「この黒い石が通称やみのいし。こっちのはひかりのいし、この大きいのが山でとれた、磁場を持つ不思議な石だよ」
「くれんの? サンキュー!! …いでっ」
アオイのゲンコツが炸裂。
「人に物を貰う態度を弁えなさい!」
「はは、アオイは将来いいお母さんになれそうだね…」
ダイゴが言うが、フォローになってない。
「さ、どれがほしい?」
「オレ一番でっかいのーっ」
「…まだまだ子供だな、ゲンキ」
「じゃあ私はこの綺麗な白い石をいただきます」
「それなら、この黒いのは俺が貰うとしよう」
「まだ詳しくは分かってないけど、進化の石同様ポケモンの細胞に変化をもたらす物であることは確かだよ」
「へぇー…パパに見せてあげようかな」
アオイの父はポケモン進化に関しての知識はぜんこくでも1,2を争う博士だ。
「進化の石か…オレのポケモンにも反応するのかな? なんてなー」
「さあわからんぞ。ニューラも進化するぐらいだからな。未知に常識は通用しない」
「はは。ありえねーって、オレの仲間たちはすでに最強…って…おお? どした、レアまる?」
「どうした?」
「いや……なんか、レアまるの様子が……」
腰のモンスターボールが、明らかに不自然としか思えない揺れ方をしていた。
「レアまる…?」
ゲンキが心配になってボールを開いた途端に…。
レアコイルが、進化した。
- 8 :エンタ :2007/11/02(Fri) 19:01:55 ID:IOahIDy6
- 第5話 ジバコイル
「んな…レアまるがぁ…!!」
「こ…れは……!!」
レアコイルははがねタイプも持ち、当然ダイゴの守備範囲。
そのレアコイルが進化したのだから、もう彼はいてもたってもいられない。
「アオイちゃん! 図鑑を!!」
「は、はいっ!!」
けんさくちゅう…
「どう? データは見つかった?」
「新規登録中だそうです…あ、検索結果が出ました!!」
ジバコイル じばポケモン たかさ 1.2m おもさ 180.0kg
とくしゅな じばの えいきょうで
レアコイルが しんかした。 4つの
ユニットから じりょくを だす。
「4つ…? あ、本当だ後ろにもうひとつ…」
「レアコイルの時の名残か…?」
「まさかゲンキのレアまるを最初に登録したから、亜種のデータが入っちゃったのかしら…」
レアまるは、4匹のコイルという特殊な亜種だったため、進化してもその状態が維持されたようだ。
「こーしちゃいられないわ、すぐにパパに知らせなきゃ!!」
「よし手伝おう。ヤミカラス2分だ、飛べるな…」
「っておい!! 殺す気か!?」
「うるさいと言うとろうがーッ!! お前ら全員、騒ぐなら外でやれぇい!!!」
『すみませーん!!』
家を出て行く4人の声が重なった。
「……平和ですね……おばあさま……」
「ふん。そーじゃな」
「テラキチ、行こう!」
「そーいやダイゴさんよ、レアまるが進化したときにあの石消えちまったんだけど…」
「ああ、そんなこと。まだ幾つかあるからいいよ」
「いや、そーゆーことじゃないんだけど…なくしちまってゴメンよ」
するとダイゴは、予想外にもにっこり微笑んで言った。
「ポケモンの未知の解明に一役買ったんだから、むしろ感謝してるよ」
「そっか。…で、さっきカバンから見えたハートっぽい形の『磁場の石』は、誰にあげるんだい? ニヒヒ」
流石、黄金の観察眼。
「…乗せてあげないよ」
「またまた大将ォ。照れちゃって」
「お、大人をからかうもんじゃないぞ!」
「シラガと同い年だろーが」
「う…キミってヤツは…」
今度はゲンキがにっこりして、
「うそうそ、詮索なんてしねーよっ…と」
テラキチの背中に飛び乗った。
「行くぞ! ダイゴ、しっかりついて来い!!」
「僕のテラキチと競争する気? 後悔しても知らないよ」
「け…結局どっちに乗っても一緒なのかよ…」
この日ゲンキは風になった。気がした…。
「…ねえシンジ、飛んでる途中になんですけど…」
「何だ」
「いつまで私のこと、『タマゴ』って呼ぶつもりなんですか?」
「な……」
「…ホラあの時、ちゃんとアオイって呼んでくれたじゃないですか」
「さ、さあ何のことかな。…だいたいそれは偽名だろう。そもそもお前は何故偽名を名乗るんだ?」
「博士の娘っていう身分でホウエンに来るのが嫌だっただけです。でもそしたら馴染んじゃって。今ではこっちが本当の名前ですよ」
「たったそれだけの理由で…ん?」
「それだけとは何ですか! それにこの名前はママが私につけたがってた名前でもあるんです!」
「どうしたヤミカラス、疲れたのか?」
ヤミカラスの飛行速度が低下していた。ようすがどうもおかしい。
「ッまずい、落ちる!!」
「えぇ!? ちょ、ちょっと……! キャアァァ!!」
ダイゴたちが異変に気づき飛んできたが、二人と一匹はヨシノシティの池へ落っこちてしまった。
浮かんできたヤミカラスの姿を見て、ダイゴは驚愕した。
いや、それはすでにヤミカラスではなく、別のポケモンだったのだ…。
ヤミカラスが、進化した。
- 9 :エンタ :2007/11/02(Fri) 19:03:03 ID:IOahIDy6
- 訂正
第5話 ジバコイル ×
第6話 ジバコイル ○
- 10 :エンタ :2007/11/02(Fri) 19:03:24 ID:IOahIDy6
- 第7話 ドンカラス
「…どうしたんだい、これは……」
「パパに知らせようと思って…」
と、娘に差し出されたポケモン…?を見る博士。
「…新種…?」
「こいつがジバコイル、こっちはマニューラ、こっちがドンカラスだそうです」
シンジが困惑する博士に説明する。
ヤミカラスが進化した後、シンジの手元からやみのいしが消えていたので、それが原因だろう。
「レアコイル、ニューラ、ヤミカラスの進化系だって…? バカな、もし本当なら学会はひっくり返るような騒ぎになるぞ…!」
「パパ、こんな時こそ落ち着いて。他にも進化系が確認されてないポケモンがいるかもしれない。それを探すのも博士の務めでしょ」
「そ、そうだね…ありがとう」
ウツギ博士はずり落ちそうなメガネを元に戻し、冷静になるため深呼吸をした。
「…進化前もいるかもしれない」
「それは気づかなかった! 流石はウツギ博士、目の付け所が違いますね」
助手の1人が博士を褒めちぎる。忘れがちだが、ピチューを発見したのはこのウツギ博士なのである。
「だがどうやって確認をする気だ?」
「私が手伝います。タマゴを孵せるのは私だけだもの」
アオイが胸を張って言った。
「というわけで、2人のポケモンを全部貸して!」
『イヤだ!』
ゲンキとシンジが見事にハモった。
「いくら研究のためとはいえ…」
「大事な仲間だぜ! そんな簡単に預けられるかよ!!」
考えていたことは同じらしかった。
「そ、そんな…そんなに私が信用できないの…?」
「うっ」
泣き落とし。
「…し、仕方ない」
「ってウォイ!! シンジてめぇ!!」
「ありがとうございます、シンジ!!」
アオイは満面の笑みをシンジに向けた後、恐ろしい目つきでゲンキを睨みつけた。
「……っ、……あーちくしょう! 仕方ねーな!! 預けるよ! 預けりゃいいんだろ!! ただし!!」
ゲンキが人差し指を立てる。
「条件がひとつある」
「条件? いいよ、なんでも聞いてあげる」
アオイは2人の賛成を得て、すっかり上機嫌だった。
ゲンキは指1本立てていた手を開いて言った。
「3日だ! 3日以内に全員分のタマゴを発見して孵化させろ! それまでオレはジョウトで待つ!!」
「3日〜!?」
アオイは一度落ち着いて2人のポケモンの数を数えなおしてみた。
バクフーン、サニーゴ、ジバコイル、バリヤード、バクオング。
オーダイル、ブラッキー、ヘルガー、ノクタス、ドンカラス、マニューラ。
「11匹を3日でですか…」
「間に合わなくても3日経ったら強制的に引き取らせてもらうぜ! 文句ないだろ」
「いいでしょう! やってみます」
自信に満ちた目で、アオイは言うのだった。
「あ、あと…」
「何だよ? まだ何かあんの?」
「11匹全員の性別を教えてくれないかしら…」
「……」
ちゃんと3日で終わるんだろうか。
- 11 :エンタ :2007/11/26(Mon) 12:44:13 ID:RVhuIiGE
- 第8話 大地を駆け巡るポケモン
「…ここが、シロガネやま…」
コウキはここへ向かったとの情報を手に入れたユウキは、単身その険しい山の内部へと進んでいった…。
3ヶ月ほど前。
四天王の不在により開催されなかったポケモンリーグは、冬に延期された。
ユウキはトクサネシティジムリーダー・フウとランに勝利し、7つめのバッジを手に入れるが、
ルネシティジムリーダー・アダンの不在で、コンプリートを断念。
方々に人捜しに出かけたホウエンの責任者たちにならって、兄を捜すためホウエンを離れたのだった。
ジムバッジを集めていけば兄の手がかりにたどり着ける、そう踏んだユウキはジョウトに訪れ、
タンバシティジム、エンジュシティジム、チョウジタウンジムを制覇した(アサギシティは不在)。
そしてジムリーダーたちから得た情報はバラバラだったが、ひとつだけ。
『彼はカントー地方9つめのバッジを探している』
との情報だけが、一致していたのだった。
ありとあらゆる人たちから情報を探し集め、やっとたどり着いたのがここシロガネやま。
この最奥に「マサラタウンジム」があり、「ホワイトバッジ」を守るジムリーダーが存在するというのだ。
「よっ…と、やっぱり険しいな…この洞窟」
シロガネやまのどうくつは、チャンピオンロードよりも強力なポケモンが生息する場所。
チャンピオンロードにくらべ、修行を積むトレーナーも見かけない。
ユウキはチーを剣化し、邪魔な草や岩を切り払いながら奥を目指した。
「そこで何をしてるんだ?」
どこからともなく声をかけられ、ユウキは硬直した。
「…誰だ?」
「それはこっちが聞きたいね」
その一言で兄ではないことを確認すると、あわてて敬語にもどった。
「どこにいるんですか?」
「真上さ。あんたの真上」
つられて上を見上げると、
「うわ!?」
単に、真上にいたのが女性だったから驚いたわけではない。
その女はポケモンの力を借りず、洞窟の天井に張り付いていたのだ。その格好に思わず…
「忍者!?」
などと口走るのも無理はない。
「…一般トレーナーは立ち入りを禁じられた場所のはずだけど…ま、私も忍び込んでるんだしカタいこと言いっこナシか」
ストッ!女が天井から華麗に降りてきた。
「…あんたこの近くで、紫の髪の少年を見なかったか?ちょうどそう、あんたみたいに剣の形したポケモンを…って」
『…え!?』
2人の驚嘆の声が重なった。
「あんたなのか!? スズのとうを狙ってる不届き者は!! …でも髪は白…」
「これ帽子です! それより剣の形したポケモンって!?」
会話がかみ合っていない…。
「あ、ああ。あんたはスズのとうを狙う者とは違うんだな?」
ユウキが頷いたのを確認して、女は話し始めた。
「ルートは明かせないんだがある情報を手に入れてね…『剣の形をしたポケモンを使う紫色の髪の少年が、スズのとうを狙っている』と」
「スズのとう…あのでっかい塔のことか…狙うっていうのはどういうことなんですか?」
「150年前にもう1つの塔、かねのとうが壊された。雷雨により炎上して…」
「それって、天災で崩れただけじゃ…」
「違うんだ。大雨、落雷、それに火事。この3つの現象を見て、ジョウトの住人は真っ先に思い浮かべることがある」
ユウキはジョウトの住人ではないが、人はポケモンの力で天災を起こす事ができ、それが人為的な災害…人災となることは知っていた。
「それは大地を駆け巡るポケモンだ。スイクン、エンテイ、ライコウ。水、炎、雷の3つの力」
「つまり、そのポケモンが塔を破壊した…と」
「トレーナーの命令によってね。本来3匹は塔の主に仕え塔を守る存在…主に牙をむくなんて、操られていたとしか考えられない」
奥に向かって歩きながら、女は話を続けた。
「そしてその紫の髪の少年が、エンテイを操っているのを見たという証言があったんだ」
「で…伝説のポケモンを?」
「そう。そして私たちはそいつがかねのとうを壊したやつの子孫か何かと考え、スズのとうを狙ってると踏み、捜索してるってわけ」
「…私たち? 組織かなんかなんですか?」
女の表情がしまった、というものに変わった。
「あ、いや…参ったな、秘密なんだが…」
「いいですいいです。あなたはいろんな事を教えてくれた恩人なんですから、これ以上は詮索しませんって」
「悪いな…」
「気にしな……」
ユウキの周りの時間が、一瞬止まったかのように見えた。
「どうした?」
硬直するユウキの視線の先には…2人のトレーナーが立っていた。
1人はおそらくマサラタウンジムリーダー。
もう1人は……
「さあ…始めようぜ」
大空ユウキの兄、大空コウキだった。
- 12 :エンタ :2007/11/26(Mon) 12:45:23 ID:RVhuIiGE
- 第9話 紅と赤・其の一
「まずは自己紹介だな。オレは大空コウキ。人呼んで迅雷のコウキだ、マサラタウンジムリーダー」
「俺は…本当の名前なんて、とうの昔に故郷に置いてきた。ここでは俺は『レッド』だ」
赤い帽子を目深に被った青年が不適に笑うのが、口元だけ見えた。
「…ルールの確認をしておくぜ。ここでは手っ取り早い公式ジム戦ルールを使用してるが、手持ちの数は合わせる。俺は6匹。お前は?」
「6匹だ」
そんな二人の様子を、物陰から見守るユウキと、忍者女。
「上等。すぐにでも始めるとしようぜ」
「それはこっちの台詞だろ、レッドさんよ」
言うが早いか、ジムとは名ばかりの開けた洞穴に、眩いばかりの光が閃いた。
一番手は、
コウキ、サンダース。
レッド、エーフィ。
「ともにイーブイの進化系か!」
と、すっかり観戦に徹している忍者女がさも面白そうに言った。
「サン!」
「エーフィ!」
「「でんこうせっかッ!!」」
文字通り電光の如くに、2匹の体がフィールドを所狭しと駆けめぐり、交錯しあう。スピードの鍛えられ方はお互いすさまじいが、時折起こる正面衝突では、体毛が鋭く尖ったサンダースにわずかながら分があるようだった。
「サン! 多少速度が落ちても構わない、ここで…」
次の正面衝突を目前にして、コウキが叫び、サンダースが呼応するように身体を輝かせる。
「スパークだ!!」
バヂィッ、と空気が破裂する音が響き渡った。
「どうだ! 麻痺させてやったぜ!!」
「…珍しいな? ここまで来れるようなやつが、こんな単純な事に気づかないのって」
見れば、確かにエーフィは麻痺している。
が、サンダースも同様に麻痺していたのだ。
「シンクロか…面白くなってきたぞ。次は何を出すんだ?」
任務そっちのけ(?)ですっかり夢中になっているようだ。
「さすがにこのまま戦わせるのは不味いかな…お疲れ、サン! 次ッ、ラグ!!」
「フシギバナ!」
ラグラージ対、フシギバナ。タイプ相性だけ見れば絶対的にコウキの不利だ。
「…お前、その構えを見て気づかないとでも思ってんの?」
「やっぱり? いやー、やっぱ達人は違うな!」
そんな事を言われても、ユウキたちには何の事だかさっぱりだ。が、コウキの戦略がレッドに読まれた事は理解できた。
「ミラーコートがアウトなら…真っ向勝負! ラグ、だくりゅう!!」
「フシギバナ! どくのこな!!」
だくりゅうに乗ってフィールドを暴れまわるラグラージを、まるである一点に誘導するかのようにどくのこなを巧みに「かわさせて」いくフシギバナ。が…ラグラージはその猛毒の布陣を、全身にどくのこなを浴びながら、突っ切る。
やはりこの2人のトレーナーはありえないくらいに、強い。
「ちっ! ラグラージ相手に、この距離は辛いな…戻るんだ、フシギバナ!」
ラグラージはみずのわざやじしんを使った中間距離からの牽制と、波をも薙ぐ豪腕から繰り出される近接距離での肉弾戦を得意とする。4速歩行のフシギバナは、取っ組み合えない分不利なのだ。
「おりょ? なんだよ、もう終わりか?」
「違うな。同じ条件で勝負するだけだ。カビゴン!」
パワーファイターに対して、パワーファイター。しかもとくせい「めんえき」により、先ほど手当たり次第にばら撒いたどくのこなも全く効かない。
ふと。
お互いの動きが一瞬停止した。お見合いかと思えば、違う。
「「きあいパンチ!!」」
同時に溜められた気合いが、同時に拳に乗せて放たれる。互いが互いの勢いを殺し合い、2匹は踏みとどまった。
「いや」
忍者女がこぼす。
「どくが効いてる」
「戻れ、ラグ!」
倒れる一歩手前というところになって、コウキはラグラージをボールに戻した。
「…バーン!!」
ボールから出たのは、ユウキも、忍者女も、レッドでさえも見たことが無いポケモンだった。
- 13 :エンタ :2007/11/26(Mon) 12:46:02 ID:RVhuIiGE
- 第10話 紅と赤・其の二
「な、何だあのポケモンは…!?」
見た目は、ブーバーに似ている。
しかし、ブーバーよりもひとまわり大きい体躯。紅く燃え盛るかのような肩口。砲口のように変形した腕。
そして何より、その温度が桁違いだ。
「…そのポケモンの名は?」
「ブーバーン。ばくえんポケモン、だってさ」
オダマキがかつて彼に預けた図鑑をかざして、淡々と応えるコウキ。
「オレ実は、3ヶ月ほど前にシンオウに行ってたんだよね。そこで、そこそこ強いヤツにいろいろと教わってきた」
そこそこ強いヤツ、というのは塚原ダイヤ――堅牢のダイヤ、と呼ばれたシンオウリーグチャンピオンのことだ。
「全部あんたを倒すためにな。マサラタウンジムリーダー」
「…上等っ。全力でお相手するぜ。戻れカビゴン。…カメックス!!」
ブーバーンとほぼ同じ大きさの――みずタイプ。
「ハイドロポンプ!!」
「亀の相手は、飽き飽きだっつーの!! バーン、はかいこうせん!!」
容赦の無い高威力の大技。しかし、極限レベルの戦いでは、小さすぎる小細工がいかに無意味かを2人は心得ていた。
両手の砲口から放射されるはかいこうせん。
両肩の砲台から発射されるハイドロポンプ。
どちらも一歩として譲らない、均衡した状態が続いた。
轟音と切迫した雰囲気の中、コウキとレッドの冷や汗が同時に地に零れ落ちる。
「……っ!!」
一瞬だった。
ぶつかり合っていた壮絶な光線と水は掻き消え、両者が突進したのだ。
カメックスがハイドロポンプを発射しながら、首を縮こめていたことに気付かないコウキではない。
だから全力で、迎え撃つ。
「ロケットずつき!!!」
「すてみタックル!!!」
文字通りロケットミサイルのような速度で飛び出したカメックスに、渾身の体当たりをかますブーバーン。
が…はかいこうせんの代償は大きかった。受け止めきれなかった勢いが、バーンを壁際まで弾き飛ばす。
「バーン!!」
バーンが必死で受け身を取ったことを確認し、すぐさまコウキはポケモンを交代した。
今度もまた相性の良い相手で来る、そう直感したレッドもポケモンを交代する。
「リザードン!!」
彼が読んだのはくさタイプ。
しかし繰り出されたのは…。
「ナイン!!」
色違いの、マイナンだった。
「―――ッ!!」
やはりテッセンの言っていた通り、マイナンのトレーナーは兄だったのだ。
これで、ひとつの疑問が満たされた。
と。
「プラ!?」
モンスターボールから、負担がかかるにもかかわらず自力で飛び出した色違いのプラスル・プラが、緊張が激突する広場に単身飛び出してしまったのだ。
「プラ、戻れ!!」
ボールを使わずに、抱きかかえて戻そうとするユウキ。
が。
ザバッ!!!
