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40号が物凄くない勢いでひたすら書き続けるスッドレ
- 1 :40号 ★ :2004/03/19(Fri) 17:56:39
- ひたすら書き続けます。
感想もここにヨロシクねー
- 2 :40号 ★ :2004/03/19(Fri) 18:29:32
- しまった、書き忘れがあった。
ここは1,2レスほどで終わる、いわゆるSS(しょーとすとーりー)が中心となると思います。
長編は…他にスレッドを立てるかもしれません。そのときもヨロシクです
- 3 :40号 ★ :2004/03/23(Tue) 11:15:42
- 一人の少女がヤマブキに住んでいた。
頭は良く、運動もでき…そしてアイスが好きな完璧な少女。
そんな少女が11歳の頃の事だった。
ある日、親子そろって、シオンタウンに新しく出来たポケモンの為の塔――ポケモンタワーへ、お参りに行くことになった。
「私、怖いの苦手だな…。――終わったら、タマムシデパート行こうね!約束だよ!」
そんな事を云いながら、仲良く入っていく様は、誰が見ても普通の親子にしか見えなかった――。
全部で四階建てのタワーの中は、どこか懐かしい感じがした。
懐かしい、というより古ぼけた感じ、といった方が正確かもしれない。
――ケケケケケ。
二階へ上った途端、そんな声が聞こえ、彼女は慌てて振り返った。
しかし、そこにはどこか怪しい雰囲気を感じさせる墓石が置いてあるだけだった。
…きっと、気のせいだ。空耳ってやつだ――。
そう無理に自分に言い聞かせ、彼女はわざとらしくコクンと頷いた。
――ヒヒヒヒヒ。
またさっきと同じ、地の底から聞こえてくるような声に、彼女はまた振り返った。
すると、そこには紫色の何かがフワフワ浮いていた。
体があるようで無いその「何か」は、少女を見るとニタッと笑って見せた。
「ア、ア…アレ…」
父と母を突っつき、それを指差してみせる。
しかし二人とも、何も見えない様子で首をかしげる。
「あそこにいるじゃない!フワフワ浮いてる!」
二人は目を凝らすが、相変わらず何も見えないようだ。
演技とも思えないその様子に、彼女は怖くなってきた。
――バア!
そんな声がした途端、彼女の目の前にさっきよりもハッキリした何かが現れた。
「ファ…ファ…ファ…」
声を出そうにも声が出ない。
彼女の意識は、そのまま薄れていった――。
- 4 :40号 ★ :2004/03/23(Tue) 11:16:11
- 「ファックション!」
大きなクシャミと共に、彼女は静かに目を開ける。
目覚めたそこは、タマムシシティのポケモンセンターの椅子の上だった。
母が心配そうに、顔を覗き込んでいる。
「…大丈夫?」
やや青ざめた顔の母の言葉に、彼女はゆっくり頷く。
…あれは幻覚なんかじゃない。本物の幽霊だ――。
そんな事を考えながら起き上がる。なぜか体が痛かった。
窓からなんとか見えるポケモンタワーは、遠くにあるにも関わらず、入る前より大きく見えた。
「じゃあ、このままデパート行こっか!」
母は元気付けてくれようとしているのだという事はわかっているのだけど、なぜかそんな気になれなかった。
「ごめん。そんな気分じゃなくなっちゃった。私は先に帰るから、二人で行って来て」
それだけ告げると、足は家へと向けて走り出していた。何もかもが怖かった。
家に入り、急いでドアを閉める。靴を脱ぐと、気持ちを落ち着かせようと、冷蔵庫からアイスを取り出す。
食器棚の引き出しからスプーンを取り、自分の部屋へ駆け込む。
「いただきまーす!」
アイスを一口食べると、心が落ち着いた。
夢だったんだ、何もかもが。幽霊も、声も――。
そんな事を考えながら、スプーンを見つめる。
スプーンをジーッと見つめていると、自分が逆さまに映っていて面白い。
そして――気付くとスプーンは曲がっていた。
………………。
彼女は黙り込んだ。そして、暫しの沈黙の後、こう確信した。
…私は超能力者――エスパーなんだ。人に見えないものが見えるんだ――と。
- 5 :40号 ★ :2004/03/23(Tue) 11:17:04
- ――あれからどれだけの時が経っただろう。
彼女は、ヤマブキジムのジムリーダーとなっていた。
エスパーポケモンを扱う、完全無敵のジムリーダー。名はナツメ。
「……挑戦?」
ナツメが黙って見つめるその先には、一人の少年がいた。
「マサラタウンから来たのね」
少年は少し驚いた様子でナツメの顔を見る。
「何気なくスプーンを持ったら曲がって…。それから私はエスパーなの」
そう言うと、ナツメはモンスターボールを投げた。
中から出てきたのはユンゲラー。
続いて、少年もボールを投げると、言った。
「いざ、勝負!」
- 6 :40号 ★ :2004/03/24(Wed) 12:16:32
- 【キョウ&アンズ】
彼は、部屋に戻ると、机に置いてあった封筒の封を破いた。
一枚の紙がヒラリと抜け出てくる。
それを素早くつかむと、書いてある文字をゆっくりと読み上げる。
「四天王の一人としてあなたを迎えます…」
そこまで読んで、セキチクジムリーダーのキョウは深くため息をついた。
キョウが読んでいる手紙は、ポケモンリーグからキョウへ宛てられたものだ。
その内容は、近いうちにキョウを四天王の一人として迎えたい、というものだった。
キョウは、もう一度ため息をつくと、頭を抱えた。
確かに、実力を認められた事は嬉しい。
しかし、自分はまだまだこのジムを守っていかねばならない。
後を継げるものといえば――。
キョウは、頭にジムのトレーナーを思い浮かべる。
トレーナーこそ多いものの、実力のある者は少ない。
それに、キョウが信頼しているのは、死に別れた妻と、もうすぐ15になる娘だけだ。
どちらにせよ、信頼していない者にジムリーダーなど任せられるわけがない。
「…そうか!」
キョウは、思わず声を出していた。
そして、急いでその手紙への返事を書くと、布団を敷いて早々と寝てしまった。
- 7 :40号 ★ :2004/03/24(Wed) 12:20:24
- まだ日も昇らないうちに、キョウはジムの裏にいた。
そこへ、一人の少女がやってくる。
「おはようございます、父上。…私に御用とは?」
そう礼儀正しく言うのは、キョウの一人娘――アンズだ。
キョウが厳しい忍者修行を教え込んだ唯一の人物でもある。
「こういう事だ」
短く言って、昨日の手紙を見せる。
「父上が…四天王に?」
コクンと頷くと、アンズの目を見て聞く。
「拙者の後をついではくれぬか」
アンズは、少し考えたあと大きく頷いた。
「私にお任せください。セキチクジムを立派にして見せます」
「そう言うと思っておったぞ」
朝日が昇り、小鳥が囀り始めた――。
あっという間に数ヶ月が過ぎ去っていった。そして、ついにキョウの旅立ちの日となった。
ジムの前の看板も、キョウの名前が書かれたものは処分され、新しい看板を立てるばかりとなった。
「頑張ってください、父上」
震える声でそう言うアンズは、目が少し潤んでいた。
「ああ。後は任せたぞ」
大勢のセキチク市民が見守る中、キョウはピジョットに乗って旅立っていった。
そして、アンズの名が書かれた看板がジムの前に立てられる。
どこからか自然と拍手が起こる。
カントー地方の歴史に、新しいページが刻まれる――。
- 8 :40号 ★ :2004/04/06(Tue) 11:41:16
- 【キキョウジム ハヤト】
「ハヤト…あとを頼む」
その一言とわずかなお金…そして、十四歳のハヤトを残して父が死んでから、もう五日が経っていた。
キキョウジムの入り口には、「ジム戦休止中。バッジが欲しいならどうぞ」と書かれた紙が吊り下げてある。
父が死んだ今、小さなこのジムのジムリーダーを務める事の出来る者はいないからだ。
夜。誰もいないジムの中、ハヤトは一人で、以前は父が立っていた場所に座っていた。
とても広いとはいえないジムだったが、以前は、次々と挑戦しに来る新人トレーナーで、活気に溢れていた。
しかし、今は――。
壁は汚れ、床には埃が落ちている。まるでジム全体が泣いているかのようだ。
「……ちくしょう!」
ハヤトは叫んだ。声が虚しく反響する。
「何で死んじゃったんだよ!」
そう言うと、ハヤトは声を上げて泣いた。ジムと共に泣いた。
- 9 :40号 ★ :2004/04/06(Tue) 11:41:38
- 気付くと朝になっていた。
泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。
「……あれ?」
壁には、昨日は無かった袋が立てかけてあった。
慌てて袋を開けると、父の文字で書かれた手紙と、モンスターボール二つが入っていた。
――ハヤトへ。
私が居なくてもお前ならやって行ける筈だ。
そんなお前にキキョウジムを継いで欲しい。
この二匹を使いこなすのだ――。
そこまで読むと、今度はモンスターボールを手にとってみた。
モンスターボールからは、ポッポとピジョンが出てきた。
それを見て、ハヤトは全てを理解した。
これは、父が自分に残してくれたポケモンだ、と。
小さい頃、よく父のポケモンを見せてもらった。
その中でも、一番ハヤトが関心を示したのが、額に傷のあるポッポだった。
このピジョンはあの時のポッポだ。額の傷があのポッポと同じだもの――。
ハヤトは、二匹の頭を優しく撫でると、ジムの入り口の紙を丸めると、ゴミ箱に捨てた。
キキョウジムリーダー、ハヤト。此処に有り――。
- 10 :40号 ★ :2004/04/22(Thu) 20:24:05
- 【ミナキとスイクン】
その出逢いは、暗い夜道だった。
看板が光るだけの壊れた自動販売機には虫が群がり、ゴミ袋にはニャースが陣取っている。
「…どこかに…どこかに必ず、私を必要としている場所がある筈だ!」
青年、ミナキはその道を歩いていた。
今の仕事は自分には向いていないんじゃないか――そんな事を考えながら。
「…くそっ!」
そう言って、足元の石を蹴る。用水路に落ちたらしく、ポチャッと音がする。
…自分の思い描いていた夢はこんなものだったのか――?
子供の頃の作文には、「珍しいポケモンを集めたい」と、原稿用紙で四枚分も書いてあった。
自分が珍しいポケモンを手に入れた姿を夢で見たりもした。
しかし、今は――。
大きなため息をつくと、服が汚れるのにも構わず、ヨロヨロとその場に座り込む。
どこでどう歯車が狂ってしまったんだろう――。
その時だった。
前方から、何やら大きく青い獣のようなものが走ってくる。
そのポケモンは、子供の頃に何度か夢に出てきたあのポケモンにとてもよく似ていた。
そのポケモンは、ゆっくりと走りながらミナキの方へ近づいてくる。
ミナキは、口をぽかんと開けたまま、すっかりそのポケモンに魅入られていた。
そのポケモンは、まるで幻のようにミナキを通り越し、ミナキが来た方向へと駆けて行った。
「あれは…一体…」
数年が経った。
あれからミナキは、未だにあの青い獣のようなポケモンを追っていた。
神話にも載っているあのポケモンの名前は、スイクン。
そして、「スイクンはジョウトへと渡った」という噂を聞き、ミナキはジョウトへと向かった。
そして――。
- 11 :40号 ★ :2004/04/22(Thu) 20:25:25
- >>10は掲載しないでね。なんか微妙だから>デュルー
ということで、要望、りくえすと、何でもござれ。
- 12 :40号 ★ :2004/04/23(Fri) 19:30:16
- 【マツバ】
真の実力を持つトレーナーの前にそのポケモンは現れる――。
代々言い伝えられているその言葉を信じ、彼は修行を続ける。
父の夢を受け継いで――。
彼は、エンジュジムの後継ぎとして生まれた。
言葉がわかるようになってからは、毎日のようにこの言い伝えを聞かされた。
――エンジュの塔の最上階に、伝説のポケモンがいる。
真の実力を持つトレーナーの前にそのポケモンは現れる――。
喋られるようになってからは、その言葉を毎日言わされた。
「マツバ。これは、父さんのそのまた父さん…お前のお爺さんが言っていた言葉だ。
お前もいつか、この言葉の意味がわかるときが来るだろう…」
そんな父の言葉を、マツバは黙って聞いていた。
ただ言葉を聞いているだけで良いわけは無かった。
何度も、効率的なバトルの方法、心を落ち着かせる方法…そんなような物を教えられた。
町から出ることも禁止され、マツバの遊び場といえばエンジュの中だけだった。
それから、春が来て、秋が来て、また次の夏が来て…それが何回と繰り返され、マツバは青年となった。
マツバが17の時に父が死んでから、ジムリーダーにもなったマツバは、よりたくましく見えた。
…父さん。あの言葉の意味、わかったよ――僕が父さんの代わりに夢を叶える――。
たまに、父の写真にそう語りかける。
その度、写真の父の顔は喜んでいるように見えた。
また何度も春が来て、過ぎ去っていった。
人には見えないもの――ゴーストが完全に見えるようになったが、まだ伝説のポケモンはマツバの前に姿を現さなかった。
しかし、その気配を薄々と感じ取ってはいた。
夢に姿が出てきたこともあったし、エンジュの空をそのポケモンが飛んでいるのを見たような気もする。
ある日、マツバは帽子をかぶった少年とジム戦をした。
その少年の腕はかなりのもので、油断していたマツバはあと一歩のところでやられてしまった。
少年の姿を見て、マツバは考えた。
もしも自分が、ジムリーダーとしてじゃなく、ワカバタウンかどこかの普通の少年として生まれていたらどうだったろう、と。
一瞬だけ、それに魅力を感じたが、もう後戻りはできない。
こうして生まれた以上、このまま最高のジムリーダーになってみせる――。
真の実力を持つトレーナーの前にそのポケモンは現れる。
代々言い伝えられているその言葉を信じ、彼は修行を続ける――。
- 13 :副管理人 ★ :2004/05/17(Mon) 20:25:34
- 【カツラ(1)】
あの噴火から三年が経った――。
横穴から、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
中には二人の男。
「何の用かね?」
カツラの言葉に、グリーンは首を振って答える。
「用は無いよ。ただ、近くに来たからよっただけさ。それにしても――」
「ここも変わっちまったな、とでも言うんだろう?」
これにはコクリと頷いた。
「そうさ。そして…あんたもな」
「年には勝てんさ」
そう言って、寂しげに笑う。
「そうだ、ついさっき珍しくトレーナーが来た。実にいい目をしていたよ」
「…勝てたのか?」
グリーンは、少し期待しているような声だった。
「想像にお任せするよ。でも――」
一旦言葉を切り、グリーンを見つめる。
「――あいつは伸びる。間違いない」
「…なんでわかるんだ?」
グリーンの問いに、フッと笑い、頭を撫でながら答える。
「あの子――レッドと同じ目をしていた」
そう言うと、思い出したように呟いた。
「お前と戦ったのはいつだったかな。まさか、お前が仲間になるとはな――」
言葉を遮るように立ち上がると、ズボンのお尻の部分を叩く。
黒いズボンは、埃でお尻の部分だけ真っ白になっていた。
「じゃあな、もう行くぜ。ジムをいつまでも留守にしとくわけにもいかねえからな」
「そうか。…さっきの少年、まだいるかもしれないぞ。なんにしろ、いつかお前も会えるだろう」
グリーンはその言葉に微笑むと、ウィンクしながら出て行った。
そして、また時が経つ――。
- 14 :副管理人 ★ :2004/05/18(Tue) 19:47:05
- 【ライバル】
少し乱れた呼吸で、その赤い髪の少年はニューラに命令する。
ニューラが素早く動いたかと思うと、凍り漬けとなったゴローンが床に転がる。
年齢にしてはかなりの腕前だ。通りかかったピジョットを連れた青年が羨ましげに彼を見る。
ニューラに向かってわずかに微笑むと、少年はまた歩き出した。
わかってきたような気がする。あのマントの奴が言った事――。
ポケモンと一緒に床に寝転がりながら、そんな事を考える。
「愛情、か…」
ポケモンに愛情なんて必要無い――そう考えていた昔の自分が恥ずかしくなる。
まるで、ロケット団みたいじゃないか――と。
ゴルバットの進化系のクロバットがいると知り、進化するようにビシビシ扱いていたあの日。
無理に戦わせ、戦闘不能にしてしまったあの日。
結局は進化しなかったが、今となってはもうそんな事はどうでも良かった。
ポケモンと楽しく過ごす。それもトレーナーとしては大切だと気付いたからだ。
「さてと…そろそろまたトレーニングするか?」
ポケモン達が頷いたのを見て、少年は立ち上がった。
すると…そこへ、サイホーンの群れが突進してきたのだ。
少年は、慌てる事無く命令した。
「ゴルバット、吹き飛ばせ。ユンゲラー、サイコキネシスだ。ニューラは…ふぶきだ!」
命令通りに次々と動く三匹のポケモン。
あっという間に、サイホーン達は洞窟の向こうへと飛んでいった。
「良くやったな、ユンゲラー、ニューラ。それに、ゴルバ――」
少年の目は、ゴルバットに釘付けになった。
ゴルバットは、明らかに様子がおかしかった。
だんだんと変形し、体は薄紫になっていく。
三十秒ほどすると、変化は止まった。
「ゴルバットが…進化した?」
少年は、強くゴルバット…いや、クロバットを抱きしめると、心から嬉しそうに言った。
「よろしく、ゴルバット…いや、クロバット!」
ゴルバットがクロバットに進化するのに必要なもの。少年はそれを知った…。
- 15 :40号@副管理人 ★ :2004/05/18(Tue) 19:50:14
- 言わずともわかるかもしれませんが、>>13-14は自分なのです。
ちょっとイロイロ忘れてました。
それにしても、二日連続で書くなんて我ながら珍しいです。雨降りそうです。
今後も、40号をよろしくー!
- 16 :40号@副管理人 ★ :2004/05/19(Wed) 20:42:24
- あ、すみません、台風来ましたね。
沖縄の人、ごめんなさい、怒らないで下さい。
ネタも無いのに投稿(´・ω・`)
- 17 :Sain :2004/05/23(Sun) 12:40:41 ID:vztTxn2U
- 40号様リクです〜
トレーナーと勝負するポケモンの心境、みたいな物を見てみたいです。。
最終的には捕獲、と。心境描写も細かく書いて頂けると嬉しいです〜w
#自分も書かせて頂こうかと思っておりますので宜しくお願いします。
- 18 :40号@副管理人 ★ :2004/05/29(Sat) 18:38:39
- 【マチス】
季節は、冬。
錫色の空からは、真っ白な雪が、まるでじょうろで水をやっているかのように降ってきている。
「雪か……」
窓から見える景色がだんだんと白く染まっていくのを見て、マチスはつぶやいた。
戦場――。
錫色の空からは、雪と共に無数の爆弾が降ってくる。
いや、空が降らせたのではない。敵軍の飛行機が降らせたのだ。
誰かが死ぬたび、敵軍の兵士の言葉が聞こえる。
異国の言葉なのでほとんどわからないが、確かに喜んでいるようだった。
たくさんの軍人の苦しみの声が聞こえる。
家族の名を呼ぶ者、大声で泣く者。
しかし、そう苦しみ死んでいった者は、降り積もる雪に隠されていく。
一体、何の為に戦争をしているのか――そんな事は、もう忘れていた。
とにかく、敵を倒さなければならない――それだけだ。
「皆、狂ってる――」
そうつぶやいたのは、あろう事にカントーの陸軍の将官――マチスであった。
側に居るビリリダマは、ストーブの代わりだろうか。
その横で、短い茶髪の男もうなずく。
「この戦争はカントーが負ける。……間違いない」
雪は、止まない……。
そして、また、次の冬が来た。
マチスは、鞭を持った金髪の男たちに囲まれ、ただひたすらに働いていた。
一日十五時間。少しでも手を休めると、男たちはすぐに鞭を振るう。
そして、その金髪の男たちの中に、短い茶髪の彼も居た。
同じ軍服を着て、同じ鞭を持って。
彼は、少し怯えたような目でマチスを見る。
裏切ったんじゃない……しかたがなかったんだ、とでも言うように。
ポケモンさえも奪い取られた。
マチスの電気ポケモンは、発電に使われた。
すでに、あの時のビリリダマはマルマインに進化していた。
また、ちょうどこの頃、カントーがようやく降伏し、戦争も終わりを告げた。
しかし、マチスはそれを知らない。
春は思ったよりずっと遠くにあった……。
そして、また冬が過ぎ、ようやく春が来た。
マチスは、船に乗ってカントーへと帰ってきた。
しかし、隣には誰も居ない。無事に戦場から帰ってこれたのは、マチスだけだった。
「春とはいえ、まだまだ寒いな……」
マチスはつぶやいたが、それは気のせいだったのかもしれない。
また冬が何度も過ぎ去っていった。
そして、今の季節は、冬。
だが、あの地の冬とは比べ物にはならない。
やっぱり、カントーの冬は暖かいな――マチスは、改めてそう思ったのだった。
- 19 :40号@副管理人 ★ :2004/05/29(Sat) 18:44:14
- …無駄に長い(´・ω・`)
Sain様(>>17)のリクエストには、その内答えますです。
- 20 :40号@副管理人 ★ :2004/06/06(Sun) 20:44:25
- 【モノマネむすめ】
その少女は、もう何年も外に出ていなかった。
学校になんか行かない。――友達が居ないから楽しくない。
別に、友達なんていらない。――すぐ裏切るから。
そう考えた後、少女は部屋を見回した。
――その点、このぬいぐるみ達は裏切らない。
自分勝手な都合で離れて行ったりもしない。
……部屋を見回していた少女の目が、ピッピ人形をとらえた。
この人形――。
黄色い帽子を逆にかぶった、無口な少年。
前にきている帽子の穴から、前髪が飛び出している。
その少年は、少女にやさしく、ピッピ人形を手渡す。
「あの――」
少しうつむきながら、リニアの定期券を少年に渡す少女。
その少年は、ニコリと笑うと、初めて少女の前で口を開いた。。
「ありがとう!」
透き通ったような声。――少なくとも、彼女にはそう聞こえた。
少女は、その笑顔に何も言う事が出来ず、ただうつむいていた。
あの人に、また会いたいな。
私からの二つのメッセージを、あの人に届けたい。
「ありがとう」――そして、「友達になろう」の二つの言葉を――。
- 21 :40号@副管理人 ★ :2004/06/07(Mon) 19:30:20
- 【ツクシ】
「虫ポケモン博士」――それが、友達との間でのぼくのあだ名。
でも、それが思い込みだ、って事に気が付いた。
所詮、井の中にいた蛙は大きな海では泳げない。
ぼくだって、それと同じ。
でも、それならそれでいい。
ぼくは、井戸の中でのんびりと泳ぐから――。
ぼくが、そう思い知ったのは、今から二時間前。
一人の少年が、2vs2の公式バトルをぼくに申し込んできた。
その少年はなんと、ぼくに挑む人としては珍しく、ぼくと同じ――虫ポケモンを使ってきた。
「ぼくに虫ポケモン同士の戦いを挑むなんて――」
余裕の笑みでそう言ったぼくを、その少年は複雑な表情で見ていた。
その少年はまず、コンパンを出した。
そのコンパンのレベルは、ぼくの一番手――トランセルとだいたい同じのようだった。
そして――審判の笛と共に、勝負が始まった。
素早さは相手の方が上だったようで、少年のコンパンは激しく地面を蹴り――そして、跳んだ。
トランセルの真上に来たところで、コンパンは粉を撒き散らす。
「トランセル、避けろ!」
しかし、広範囲に撒かれた粉を避ける事はできない。
粉を浴びたトランセルは、転がり――そのまま、起き上がらなかった。
「トランセル!」
「……一撃か」
少年が、ややつまらなさそうにつぶやく。
「まだ次がある。――行け、ストライク!」
ストライク。頼りになる、ぼくの切り札。
「はじめるよ!」
ぼくの言葉と共に、ストライクが空気を切り裂く。
「ストライク、れんぞくぎり!」
ストライクが、何度もコンパンに斬りかかる。
相手は、何も言わない。黙って、コンパンを見ている。
と、その時――ストライクの動きが止まった。
「ストライク……?」
「コンパン、サイケこうせん!」
少年の指示で、コンパンの目からレーザーのような光線が――と思うと、ストライクはジムの壁に叩きつけられていた。
「ストライク、戦闘不能。よって、挑戦者の勝ち!」
予期せぬ事態に少し焦ったように、審判が言った。
「ストレート勝ちか。――ボーリングで言うと、ストライクってやつだな」
ぼくは、彼に、ポケモン勝負では負けたが、ユーモアのセンスでは勝てる、と確信した――。
今まで、試合に負けることはあっても、相手が悪かった、と思い込んできた。
でも、今回は違う。相手は虫ポケモン。そして、レベルは同じ。――完全なる敗北だ。
――考えてみれば、ぼくの知識は書物で得たものでしかない。
虫ポケモンと触れ合う――それを前にやったのはいつだっただろうか。
「ストライク――」
ぼくは、ストライクをボールから出した後、言う。
「遊びに行こうか。――森なんてどうだ?」
「シュワッ!」
ストライクのこんなに嬉しそうな声を久々に聞いたような気がする。
ごめんね。もう、無理しなくてもいいんだよ――。
- 22 :40号@副管理人 ★ :2004/06/13(Sun) 18:38:58
- 【アオイ】
「あ……」
久々の日曜日。
人気のDJであるアオイは、思わず立ち止まった。
溢れんばかりの人の中に、見覚えのある顔を見つけたような気がしたからである。
しかし、向こうは、こちらに気付く様子もなく向こう側へと歩いていく。
「クルミ……だったのかな……」
そう、アオイが見たのはクルミだった。
「クルミ……」
アオイは、ポケットに入ったハンカチを握り締めた。
クルミは、アオイにとって良きライバルであり、尚且つ、良い友達でもあった。
以前は、よく二人で遊びにいったりもしていた。
百貨店の屋上で安売りがあると聞けば無理してでも予定を空けたし、休みは、たまにゲームコーナーへも行っていた。
それが今は――。
今やクルミは、10作以上の映画、テレビ番組を掛け持ちしていると聞いた。
「困る事も色々ある」と言っていたが、そう言う目はキラキラ輝いていた。
アオイは、それと同時にクルミからのメールを思い出した。
最後にメールを貰ったのが、もう数ヶ月前。
アオイから出した遊びの誘いの返事だ。
しかし、そのメールさえも、「ごめん、忙しいんだ」の文面が踊っていた。
その前のメールも、その前の前のメールも……。
気付けば、受信トレイの半分はそんなメールで埋まっている。
――仕方ないよ。仕事だもんね。
毎度、そんな風に返信してはいた。けれど――。
やりきれない気持ちになったアオイは、コガネゲームコーナーへと向かった。
方向音痴のアオイでも、ゲームコーナーの場所は忘れていない。
あの良く出る台、空いてるかな……。そんな事を考えると、足が速まる。
「久しぶりだな……」
そのつぶやきと共にゲームコーナーの扉を開けたアオイは、目を疑った。
あの良く出る台には、クルミが陣取っていたのだ。
クルミは、アオイに気がついたようで、驚いたような顔を見せた。
「どうしたの、一体?」
「久しぶりに休みを取ったの。アオイちゃんにも連絡しようと思ったんだけど……」
「そうなんだ……」
今日は日曜日。特別な事が起こる日――。
- 23 :40号@副管理人 ★ :2004/06/13(Sun) 18:41:54
- >>22
伝えたい事もないのにテーマだけで書くとこうなっちゃうんだね。
デュルーのクルミに対抗しようとしてました、ごめんなさい。
- 24 :デュルー@管理人 ★ :2004/06/13(Sun) 20:06:41
- >>23
いいじゃん。微妙に繋がってるやん!
これはいいですなぁ。
- 25 :40号@副管理人 ★ :2004/06/19(Sat) 18:31:23
- 【ガンテツ】
冬――。
ひんやりと、室内に冷たい空気が流れてくる。
一心不乱に作業机に向かっていた男は、その空気にブルリと体を震わせた。
「お爺ちゃん、見て!」
窓の外を指差し、興奮を抑えるような声で、少女が言った。口振りから見て、彼の孫娘だろう。
その言葉に、立ち上がった男――ガンテツは、窓へと向かった。
見ると、銀色の雪が、見事な舞いを見せ付けるように降っている。
「冬なんだな――」
その言葉に、少女が嬉しそうにうなずく。
私の名は、ガンテツ。このジョウトで唯一のボール職人だ。
もう、この地で冬を迎えるのは何回目になるだろうか。
数えるのも面倒くさい。何しろ私は、生まれた時からずっとこの地から出ていない。
その事で、現在、私は困っている。
私は、いつでも自分の腕を上げる事を目標にボールを作っている。
新しいものが作れるなら作りたい。だが、このジョウトには、ぼんぐりの種類は少ない。
私は、ぼんぐりから、ボールを作っているのだが――。
私の知らない地――ホウエンの奥深くには、かなりの種類のぼんぐりがあるという。
それを使えば、新たなるボールを作ることができるだろう。
しかし――。
私は、この地から――いや、ヤドンや虫ポケモンの沢山いる、この小さな町からさえ離れるのが嫌だ。
私の孫娘は、決まってこう言う。
「いいよ、お爺ちゃんの好きなようにすれば。私は、どこに行ってもお友達、できるから――」
それで、私はいつも悩んでしまう。
見ると、孫娘は、まだ、雪に覆われていく風景を見ながら、微笑んでいる。
――その笑顔を見て、私はついに決めた。
この風景は、まだまだ捨てはしない。そして、この家を離れはしない――と。
- 26 :40号@副管理人 ★ :2004/06/19(Sat) 18:35:14
- 祝、十本目
ってやろうとしたら、数え間違えてたよ。
どうやったら二本も間違えるんだろうね。あはは。
笑って下さい。
- 27 :40号@副管理人 ★ :2004/06/21(Mon) 19:45:25
- 【曜日兄弟&ワタル】
ポケモントレーナーに協力する事。――それが、彼女にとっての「喜び」だ。
もちろん、それには理由がある。
思い出したくない、理由が――。
夜――。
人通りの少ないこの場所で、一人の少女が黙って座っていた。
「お腹がすいた」「寂しい」――そんな様々な思いが、彼女の中を巡る。
まだ彼女には、事がよく呑み込めていなかった。
無理も無い。――まだ幼い七人の子供を残し、両親が二人揃って旅立ってしまったのだ。
そうなると必然的に、最年長――ツキコが、兄弟を養う事になる。
――遊びたい盛りの年頃であるツキコには、重すぎる荷であった。
「バカ……」
ツキコの目から、涙がこぼれる。
兄弟の前では、決して見せない涙。今の内に、全て流してしまおう――。
運の悪いことに、気付くと、朝になっていた。
更に運の悪いことに、彼女は、無数のラッタに取り囲まれていた。
――こういうのを泣きっ面に蜂、っていうんだな……。
ツキコの心は落ち着いていて、こんなことを考える余裕さえあった。
それというのも、ツキコにはもう生きる気力は残っていなかったからだ。
「殺して――」
待ってましたとばかりに、ラッタの牙がツキコの喉に突きつけられる。
牙が、ツキコの喉を貫こうとした時――前方から、大きな声がした。
「カイリュー、破壊光線!」
その言葉と共に、ラッタの体がツキコの膝へと倒れる。
ツキコは、呆気にとられたまま、声のした方を見た。
見ると、マントの青年が、汗を拭っている。その青年は、ツキコの側に来て、言った。
「危ない所だったな。――俺の名前は――」
ワタルの言葉が止まった。ツキコが、感謝というよりも憎悪の感情を浮かべていたからだ。
「何で……何で助けるのよ」
その言葉に、青年が不思議そうな顔をする。
「私は……もう、生きるのが嫌なのよ」
そう言うと、彼女は、青年に洗い浚い事情を説明した。
話し終わったときには、もう流しきった筈の涙が、また頬を伝っていた。
「君の言いたい事は良くわかったよ。だけど――死んではいけない」
青年が、静かにツキコに言う。
「君が死んだら、兄弟たちはどうなるかわかるか?一度に三人が居なくなって……」
その言葉に、ツキコの目が見開かれる。
「君は生きなければならない。こうして生まれた以上、ね」
ツキコはもう、青年の言葉を聞いてはいなかった。
彼女の頬には、今までとは違う涙が、静かに伝っていた。
それは、悲しみの涙ではない。生きる喜びの、あたたかい涙。
「じゃあね。――俺の名はワタル。また、どこかで会おう」
ウインクを残して去っていくワタル。その姿に、ツキコは心から思った。
――トレーナーって、素晴らしいな……。
ポケモントレーナーに協力する事。――それが、彼女にとっての「喜び」だ。
そして、その喜びは、悲しみの何倍も大きい――。
- 28 :40号@副管理人 ★ :2004/06/21(Mon) 19:50:01
- >>27
テスト前なのにかきかき。…うん、テストなんて、気にしない。
ワタルと曜日兄弟という組み合わせの微妙さには目をつぶりましょう。
個人的に、結構、気に入りました。ワタルも出せたし。
- 29 :五教科合計440の40号@副管理人 ★ :2004/07/04(Sun) 08:33:42
- テスト終了。ぐーっと更新頻度も上がるかもっ……。
にしても、これでテストの結果が前回よりいいんだから、自分の勉強ってなんだったのやら。
- 30 :40号@副管理人 ★ :2004/07/15(Thu) 19:49:58
- 【カスミ】
――泣ける場所は、風呂場しかなかった。
恋人には振られ、バトルは不調――自然と流れ出す涙を、カスミは拭おうとはしなかった。
悲しみの混じった涙が、汚れの無い風呂のお湯に溶け込むのを、ゆっくりと待っていた。
「……だって、ちっとも会えないじゃないか」
恋人から最後に聞いた言葉が、ふと脳裏に浮かんだ。
二人は、遠距離恋愛だった。忙しさのせいで、電話さえ満足にしていられなかった。
――彼は、バトルに興味は無かった。最後まで、自分の腕前を理解してはくれなかった。
止まりかけていた涙が、また溢れてくるのを感じた。
自分で天職だと思ってきたジムリーダー業も、スランプ続きだった。
恋人との仲も、スランプの大きな理由だったのに、彼はそんな事を理解もしてくれなかった。
ポケモン自身が、自分への信頼を失いかけているのではないだろうか。――そんな不安まで抱いてしまう事さえあった。
風呂場の中、カスミはゆっくりと目を閉じた。
「ハナダジムリーダー、カスミ。――おてんばにんぎょ、か……」
彼女は、幼き頃に読んでもらった「人魚姫」という童話を思い出した。
人魚姫は、声を犠牲に陸へ上がる為の足を手に入れる。
――その時、頭の中で何かが繋がった。
そうだ。自分は人魚姫だ。そして、自分にとってのバトルとは「声」だ。
今まで、わざわざ「陸」へ王子様に会いに行くために、大切な声を失いかけていた。
――そこまで考えたカスミは、もう泣いてはいなかった。
わざわざ、陸まで上がって傷つく事は無い。私は、海の底まで潜ってきてくれるような、趣味の合う王子様を待とう――。
温かく広い風呂場の中、カスミはゆっくりと足を伸ばした。
辛い事、嫌な事――そんな事が、少しだけ溢れたお湯とともに流れ出たような気がした。
- 31 :40号@副管理人 ★ :2004/07/15(Thu) 20:01:42
- >>29に関しては、「前言撤回!」みたいな。
…いや、ちゃんと書きたかったんですけどねえ…。
部活は忙しかったし、推理物を書きたいし…。
とりあえず、推理物のタイトルは「殺人を演じた男」で決定しました。
さて、念願の(?)カスミです。
今回、ビックリするほど短く仕上がりました。
でも、一応まとまっていて…結構お気に入りの作品です。
追記:
遠距離恋愛にしたのは、理由があります。
どこかで、「このハナダの岬は絶好のデートスポットでカスミもあこがれてる〜」って台詞があったと思うんです。
でも、カスミにデートの相手が居ないって事は無いと思うし…。
…そんな事を考えていたんですが、多分誰も気付かないだろうから、自分で言っちゃいました。
- 32 :40号@副管理人 ★ :2004/08/06(Fri) 13:50:14
- 【シバ】
どれだけの間、こうして座っていればいいのだろうか。――四天王の一人、シバは考える。
この前にシバの元へトレーナーが来たのは、二日前。そのトレーナーさえも、シバの前へ散っていった。
「畜生……」
シバは、その言葉と共に、固く組んでいた足を真っ直ぐに伸ばし、傍らに置かれた「いかりまんじゅう」と印刷された、小さな紙袋に手を伸ばした。袋の中から掴み取った饅頭を食べ、大きな溜息を吐く。拳を固く握り締め、また考える。
――俺は、こんな事をする為に四天王になったのか……?
ここは、ホウエン地方にある、どこかの砂浜。
何匹もの格闘ポケモンたちが、体を鍛えている。
その横には、二人のトレーナー。彼らも、体を鍛えている。
「やはり、トレーナー自身も強さを追い求めねばならん。ポケモンばかりに頑張ってもらうのは、気の毒だ」
腕立て伏せをしながら、まだ若いシバが言う。
その横で、シバよりも更に若くハンサムなトレーナーが腹筋を鍛えながら頷く。
「そうですね。――シバさん、実は俺、この地方のジムリーダーになりたいんです」
その言葉に、シバの腕が止まる。ゆっくりとあぐらをかき、若者を見つめる。
「トウキ……どうしてだ? 何故――」
トウキと呼ばれた若いトレーナーは、ゆっくりと上体を起こし、シバを見つめる。
「強いトレーナーと戦いたいんです。ジムリーダーなら、強いトレーナーと戦う事ができるでしょう?」
シバは、しばらく何も言わなかった。やがて、ゆっくりと腕立ての姿勢に戻った。
トウキは、そんな様子をまっすぐに見つめている。
その眼差しに耐え切れなくなったシバは、溜息交じりの微笑と共に、また口を開く。
「俺も、同じさ。強いトレーナーと戦いたい。だから、強くなってそういう職に就きたい――」
夕焼け色の海が起こす波の音が、ゆっくりと響く。
それと同時に、シバの意識もだんだん――。
気付けば、シバの前には、一人の少年が立っていた。
赤い帽子には、八つのポケモンリーグ公認バッジ。
手に構えたモンスターボールからは、闘いたい、という気が伝わってくる。
久々の名勝負になりそうだ――そんな事を感じつつ、シバはボールを持った。
ボールの中のポケモンが、溢れんばかりの興奮に震えているような気がした。
<Fin>
- 33 :40号@副管理人 ★ :2004/08/06(Fri) 13:52:31
- 久々に赤帽子の少年登場ヽ(´ー`)ノ
でも、四天王だからジムリーダー制覇には近づけない罠orz
- 34 :40号@副管理人 ★ :2004/08/07(Sat) 16:18:03
- 【番外――シオンタウンの夜は更けて】
迷える魂が、今宵もこの街を彷徨う。この世にまだ未練が残っているのだろう。
それを、無理に天上へと昇らせる事など出来ない。それは、私も同じだからだ。
貴方の知らない、忘れ去られた歴史。それが、シオンタウンには秘められている。
数十年前は、この街にもジムは有った。グレンタウンがカントーの領土と認められる以前の話だ。
しかし、ある乾燥した日に起きた火事――。それが、全てを焼き尽くしてしまった。
あっという間に全てが焼け――物凄い数の死者を出し、街は焼け野原になった。
やがて、フジという名の若者がやってきて、迷える魂を成仏させるため、ジムの跡地にポケモンタワーを創った。殆どの魂は成仏していった。だが、別れ別れになったカラカラとガラガラの霊だけは、今でもこの世に留まっている。
そして、私もこの世を立ち去る事が出来ない。
シオンジムリーダーとして、この跡地に立てられた塔で、ポケモンと触れ合い、ポケモンを無事に成仏するのを見守っていたい。
……これは――真実から目を背ける為に良い聞こえの言葉を並べ立てただけだろうか?
現世を生きる死霊――それが、真実の私なのだろうか?
私は、この世の未練を捨てる事が出来ない悲しいゴーストなのだろうか……?
<Fin>
- 35 :40号@副管理人 ★ :2004/08/07(Sat) 19:07:40
- 短時間で纏めた為よくわからんモノに。
全然公式じゃない、勝手な設定です。
多分、私のお話にはこういう感じの設定が多用されると思います。
- 36 :40号@副管理人 ★ :2004/08/07(Sat) 22:23:10
- 【番外――アタタカイトコロ】
目が覚めると、私はどこか暖かく明るい場所に居た。
此処は何処だろうか。――少なくとも、私の知っている場所で無いという事だけは確かだった。
チョウジジムではないし、私が眠りについた自宅でもない。体がポカポカして、無性に気持ち良い。
見ると、相棒のパウワウも隣で日向ぼっこを楽しんでいた。私の体から、妙な緊張感が抜ける。
改めてゆっくりと、辺りを見渡す。
甘い香りと共に、花が私の視界に入ってきた。私は、それで全てを理解した。
<Fin>
- 37 :40号@副管理人 ★ :2004/08/07(Sat) 22:25:06
- 番外を書き始めると、「番外の鎖」に絡まります。
なかなか抜け出せず、駄文とわかっていても書いてしまうのです。
内容的にも微妙なので、いつ削除されるかわかりません。ヒヤヒヤしててください。
- 38 :Sain@べろんちゅ ◆10OLU704SY :2004/08/08(Sun) 01:08:37 ID:BSdxa.L6
- だよねぇ(ぁ
というかネタがなくなるとそれまたハマリ易い。
コレ危険。といいつつも自分も繋がれてますよ(w
- 39 :デュルー@管理人 ★ :2004/08/09(Mon) 18:05:59
- >>36
ヤナギネタは私の特許だって、知りません?(w
- 40 :40号@副管理人 ★ :2004/08/23(Mon) 20:37:48
- 【ハヤト其の二――秋風】
――父さんが死んだのは、秋風が吹き始めた頃だった。
だから、俺は――秋の爽やかな風に、彼の面影を見い出す。
草原。小高い丘に、俺と父さんは立っている。
「ハヤト、鳥ポケモンのスペシャリストに必要な事が何だかわかるか?」
父さんが、口笛でピジョンを呼び寄せながら、俺に訊く。
「……優しさ……かな……?」
俺の曖昧な意見は、優しい秋風に吹き飛ばされる。
「そうか……」
父さんは、複雑な表情でそう言った後、オレンジ色へと近づいていっている空を見上げる。
「まだ、お前にはジムは任せられないな……」
「……ねえ、答えは――?」
俺がせがむ様に言っても、父さんは答えない。
「来年だ――来年、此処に来たときに、その答えを教えてやる。だから、それまではお前が探すんだぞ」
モンスターボールにピジョンを戻し、そのボールを弄ぶ父さん。
「来年、か――」
あれから一年して、秋風が吹き始めた頃、父さんは死んだ。
あの草原に来る前に。俺に、答えを教えてくれる前に。
それでも、俺は答えを見つけてみせる。
その答えが見つかった時、俺は父さんを越える事が出来るだろう。――そう信じて、答えを探し続ける――。
<Fin>
- 41 :でゅるー@管理人 ★ :2004/08/24(Tue) 06:26:22
- はやとそのにはまとめちゃったほうがええですか?<はやとに
- 42 :40@副管理人 ★ :2004/09/25(Sat) 20:24:40
- 【金銀ライバル其の二――対立】
逃亡。――それが、組織の後を継ぎたくない俺の取った手段だった。
甘かったかもしれない。無茶だったかもしれない。
しかし、それが俺の取った手段だった。
卑怯な手段が許せない。――そんな名目で。
しかし、やはり、遺伝というのはある物だな、と今ではすっかり逞しく姿を変えたパートナーを見つめつつ、そう思う。
卑怯が許せない、と親父の元から逃げつつ、その裏では研究所からポケモンを盗んだ俺が居る。
「矛盾――してるのか、やっぱり」
その矛盾は、あまりにも大きかった。
卑怯が許せない、と親父に対立した癖、卑怯な真似をしてポケモンを捕まえ、道具のように扱い、愛情というものをゴミのように扱ってきたという矛盾は。
知らないものは、向けられない。――これが、今までポケモンを道具として扱ってきた俺の自己への言い訳だ。
与えられなかったものを受け継げ。――無理な話だ。
ただ、一つだけ思う。
親父が俺に愛情を向けなかったのも、その感情を知らなかったから、では無いだろうか。
いや、もしかしたらもう一代前の祖父も、更にその一代前も、愛情を知らずに育ったのかもしれない。
そして――これは確実。
そんな愛情を知らぬものが結集しているのが、親父が指揮する組織なのだ。
しかし、そんなものは最早、戯言。
愛情は決して「無駄」では無いし、恩返しより八つ当たりのほうが強いなんていう言葉も信じない。
そう、今の俺は。
そして、その気持ち――いや、真実をぶつける時が遂に来た。
全てを、終わらせて。いや、生まれ変わらせてやる。
「地下二十階で御座います」
感情の無い機械の声で、エレベータの唸りが消える。
俺はゆっくりと、自分なりのやり方で足を一歩前へと踏み出した。
<Fin>
- 43 :40号@副管理人 ★ :2004/10/02(Sat) 16:10:23
- 【トシカズ】
一億光年。――奴は、それだけの距離を、在り得ないほどにわずかな時間で進んだ。
タケシさんに挑戦するだけでも凄いというのに、奴はもう八つのジムバッジを手に入れたという。
「――すげえなあ」
そう呟きつつ、奴と戦った時の記憶を辿る。
まだ鮮明な映像が、俺の中で再生される。
『タケシさんに挑むなんて、一億光年早いんだよ』
そう言い、俺がボールを構えた。
奴は何も言わず、ゆっくりとボールを投げ、そして。
――完敗だった。
「一億光年は、時間じゃない。――距離なんだな……」
また、呟いてみる。
この言葉は、奴に負けたときに呟いた言葉。
忘れては居ない。これを言った刹那の空気の動きさえも、くっきりと覚えている。
あの瞬間、奴とその周辺は輝いた。――決して比喩的表現などではなく、輝いていたのだ。
「あーあ……」
結局、あいつは光より在り得ないほどに速いスピードで進んだのだ。
光でも一億年掛かるような道のりを、まるで呼吸でもするかのように。
それはいわゆる才能という奴だろう。羨ましいとは思うが、それ以上に尊敬してしまう。
――と、一人のトレーナーがジムへと入ってきた。
俺は、やれる事をやるだけだ。だからこそ、どんな奴にだって本気で挑む。
タケシさんの為、そして自分の為に。
一億光年という地点を目標に、俺もまた、一歩を踏み出そうとしていた。
<Fin>
- 44 :40号@副管理人 ★ :2004/10/02(Sat) 16:12:28
- トシカズ……ニビジムに居るトレーナー。ちなみにキャンプボーイ。「1おくねんはじかんじゃない……きょりだ!」の名台詞はあまりにも有名
- 45 :40号@副管理人 ★ :2004/10/02(Sat) 16:33:21
- 【ロケット団のしたっぱ】
畜生、と俺はその赤帽子の奴の背中に向けて悪態をついた。
あんなに強い少年が居るだなんて、聞いてねえ……。
俺たち下っ端に与えられる仕事の中で、勧誘は一番難しい仕事だといわれている。
大体の強いトレーナーはロケット団の悪さを知っていて関わろうともしないし、下手に誰彼構わず誘うと、足手まといになりそうなのが引っ掛かったりする。もしもそうなると、組織全体のバランスが崩れてしまうのだ。
だからこそ、俺はこの橋で何日も待ったというのに。五人を突破するほどの凄腕トレーナーを待ったのに……。
幸い、持っていかれた金の玉は偽物だったから(といっても、殆ど見分けはつかない。売ろうと思えば本物と同等の価格でイケるだろう。ロケット団の技術は最高だ)、まだ損害は少ないが、残念な事に俺の正体がバレてしまった。
ハナダやクチバの警察に嗅ぎ付けられても困るし、場所を変えなくてはならない。
どの辺りが良いだろうか。サントアンヌ号の中とかが良いかもしれない。
まあ、そんなくだらない事はいつでも考えられる。
今、やる事はただ一つ。
「ヤな感じ……」
俺は小声で呟くと、アーボとズバットの入ったボールを懐に入れ、次の一歩をどちらに踏み出そうか、決断した。
<Fin>
- 46 :40号@副管理人 ★ :2004/10/11(Mon) 20:07:59
- 【コイキング売り】
――お月見山のふもとにあるポケモンセンターに訪れるトレーナーは、殆どが右も左もわからぬ新米だと考えてよい。――だからこそ、「詐欺師」も儲かるのだ。
そして、その男も詐欺師だった。
タイル張りの壁にもたれつつ、通信機をいじっている。
かなり眠そうな顔つきだったが、誰かに通じたらしく、大きく咳をして話し出す。
「もしもし。――ああ、どうもどうも。こんな遅くに申し訳ございませんです、はい」
それは、昼間トレーナーを相手にしている時とはまた別の表情、口調。
いや、別とはいっても、悪っぽい、という点では同じなのかもしれない。
「――はい。本日は、五つ。――二千五百円です、はい」
五つ、というのはコイキングの売り上げだ。――「五匹」と呼ばないのは、「ポケモンをモノのように扱う」という、彼の、そして彼の属する組織のポリシーなのかもしれない。
――と、男の表情が曇る。通信機を持っていない左手の指を口に近づけたかと思うと、いきなり爪を噛みだした。
「うーん……えー、あー、いえ。これ以上高くすると、流石に……ええ」
スラリと長い中指の爪を噛みながら応じる男。
薬指に移ろうとしたところで、相手が何か洒落でも言ったのか愛想笑いしてみせる。
「はい、暫くはこれで頑張ります。――では、そちらもお仕事頑張ってくださいね、はい」
そこまで言うと男は、通信機を傍らに置いていたカバンの中へしまう。
その後、安心したような声を漏らすと、そのカバンを持ち上げた。
せこい詐欺師と世を震わす組織との関わりなど、誰も考えない。
男はがらんとしたセンター内を軽く見回すと、外に出、暗い闇へと溶けて行った。
<Fin>
- 47 :40号@副管理人 ★ :2004/10/11(Mon) 20:09:14
- ロケット団ファンなのです。はい。
まあ、自由に解釈してもらっちゃって結構です。
これからも頑張りますですよ
- 48 :1/2@40号@副管理人 ★ :2005/03/21(Mon) 20:10:26
【素敵なる恋心と敵わぬ大敵】
軽く吹き抜けて行く風を、ぼくは両手で抱きしめる。
揺れる花の魅力。草の良い香り。川の清い流れ。柔らかな土の感触。――そんなものを五感全体で感じながら。
ぼくは、一日を過ごす。
「人間が来たぞ!」
ぼくが一人で木の実を探していると、北の方から誰かがそう叫ぶ声が聞こえた。
この辺りは、トレーナー……とはいってもまあ弱い人が多いのだけど、とにかくそういう人がたまに通りかかる。弱いといっても先手必勝でボールを投げられたら対処のしようが無いので、いつもこの言葉を合図に、ぼく達は様々な所に掘られた穴へと潜るのだ。
いつもの様に穴の方へと向かい走ろうとすると、突如。
「……ねえ?」
――と、声を掛けられた。
ん、とぼくはその声に応じる。ぼくより少し高い位置から聞こえてくる、ニドラン独特の高い声。だけど、同性であるとは思えない。不安そうなその声は、きっとぼくより幼いものだろう。
「どうして、みんな、走り出した、の?」
その言葉に、ぼくは振り向き、そして硬直する。
薄い水色をした傷の無い綺麗な体。白く、ちょこんと小さな牙。くりんとした丸い瞳は、じっとぼくを見つめている。
「あ……」
答えようと、思った。
けれど、言葉が出ない。
彼女の大きな紅い眼に見つめられて。
彼女の体に、目を取られて。
彼女に、心を奪われて。
――初めての体験だった。
「ねえ、どうして、なの?」
言葉の一つ一つが、ぼくを揺さぶる。兄さんにのしかかられた後の感覚のように。
トレーナー用語でいうなら……マヒ、だったっけ。
――そんな事を考えながら、ぼくは彼女に応える。
「――え、と」
トレーナーが迫っているから逃げているんだ、君もそうしたほうがいい。――そう、告げようと思った。
思ったの、だけれど。
ぼくがそれを言う前に、大きな暗い影が、ぼくらを包み込んだ。
それが何か、なんて――考えるまでも無い。
考えたくも、無い。
それに対するぼくの反応は――情けない、ものだった。
視界に捉える事が出来た一つの穴に向け、一目散に走って行ったのだ。
彼女を、残して。
それほどに、恐怖だったのかもしれない。
人間という、存在が。
だけどそれは。
彼女を置いて逃げた事に対する言い訳にすら、なっていない。
ようやく穴の中に潜り込み。
そして。
「あぁぁぁぁぁ!」
ぼくは誰も居ない穴の中で、絶叫した。
懺悔――だろうか。
後悔――なのかも。
慚悔――有り得る。
でもどんな言葉を使ったところで。
ぼくは。
臆病な一匹のニドランでしか、無いのだった。
- 49 :2/2@40号@副管理人 ★ :2005/03/21(Mon) 20:10:58
- 母さんが教えてくれた。
ニドランほどに雌雄の差がはっきりしているポケモンは今現在人間に発見されているポケモンの中でもかなり珍しいのだと。
それが何処からの情報なのかは知らないけど、しかしそれは真実のように見えた。
少し前までこの辺りに居たポッポやオニスズメは、少なくとも雄や雌で容姿が全く違ったり、ということは無かったから。
続けて母さんはこうも言っていた。
外見だけでなく特徴や中身も雄と雌で違うのだ、と。
例えば雌の体内に含まれる毒は雄のそれに比べてかなり強力だと。
例えば雄の聴力は耳の筋肉が雌に比べて発達しているおかげで雌を大きく上回っていると。
そこまで思い出して、ぼくはようやく理解した。
彼女が何が起こっているのか理解できていなかった事。
ぼくには聞こえていた「人間が来た」という言葉が、彼女には聞こえていなかったのだろう。
彼女は知らなかったのだろう。
「く……」
痛悔する。
彼女を置いて逃げた事を。
あれから暫くしてぼくは穴から出たけれど。
人間の姿も彼女の姿も、無かった。
それがどういう事なのかは充分に理解できたけれど。
それがどういう事なのか、ぼくは理解できなかった。
――誰か。
教えないで。
あれから幾日も経って。
ぼくは――想い続けていた彼女に再会した。
その体に傷は無く。
あの日出会ったときのままで。
無事のようだ。ぼくは安堵する。
「――この間は……ごめん」
ぼくは、彼女の目を見ることが出来ない。
「逃げたのは、人間が、来たから、だった、の?」
彼女を見ないままに、ぼくは頷いた。
「顔を、上げて、欲しい、の」
その言葉に、ぼくは彼女の顔へと視線をやる。
澄んだ、朱色の瞳。
ぼくは、一つだけ決意した。
「突然で、悪いんだけど――」
その瞳は、どこか哀しげで。
「――ぼくは、君のことが」
その瞳は、どこか淋しげで。
「好き……なんだ」
……反応は、無かった。
瞳が、更に寂しげに。
変化した、だけだった。
「……ごめん、ね」
彼女の手が、ぼくの手に触れる。
暖かい手。柔らかな手。
そんな感触を感じた瞬間の事。
黒い影が現れて、彼女を抱き上げた。
「行くぞ、チャプ」
その影は、そう言って。
彼女の頭を、その大きな手で撫でた。
彼女はとても――幸せそうだった。
「また、会いましょう」
彼女はそれだけ言うと、その人間の体に身を預けた。
絶望感。
ぼくは一体。
何なのだろう。
確かにあの人間の側にいた方が、彼女にとっては幸せだろう。
少なくともