あのまぼろし島へ ニライカナイ

1 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/07(Thu) 12:38:14 ID:LsTV.9Mc
世界観は短編より五年後。
ニライカナイは沖縄の方言で『彼方』という意味合いを持つようです。
短編より一味違うので宜しくおねがいします。

#トリップ変更、というより紛失したので仕様。
 IPで解かる筈。

2 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/07(Thu) 13:08:14 ID:LsTV.9Mc
 あれから一度も目にしない。
五年前に、イカダに乗って。
五年前に、ミミと出会って。
五年前に、アブソルと闘って。

あの一日は、五年前。

(1)

 キナギタウン。
水面の上に木で作られた家々が軒を連ねる、小さな町。
 観光地としても人気があり、ここ数年開発が続いていた。
 なぜ水の上に家が建っていて沈没しないか――、というと、
木々の下にはサニーゴ達が巣を作り、陽光を避けていたからである。
水中に居る限り心配はないが、水面に顔を出しつづけていれば、間もなく
自身の身体が日に焼け、やがて朽ちてしまうためだった。
 なのに、この町は本土の人間達により手が加えられ、人間にのみ住みやすい環境になっていった。
丁度避けられる範囲だったのに、町の拡張のため長い距離を移動しなければ陽を浴びれなくなったのだ。
たとえ陽が苦手でも、たまには浴びなければ身体が冷え免疫がなくなってしまう。
だが、それと比例し移住してくる者も増え、少年と少女の友人も瞬く間に増えていった。

 ――彼女、カナイは時折それについて頭を抱える事があった。
五年前。ニライと共に行った島――。
気付けば、もう十六歳になっていた。
 ベッドに降り注ぐお天道様の陽は、それの上で寝転がるカナイをも照らした。
「太陽と空だけは変わらないわねえ」
 ふう、と吐息する。
上半身だけ起こし、脇においてある置時計に目を見遣る。秒針は九時を刺していた。
休みだからといってだらだらし過ぎだ。
「起きようかな……」
 続いてベッドから降り、洗顔して着替える。
あの時と変わらぬワンピースをカナイは好んで着込んでいる。
 それからモンスターボールから二匹のポケモン、ジュゴンとソーナノのミミを放す。
 当時は名称不明だったソーナノも、直ぐに繁栄し科学者によりデータが完成していた。
 そして、パウワウだって進化していたのだ。
台所からポケモンフードをつかみ、与える。
「よく噛んで食べてね――」
「ナノっ!」
「ゴーン」
 勢いよく貪るのを眺めながら、途端用事を思い出す。
「あ、そうだっ!」
カナイは突然顔を綻ばせ、長い金髪を孕ませリビングへ急いだ。
手に取ったのは――、受話器。

約束があるのだ。

3 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/08(Fri) 16:27:28 ID:eXUwwCDE
 ――約束。
彼はあの時、少女に向けて
「いつかまた来ようぜ」と言い放った。
あれから、五年。
いまだ、変化は現れない。照り付けるのは、てぃーだ(太陽)。

(2)
 まあ口約束だし<<あれ>>はそう簡単に現れるものでもないので
カナイは少女の頃の色濃い思い出として胸に仕舞っていた。
――ニライ。
 ニライとは、近所に母親と二人で暮らしている少年、いや青年だ。幼馴染み。
 十二歳で異例のホウエンチャンピオンに輝いた経歴を持つ。
勿論頂点には昇るものもなく結果的に下を見つめている――という形だけなので
毎日玉座に鎮座しているのが厭になった彼はわざと勝負に敗れ、戻ってきたのだった。
 そして、彼が帰ってきてから一ヵ月後、あの島が現れたのだった。
「あー、もしもーし?用意、出来た?私今起きたからさ、ごめん、誰か
 クビチリドゥン誘うから!後十五分!頼んだわよ〜」
 クビチリドゥン、というのは<<仲のよい友達>>という意味だ。
最近は方言も衰退し、使用頻度も減少しているらしく、彼女は故郷の文化を
なくしたくないという気持ち一心で勉強しているのだった。……まだ拙いけど。
 そして今日はニライが十七歳から取得可能のヨット免許を獲得したため、
誰か誘ってカイナシティへ行く事になっていたのだ。
「うん、ジュゴンもミミも食べ終えたわね、行くわよ!」
 机上のボールを二つ、ポケモンにむけて投げる。
ボシュン、と慣れない音と閃光が聴覚と視覚を惑わせる。気がつけば彼らはボールに納まっていた。
 カナイは藁で出来たバッグと、麦わら帽子を被って家を飛び出した。

「おせえよ、自分で誘っといて」
 海岸は波打っている。熱を持った砂と、麦藁帽子。
 青く艶がかかった髪を持つ少年が言う。
傍らには正しく長身痩躯、という感じの男の子が佇んでいる。
「ごめんって。えー、……それでどちらかしら、彼」
 カナイは青い髪の――、ニライへそう問い掛ける。
ニライは蒸し暑い温度に抗うようにシャツで仰ぎながら返した。
「馬鹿、この間京都から越してきただろ。ササクレだ、神足ササクレ」
「<<ちゅーやあちさいびーん>>、カナイさん、と……むう」
 ササクレは<<今日は暑いね>>と受け売りの言葉で挨拶する。
どうやらカナイのことは訊いていたらしいが、こちらが連れてきた子のことは知らないらしい。
カナイが紹介しようとしたところ、後ろでにこにこと笑顔を振り撒く女の子が出てきた。
Yシャツにデニム、キナギスタイルでは……ない。
「あたしは榊原桃っ。本土人じゃないけど方言なしでいいよっ」
 そういう桃の周りにはチルットが飛び交っていた。二匹。
この子はいつもふぁんしぃ(棒読み)だなあ。
「――自己紹介はいいな、よし」

「じゃあ、行くぞ!カイナシティ!乗り込めーッ!」

すると、突然バサッ――と、帆があがった。
二度目の、始まり。

4 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/09(Sat) 15:17:32 ID:okPtusxc
 ――あの日と変わらない蒼空。
無神経そうに浮かぶ雲も目に入らず、ただただその色は強調性を強めているようにみえた。
……あの日が、またやってきてくれたら嬉しいな。

(3)

ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ。

 帆は音を立て風に乗る。
キナギ周辺では潮が激しい箇所が幾つかあり、それも手伝って更にヨットは速度を高めていた。
「涼しいねえっ……あ、チルット、無理に飛んでないでいいよ、膝の上に乗ってて」
 モモが楽しそう言うのを横目に、カナイはニライを凝視していた。
いや、見つめていたっていうのもなんか恥かしいし。
 それにしても身長高くなったなあ。前は同じくらいだったのに。
なんだか悔しい気分に浸りながら、ミミの頭をくしゃくしゃ撫でる。
「よし、風の角度も丁度良いな。後十分位でつくぞ」
 ふう、と吐息するとニライが嬉しそうに呟く。
ササクレがそれに気付いて、
「ニライ達しまんちゅはカイナとかもよく行くの?」
…そう訊ねた。
 因みに<<しまんちゅ>>は島の人、という意味だ。恐らくこれも受け売りだろう。
「まあなー、買い物行くのにも一番近いし。
 俺はカイリュウで空飛んでどこでも行けちゃうんだけどな。
 この辺はあんまり飛行系のポケモンいないから、割合よくいくよ」
へえ、とササクレは相槌する。
「――それにしても、風が涼しいわね」
「ははっ」


 案の定、カイナシティは人で賑わっていた。
初夏の風は気分が安らぐ、そんな目的や、やはり水泳目当てで来る者が多いのだろう。
 取り敢えず想定していた事ではあったので四人は他の所へ行く事にしたのだった。

5 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/09(Sat) 15:23:54 ID:okPtusxc
さてさてこの辺までですかねプロローグは。

もうじき本編へ移ろうかなという勢いです。
まあどうでもいいといえば良いんだろうけれども今作は八割方完結させますので
管理グループの方々宜しく頼みます。
四人が四人重要な役割を持たせて矛盾を折り交えて厭な終わり方になるでしょうけれども。

それではまた今度。

6 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/11(Mon) 13:53:30 ID:d3ZEDfs6
つ、つけたし!

クビチリドゥンやらしまんちゅやらは一応沖縄弁です。
決して造語とかじゃないんで。ね。うん。
あ、いや変な目で見ないでまぢまぢ!(ry

今日中に多分更新します。

7 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/11(Mon) 19:45:13 ID:d3ZEDfs6
――Can you feel?
It is from the reverse side of
an eyelid about the recollections of that day.

(4)

水面には赫を交えたポケモン達がうっすらと映える。

「あんまり変わり映えしなかったな」
 ぼそり。
 ニライは前進させるためササクレと共に息も絶え絶えにイカダを漕ぐ。
この時間帯になると何故か一帯の流れが緩やかになり、帰還も楽々である。
 時は、夕刻。
心地良い風と、夕日の赫に全てが包み込まれる。
 この地方最大の魅力でもある情景が彼らをさも当たり前のように赫が染めていた。
「モモ、どんな服買った?」
 カナイはモモに笑みを向け、モモもそれに同じ様にして返す。
どこにでもある笑顔が、そこにはあった。

ところが、非日常というのは唐突に現れるものなのであった。

「――ねえ、ニライ。あれって、何かな?あんなのあったっけ」
 突然ササクレが、イカダを降りたときにそのようなことを口にした。
三人が振り返ると、確かにそこには大きな島が霧に隠れつつ見え隠れしていた。
「――!」
 二人が後退する。もしかしたら。
「まぼろし島、だね」
 まぼろし島?
「おう」
 見えている?
ニライとカナイは心なしか足を一歩踏み出していた。
「っと、ニライくん?カナイーっ?」
 モモが宥める――というよりは呆れた眼で二人を見遣る。
「早く行かなきゃ、ニライ、ササクレくん、モモ、一旦家に帰ったら集合しましょう!
 あの島が、まぼろし島が消えちゃう前に!」
そうとだけ言い残すと、カナイは全速力で自宅に駆けていった。
「待て待て待て、何この状況は」
 ササクレが血相を変えていった。ただ事ではない臭いを嗅ぎ取って、だろう。
モモも同じ様な具合に困惑しているようだった。

「んーっ、まあいい、よく聴いてくれよ、あの島はな――」

 ニライは急かす自分を抑えつつ、大急ぎで彼らに説明を始めた。

8 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/12(Tue) 14:45:23 ID:LlsvEdr2
I consider a phantom.

(5)

「うん、大まかには解かったよ。……で。あそこには何があるんだい?」
 ササクレは霧に包まれた孤島へとニライから視線を移す。
「前は特に何もなかったけどどこか人を引き寄せる要素があそこにはあるんだ」
いつかどこかで聞いたような言葉を抜粋したような形で彼は言った。
 ササクレもモモも、どちらかといえば疲れている身体を休めたいという気持ちが先立っているようだった。

――と、その時。

轟音。

耳を劈く。

鼓膜を刺激し完膚なきまでに破壊するかのような――、音が聞こえた。

「な、なにっ?」
 モモが叫ぶように声を張り上げたが、それが二人に届く事はなかった。
威圧、圧制、圧殺、されそうだ。

 耳を塞いでいても耳元で警報を鳴らしたような音は暫く続いた。――そして、終わった。

「……っつうッ……」
「……うー、…ねえ、今の音って、もしかして……」
 ササクレが搾り出すように声を出す。
ニライは、木霊する反響音を抑えるように眉間に皺を刻みながら、頷いた。
「じゃあ、やっぱりまぼろし島、なの?」
「だろうな、っていうかモモはなんで案外平気みたいな顔してるんだよ」
 彼はふらふらとよろめきながら、その場にへたれ込んだ。
モモは、うん?と小首を傾げると十数秒経ってようやっと意味を理解したらしく、
「チルットの神秘のベールがあったから、多分2/1位だったんじゃないかなっ?」
おい。何で俺らにはかけてくれないんだよっ。
「はあ。まあいい、兎とにかく俺は行くから。二人は覚悟できたらまたここに集まろう。
 食料は――、まあ持ってきておくといいかもしれない」
 ニライはくすっと微笑すると駆け足で去っていった。
「ニライー!寝袋はー?」
とササクレ。
「要るぞー!」
「……何泊ー?」
とモモ。
「この際二泊ー!」
「…………」
――そして二人が残された。


「ミミ、まぼろし島が現れたのよ、早く行きましょう!」
 それから家に戻ったカナイはちゃっかりと今日買った服に着替えて、
適当な荷物と共に再び家から飛び出たのだった。

9 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/12(Tue) 14:48:31 ID:LlsvEdr2
最後の二話は全く推敲なし、急かされるのは苦手です。
この辺まではやはり繋ぎになるので、本編は思考に嗜好と趣向を織り交ぜがんばります。

説得力なし。

10 :Sign ◆PXPHB5eCOM2005/04/13(Wed) 17:13:25 ID:5sCzyeDg
日常、日常、非日常。
そして非日常は日常へ。
非日常の物語。

(6)

 空は紺色に、少しずつ、そして着実に色を濃くしてゆく。
そして四人は――、集まっていた。
「行くか」
 ニライは騒音さえ聴こえぬ漆黒を仰ぎ、吐息する。
 木で作られた丸太が重ねられこの町は構成されているため、全員足元がぐっしょりと濡れていた。なんとも気持ち悪い。
「多分上陸者がいると直ぐには消えないっぽいからな、前に調べた説だけど」
 彼、ニライはTシャツの上に着ている上着の内ポケットから、『H』と刻み込まれたボールを取り出す。
すると中から、――カイリューが現れた。恐らく、ハイパーボールだ。
「うっわー、カイリューかよ……ニライすっげえ!」
ササクレは興奮して飛び跳ねて、モモが宥める。
 カイリューかあ。時たまニライが遠くへ行く時に空を飛ぶのを見たっけ。
カナイは自分が感傷に浸りつつある事に気付き、ニライに話し掛ける。
「ねえ、このカイリューであそこまで?」
「おう、一分かからないぜ」
 ニライは空の旅を満喫しやがれ、と最後に付け加えた。


 夜、月、星。黒、真暗、空。
夜の空は、月と星が空の中で輝いていた。どんな真暗な空にでも、星はある。
ありきたりに、そんなことを思わせる情景が広がっていた。


「あはは、本当に一分なんだねーっ、はははっ」
 モモは無神経に笑みを振り撒かす。
 今回は彼女がチルットの『神秘のベール』の枠内に入れてくれたため、風圧は気にせずに
まるで飛行機に乗っているかのような快適な空の旅が楽しめたのだった。……一分。
 チルットはきゅう、と一鳴きするといつものように肩元のブリーチ役に再び徹していた。
恐らく、出し入れされるのが好きではないというタイプなのだろう。このような例は決して少なくないらしい。
「それにしてもいかにもジャングル!みたいな空気だね、面白いや」
「まえはアブソルが襲って来たから、成る丈気をつけたほうがいいわよ、ササクレくん」
 カナイが少し冷めた声で言う。多分は本人は自覚していないんだろう。
「あ、ごめん。よし、じゃあそろそろいこっか」
 他愛のない会話を交えると四人は獣道をさくさくと進んでいった。


 完全に空は色を変え、無でも有でもない『黒』を染め上げる。
そんな空の下で、彼らは無言で歩を進めていた。
「あーッ、蚊は叩き潰してやるわ!このっ、このっ、素早い奴めえいっ!」
 キシャアアア、と歯を剥いて眉間に皺を寄せ両手に全身全霊の力を込めたカナイが叫ぶ。
入って数分でこの調子だ、全く。長続きするのだろうか――。

そして、それは再び聴こえた。

轟音、劈き、空が散る。

途端、一帯は光に満ちた――。

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