「どわぁっ!?!?」
ユウキが気付いたときには、紫色のボロボロの布にくるまれて逆さになって天井に吊られていた。
恐らくはレッドの用意したトラップか何かだろう。よほど戦いに割って入られるのが嫌いな性分らしい。
「…邪魔を、するな…!」
レッドの小声の悪態は、コウキの耳に届いていなかった。
いや、たとえ届いていたとしても……、
今の2人にとっては、どうでもいいことだった。
- 14 :エンタ :2007/11/26(Mon) 12:46:25 ID:RVhuIiGE
- 第11話 紅と赤・其の三
「ナイン! 10まんボルトッ!!」
「迎え撃て、リザードン!! かえんほうしゃ!!」
雷撃と火炎が正面衝突する。
さすがは迅雷のコウキ、でんきポケモンを使わせれば右に出るものはいない。
が…しかし、レッドと名乗る謎の青年の扱う火炎も、ナインの電撃に勝るとも劣らない威力だった。
「このままやり合えば、スタミナの低いほうが打ち負けるぜ?」
「くっ……!!」
しかしコウキは、ナインを戻す気配が無かった。
「何かを狙ってるのか…?」
ボロ布にとらわれたユウキなどお構い無しに、忍者女は観戦態勢に戻った。もっとも、当のユウキでさえもそのことを忘れるほど試合に熱中していたのだが。
「まだまだぁぁ!!! ナインッ、かみなり!!!」
「な…ッ!?」
正面からの電撃――10まんボルトは、かえんほうしゃで防いでいる。
つまり、真上からの追加攻撃に備える術は――
「ねっぷう!!」
リザードンが両翼を一気に広げ、尻尾の炎からねっぷうを起こして、かみなりを弾き返した。
「この局面でこの機転……化け物かアイツ」
「油断したな、大空コウキ!! 今ので電池切れか? 今度はこちらから……だいっ、もんじ!!」
大の字の炎が、膝をついたナインに襲い掛かる。
公式ジム戦のルールでは、戦闘不能のポケモンが一匹出た時点で負けとなる。しかし、戻す手は間に合わない。
身の丈の数十倍はあろうかという火炎が、ナインを覆った……。
「…何だよ、ちくしょう」
不満そうな声を漏らしたのは、コウキではなくレッドだった。
今度はリザードンが膝をついたのだ。
「何したんだ?」
炎が消え、煙が晴れていく。
ナインは自分のしっぽを取り外して、カードのように構えていた。
「…きりふだ」
わざの名前だろうか。ユウキにとってもレッドにとってさえも、耳に新しい単語だった。
「ピンチに陥れば陥るほどに、その威力を増すわざ。シンオウの大地で身につけたわざだ」
「…どうだっていい。重要なのは、リザードンの体力がわずかしか残ってないということ」
「実を言うと、オレの5番手のソーン……ソーナンスは、長期戦向けのポケモンなんだ。互いにこれ以上、時間かけたくないだろ?」
「ああ、その通りだ」
リザードンとナインがボールに戻されたのは、まったくの同時。
そして新たなボールが放たれたのも、まったくの同時。
場には、2匹のピカチュウが対峙していた。
- 15 :エンタ :2007/11/26(Mon) 12:46:48 ID:RVhuIiGE
- 第12話 紅と赤・其の四
「ピカチュウ!!」
「ピカ!!」
「「10まんボルト!!!」」
わざの命令が出されたのも、電撃が放たれたのも、相手の電撃と衝突して消えたのも、全てが同時だった。
「おいおい…ここまで強い挑戦者は初めてだぜ」
「こっちこそ、ここまで強いジムリーダーに会ったことなかった」
同時の「たたきつける」。同時の「アイアンテール」。同時の「でんじは」。
「そりゃ、今まで何人ものジムリーダーに挑戦してきたみたいな口調だな!?」
「そうさ。あんたでちょうど、33人目だ」
同時の「かげぶんしん」、同時の「みがわり」、同時の「かみなりパンチ」。
「何がちょうどなんだか。それじゃ、全国のジムリーダーたちの威厳のためにも、負けるわけにはいかないな!!」
「こっちだって、負けられない理由がある!!」
均衡する実力に互いが疲れを隠せず、2匹のピカチュウはまったく同時に動きを止めた。
「…それは何だ?」
「え?」
「お前が負けられない理由って、何だ?」
「………」
肩で息をする両者。開けた洞窟内に、2人の荒い吐息がこだまする。
「故郷を守りたいから」
「え……?」
ユウキの脳裏に、3ヶ月前の災厄の情景が浮かぶ。
正義のトレーナー達によって両団の野望は阻止され、マグマ団、アクア団は解散したはず。
そして争いの首謀者アオギリは行方不明、マツブサはおそらく死んだ…はず。
なのに。
「守る? 何から?」
「滅びゆく運命(さだめ)から」
ホウエン地方には平和が戻った、そのはずなのに。
「…そっか。だったら全力で、勝ち取ってみろよ。ピカチュウ」
「ピカ」
「「ボルテッカー!!!」」
視界が弾けた。
戦闘不能となった2匹のピカチュウが、横たわっていた。
「えーっと、この場合…どうなるんだったっけ?」
「挑戦の無効か、バッジの交換かだ。お前の持ってるバッジを1個俺に渡せば、ホワイトバッジをくれてやるぜ」
「じゃあ、これを」
迷うことなく選んだのは、父の……センリの守る、バランスバッジだった。
「いいのか? かなり錆び付いていて…昔のバッジみたいだが」
「ああ。オレがそれを持つ資格は無いよ」
ソレは、あの人から盗んだものだから…。と、心の奥で呟いた。
「そうか。俺はちと疲れた。ここにいるのは勝手だが、休むからしばらく話しかけんなよ?」
「心得たよ」
ニコニコ笑いながら返事をした。
「大丈夫か?」
忍者女の手で、ユウキは無事救出された(布はとりあえず彼女に回収された)。
「いてて…あっ、兄貴っ!!」
「お、おい待て…」
「兄貴は無いだろ。恥ずかしくてもいいから兄さんって呼べよ、ユウキ」
久しく見ていなかった兄の背中は、いくらか大きく見えた。
「やなこった。兄貴、この1年と3ヶ月間、いったい何してやがったんだよ」
「こいつを集めてたのさ」
バッジケースを開く。32個のバッジが、燦然と輝いていた。
今もらったばかりのプレミアボールを模したデザインのホワイトバッジも、中央にしっかりとはめ込まれている。
「…滅ぶかもしれないっていうホウエンに家族を残して、自分はバッジ集めかよ。それだけ強いんなら、何で決戦に参加しなかったんだよ!!」
いつか自分が父に対して言った言葉「ホウエンの一大事にジムリーダー制覇なんかやってられないだろ」を思い出しながら言い放つ。
「お前たちが戦ってきた相手の大半は、ホウエンが滅ぶかもしれないことと関係ない」
バッジケースを閉じ、リュックにしまう。そして、紅い瞳でユウキの目を見据えた。
「そこの忍者もこっちに来な。話しておくよ、いろいろなことを」
- 16 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:41:30 ID:MILHleNc
- 第13話 次の幻星大災禍
激戦の後のジムで、火を囲む。1年と数ヶ月ぶりに再会したプラとナインが、幸せそうにはしゃぎまわっていた。
「お前がポケモンを持つようになったなんてな。兄さん嬉しいぜ」
「うっせぇ。さっさと話すこと話せよ」
「可愛くないな。オレを探してカントーまで来たくせに」
「な…う、うっせぇ!!」
「必死だな、弟くん」
忍者娘が口を挟む。明るいところで見てみると、思ったより若かった。
「オレは兄貴を捕まえて、いろんなこと吐かせる為にここまで来たんだ。さぁ、洗いざらい話してもらうぜ。ホウエンが滅ぶって、どういうことだよ?」
「まぁ落ち着けよ。えーっと、ミツルは元気か?」
「はぁ?」
ミツル――芦田ミツルは、かつてコウキとともにラルトスを捕獲し、ハルカたちとともにアクア団と戦ったトレーナーの一人である。
この3ヶ月間はいろいろなところを旅してまわっていたが、つい最近またホウエンに戻ってきたらしい。
「…ああ、元気だよ。今はそこら中を飛び回って、写真を撮ってまわってるって聞いてる」
「へぇ…今は秋だから、そろそろあいつの誕生日だよな。あいつ今年で何歳になるんだっけ?」
「10歳…だから何なんだよさっきから!! いい加減にしないと…!!」
「…1週間だ。あと1週間後の霜月朔日…ホウエンが、いや世界が滅ぶ」
「な…!?」
「忍者さん、ジョウトのスズのとう破壊は、その下準備に過ぎない」
「何だって…!? おい待て、なぜ椿忍軍の目的を知って……あ」
「ペラペラ喋るトコ、忍者には向いてないぜ。椿忍軍のキヨカさん」
どこで知ったのか、コウキは見事その女性の名前を言い当てた。
「要するに、ホウオウの住処を壊すことで、ホウオウの力を使えないようにしようってのさ。連中の寸法はな」
「連中ってのは…紫の髪をした、剣を振るうポケモントレーナーのことかい…?」
忍者女の口調がいつになく厳かになっていた。コウキの話から、ことの重大さを感じ取ったらしい。
「そいつも含まれる」
「どういうことなんだ、兄貴…? ホウオウの力って、復活の力だろ!? 連中って、いったい誰のことなんだよ!?」
「…次の幻星大災禍(エンド・オブ・ザ・スカイ)で、確実に世界を滅ぼそうとしてる狂った奴らのことさ」
「世界を滅ぼす!? わけわかんねえよ!! いきなり何なんだ!!」
「連中は自らを、その災厄の旧き名にちなんで『スカイ団』と称している。世界に、人間に粛清を与える者として相応しい『天』の名だ」
先に滅んだマグマ団、アクア団を皮肉るような名前。ユウキの脳裏に、途端に父から聞いたもう一柱の超古代ポケモンの名前がフラッシュバックした。
『空の神…その名を、レックウザ』
「まさかそいつら、レックウザの力を狙ってるのか!?」
「察しが早いな。その通りだよユウキ。スカイ団が狙ってるのはレックウザ…正確には、その怒りによってもたらされる破壊の力だ」
怒り? と2人は首をかしげる。
「レックウザが怒ってる経緯については、40年前の幻星大災禍にかかわった者たちに尋ねるのがいいだろうな。もっとも、もはや生きてはいない者たちばかりだが」
「大空の勇者、大地の覇者、大海の賢者、生命の導者、物見の占者、剣の少年……だね?」
「さすがは忍者だ。全員の名前だって知ってそうだな」
「いや、そこまでは知らないよ。私も伝説としてしかその話を知らないし。オイマツ様に聞いたから知ってただけ」
オイマツ、というのは椿忍軍のリーダー格の老人のことである。
「さて、話を戻そう。ミツルが10歳って言ったよな。あれは、大災禍の周期だ」
「周期?」
「一人でも気付いたやつがいなかったのが不思議でならないんだけどな。10年前の幻陸大災禍(ビッグバン・オブ・グラードン)、そして13年前の幻海大災禍(カタストロフ・オブ・カイオーガ)。
ここまではわりかし有名だ。だが20年前、26年前ともなると、覚えてるやつは少なくなってくる」
26年前の大災禍は、マツブサが両親を失い、センリたちの前から姿を消した日なので覚えている。
「そして30年前。記録にある最古の幻陸大災禍。最後に40年前だ。幻星大災禍」
この時点で、ユウキは引っ掛かるものがあった。自分の体内時計が何かを告げている。
「兄貴…幻陸大災禍が10年周期ってのはわかった。…幻海大災禍は、もしかして13年と4ヶ月、つまり160ヶ月周期だったりしないか?」
「…大正解だ、ユウキ。160ヶ月、つまり旧暦での10年を指し示す」
「だとしたら…次にふたつの災厄が重なるのは」
「さっきも言ったろ。1週間後の、霜月朔日だ」
――滅亡の日まで、あと7日。
- 17 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:42:21 ID:MILHleNc
- 第14話 トクサネシティ
「通してくれ」
野次馬の喧騒に混じった、威厳ある声。途端にかいえん1号までの道ができた。
「センリさん」
「センリさん」
双子のジムリーダー、フウとランがひょこっと現れた。
「久しいな、2人とも」
「おひさしぶりですセンリさん」
「秋の紅葉の映える季節ですね」
軽く挨拶をかわすと、すぐに3人とも真剣な面持ちに戻った。一緒についてきたハルカとマナカも、真面目に話を聞く態勢になる。
「中に人は?」
「「いません」」
「アオギリでもいればと思ったんだが…依然ヤツも、行方不明か」
「一緒に乗ったアクア団員がいたはずよ。その人はどうしたの?」
ハルカが叫ぶように問う。この場にいるメンバーの中で、アオギリが逃げる場面を見ていたのはハルカだけだ。
「海の巫女ですね。彼女なら、こちらにいます」フウがダイゴの住居を指さした。
「かいえん1号が漂着する少し前に、ここから少し南の岸で救助されています」
「意識は不明のままです」
「所持していた鞄の中から、あいいろのたまとべにいろのたまが発見されました」
センリの表情が激変した。
「でかした!! 宝珠は今どこに?」
「ミクリ様が、ルネシティのめざめのほこらに持って行かれました」
「今なお地中深くで暴れている2体の超古代ポケモンを鎮める儀式を行うとおっしゃってました」
「…ふむ…レックウザからは、宝珠を壊すよう言われたと、ヒスイから聞いたのだが」
宝珠を壊せば2体は肉体から解放され概念だけの存在となる、そう空の神は言っていたらしい。
ポケモンが喋るなどと、普通は信じられないが…。センリは不思議がらなかった。
「ところが互いに途轍も無く硬いのです」
「とてもではありませんが、ポケモンのわざや人間の力で壊すことは不可能かと」
ハルカが「あたしの拳で叩き割る!」と言ったり、センリが「そういえば、どんなものも破壊できるというスペックがあると聞いたことが」と言っている中、マナカが不思議そうに首を傾げてただひとこと言った。
「あのさ、両方硬いんなら互いをぶつけ合えば壊れるんじゃないの?」
「…………」
「…………」
「あれ? なんか変なこと言った?」
マナカがバツが悪そうに縮こまる。
フウが言う。
「ぜ…全然気がつきませんでした」
ランが言った。
「確かに、そうするのが一番手っ取り早い気が」
「あはは、それじゃあたし、ミクリさんに伝えてくるよ! それっ、テレポート!!」
ビュンッ!! マナカの姿が掻き消えた。
彼女は『陸指(ジェネシック・フィンガー)』という、ゆびをふるで出るわざをある程度選べたり、自らゆびをふることで本当にそのわざが使えてしまう魔法のような能力を持っている。
さらに大地の巫女のビジョンでホウエン全土を見ることができるから、陸地ならばホウエンのどこへでもテレポートできるのだ。
ダイゴの家のベッドに、西瀬ミズホは横たわっていた。
「うなされてる…」
「打ち上げられたときから、ずっとこうなのです」
「医者はそのうち目を覚ますだろうとおっしゃっていました」
目覚めたら、海底でのこと、アオギリのこと、洗いざらい話してもらうからな…と、センリが睨み据える。
「人の家で勝手に何してんですか」
ふと、窓からの声。
「「ダイゴ様!!」」
「ただいま、2人とも。久しぶりだね、ハルカちゃん」
「うん、久しぶりっ」
窓から首だけ入れていたプテラの背中から、颯爽と飛び降りる。
ホウエン一の大企業、デボンコーポレーションの御曹司にして、かつてホウエンリーグでチャンピオンをつとめていた男。そして、ユウキの師匠。
石蕗ダイゴ。
「ただいま戻りました」
「ああ。よくぞ帰った、ホウエンへ」
2人はかたい握手を交わした。
「どうだった、世界を旅した感想は」
「いろいろな人に会いましたよ。いろいろなことも教わった。でも、父さんは見つからなかった」
「…そうか…」
しん…と、静かな空気が流れる。
「まま、そう落ち込まずに。皆に渡したいものもあることだし、ここはひとまずフウとランに任せて会場に向かいましょう」
「会場?」
「忘れたんですか?」
「パーティーの…ですよ!」
- 18 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:42:43 ID:MILHleNc
- 第15話 ホタルとホムラ
火山の裏、北の台地。焼け野原と化したこの地に、墓参りに来ている男が一人。
「遅くなってすまねぇ。ウスバ、シラヌイ」
3ヶ月前の決戦で不運にも命を落とした、ふたりの戦友。
今このホウエンに満ち溢れている平和の礎となって散っていった戦士、日代ウスバ。
ユウキを救って黒炎に灼かれた、最後まで主人に忠義を尽くした戦士、高柳シラヌイ。
ふたりの墓標が、そこに佇んでいた。
「三バカ…って言われてたな。俺らがマグマ団に入ったばかりの頃はよ」
あの頃のウスバは、やさしい目をしていた。あの頃のシラヌイは、冗談も通じるひょうひょうとした男だった。
いつから、変わってしまったんだろう。
どうして、変わってしまったんだろう。
原因はやはり、俺にあるのだろうか。
それとも、マツブサ…?
「SIKEたツラしてんな、ホタル」
聞きなれた声に、振り返る。
「ホムラの、ダンナ…」
「よっ」
力なく笑う大男の手には、二輪の花が乱暴に握られていた。
不器用に、墓の前に添える。
「どうして……」
「どうして、だぁ? …部下が死んでKANAしくねぇわけ、ねぇだろ」
「そっか。アンタも人の子だな、ダンナよ」
ガツン、と脳天に鈍い痛み。
「何しやがる!!」
「けッ、ICCHOまえに調子づいてんじゃねぇよ、GAKIが」
「ってぇ……」
それからホムラは、新聞紙を取り出した。
「ほれ、読め。お前はGAKIだから新聞なんて読まねぇんだろ、FUDANは」
「あん?」
受け取った日刊豊園新聞(号外)に目を通す。
「…潜水艦、かいえん1号。無人と思われていたがけさ9時ごろ、搭乗していたと思われる女性ひとりがトクサネ海岸にて救出されていたことを確認…まさか、ミズホ!?」
ハルカから、3ヶ月前かいえん1号に乗り込んでアクア団アジトを脱出したのはアオギリとミズホだと彼は聞いていた。
「大丈夫なのかよ、アイツ…」
「お前が他人のSIMPAIたぁ珍しいじゃあねぇか」
けッ。知ってて読ませたクセによ。心の中で悪態をつく。
「すまねぇダンナ。ウスバ、シラヌイ。仲間の無事が心配だ。ちっとトクサネに行ってくるぜ」
「NAKAMA…ねぇ」
そう、ホタルとミズホは「裏切り者仲間」だった。
ホタルは昔祖父から授かったマスターボールを取り出し、ファイヤーを出した。
「こいつはスゲェな。DENSETSUの炎ポケモンを拝めるなんざ、LUCKYだぜ」
「いい部下を持ったって言ってくれや。ファイヤー! とばすぜ!!」
燃え盛る紅炎の羽根を羽ばたかせ、ファイヤーは飛行準備をした。
「おっと、もうひとつ…お前に言っとくことがあるんだったZE!!」
「あぁ!? んだよ、ダンナ!?」
「BOSSは……まだ生きてるぜ」
ホタルの驚愕の、しかしそれを知っていたかのような達観の表情が、高速で飛び去っていくのを…ホムラは見守っていた。
「俺の…幹部専用のMAGMAの証が告げてんだよ…。BOSSはまだ、死んでねぇ、ってな…」
懐から取り出した紋章が、心臓の鼓動のように…弱々しくも赤く、輝いていた。
- 19 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:43:02 ID:MILHleNc
- 第16話 マサラに帰る
「あなたの話が本当なら、うかうかしてらんないみたいだな。すぐに調査隊を引き上げさせて、ソッコーでスズのとうの警護に戻るよ」
「そうしたほうが賢明だな」
言うなり、忍者娘――キヨカは2人の視界から消え去った。
「…兄貴、俺に出来ることは…?」
残されたユウキが、事態を飲み込みきれていないような不安げな口調でたずねた。
天才は、答えなかった。
「世界が滅びる――か。俺には、関係ないことだな」
かわりに答えたのは…ポケモントレーナーのレッドだった。
「な…何言ってんだお前!! そんなに強いのに、力を貸そうとしないのか!?」
「俺には関係ないからな」
「お前…っ!!」
飛び出そうとするユウキを、兄の手が制止した。
「レッド…あんたは、やっぱり…」
悲しげな瞳。レッドが嘲笑するように天を仰ぐ。
「できれば負けてスッキリしたかったんだけどな。どうやらそれも叶わないくらいに、俺たちは強くなりすぎた」
「な…っ!?」
不思議な事に。
目を見張るような真っ赤な服が、だんだんと色を失い始めているのに、ユウキは気づいた。
「なぁ、やっぱり知ってたのか? 俺のこの身体のこと」
「…ああ。カントー最後のジムバッジの手掛かりを探す途中で知ったよ。…あんたが、4年前に既に死んでいたってことはな」
力なく微笑むレッド。その身体の先にある洞窟の壁が…見えてしまう。
「死…んで、いた!? う、嘘だろ!? じゃあここにいるレッドは…幽霊!?」
「そうともとれるかな。オレとしては、もっと誇り高い名で呼んであげたいんだけどね?」
冗談めかして笑うコウキ。しかし、その顔に浮かんでいるのは悲しみの色に他ならなかった。
「…マサラタウンジムリーダー、レッド。あんたと戦えたこと、オレは誇りに思う」
「ああ、俺もだ。最期に最高の戦いが出来て、満足だった。感謝するぜ。迅雷のコウキ」
バランスバッジを天高く掲げながら、レッドはおそらく最期のものになるであろう言葉を、高らかに叫んだ。
「俺は、マサラに帰る。真っ白な、はじまりの色に」
赤き戦士は、光とともに消えてしまった。
「…ユウキ。オレたちもここを出よう」
「あ、ああ…」
まだ冷静になれないユウキの手を引いて、コウキはマサラタウンジム――否、だだっ広いだけの、何も無い空間を後にした。
「命輝く者が訪れるべき場所じゃないんだ」
唐突に口を開いたかと思えば、よくわからない単語が飛び出す。
「兄貴…?」
「あの部屋はいわば、この世とあの世の狭間。命失ったレッドが、それでも戦うことが出来た唯一の場所だ。…戦うことへの強すぎる執着が、彼の存在をこの世に繋ぎ止めていたのかもしれない」
「…兄貴と戦って、満足して成仏したって…ことなのか?」
「そうだといいな。引き分けってのは、ある意味最良の結果だったのかもな」
ユウキは、不死の戦士の隣にまで上り詰めた兄を、心から誇りに思った。
稲妻のように颯爽と現れ、瞬く間に強さの証を勝ち取っていった少年。
「…さ、行くか」
「うん、行こう」
そんな兄と、今では並んで歩いている自分がいた。
- 20 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:43:29 ID:MILHleNc
- 第17話 あの日から
時刻は午後6時。
ホウエンはミナモシティ、民宿モナミにて。
「…芦田ミツルくんの、ミナモフォトコンテスト“佳作”と、少し早いが10歳の誕生日」
「そして桃花サツキちゃんの、ハイパーランクコンテスト全制覇を祝って!!」
『『乾杯〜〜〜〜!!!!』』
歓声と拍手、ガラスの杯のぶつかり合う音が夕暮れ後の旅館に響く。
今夜行われる『パーティー』は、彼らを祝うために設けられたサミットの集まりなのである。
「みんな、今日はサミットのことは忘れて盛り上がりましょう!!」
実行部リーダーであるダイゴの言葉。
ホウエンサミットはマグマ団、アクア団に対して組織された特殊部隊であるが、マツブサやアダン、そしてツワブキ社長の消息がつかめない以上解散はせずに待機となって、はや3ヶ月が経っている。
3ヶ月前の戦い以来、ホウエンには平和な日々が続いていた。たとえかりそめでも、確かな平穏。
「どしたのミナヅキぃ、全然飲んでねーじゃんよ」
「み、未成年…って、姉さん飲めないんでしょ…? なんでもう酔ってるの…?」
「ユウキおにーちゃんいなくて寂しいんだよね〜サツキ知ってるもんっ」
「さ、サツキちゃん…っ!!」
桃花ハヅキ、桃花ミナヅキ、桃花サツキ。見た目も性格も全然違う3姉妹。
サン・トウカフラワーショップの経営も軌道に乗ってきて、ゆくゆくはチェーン展開を目論んでいるらしい。世界に花を! が合言葉。
ミナヅキは来年からトレーナーズスクールに通うので、今からしっかり準備をしている。
「はいっどーぞ、ヒサヤくんっ」
「ああ、サンキュ……ごくっごくっごくっ」
「ちなみに今度の新薬は、視力回復の薬なんだけど…」
「あれれ〜ほしがみえるぅ〜ウフフフフフフフフフフフ」
「キャー!? ヒサヤくん、ヒサヤくぅんっ!?」
堀岡ヒサヤと森アキのコンビも、相変わらず。
夏の終わりくらいに薬の調合に失敗して家が爆発したアキは、それ以来ずっとヒサヤの家に厄介になっている。
ヒサヤの穴掘り事業はいたって好調。今では海底トンネルまで掘り進んでいるようだ。
「あぁん!? おめー、あたしの酒が飲めねぇってのかぁ!?」
「んでもう酔ってんだよ!! つーか未成年だろ、ちったぁ弁えろ!!」
「おんめー、このあたしに指図しよーってのかぁ!? あ゛ぁ!? いーい度胸じゃねぇかゴラァ!!」
「おー上等だ、売られた喧嘩は買う主義だぜ。イッキで男の対決といこうじゃねーかよ」
桐崎セツナ、伊達コウ。カナズミのいあいぎりファミリー。
3ヶ月前の騒動後、コウはアクア団に加担した罪として数日間拘留され、釈放後、正式にイッセンの門下生となった。
再び一家が集まったことで、一閃流剣術は徐々にホウエンにその名を広げつつあった。
ちなみにイッセンは、今はとある事情でシンオウに赴いている。そのため、2人のストッパーが居ない…。
「ごはん粒ついてるよ、姉さん」
「やん。ありがとう、私の可愛いスグル」
「…そういう恥ずかしいセリフは2人きりのときにしてくれるかな、姉さん」
さりげに爆弾発言をかます、シスコン(疑惑)でロリコン(疑惑)の天童寺スグルと、その姉、ブラコン(確定)な天童寺リツコ。
ジョウトでミドリと別れを告げ、姉と2人でなつかしの我が家に戻り、鍛錬を続けていたらしい。
スグルは鉄壁のまもりに、リツコは閃光のすばやさに、それぞれ磨きをかけていた。やはりエリートトレーナー、であろうか。
「おめでと。やったね、ミツル」
「えへへ……嬉しい、です。ありがとうございます」
苧環ハルカは、週に何度かムロタウンジムに通っている。ユウキが帰ってくるまでに、己を鍛えておくそうだ。
芦田ミツルが今回のコンテストに応募した写真は、無人島から眺める広大な海の景色だった。
――最果ての孤島。それが写真の題名だ。
「アオイさんがいないのが少し残念ですねぇ……通信システムでも、声までは聞けませんし」
「そのうち良い知らせを持って帰ってくるさ」
「あっミクリさん、これ貰っていいですか〜?」
「これマナカ…」
諜報部トップ、銀杏マユミのポケモン預かりシステムは現在好評につき拡大中。海外はカントー、ジョウト地方にまでネットワークを広げている。
陸海ミクリは先ほどまで、ルネシティのめざめのほこらにて超古代ポケモンの様子を伺っていた。
マナカの提案に納得をするものの、宝珠の破壊は彼らを完全に眠らせてからが最適と判断し、海の巫女西瀬ミズホの回復を待っている。
親バカ大空バンリは言うまでもなく親バカである。
「平和ですね……」
「……そうだな……」
隅っこでのんびりとお茶をすする、遠い時代の少女ヒスイ。そしてそれを見守る保護者がわりの大空センリ。
戦いが終わった後は、ルネシティにてミクリの養護のもとで穏便に暮らしていたようだ。
しかしながら、センリのこの肯定はどうやら真意ではなかったようだが。
「そうだ、ミツルくんにハルカちゃん、マナカちゃん、ミナヅキちゃん。ちょっといいかい? おみやげがあるんだ」
ダイゴが4人だけに呼びかけた。
- 21 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:43:48 ID:MILHleNc
- 第18話 おみやげ
「まず、ミツルくんにはこれ」
眩いばかりに輝く石を手渡す。
「わぁ、綺麗…これ、何なんですか?」
「めざめいし、と言ってね。瞳のように輝く石って売り文句で、おみやげに人気らしいんだ。僕は自分で採掘したんだけどね」
「ありがとうございます!! 大事にしますね」
ミツルはそう言って、石をポケットにしまいこんだ。
「それと、ミナヅキちゃんにはこれ」
「わぁ…こっちも、キレイな石ですね」
それは、アオイに渡したものと同じ種類の白い石のペンダントだった。
「ひかりのいし、って名前だよ」
「素敵な名前です。…いつも身につけておきますね」
「ユウキ君が嫉妬しない程度にね」
みるみるうちに、ミナヅキの顔が真っ赤になった。
「で、マナカちゃんにはこれね」
「なんか、でかいね」
石というより岩、と言ってもいい大きさの、緑色の石をマナカに手渡した。
「はじまりのいし、っていうらしい。もう少し大きなこの石がある場所には、あらゆる草木が生い茂り森になるんだとか」
ずいぶんと神秘的ないわくつきの石を、マナカはポケモンレンジャー御用達のウエストポーチにしまいこんだ。
「重っ」
当然だった。
「はい、ハルカちゃんにはこれ!」
「…なんであたしのは石じゃないの?」
ハルカに渡されたのは、大きくてゴツゴツしたタマゴ。恐らくはポケモンのタマゴだった。
「シンオウで旅してるトレーナーに、石がたくさん採れる洞窟を案内してもらってさ。その時に記念にもらったタマゴなんだ」
「タマゴ孵せるのは、アオイだけじゃん」
「そうだっけ? じゃあ今度シジマさんに会いに行くときにでも、向こうに寄ってやってくれ」
そういえば、すっぽかしたままである。いや、男らしいからそれはそれでいいのだ。
「ダイゴからマユミさんに頼んどいてよ、むこうに送ってくれるようにって」
「えぇ〜? それじゃプレゼントの意味が」
「私がどうかしましたかぁ〜?」
「うわっ!! 地獄耳!?」
「何か言いましたかぁ〜ダイゴさ〜ん…」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」
どうやら地獄女は健在のようである。
「ふぅん、そうですか。アオイさんにそのタマゴを」
「ま、近況報告のついでにね?」
「わかりました。やっておきましょう」
交渉成立。
「それとダイゴさん」
「な、何?」
マユミがそっと耳打ちする。
「そのハート型の石も、私が贈っておきましょうかぁ〜? ついでに〜♪」
「……いや、自分で渡すから」
なんで知ってるんだ、とか既に考えるだけ無駄のようである。
「さて、と…」
「どっか行くの? ミクリさん」
そばでジュースを飲んでいたマナカがたずねた。
「ああ、西瀬ミズホ君の様子を見に。きみも来るか?」
少し考えてから、笑顔で頷いた。
「きみはどうだ? ヒスイ君」
「えっ…あ、はい」
何となく近くでその話を聞いていたヒスイが、いきなり話しかけられて戸惑いながら返事をした。
偶然かはたまた意図したのか、これは大地、海、空の3人の巫女がひと所に集うことを意味していた。
そして、ダイゴとセンリもまた、頷きあって表に出た。
- 22 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:44:09 ID:MILHleNc
- 第19話 定められし死
「…報告してもらおうか、ダイゴ」
「…気が早いですよ、センリさん。今日くらい、全てを忘れて楽しんだっていいじゃありませんか…」
などと口にしながらも、彼の表情は何かを悟ったようだった。
「――定められた自分の死が7日後に迫っているのだ。焦らずにいられると思うか?」
「…口が過ぎましたね。すみません。それじゃ、さっそくですけど」
ダイゴが懐から取り出したのは、黒いカバーの手帳だった。
「まず、シンオウに伝わる神話です。時間の神と空間の神が、いまのシンオウの大地を形作ったと言われ…」
「そんな、当たり前のことはどうでもいいのだ。わたしが聞いているのは…」
制止するかのように、口元に手帳を差し出す。
「――向こうで出会った、世界各地の伝説について研究してまわっている少女から聞いた総合創世紀――『セカイの神話』です」
その1ページには、詩のように抽象的な言葉が並べられていた。
「信憑性は?」
「彼女自身も伝説ポケモンの使い手――というところですかね」
しばらくセンリが手帳を読み耽る。どこかで、ポチエナの遠吠えが聞こえた。
長いようで短い無言の時間が終わりを告げた。
「――ふぅ」
手帳をダイゴに返しながら、センリが溜め息をついた。
「皮肉なものだ」
ただそれだけ呟いて、再び口をつぐんでしまった。
「センリさん。そろそろ教えてくれませんか? あなたが7日後に死ぬという理由や――空の神との、因縁を」
「すまん。まだ、話すわけにはいかない」
「そう…ですか」
「だが、安心してくれ。死ぬのはわたしだけだ。皆は…ホウエンの皆は、必ず守り抜く」
ユウキやホタルであれば、その言葉の中にひとつの意味を見出せていたかもしれない。
――贄。
災厄で命を落とした者たちを蘇らせるために、ホウオウに命を捧げる者。と、センリはいつか言っていた。
セカイの神話には、ホウオウは命を司る力を持ち、レックウザとは盟友であったと書かれている。
ホウオウが現れる――すなわちレックウザが災厄を止めないのには理由があるのか?
40年前の、幻星大災禍とは何なのだろう?
センリは、なぜ他の人が知りえないことばかりを知っているのか?
ミツルと同じ彼の誕生日。その日に自分が死ぬと言い放ったセンリ。
根拠は? 確信は? 理由は?
「…何も、教えてくれないんですね」
ダイゴは歯噛みした。
だが、知ったところで何が出来る?
マグマ団、アクア団という人間対人間の構図ならまだしも、神と呼ばれるポケモンたちを相手にするとなれば、今のサミットではどうしようもないかもしれない。
現状を打開するために、何か秘奥義のようなものでもあればいいのだが。あるいは、こちらも神の力を手にするか。
神を無力化するために宝珠を壊すべき、とミクリは言っていたっけ…。
………。
「…馬鹿馬鹿しい。何を考えてるんだ僕は…。ヒトとポケモンの、戦争だなんて」
「!!!」
センリの目が大きく見開いたが、暗闇の中にあってダイゴは、それに気付くことが出来なかった。
- 23 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:44:49 ID:MILHleNc
- 第20話 目覚めぬ姫君
「さ、着いたぞ」
ミクリがペリッパーの背中から降りた。
コツコツ、と合図をするとペリッパーは大口を開いて、マナカとヒスイがその中から出てきた。
「いやぁ、すごいね! 人がまるまる2人も入るなんて、ペリッパーくんすごいね!!」
マナカが無邪気に褒めちぎる。照れ屋なペリッパーは羽根で目を覆った。
「こっちだ。これがダイゴの家」
「ちっさ」
「質素ですね」
多少、性格がわかる物言いだった。
「チャンピオンでお坊ちゃんだからもっと凄い家に住んでるのかと思ってたよ?」
「あいつは年中、各地の洞窟を巡ってる変わり者だからな。決まった家は特に必要ないらしい。ここも、生活に必要な最低限の設備だけ整っている普通の家だよ」
ミクリがおもむろに鍵を取り出す。
「だからあいつが留守の間はこうして、私の部屋として使わせてもらっている」
勝手知ったる人の家、とは少し違うかななどとマナカが考えを巡らせるうちに、ミクリが玄関の扉を開けた。
同時に、真っ赤な炎が部屋の中から噴き出した。
「きゃああっ!!!」
ヒスイが悲鳴を上げてうずくまり、それをかばうようにしながらマナカが伏せ、ミクリのヒンバスがミラーコートを半球状に張って炎を受け流していた。
「…手荒い歓迎だな。何者だ」
警戒心を解かずに、ミクリが部屋に向かって冷静にたずねる。
「…チッ。強盗かと思ったじゃねぇか」
「それはこっちのセリフでしょッ!?」
マナカが半泣きで叫んだ。
「今のはコイツに何かしやがったらぶっ飛ばすからな、っつー警告だ。命までとるつもりは無ェ、ちびってんなよガキ」
「ちびってない!! 何よ、ホタちゃんのバーカバーカ!!」
乙女の必死な反撃。
そんなマナカの反応を見て気づいたのか、ミクリがやはり冷静に言った。
「…なるほど、お前が桂ホタルか」
「そういうテメェはホウエンリーグ現チャンピオンだろ? お初にお目にかかるな」
ミクリはズカズカと部屋に踏み込んで、明かりをつけた。
桂ホタルは、マグマ団が空中分解同然の解散をした今でもなお団服である耐火性の赤装束を着込んでいた。
銀髪とは言いがたいくらいに淡白な色合いの頭髪は少しばかり伸びている。
かつてホウエンサミットと共に戦ったマグマ団の裏切り者(ヒーロー)が、そこに立っていた。
「新聞読んで飛んで来たもんでよ。うっかり窓から入っちまった」
「どんなうっかりですか!?」
ヒスイも思わずツッコむ。
それだけ彼女が心配ということだろう。彼女も同じ、アクア団の裏切り者だったのだから。
「西瀬ミズホの身柄はホウエンサミットが預かっている。アクア団に加担した者にはそれだけの罪が在る」
「痛ェほど知ってるっつの。この身で味わったからな」
そう、彼もホムラやヤイトたちと共に数日間だけサミットの地下室に監禁されていた。
結果的にそれだけで済んだのは、どちらの首領も行方不明であり、またサミットの存在を公に出来ないこともあったのだろう。
「ならば去れ。ここはお前の関与するところではない。彼女の事は我々サミットに任せて失せろ」
「フザケんな、お前こそミズホに関与する資格もねぇだろうが」
「私にはある。西瀬ミズホが目覚めた時、アオギリの居所を聞き出して宝珠の破壊に協力を要請する。もちろんサミットの監視下に置いてだ」
「つくづく反吐が出るようなクソ組織だな、テメェらは。こんなに苦しんでる奴を、無理やり使役するような真似を平気でするのかよ」
「ならばお前は何のためにここへ来た。彼女に聞きたいことがあるんじゃないのか? 我々と同じように」
「違ェな。コイツには借りがあんだよ、看病してもらった借りが。今度は俺がおんがえしをする番だ」
呆れたようにミクリは溜め息をひとつついた。
「なら勝手にしろ。彼女のそばにいるがいい。ただし彼女をさらって逃げようものなら……どうなるか分かっているな?」
「しねェよ、ヴァカ野郎が」
こうしてホタルは、未だ目覚めぬ姫君のナイトとなった。
一方、民宿モナミでは。
「むにゃ…ヒサヤくん………だいすきぃ……」
(コイツ、寝言で何言ってんだ恥ずかしい…)
徐々にお祭り騒ぎも収まり、夜が更け、日付が変わっていくのだった。
それが滅びへのカウントダウンと知る者はまだ、少ないまま……。
- 24 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:45:07 ID:MILHleNc
- 第21話 破滅の願い
地上の光がまったく届かない、暗黒の世界。
先刻までこの空間に響き渡っていた荒々しい吐息は、もはや虫の息と化していた。
身体は岩壁に打ちつけられ、流す血も渇ききるほどの熱に焼かれ……
そして冷たい地面に叩きつけられた。
それでも男は、なお生きていた。
真っ暗な空間を、明かりも無しに這いずり回る男。
誰もが彼を、無様だと言い放つだろう。
敗北を認めず、死をも認めず、ただ漠然と呼吸しているだけの存在。
光を求めて彷徨う、憐れな命。
その者を憐れんだのか、それともまったくの偶然なのかは定かではないが、
闇の中に、一条(ひとすじ)の光が降り注いだ。
「お、おぉ…おぉ、ぉおお……!!」
光はボロボロになった男の顔を映し出した。
血にまみれ、恨みの炎を灯した昏い瞳で、光を見据える。
光の中から現れ出た存在が、3つの目で彼を見つめ返した。
神の気まぐれで生まれた存在。
千年に一度降り立つ光の星。
その名を――
「ジ…ラーチ…!!」
男が掠れた声で呼びかけると、光が広がり空間全体を照らした。
神秘的な空洞だった。黒い岩に無数のヒカリゴケが点々と――そう、それはまさに、
宇宙空間。
一番明るく輝く星が、男に尋ねた。
「アナタノ願イ事ヲ教エテ……」
「わた…しの、わたしの願いは……!!!」
――この世界を、滅ぼすこと――!!
――そう、破滅の願いだ!!!
光が弾け、洞窟は再び暗闇へと包まれた。
今からおよそ、3ヶ月前の出来事である。
――滅亡の日まで、あと6日。
- 25 :エンタ :2008/02/09(Sat) 19:49:08 ID:MILHleNc
- ああああ間違えたぁ!!
第二部 第1話 1年を15ヶ月とする ×
1年を16ヶ月とする ○
第一部 いまキャラ
芦田ミツルの手持ち キルリア(♀)→キルリア(♂)
…ネタバレもいいとこです。すいません、ミスには気をつけたいと思います
- 26 :エンタ :2008/02/17(Sun) 18:53:52 ID:zPG3HcgE
- 第22話 悪夢と幸福
青年は夢を見た。
悪夢、と表現すべきおぞましい夢だ。
夢の中の自分は黒い何かに包まれている。
不快感を覚える『何か』。
ヒトの手で造られた、この身に馴染んだ恐怖ではなく。
純粋にソレとして生まれた存在。
存在そのものが、恐怖。
あるいは、畏怖。
この世における、究極の暗黒――。
「――ッはァッ!!!」
跳ね起きた身体に、汗で衣服がへばりついていた。
「ちっ……」
夜、誰もいない寝室。銀シンジは、いまだ醒めぬ悪夢に対して舌打ちをした。
ガンテツの工房の、宿泊スペース。かつてガンテツの弟子として宛がわれた部屋に、彼は泊まっていた。
シンジが現代に戻った後、ゲンキは長らく留守にしていたワカバタウンの実家へ、アオイは研究所へと帰った。
ゲンキの母親が彼を抱き締めて喜ぶ様は、感動的なものだった。
ひとつの光景に心動かされるまでに、シンジの感情は柔らかになっていたのだ。
ガンテツは、シンジを家族として迎え、工房を家として提供してくれた。
ずっと一人ぼっちで生きてきて、涙を流したのはいつぶりだったろうか?
記憶にある限りでは、ウバメの森でサカキに出会った時以来のはず。
知らない場所で、知らない人間に見下ろされた恐怖に怯えて以来のはず。
今では、彼の心を支配しているのは恐怖ではなかった。
確かな生きる喜びだった。
今のこの心なら、自分を長いこと苦しめてきた悪夢に打ち勝てるかもしれない。シンジはそう思った。
「…行って、みるか」
誰にともなく、呟いた。
暗い、暗い井戸の底。
洞窟の床に地下水の滴る音が、長い間隔をあけつつも定期的に響く。
「ラッタのシッポ」
扉は開かなかった。
「…用心深いことだな。身分が身分だから仕方あるまいが…」
しかし、以前教わったふたつのパスワードはもう試してしまった。これではあの男に会えない。
――自分があの男ならどうするか、を彼は考えてみた。
「くだらん駄洒落でも、考えそうなものだが」
そういったことは自分ではなくゲンキの専門分野であった。
「…………。……またまた、タマタマ」
扉はやはり動かない。くっ、うすら寒いこと言わせやがって。
「………………………………………。カブトは、とぶか」
ピンポーン。
「……………………正気か?」
とりあえず扉は開いたので、シンジは部屋の中に入っていった。
挨拶一言、吐き捨てて。
「邪魔するぞ、親父」
- 27 :エンタ :2008/02/17(Sun) 18:54:23 ID:zPG3HcgE
- 第23話 悪夢の根源
シンジが部屋に足を踏み入れてから、ほどなくしてサカキが現れた。
「最近はよくここに来るな、息子よ」
「たったの2度目だ。それにこんな機械臭い部屋など、そうそう長居したくも無いのだがな」
おおよそ『親子』とは思えない会話だった。
「こんな夜中に訪ねても迷惑そうな顔ひとつしないのは、ある意味感謝だが」
「夜行性なのでな…」
「嘘をつけ。昼も寝ていないのだろう」
「…ふははっ、息子に隠し事は出来んな。そうだ、俺はここ最近一睡もしていない」
目の下に出来たクマ、やせこけてやつれた頬。全盛期のこの男を知る者に残らず喪失感を与える、情けない顔つきだった。
「フン。もはや貴様にかつての面影など、微塵も残っていない。ここにいるのは井戸でひっそりと暮らす、身体の弱った初老の男」
「…手厳しいな」
言いつつも、瞳は笑っていた。
「…そして俺は、ポケモンを育て、戦わせ、共に生きることに喜びを見出す…ただのポケモントレーナーに成り下がってしまった」
「それは喜ばしいことだ」
「残念ながら同感だ。俺も、この生き方が一番だと気づいた」
ここに至るまでの会話は、少し変わった『近況報告』なのであった。
「…眠れないのは、悪夢のためか?」
「そういうお前の相談は、悪夢についてだな?」
仮初めなれど、『親子』ならではの意思疎通。シンジは黙って頷いた。
「教えてくれ。悪夢の正体を、その根源を。あの黒い存在に、俺は不気味な親近感が湧いてならない」
「親近感――か。言いえて妙だな。いや、ダークわざの使い手であればもっともな話」
このように話をじらされても、シンジはまったく焦らない。なぜなら既に、質問に対する返答は始まっているのだ。
「ダークわざは、俺が開発しお前や特定の部下のみに教え込んだ門外不出の技法だ」
そんなことはシンジも知っていた。これは本題の前の確認――メインディッシュの前のオードブルのようなものなのだ。
「ゆえに、頭に『ダーク』の名を冠するわざは全て、トレーナーの持つポケモンのわざのはずだった」
「はずだった、か…」
「察するとおり。とある地方の旧い伝承によれば、『そのポケモン』の使用するわざは限りなくダークわざに近いものだった。天然のダークオーラを纏う、純粋な暗黒」
「それが、俺たちの悪夢の根源だというのか」
サカキはやせ細った顔で、しかし厳かな表情で頷いた。
「伝承上の呼称にすらも『ダーク』を含むそのポケモンは、太陽と月、光と闇が創り出された際に生まれた闇の化身と言われている。旧くはエスパータイプとあくタイプは、ひかりタイプとやみタイプ、と呼ばれていたのはお前も知っての通りだろう」
それはシンジの生まれた時代でのことだった。この男はいったい、どこからそのような情報を仕入れてくるのか疑問に思ったが、一度も問い詰めた事は無い。
「太陽と月を造ったと言われるのは何者か、知っているか?」
当然知っている。シンジは自らに時のひび割れ――世界から拒否された証――があることを知り、時を越えるためにありとあらゆる文献を漁ったことがあったからだ。
こと『時』に関しては、ほぼ知り尽くしたと言っていいほどの知識を蓄えていた。
「時間の神、ディアルガ」
「上出来だ。よく勉強しているな、嬉しいぞ息子よ」
軽く殴りたくなったが、シリアスな空気を壊したくは無いのでなんとか踏みとどまった。
「さて、ディアルガの伝承が残っているのは」
「シンオウ地方」
「そう。そこシンオウの外れに、まんげつじまと呼ばれる無人島がある。噂ではその島は月に一度、忽然と姿を消すらしい。何の日だか、だいたい予想はつくだろう?」
満月、と答えたくなったが冷静になって考え直す。すると、すぐに答えは見えてきた。
「新月の日か」
「その通りだ。そしてまんげつじまが消えた新月の日、付近に明らかに異なる島が出現する」
「しんげつじま、とか言うなよ?」
「残念だが予想通りだ」
「貴様並みのネーミングセンスだな…」
「お前に言われたくはないがな」
五十歩百歩である。いや、誰かが百五十歩先を行っている。
「さて話を戻すと、『そのポケモン』は他でもない、そのしんげつじまに姿を現すらしいのだ」
「そして、次の夜が新月…か。出来すぎた話だとは思うが」
井戸の外から微かな月光が降り注いでいるのが、無用心にも開け放してある扉から窺い知れた。
「することはひとつ。わかっているだろう?」
「ああ。シンオウ地方――しんげつじまへ向かう。そして、悪夢を終わらせる」
黒衣の青年は身を翻し、薄暗い機械だらけの部屋を後にした。
- 28 :エンタ :2008/02/24(Sun) 18:02:49 ID:XPR3nkH2
- 第24話 センリの手紙
マサラタウンジムを出た後、ふたりは暗がりを辿ってシロガネ山を脱出した。
そして、シロガネ山の付近に住んでいるという女性の家に案内された。コウキがここに来たとき知り合ったらしく、身分を隠して生活しているのだとか。
「はい、お茶淹れたわよ」
「ありがとうございまーす」
ちゃっかりといただくコウキ。もはや遠慮というものが皆無だった。
「あ、重ね重ね言っとくけど、あたしがここに住んでることは誰にもヒミツだからね」
「わかってますって〜」
お茶には手もつけず、ユウキが机に乗り出す。
「それで、兄貴」
「兄貴はよせってば」
「何でもいいよそんなもん…」
どうもコウキは兄貴がくすぐったいらしい。
「父さんから、預かりものがあるんだ。手紙と、小物袋」
ユウキはずっと預かっていたふたつの品を、確かにコウキに届けた。
「長かったなぁ。誰かさんのせいで3ヶ月もかかっちまったよ」
「うっ…わ、悪かったって」
「読んでみてよ。オレもどんな内容なのか気になるし」
「まぁ、そう急かすなよ。まずはこっちの小物袋から」
巾着袋のひもを引き、中のものを取り出す。
「…なんだこれ。笛?」
出てきたのは薄汚れた笛だった。ユウキが訝しげに見つめるが、さして変わったところなど無い。いたって普通の笛だ。
しかし、コウキの反応は違った。笛を見るなり態度が豹変し、凄まじい勢いで手紙を開いた。
『我が息子 大空コウキへ
これを読んでいる時、2005年霜月朔日を過ぎているのなら、私はこの世にいないだろう。
もしそれ以前ならば、お前の力を貸してもらいたい。いや、それ以前であることを祈り、以下に記す。
ユウキに持たせておいたのは、カンのいいお前なら察しがつくだろうな、てんかいのふえと呼ばれる楽器だ。
お前が決戦に参加するときその力を借りることになるであろう、神を呼び出すための笛。
落ち着いて読んでほしい。
空の神は人間を憎み、怒り吠えている。
それを利用せんとする者も少なからず現れるだろう。
戦争の火蓋が、切って落とされるやも知れない。
争いは破滅を生む。何としても止めなくてはならない。
そのために必要なのは神の力だ。
まずは北の大地シンオウに赴き、神の加護を受けたトレーナーを連れ出してほしい。
少しでも多くの神格ポケモンを味方につけておきたい。
既にお前がシンオウに行ったことがあるのなら、ほぼ確実と言っていいほどの確率でお前はその者たちに出会っているだろう。
彼らの力を貸してくれるよう頼み込んでほしい。
卑怯な手を使わせてもらうが、これは父親からの最期の頼みだ。何としても果たしてくれ。
大空センリ
P.S.
私が死んだあと、トウカジムの全権はお前とユウキに委任するものとする。
お前が持ち去ったバランスバッジはお前にやろう。好きに使ってくれ。それが私の望みでもある』
「…兄貴? せ、戦争って…いったい…?」
死。最期。神。破滅。戦争。霜月朔日。いろいろな単語が頭を駆け巡る。それでも、ユウキは自分のすべきことがおぼろげながらわかっていた。
「…あの人は、いつもこうだ」
コウキが溜め息をつきながら呟いた。
「いつだってオレよりずっと先に立ってる。オレがどんなに全力で走ったって、超えられない。どんなに強くなったって、あの人を超えることなんて出来やしない」
「そりゃ…オレたちの父親だからね」
「強さを追い求める男、センリ…か。誰が呼んだか、これほどピッタリな名前もないよな」
コウキは再び深い溜め息をひとつつくと、スッキリした表情で顔を上げた。
「行かなきゃ。戦争は、破滅は、オレたちで止める」
- 29 :エンタ :2008/02/24(Sun) 18:03:43 ID:XPR3nkH2
- 第25話 北の奥義
「またしばらくお別れだな」
別れを惜しむプラとナインに、コウキが優しく話しかけた。
女性の家を出たふたりは、今後の行動について話し合っていた。
「いいか、ユウキ。ヤツらの中には、冗談抜きで伝説のポケモンを使う者や、戦闘のプロなんかもいる。オレが今まで戦ってきた中で一番平均戦闘レベルが高いと思ったシンオウ地方の人間もいる。
もちろんマグマ団、アクア団の残党も。だから、今のサミットじゃ太刀打ちは難しいかもしれない」
「じゃあ、どうすればいいんだよ? ていうか、何でそんなに内情に詳しいの?」
ユウキがぶっきらぼうに聞き返した。
「戦闘はからっきしだが、優秀な諜報がいるんでね。スカイ団自体の存在もそいつから聞いたんだ。…さて、オレがシンオウ地方の人間が強いと感じた理由はふたつある」
コウキが指を2本立てて説明を始める。
「まずひとつ目。オレの手持ちのブーバーンのような、トージョウ以南では発見されていない新種のポケモンの有無。お前も見て感じたと思うが、そういったポケモンの強さは折り紙つきだ。持っていて絶対に損はない」
「…まさかとは思うけど兄貴」
「兄貴はよせっての」
無視して続ける。
「そのためにアオイとコンタクトを取ったんじゃないよな…?」
「うん、大正解。ちなみに恋人どうのっていうのは新種ポケモンの情報を隠すための蓑で、本当は彼女でも何でもないよハハハ」
怒りを通り越して呆れたユウキは、ただうな垂れた。
「ポケモン進化の権威であるウツギ博士の娘は、オレにとって『強さを求めるための格好の材料』だった。
そして強さを求めポケモンを鍛え続けるオレは、あの子にとって『ポケモン進化の研究のための格好の材料』だったわけだ。要するに利害が一致してた、それだけのことさ」
「ま、まあドライな感じの女子だしな…そういう色恋沙汰には興味がなさそうだったし」
「そんなとこだろ。で、オレはそこで手持ちをあらかた進化させた後、ホウエンとは生態系自体が大きく異なるシンオウへ向かった。案の定、そこには強力なトレーナーたちがたくさんいた。オレは学んだよ、ふたつ目の理由を」
「それが『きりふだ』?」
「そうそう。さっすがオレの弟」
ちょっと嬉しかったのは言うまでもない。
「ふたつ目の理由は、シンオウ特有のわざ。オレが勝手に『北の奥義』って名づけたものなんだけど…スカイ団との戦いでは、絶対にそいつが鍵になる。…しかし、現地のヤツの話では、北の奥義は誰にも教わることが出来ないって言うんだ」
「…なんで? ナインのきりふだは?」
「まあ聞けって。北の奥義はいわゆる神の啓示。その存在を意識しているだけである日突然に『閃く』、ってシロモノらしいんだよ。トレーナースペックに似たようなもんかな。でもって、今までの戦闘の常識を覆すような物凄いわざが生まれるってことらしい」
「よくわかんないけど、ようはそれを使わないとスカイ団に勝つのは難しいとそう言いたいわけだよな?」
「そんなとこだな」
コウキがさも当然といったふうに頷いた。
「それを、ホウエンのみんなに伝えて欲しいんだ、お前には。レッドに勝ったらオレがホウエンに戻る予定だったんだけど、唐突過ぎるし信用できないだろ?」
「まあ、長いこと行方をくらましてたわけだし」
言葉にトゲを生やして放った。コウキが申し訳なさそうに頭をかく。
「悪いな。…オレはひとまずシンオウに戻るよ。決戦に間に合うよう、仲間たちを連れてホウエンに帰るつもりだ」
「さっき言ってたそこそこ強いヤツ…のことか。そして同時に、手紙に書いてあった神の加護を受けたトレーナー…。だったら、オレも早くホウエンに戻って強くならなくちゃ…」
情報は不確かだが、伝説のポケモンが相手となれば相当な腕が必要になるはずだ。ユウキはいつの間にか意気込んでいた。
「世界を滅ぼすって連中を相手に、俄然やる気みたいだな。兄さん頼もしいぜ」
「みんなが必死で守り抜こうとしてるものを、そう簡単に滅ぼさせやしない。サミットは、ホウエンを守るためにあるんだ」
「そう。父さんによれば今度はホウエン単位じゃ足りないから、助っ人を集めようってコトさ。オレはオレで動いてみる。サミットのほうは、よろしく頼んだからな」
そう言うとコウキは、バッジケースからひとつのバッジを取り出した。ユウキは鋼の翼を取り出し、リュックに刺していく。
「日付が変わったな。あと6日だ。6日後に、世界が滅びてないことを祈ろうぜ」
「縁起でもないこと言わないでくれよ!」
「ははっ。それじゃあな! 『戦利(ウィナーズ・シンボル)』、ウイングバッジ!!」
彼が取り出したウイングバッジが光り輝き、コウキの背に翼が生えた。
「うん。『覚醒(アウェイキング・フォース)』、ゴッドバード!!」
リュックに刺したムドーの羽根がまばゆい光に包まれ、ユウキの身体が宙に浮いた。
「「決戦の日に、ホウエンで!!」」
2人の少年は、別々の方向へと飛び立っていった。
- 30 :エンタ :2008/03/29(Sat) 15:22:17 ID:U7lCGCTQ
- 第26話 巫女たち
「ねぇ〜ホタちゃん〜」
「ホタちゃん言うな」
「なんか話してよ。あたし暇で暇で。ミクリさんもう帰っちゃったし、今からミナモに戻るでもないし…」
ダイゴ宅にて、暇を持て余しているマナカと、そのお守りをなし崩し的に押し付けられてしまったホタル。
「ガキは寝る時間だぜ」
「ガキじゃなーもん!!」
噛んだ。
「ったく、こっちは騒ぐでもなくすぐ寝ついたってぇのによ…」
こっち、というのは机に突っ伏してすやすやと眠っているヒスイのことである。いつも着ている白いワンピース一枚では心もとないのでホタルがマグマ団の団服であるマントをかけてやった。
ちなみに耐火性だが通気性が良いというわけではないので、防寒にもなるのがこのマントのいいところだ。
「でもさ、年頃の娘3人のいる部屋にサカリのついた男いっぴき野放しにするなんて、ミクリさんも何考えてるのかわからないね?」
「ヴァーカ、テメェみてぇなガキになんていっぺんたりとも興味ねぇよ、このペチャが」
「せ、セクハラ!!!」
「るせぇガキ」
実際ミクリがそうしたのは、ホタルの言動や性格に対する信用と、自分の発言に対する責任という名の意地によるところが大きかった。
「ぶ〜。いいもん。あたしにはマモル様っていう王子様がいるんだもん、ホタちゃんなんか眼中に無いんだもーん」
「誰そいつ。知らね」
「すっっっっっごく強くてすっっっっっっっっっっっっっっっっごぉくカッコいい、ポケモンレンジャーの先輩だよっ」
誇張が過ぎるが、確かに実力は本物である。
…だが、だからこそホタルには引っかかるところがあった。
「そいつ、決戦に参加してないのか?」
「えっ」
下っ端とはいえ、3人のマグマ団員を一回の攻撃で撤退させたり、見たことの無いような強力なわざを使用していたり――と、相当な実力を備えたトレーナーであった。
だからこそ、サミットから声がかからなかったのはおかしい。
諜報部は彼の存在を知っていたし、アオイ本人も一度コンタクトを取っている。彼が決戦に参加しない道理は無かった。
「…あたしの試験で忙しかったんだよ、きっと」
「何だ、急におとなしくなりやがって。質問しただけだろがよ。ま、構わねェけど」
「なに、ホタちゃんっておとなしい子が好きなの?」
子供と侮っていただけに、いきなりそんなことを言われて面食らった。
「じゃ、あたしはやかましくしてよっかなぁ〜」
「ホント可愛くねェヤツだよな…」
「ホタちゃんに可愛いなんて思われたくありませんよーだ」
「…ケッ。ガキが」
「ね、好きなんでしょ。その人のこと」
それはあまりに唐突だった。だから、言い訳なんて考えてなかった。
「悪いかよ」
「やっぱり。いい人そうだもんね。寝顔だけじゃ何ともだけど」
「…似てんだよ、境遇が。俺とこいつは。同じ裏切り者だし、双子のイーブイを2人で預かったり、何より命の恩人でもあるからな」
「イーブイ? イーブイならあたしも貰ったよ、アオイちゃんに。ほら、フィール!」
モンスターボールから、もはや見慣れたレアポケモンが姿を現した。
「ほぉ。良かったじゃねーか、そいつは実力を認めてもらった証らしいぜ? で、何でフィール?」
「フィーリングで決めたから」
「やっぱお前ガキっつーかアホだな」
「うぅ、うるさいこの変態!!」
「誰が変態だ! このファザコンの、頭ン中ふしぎ少女が!!」
「あたしがファザコンなんじゃなくて、父さんがあたしにベッタリなの!!」
「それは確かにそうだな……」
「ちょっ、そこで冷静になんないでよ!!」
マナカ本人も最近気にし始めてきたのか、「パパ」から「父さん」に変更しつつある。
「う、うん……?」
2人がしまった、と思ったときには遅かった。
「…ほ、ホタルさん…!?」
ミズホが、目を覚ました。
- 31 :エンタ :2008/03/29(Sat) 15:22:42 ID:U7lCGCTQ
- 第27話 裏切り者の裏切り
「ち、ちょっと待ってて! 今ミクリさん呼んでくるから!!」
マナカが大慌てでテレポートして姿を消した。
途端に、気まずい雰囲気が流れ始めた。
「よ、ようミズホ……おはよう。つっても夜だけどな、ハハ、ハ……」
「…………!!」
ミズホは依然、混乱しているというよりもホタルに怯えたような顔つきで、震える身体を押さえていた。
「…だ、大丈夫か?」
1歩、距離を詰める。
――ミズホが、痛みを我慢しようとする子供のように縮こまり、目を固く閉じた。
「……!! わ、わりぃ……」
「あっ…ち、違…今のは」
「いや、いいんだ…すまねぇ」
それだけ言い残すと、ホタルは家を駆け出してしまった。
「ま、待ってくださ……痛っ」
身体中のあちこちが軋む。
「お待たせっ、ってあれ…?」
ミクリを連れて再び部屋に現れたマナカは、首を傾げた。
「…ホタちゃんは?」
「…ご……ごめんなさい…」
ミズホは、初対面の人の前でもこらえきれずに、涙を流していた。
この騒がしい状況で、さすがのヒスイも目を覚ました。
「な、何事ですか…?」
寝起きの頭にもこの異様な状況は理解できたらしく、申し訳なさげにたずねた。
「ごめんなさい……ごめっ、私、そんなつもりじゃ…。ホタルさんが、怒っていると…それで、つい…っ」
「…きちんと順序だてて説明してもらおうかででででで!?」
マナカがミクリの耳をつねっていた。
「何をする!?」
(この馬鹿ミクリさん!! 少しは察しなよ、オトメゴコロってものを!!)
小声で説教される。
「えっと、まずは落ち着いてよミズホちゃん。説明は、それからでも構わないから、ね?」
「は、はい……すみませ…っ」
「あ、えーっと私、紅茶淹れてきますね」
この後ミズホが落ち着きを取り戻すまで、ミクリはなすすべなくオロオロしているのであった。
「ありがとうございます…。少し、落ち着きましたです」
「ホタちゃんと、なんかあったの? け、ケンカした?」
つい先ほどホタルの好きで悪いかよ発言を聞いた直後とあって、マナカはいろいろと動揺している。
「いえ、悪いのは私です…。ホタルさんが怒ってると思って、勝手に勘違いして彼を傷つけてしまったです」
「しかし、それだけで逃げるなんて男らしくない奴だ…っでででで!?」
「いい加減にしろアホミクリ」
「空気読んでください」
今度は2人がかりで責められた。ちなみに、ヒスイの発言のほうがダメージが高い。
「なんで怒ってるって思ったの?」
「…私は、彼をも裏切ったですから。マグマ団のアジトからあいいろのたまを盗み出し、アオギリと共に海底へ向かったです。それは、私をアクア団の裏切り者として信用してくれていた彼にとって、最大級の裏切りでした」
「そ、そうだアオギリは今どこnでででででで!?」
「今する話じゃないだろがアンポンタンミクリ」
「自重してください」
「ずみまぜん!!」
チャンピオンが、堕ちたものである。
「まあどちらにせよ、さ。悪いことしたと思ったなら、まず謝ってみるのが一番じゃないかな」
「そうですね。まず歩み寄らないことには始まりませんし…」
「おふたりとも…ありがとうです…。私、ちょっと行ってくるです」
そしてミズホは軋む身体を持ち上げて、ダイゴ宅を出た。
- 32 :エンタ :2008/03/29(Sat) 15:23:00 ID:U7lCGCTQ
- 第28話 裏切り者仲間
「…あーあー……ショックでけーな、意外と……」
ホタルは海辺で一人、傷心にふけっていた。
まさか、あそこまで怖がられてるとは。
「まぁ、もともと敵同士だったわけだし。別に、どうってこたねぇだろが」
自分に言い聞かせるように独り言を呟き、そばにあった貝殻を海に向かって投げつける。
「敵同士なんかじゃないです!!」
背後からの突然の大声。
振り返ると、少女の姿。
「み…ミズホ!? おまっ、身体は…」
「ホタルさんは、私を信用してくれたです! なのに、私はそれを裏切ってしまった…!!」
「裏切…る? おいおい、俺は別にそんなこと…」
「気にしてください!! そんなに簡単に、私なんかを信用しないで!! これほどまでに簡単に、大切な人を裏切る人間を…お願いですから信じたりしないでください!!」
理不尽な、しかし悲痛な叫びだった。
「…あなたを、傷つけたくないんです…。だから、お願い…私を信じないで…!!」
泣きながら、ミズホは懇願した。
「ヴァカかお前は」
「…はい…?」
聞き間違いかと、ミズホが聞き返す。
「馬鹿だっつってんだよ。信じるなだァ? フザケんじゃねェ。お前を信じるか信じねぇかは、俺の勝手だろ」
「でっ、でも」
「それに」
無理やり遮って、ホタルは続けた。
「裏切り者であることが、俺とお前の絆の証明だろうが」
「きず、な…」
「好きなだけ裏切って構わねぇよ。けど、俺もお前を裏切るかもしれねぇ。だからよ、お前は俺を信じてくれ。俺もお前を信じる」
俯いて涙を流すミズホに、ホタルは不器用に、けれど優しく手を差し伸べた。
「それでいいだろ。な? 俺たちは、裏切り者仲間じゃねーか」
「…随分とムリのある、説得です」
それでも差し出された手を取ろうとして、身体のバランスを崩した。倒れそうになるミズホの身体を、とっさにホタルが抱き止めた。
「お、おい!! 大丈夫か!?」
「…大丈夫ではないので……」
ミズホの優しい瞳が、ホタルを見上げた。
「もう少しこのまま、胸を貸してくれるとありがたいです…」
「…!! ば……、…。バカヤローが」
言いながらホタルは無理矢理腰を下ろし、膝の上に強引にミズホを寝かせた。
「バカですけど、野郎じゃないです」
「うっせ」
「どうやら、無事仲直りできたみたいだね」
「そのようですね。良かったです」
2人の様子を、遠巻きに見守るマナカとヒスイ。
「まあ、すぐに重苦しい話になるんだろうけど」
マナカが苦い顔で振り向く。ミクリが、数個のモンスターボールを抱えて歩いてきた。
「ご名答。どうやら彼女にたずねるべき事柄が増えたようだ」
モンスターボールの中身は、チョンチー、タッツー、ホエルコ、イーブイ…。
そして1匹だけマスターボールに入った、レジアイス。
「いいけど、出来るだけ空気は読んでくださいよね」
マナカが苦々しげに溜め息をつくのだった。
- 33 :エンタ :2008/03/29(Sat) 15:23:23 ID:U7lCGCTQ
- 第29話 出発!!
彼が電話を掛けた相手は、思ったより少ないコール数で応じた。
「もしもし。タマゴか。朝早くにすまない」
『〜? シンジですか? どうしたんです、こんな時間に…』
「シンオウに向かう急用ができた。船を借りる」
『…はい?』
「三度は言わん」
『構いません』
「シンオウへ向かう急用ができた。ここへ来るのに使ったボートを借りていく」
『は……』
『はいぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜!?!?!』
慣れない操作でモーターボートを飛ばしながら、シンジは腰につけた一個のボールのことを気にしていた。
出がけに、サカキから預かったポケモンだった。
『なに、手持ちがいないのか?』
『ああ。とある事情で人に預けている』
シンジの手持ち6体は、全てアオイに預けられていた。いくらモンスターボールの名手とはいえ、1匹もポケモンを持たずに伝承のポケモン捕獲に挑むというのは、さすがに冗談でも面白くなかった。
『ふむ…いや…ちょうどいいチャンスかもしれん』
『何をブツクサ言っている。ボケたか』
辛辣なツッコミにもめげず、サカキは部屋の奥から一個のハイパーボールを持ってきて繰り出した。中身はサイドンだった。
『……!! 貴様ッ、またポケモンにきょうせいギプスを…!!』
サイドンの身体には、きょうせいギプスと似たような謎の装甲がなされていた。
『いや、これは違うものだ。サイドンも喜んで身に着けているだろう? じきにわかる』
『ちっ……』
彼の言葉に嘘はないと知っているシンジは、しぶしぶながらもそのサイドンを連れて行くことにしたのだった。
「…悪タイプではないから、戦力になるかどうか…」
いや、むしろ試されているのかもしれない、とシンジは思った。
ダークポケモンと化さずにダークわざを教え込むことができるのは、あくタイプのポケモンのみだった。
これはダークわざを使用せずに伝承のポケモンを捕獲してみろ、というサカキからの挑戦なのかもしれない。
…上等だ。やってやる。
「そう、もうひとつ言っていたな……確か、」
『ダークボール?』
『そう。この地図の通りにミオシティに辿り着いたら、そこでダークボールというボールを買うんだ』
『そいつで伝承を捕獲するのか?』
『使ってみるのもいいかもしれん。まぁ、いくつか買い込んでおくといいだろう。お前自身のためにも、な』
「全く、どういうつもりなんだかな…」
溜め息をつくシンジを乗せ、ボートは北へ向けて進むのだった。
- 34 :エンタ :2008/03/29(Sat) 15:23:45 ID:U7lCGCTQ
- 第30話 『謝』
ミナモシティの岬。
「んー。もうちょっと、全体的にこっちのほう向いてもらえるかな?」
「こ、こう? こうでいいの?」
「…いや、キミじゃなくて…。ポチのことなんだけど」
朝も早くからカメラを手に試行錯誤しているのは、豊穣の園を見つめる碧眼の少年ミツル。
そして自慢のポケモンたちとともに被写体となっているのは、花屋三姉妹の末っ子サツキ。
「可愛く撮ってよね」
「でも、ポチはたくましさ要員でしょ?」
せっかくおめかししているサツキを真っ向から否定するようなセリフを意図せず吐き続けるミツル。
2人は、歳が同じこともあり、ふたつのコンテストという目的により親密度が高まっていた。
ポケモンコンテストとフォトコンテスト、名前は似れど全く異なるふたつのコンテスト。
自分のポケモンをより良く見せるための技術と、被写体をより良く写すための技術。これらを互いに高めあうため、こうして特訓と称した写真撮影会を行っているのだ。
「はいっ、お疲れ様ポチ。おかげでいい写真がいっぱい撮れたよ!」
ミツルがようやくファインダーから顔を離した。ポチと名づけられたサツキのグラエナが、まるで石像のように凝った身体を伸ばす。
「次はタマだね」
「可愛く撮ってよね」
「もちろん!」
会話は成立しているが、互いに意味合いが通じているかどうかはまた別の問題である。
サツキはグラエナをボールに戻し、エネコロロを繰り出した。素晴らしい毛づやをし、かわいさに磨きのかけられた愛くるしい姿がそこにあった。
「仲良さそうだよなぁ…」
「そうだね」
そんな2人の様子を民宿の窓から観察しているのは、サツキの姉ハヅキとミナヅキだった。
「このぶんじゃ、どっちかがどっちかに気があるんじゃないのぉ〜?」
「やっ、やめなよ姉さん…2人ともまだそんな歳じゃないよ…」
「おぉ? 言うねぇ、大人の余裕ってヤツ? やっぱ彼氏持ちは違うねぇ」
「ちっ、ちちち違うよ!? かかかカレシだなんて…!!」
例の如く、顔を真っ赤にして否定するミナヅキ。この光景も、もはや彼女らの日常と化していた。
「何、まだ付き合ってないの? あんまり待たせると男の子は飽きちゃうぞ」
「そ…そんなのじゃなくて……」
悪戯な姉の表情から目を逸らしつつ、手で髪を梳いた。
ここ数ヶ月でだいぶ髪が伸びたようだが、前髪だけはずっと同じ長さを保つようにしているらしい。
「ユウキさんはジムバッジとかお兄さんのこととか、とにかくいろいろと忙しくて…。私なんかに構ってもらうのは、申し訳無いよ…」
「申し訳ない、ねぇ。彼が迷惑がってるっていうの?」
「そ、それはその…、……………」
もごもご…と口ごもる。こうなると彼女の声はごく限られた者にしか聞き取ることが出来ない。
「優しいから…ねぇ? 本当にそれだけの感情でミナヅキに接してるかな? あの子。もしそうならぶっ飛ばすけど」
「……それは」
「おはようございますっ!!」
「ひゃっ!?」
急に後ろから話しかけられたので、びっくりして変な声が出たらしい。
「お、驚かせちゃいました…?」
声の主はアキだった。お茶の入った湯のみを乗せたお盆を持って立っている。たとえ驚けど一滴の茶さえこぼさないのは、ひとつの技術なのかもしれない。
「お2人がお目覚めのようでしたので、お茶を淹れてきたんです」
「気が利くね。ありがと」
ハヅキが盆の上の茶を受け取った。
「そんな、わざわざすみません…」
「いえいえ〜。これが仕事みたいなものですから。どうぞ畏まらずに」
そう言うとアキは礼儀正しくお辞儀をして、部屋を出て行った。他にもお茶を配る相手がたくさんいるらしい。
「…ハァ。ミナヅキ、あんたはさ。申し訳ない、とかすみません、とか…いつも謝ってばかりな気がするよ」
「それは…私が至らないからで」
「お茶を貰うだけで、何が至らないっていうのよ…。いい? ミナヅキ。かんしゃって字、書けるわよね?」
「感情の感に、謝る…」
「そう。感謝にもね、謝るって字が入ってるのよ。どうせ同じ『謝』なら、すみませんよりありがとうのほうがいいと思わない?」
ミナヅキは、今度こそ黙ったまま何も答えなかった。
「ま、思うところはいろいろあるだろうさ。せいぜい悩み過ぎないように。じゃ、あたしはサツキたちの所に行ってくるから」
そしてハヅキは、部屋にミナヅキ一人残して出て行ってしまった。
「ありが、とう……か……」
- 35 :エンタ :2008/03/29(Sat) 15:24:04 ID:U7lCGCTQ
- 第31話 『退行』
「ポケモンを退化させる、光線だぁ〜?」
桂ホタルのあからさまな猜疑の声。
ダイゴの住まいにて5人は卓を囲み、ミズホのモンスターボールの中身について話していた。
「そう。アオギリの能力『退行(フォースド・グロウダウン)』、はかいこうせんにポケモン強制退化効果を付加する。…私のヒンバスも過去に一度くらったことがある」
「そいつを残らずミズホのポケモンに撃ち込んだってのかよ。マツブサもなかなかのモンだが、アオギリってヤツも外道だな」
吐き捨てるようにホタルが言った。
「海底洞窟にて、戦闘になったのです。最初はサンダースの電撃で動けなくして、その間に潜水艦に戻って逃げようとしたですが」
さらっと恐ろしいことを言ってのけるミズホに、内心怖気がさすマナカとヒスイだった。
「逃げている間、背後から攻撃されました。私をかばってサンダースがやられ、イーブイに戻されてしまいましたです。続くシードラ、ランターンにもあえなくはかいこうせんが命中し、ホエルオーだけが残りました」
「海底の狭い空間でホエルオーなど出したら、自殺行為だぞ」
「それを狙ったですよ。潜水艦の停めてある場所にホエルオーを出して、水を溢れさせたのです。ホエルオーにもはかいこうせんを当てられてしまいましたが、流れてきたレジアイスのボールを手に入れることが出来ました」
「それって窃盗だよ、ね…。ひとのポケモンとったらどろぼう…」
「ま、まぁ相手が相手でしたし、仕方ありませんよっ」
もはやドン引きの2人であった。
「ヒスイくんの言うとおりだな。アオギリに伝説のポケモンを持たせておくわけにはいかない。どんな方法を使って脱出してくるともわからないからな。どちらにせよ、ヤツの力が減ったのは喜ばしいことだ」
マグマ団、アクア団の恐怖が去った今、恐るべきはそのリーダー、マツブサとアオギリの行方だった。
マツブサは決戦の日、枯れた火口に身を投げたとセンリから聞いている。
となれば残る懸念はアオギリだが…。ミズホの話によれば、状況はこうである。
アオギリは決戦のあと、潜水艦で海底洞窟を目指した。
海底洞窟はなかなか見つからず、探索には長い時間を要した。
時々陸地に出ていたが、潜水艦からは出してもらえなかったためアオギリがどこに寄っていたかまでは分からなかった。
やっとのことで海底洞窟に到達したのは、およそ2ヶ月半も経過してからだった。アオギリが海の巫女の力のことをようやく思い出したためだ。
大地の巫女であるマナカがホウエン全土を見ることができるのと同じように、ミズホにも全ての海を見渡す力があった。
入り組んだ洞窟内をサンダースとランターンの明かりで照らしながら奥に進み、ついにカイオーガがねむる奥地まで辿り着いた。
宝珠を出せ、とのアオギリの要求をミズホは断った。
そして一瞬の隙をついてサンダースの電撃をアオギリに当て、もときた道を全力で走った…。
しかし、海底洞窟を脱出してしばらくすると、かいえん1号のエンジンが停止した。恐らくアオギリが脱出直前に何らかの細工を施したのだろう。
海水が浸入してきた艦内からミズホは必死に脱出し、海の上を目指そうと泳ぎ続けたが、やがて意識を失い…
気づいたら、この家に居たというわけである。
「レジアイスは、あなたが持っていてくださいです。もともとこの子を目覚めさせたのはあなたなのですから」
「…何故それを?」
「私はアクア団の諜報部ですから」
決して笑わず、けれど不敵な表情で、ミズホはそっと呟いた。ミクリはそれ以上言及するのをやめ、素直にレジアイスのボールを受け取った。
「しかし、アオギリが地上に出ていたとはな…。もっと早く気づくべきだった」
「どこに出てたともわからねェんだ。仕方ねぇさ」
珍しく、ホタルがミクリをフォローしていた。
「それで…海の神はまだ眠っていたのですか?」
「ええ、確かに。まるで水に浮かんだ石像のように微動だにしていませんでした」
「よかった…。まだ、ホウエンはまだ大丈夫なんですね…」
ヒスイが嬉し泣きしながら笑顔で言った。
「最後の仕上げが残っているさ。西瀬ミズホくん。ついて来てもらえるね」
ミクリが席を立ち、ペリッパーのボールを手に取った。
「ルネに向かうぞ。そこで、宝珠を壊すんだ」
- 36 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:00:19 ID:dHycQM..
- 第32話 トバリシティ
「ここに来るのも、久々じゃなぁ…」
どこまでも続く藍色の空の下で、イッセンはしみじみと溜め息をついた。
トバリシティ。
数々の神話や石の眠る町にして、昼も夜も決して眠ることのない街。
シンオウ地方における将来住みたい町ナンバーワンをヨスガシティと争っているとか。
ダイゴがシンオウに来ている間、滞在していた町でもある。
仮にミクリならヨスガかナギサに住むだろうし、ヒサヤならクロガネに住むのだろう。そして花屋三姉妹なら確実にソノオに住むはずだ。
そんなことを考えながら彼がのんびり歩いていると、鮮やかな桃色の髪の女の子がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
「おじさぁーん!!」
「おぉ、スモモちゃん」
伯父、というよりお爺さんみたいな反応を返すイッセン。しつこいくらいだが、彼は45歳である。
「お久しぶりですっ」
「なんじゃ、また転んだのか? でっかい絆創膏なぞ、顔に貼っつけて」
「えへへー」
無邪気に笑う小柄な少女。やんちゃなのはいいが、顔に大きな傷でも作ればお嫁に行けなくなるのではないか、と危惧してやまない。
「お家のほうは、今大丈夫かの」
「はい。お母さんも今いますよ」
「そうか。では、早々に用事を済まさせてもらうとしようかのぅ」
のんびりと言った彼の表情は、しかし真剣そのものだった。
おじさん、との呼び名どおり、桐崎イッセンは六文銭スモモの伯父である。
つまり、彼女はイッセンの姪にあたる。
だがイッセンは生来の孤独で親もなく、兄弟もひとりとしていなかった。
だからスモモはイッセンと血が繋がってはいない。彼の『大切な人』の妹の娘である。
幼い、本当に幼い頃、とある文献に興味を持ちこの地を訪れ、そして出会った。
六文銭ヒナタ――すなわちイッセンにとって世界一大切な人と。
「何の用」
久々に顔を合わせての第一声が、これである。たまったものではない。
だが、それが仕方ないものだということは、イッセンにもよくわかっていた。
六文銭ヒカゲ。ヒナタの妹である。
「ちょ、お母さんっ」
スモモが慌てて宥めにかかるが、彼女の態度は変わらない。
「いいんじゃよ、スモモちゃん」
「…ふん。今さら、何をしに来たというの」
氷のように冷たく研ぎ澄まされた視線が、イッセンの身体を貫く。
「あなたとの縁は切ったはずよ」
「これを返したくての」
腰にさげていたものをそっと床に置き、包んであった布をほどく。
藍に染められた、木刀だった。
「宝刀『陰(ひかげ)』。彼女が、お前さんを愛しておった証拠じゃ。長いことヒナタの墓前に供えてあったのだがの。ここへ返すのが良いと思った」
「それで、ノコノコと現れたわけね」
「お母さんっ…!!」
イッセンの手とヒカゲの手が、ほぼ同時にスモモを制した。何も言えなくなったスモモは、バツが悪そうに2人の間にちょこんと正座した。
「…どの面下げてここに来れたものかしら? きっと貴方の心には、羞恥も罪悪もカケラとして存在しないのだわ」
「そうかもしれんな。ワシは、いくつもの罪を繰り返してきたが、それをワシ自身が罪とは思えぬのじゃから」
寂寥に満ちた、老人のように枯れた表情。それを見て、ヒカゲは激昂した。
「そうやって、いつも善人面していれば誰かが救いの手を差し伸べてくれるとでも!? ええ、確かにいたわよ!! そんな慈母のような人が!! でもね、もうこの世には居ないのよ!!」
顔を真っ赤にして、目には涙を浮かべて、イッセンの着ている道着の襟に掴みかかる。スモモの制止の声など聞こえていない。
ただ目の前で、まるで許しを請うことすら諦めたかのように動かぬ表情で、黙ってこちらを見据えている男が気に食わなかった。
「貴方のせいよ!! 全て!! もう15年も前になるのね。貴方の言葉を借りれば、運命とは残酷なものだわ!! 平気で、平然と、奪ってゆくんですものね!!」
イッセンはただ黙っていた。スモモも黙るしかなかった。それほどまでに、ヒカゲの言葉は激しく、心を抉るように鋭かった。
なおもヒカゲの言葉は続く。
「貴方は姉様を守ると言ったわ。なのに何? 姉様の病に気付けなかったですって!? 自分勝手も程々になさい!! 愛していたなら、たとえ小さな変化も見逃さないはずよ!! ああ、そう、愛していなかったのね!! だって貴方は一度も姉様を『妻』とは呼ばなかった!!」
「愛しとったよ」
雪崩れかかるような言葉は、一瞬堰き止めたかのようにぴたりと止んだ。そして、再び決壊した感情が彼女に拳を振り上げさせた。
「誰よりも、この世の誰よりも愛しとった」
すんでのところで拳が止まったのは、ヒカゲの、姉に対する想いからだろうか。
「…籍を入れなかったのは本当じゃ。子をつくる気も無かった。六文銭の家を絶やしてしまうのではと問うたが、ヒナタはただ笑って、貴方がいればそれで良いのですと、そう言ってくれた」
「…そんなもの」
「若さゆえの気の迷いやもと思うのも仕方ないかもしれん。じゃが、彼女は旅立つ間際までワシを愛しているとそう言ってくれた。この世に残す生きた証を、末期の遺言を、ワシのために使ってくれた。その想いは本物じゃったと、ワシは今でも信じてやまぬ」
「そんなものッ」
言葉が続くことは無かった。泣き崩れる母親、その背を優しく撫でる娘。
そんな光景を後にし、イッセンは無言で六文銭家を出た。
- 37 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:00:45 ID:dHycQM..
- 第33話 清風渡る水脈(ミオ)
ボートで海を渡ること数時間。突出した森だらけの陸地を大きく迂回して、北側から入り江に船を運ぶ。
地図の通りに来られたならば、眼前に広がる町並みはおそらく「ミオシティ」だろう。
シンジがいくつもある桟橋のひとつに船を泊めると、早速町の船乗り達が集まってきた。
「おい、あんた…この辺では見ない顔だが、どっから来たんだい?」
「ジョウトからだ。この港は使わせてもらっても?」
「ああ、構わねぇぜ。港に船着けんのに誰の許可が必要ってワケでも、船をいくつ泊めて困るワケでもねぇしよ」
「心遣い痛み入る。ところで、ここから北方の周辺海域に詳しい者はいるか?」
「それならナミキさんが適任だろ」
4、5人いた船乗りの中から、ひとりがシンジのほうへ進み出た。
「海原ナミキだ。北ってことは、こうてつじままで修行に来たクチか?」
「……? いや違う。俺はしんげつじまに行きたいんだが」
船乗り達の空気が固まる。一瞬の後に、どっと爆笑が湧き起こった。
「はっははは、そりゃいいぜ兄ちゃん!!」
「ジョ、ジョウトの奴らってのは、あんな御伽噺を本気にしてるってのかい!?」
「頭の中もあったけぇなぁオイ!!」
「…何だと、貴様ら…!!」
故郷を侮辱されて、シンジが熱り立った。
「黙らねぇか、お前らァぁ!!!」
ナミキの怒号が飛んだ。途端に皆おとなしくなる。
「…済まねぇな。なにせ、しんげつじまってのは俺ら船乗りの間でも真偽のほどが定かじゃねぇ伝説なんだ」
「そう…かもしれないな」
「だから島の存在を本気で信じてないヤツも多いってワケだ。同じように、ダークライの存在もな」
「ダークライ……それが悪夢の名か…」
「!! 知ってるのか!?」
「当然だ。俺は俺の悪夢を終わらせるため、そいつを捕獲しにここまで来たんだ。何も無いなどとは言わせん」
横暴な言い方だが、ナミキの心を揺さぶるには十分だった。
「へっ、面白ぇ兄ちゃんだぜ! いいだろう、俺が船乗り人生30年の歳月で培った船乗り魂で、お前さんを必ずしんげつじままで導いてやるぜ!!」
威勢のいい大声に、他の船乗り達の心も徐々に動きつつあった。
「でもよ、がむしゃらに突き進んだってしょうがねぇぜ? まずはあらゆる情報を元に、正確な海図を作らないとな! 俺は図書館に行ってくるぜ、今は神話でも縋ってやらぁ!!」
「そういえばよ、対になってるまんげつじまには、みかづきのはねがあれば簡単に行けるだろ? ホラ、クレセリアさまのご加護があるっていう。淡い光が島まで導いてくれるらしいって話じゃねぇか」
「ってことは、みかづきのはねと対になってるアイテムがあるかもしれねぇってことだよな!?」
慌しく駆け回り始める船乗り達をよそに、シンジはひとつ思い当たるところがあったらしく荷物の袋をまさぐり始めた。
「みかづきのはね……確か、こいつのネットの材料、ヨルノズクの羽毛にそんな別名があった気が…」
ネットというのは、モンスターボールの素材のひとつだ。鳥ポケモンの羽や、虫ポケモンの糸などを網状に編み込み、ポケモンを捕獲するためのネットにする。
もうひとつの素材、ぼんぐりから精製するシェルという部分の組み合わせによってモンスターボールの効果、性能が決定される。
「…ムーンボール、こいつなら。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!」
シンジが自らのスペックを発動すると、ボールから夜空色の波動が放たれる。普段は相手のポケモンに向かって飛んでいくはずの眠りの波動が、海を越えまっすぐ北へと伸びていた。
「…やはり。ムーンボールの波動が、まんげつじまを察知したか。ならば…」
船乗りの一人が言っていた、対になるアイテムというのは…。
「ヒントが簡単すぎるぞ、ダメ親父め」
そう呟くとシンジは船着場に飛び移り、フレンドリィショップへと駆け出すのだった。
- 38 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:01:06 ID:dHycQM..
- 第34話 ダークボール
「…もう一度言ってくれ」
「ですから、当店ではダークボールは取り扱っておりませんので…。誠に申し訳ございません」
「バカな…」
ここに来て、シンジは思わぬ壁に激突していた。
ミオシティのフレンドリィショップでは、ダークボールを取り扱っていないというのだ。
それどころか、問い合わせてもらったシンオウフレンドリィショップ協会によれば、ダークボールを取り扱っている店舗はシンオウの中心線に聳えるテンガン山脈を隔てて東側の町にしかないらしい。
ヤミカラス、いやドンカラスがいないので徒歩でいくほか無く、行って帰ってくる頃には新月の夜はとうに終わってしまっている。
「残念だったなぁ。ま、他にも方法があるかもしれねぇぜ」
そう言って、ナミキは船の整備を始めるため船着場へ向かった。
シンジはうな垂れた。
「古臭い情報をくれたものだな、クソ親父が…」
昔はこのミオシティでもダークボールを取り扱っていたが、ホウエンはデボン社開発の新型ボールがシンオウにも出回るに連れて需要が減ったらしい。なぜなら夕日が西側よりも早く山に沈み、夜になるが早い東側のほうがダークボールの売れ行きがいいからだ。
「…どうする…?」
ダークボールが無ければ、しんげつじまへの海路を見出すことは出来ない。次の新月までの1ヶ月間を、再び悪夢とともに過ごすのも癪だった。何か方法は無いか…?
思考を巡らせ…るまでもなく、シンジはひとつの結論に辿り着いた。
「…俺は、馬鹿か?」
そうだ。俺が何者か、俺自身が忘れていた。
船乗りの一人が、図書館があると言っていたのを思い出す。その辺にいた住人らしきアロマな女性に、シンジが勢い良く声をかけた。
「すまない、図書館はどっちにあるかわかるか!?」
「えっ…? あっちですけ、ど…」
「あの建物か、恩に着る!!」
いろいろと思慮に欠けた物言いで礼を述べ、一目散に図書館へ向かった。
図書館に駆け込み、「静かにしてください」と叱られつつ図書館案内に目をやる。
「1F・ポケモントレーナー関連書籍…これか」
アイテム関係の本棚から、モンスターボールについての資料を探す。
「あった! これだ!!」
「お静かに!!」
周囲の痛い視線も気にせず、シンジは「モンスターボール大全・第八版」を手に取り読み始めた。熱くなると周りが見えなくなるのが彼である。
「ダークボール、材料…。くろぼんぐりと、ヤミカラスの羽根…」
ビンゴだ。両方とも、現在彼が所持している。シンジは本を元に戻すと、図書館を後にした。もちろん、三度目の正直とばかりに注意を喰らいながら。
ボートに置いておいた袋から、くろぼんぐりと、ハンマー、金床を取り出し、ポケットに入れてあったヤミカラスの羽根を引っ張り出した。ドンカラスに進化したとき、記念にとっておいて良かった。
「サイドン…かえんほうしゃは使えるか?」
ハイパーボールから出したサイドンに問うと、嬉しそうに頷く。主の息子の力となれることが素直に嬉しいのだろう。
「お、おいおい…アンタまさかボールを…!?」
そばに立っていたナミキが不審そうにシンジを見つめている。
シンジは手ぬぐいを頭に巻き、後ろ髪をゴムでまとめて、言った。
「その通りだ。俺がここでダークボールを打つ」
やってやるさ。
俺は、全国一のボール職人、ガンテツの弟子なのだから…!!
「…ん? どうした、サイドン」
ボールから出してから、サイドンの様子がどうもおかしかったことに気づく。よもや、このきょうせいギプスに似た装甲の影響では…?
「サイドン、それを外せ!!」
しかし、サイドンはいうことをきかなかった。空に向け、咆哮を轟かす。やがて身体は黒く変色し、装甲は身体と同化し、尻尾の先端が丸く膨らんでいった。
「…サイ…ドン? いや、違う」
サイドンが、進化した。
- 39 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:01:28 ID:dHycQM..
- 第35話 ドサイドン
「…いいぞ。そのくらいやる気を見せてくれれば問題ない。いよいよもって、伝承のポケモンとやらに会うのが楽しみになってきた」
新種のポケモンを前にしてなお、冷静かつ不敵な表情をしていられるシンジに、ナミキは改めて感心した。
彼としては、既に自分の手持ちの2体が新たな進化を遂げているわけだから、ここまで来れば驚かないといった開き直りもあるのだろうが。
「いいか、サイドン。かえんほうしゃを…」
ふと、このポケモンは既にサイドンではないことに気づく。
「そうだな、お前に新しい名前をつけてやる」
シンジは進化したサイドンの身体をじっくり観察し始めた。一回り巨大化した体躯に、鉄球のように変化した尻尾、そして何より大砲のような形状をした両腕。そう、まるで戦闘兵器のようなポケモンだった。
「…そうだな、超弩級のサイドンだから…お前はドサイドンだ!」
「そっ…そのネーミングは、ダサイドン…」
「………」
ナミキのあんまりなツッコミ。やはり彼には、ネーミングセンスが皆無なのであった。
しかし、2人は知る由も無かった。その名が、後にそのポケモンの正式名称となろうとは…。
町のど真ん中で、黙々とぼんぐりを打ち続けるシンジ。鈍い金属音が、ミオシティ中に響き渡る。
そう広くない町だ。すでに彼の噂は人々に知れ渡り、住人皆が知る伝承に挑むという青年を一目見ようと集まってきている。
すぐ傍で、絶え間なくぼんぐりに炎を放ち続けるドサイドン。時折、シンジの額から噴き出す汗が熱された金床に滴りジュッと音を立てた。
やがてぼんぐりを打ち終わり、シェルとしての加工は残すところ冷却のみとなった。しかし急激に冷やすと脆くなる危険性がある。れいとうビームなどもってのほかだった。
いまだ赤く輝き続けるシェルは、ナミキが自宅に持っていった。潮風に当てるのもあまりよくない。
ゆっくりゆっくりシェルを冷やしている間、今度はネットの作業を開始する。手元がよく見えるよう、ピントレンズを左目に装着した。
浮かぶのは、2人の師匠の顔だ。
「…大丈夫、できるさ」
自分自身に向けて呟き、たった一枚しかないヤミカラスの羽根をゆっくりと解き始めた。
ゴクリ。誰かが生唾を飲み込む音。
緊張の糸が限界まで張り詰めた中、作業は開始された。
「…でき、た…」
冷却の済んだシェルに、ネットを編み込む。最後にしてもっとも重要な作業が、今、完了した。
ダークボールの完成だ。
どっ、と歓声が巻き起こる。シンジも、今まで周りにギャラリーがいることなど気づいていなかったかのように驚いた。
「な、なんだ…!?」
「おめでとう! みんなアンタの働きっぷりを褒め称えてるのさ!」
「やるじゃねぇか、兄ちゃんよ!!」
「漢(オトコ)見せてくれるねぇ!!」
「お疲れ様ですっ」
船乗り達や先ほどのアロマな女性が、次々に彼に労いの言葉をかける。シンジもどことなく嬉しそうな表情で、手ぬぐいとゴムを外し、汗を拭く。
「いい頃合いだな、日は沈んだようだ。これでしんげつじまへの道が示される。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!」
造りたてのダークボールから発された力強い光が、海の向こうに真っ直ぐ伸びていた。
「よっしゃ、テメェら! 舵をとれ!! 目指すは北! 挑むは伝承!! しんげつじまに向け、面舵いっぱいヨーソローってなモンだァァ!!!」
『ウォォォォオオオオ!!!!!』
一斉に挙がる鬨の声。新月の下を、一艘の船が北へと奔(はし)り出した。
「…もし、そこの方」
船を見送るひとりの女性に、男が背後から声をかけた。アロマな女性は振り向いて会釈しながら、笑顔で言った。
「こんばんは。今日はよく話しかけられる日みたいです。あなた方も図書館へ?」
「いいえ、アナタに用があるのですよ…マドモワゼル」
- 40 :エンタ :2008/06/04(Wed) 17:54:15 ID:hvaa2aOw
- 第36話 宝珠と巫女
「でもさ、こうして巫女が3人揃うって、初めてじゃないかな?」
ルネシティに向かう道中、ペリッパーの口の中でマナカが唐突に言った。
「そう…ですね。私とマナカさんは決戦の後よくおしゃべりしていましたけれど…」
「申し訳ないです」
「あ、いやいや別にミズホちゃんを責めてるわけじゃないって」
ミズホは、ホタルからのファイヤーに乗せていくとの申し出を自ら断った。マナカとヒスイに、謝らなければならないと思ったからだ。
「…そのことだけでは無いです。私は、巫女は本来、ホウエンの平和のために在らねばならないというのに。私は闘争と破滅の片棒を、望んで担いでいたのです。それと知って協力していたのです」
「う〜…で、でもそれはその、さ。ホラ」
マナカが口ごもっていると、助け舟でも出すかのようにヒスイが喋り始めた。
「ミズホさんにはミズホさんなりの正義があったのでしょう? それを貫くための方法が、少し私たちと違っていた…それだけのことですよ。私はあなたの為そうとした正義を否定しませんし、あなたなりに導き出した考えを咎めもしません」
ヒスイが優しく諭すように言った。普段の彼女はふわふわしていてどこか天然だが、こういう時は力強い意志があらわになる。
「…前から思ってたんだけどさ、ヒスイちゃんて見かけによらずアツいよね」
「へ? そ、そうですか?」
「なんていうか。あたしの知ってる『そーゆー人たち』と似てるって思ってさ」
そーゆー人たち。それだけで、何か2人には伝わるものでもあったのだろうか。
「…それ、ユウキさんのことですか?」
「もしくは、ホタルさん…?」
「あっはは。さぁねー。違うかもしれないし、そーかもしんない。片っぽだけかもしんないし、両方かもしれないね?」
はぐらかしているのか、誘導しているのか。いまいち意図の掴めない返答だった。何も考えてないのだろうか。
「ふふっ」
「あはははっ!」
「……くすっ」
その瞬間を、2人は見逃さなかった。
「あー!! 笑ったよ!!」
「ええ、やっと笑ってくれましたねっ♪」
「え、あ!? あ、うぁ…!?」
当然、困惑もする。
「そ、その…」
「ほら、やっぱり笑ってるほうが絶対いいって! 楽しいし、嬉しいし。笑ってる人も、それを見てるこっちも」
「そう…でしょうか」
「それとも一番大事な笑顔はホタちゃんのためにとっときたい?」
ミズホの顔が爆発したように赤くなった。
「そ、そのへんにしておきましょうよ、マナカさん…」
「あはは、ちょーっとイジメ過ぎちゃったかな? ごめんごめん。ほら、もう着いたみたいだよ」
ペリッパーのくちばしを、コツコツとノックする音がした。
「しかしスゲェな。人を背中に乗せるならともかく、口に入れて運ぶなんてよ」
「溺れているポケモンを救助するためとも言われているからな。それなりの大きさは必要なんだろう。私のペリッパーは通常よりいくらか大きいが」
ファイヤーをボールに戻しながら感心して言うホタルに、ミクリが説明する。何だかんだで、この2人もすっかり普通に接していた。
「んっん〜!! いい空気だねぇ〜」
いささか狭い口内で凝った身体を伸ばしながらの深呼吸。
かつて火口だった場所がカルデラ湖となり、そこに人が住まうようになったのがルネシティのはじまりだ。かつて太古の昔、グラードンとカイオーガが激突したのがこの地といわれ、今でもいくつもの伝承が残っている。
その名残のひとつが、彼らの目の前にある洞窟の入り口……めざめのほこら。神の意識に最も近い場所。
「この奥に、宝珠を保管してあるんだ」
見張り番をしていたルネシティジムのトレーナーと思しき女性に話を通し、一行はめざめのほこらの深部へと向かった。
「…なんだか、海底洞窟の雰囲気と似ています」
「同じさ。海底洞窟には神の肉体が、そしてここには神の意識が眠っている。ここで宝珠を破壊すれば、神の肉体は失われるだろう」
それはつまり、マグマ団とアクア団の目的である神の力の利用を完全に阻止するための手段。
彼らの暗躍によって形作られた神のイレモノを壊し、神を神に戻す。そのための方法。
最後にして最大の懸念を取り払うために、彼らは宝珠を壊すのだ。
「さあ、着いたぞ」
おくりびやまの頂上と同じように、深い霧に包まれた空間。その中心に、3つの宝珠が設置してあった。
- 41 :エンタ :2008/06/21(Sat) 23:38:18 ID:BUHs/.jc
- 第37話 宝珠を破壊せよ
「さぁ、皆自分の宝珠を手に取ってくれ」
3つの台座の中心に立ったミクリが指示をする。
マナカはべにいろのたまを、ミズホはあいいろのたまを手に取った。
「まずは、それぞれの神の意志にアクセスしてくれ。彼らの意識を眠らせるんだ」
言われたとおり、彼女らは宝珠に向かって念じ始めた。が、マナカは集中できないのか、すぐに息を切らしてしまった。
「はぁっ、はぁっ、これ、案外キツイね…」
「無理をさせてすまない。私は何もしてやれないが…、頑張って、くれ」
「…OKっ」
再び、汗に濡れた額を宝珠にぴたりとくっつける。
「ヒスイ君、きみはレックウザの意識にアクセスしてくれ」
「えぇっ!? こ、ここからですか?」
驚くのも無理はなかった。ヒスイがレックウザの意識にアクセスできるのは、そらのはしらなどレックウザの付近のみである。
2匹の意識に最も近い場所、つまりホウエン最深部であるめざめのほこらからの神通は、困難をきわめるであろうことは分かりきっていた。
「…無理は承知だ。しかし、2匹が完全に眠ったのを感知できるのはおそらくレックウザだけ。マナカくんとミズホくんには、干渉する力はあっても感知する術はない」
べにいろ、あいいろのたまとそらいろのたまでは、そもそもの由来が異なる。
前者の二色は、かつてレックウザがグラードン、カイオーガの意識を封印した楔。対してそらいろのたまは、レックウザが人の心を繋ぐための宝として人間に預けた物である。そう、ダイゴは言っていた。
「きみがレックウザと意識を共有することで、2匹が完全に眠るのを感知することができる。そのタイミングで、宝珠同士をぶつけ合わせ破壊する…。3人の巫女の力が揃わないと上手くはいかないんだ」
ヒスイが躊躇いがちに台座に置かれた宝珠に目をやる。確かに、記憶が戻ってからは宝珠に触れても意思を支配されることは無くなった。危険は、きっと無いと思う。
「…わかりました。やって…やってみます」
「ありがとう。頼んだ…」
そらいろのたまを手に取る。色は変わらない。向こうに拒絶の意思は無い、ということだろうか。
そっと目を閉じ、力を込める。
「ッ!?!?」
両の腕に、雷が迸ったような衝撃を受けた。危うく宝珠を取り落としそうになる。
「ヒスイ君!?」
「す、すみま…せ、ぁぐっっ!!」
なおも電撃はバヂバヂと薄気味の悪い音を立てながらヒスイの腕に流れ込んでくる。
「拒絶の…意思が…!? 宝珠から力が逆流しているのか! ヒスイ君ッ!」
「こっちに来んじゃねぇ!! テメーはミズホとガキんちょの面倒見てろ!!」
はっ、と振り返ると、マナカは今にも倒れそうなくらいにふらつき、肩で息をしていた。慌ててミクリが身体を支える。
「…すまない! ヒスイ君を頼む!!」
「へっ。それでいーんだよ」
ホタルが懐からキラキラと輝く何かを取り出す。
「それは…?」
「こうえんのはね。不死鳥ファイヤーの羽毛だ。こいつをこうして、使うんだよ!!」
燃えるように煌く羽根を、ヒスイに向けてかざす。すると、心なしかヒスイの顔から疲労の表情が薄らいだように見えた。
「外傷が無くて助かったぜ。こいつは命に灯す不死の炎。怪我さえなけりゃすぐさま全快よ」
かつての友を解毒したフ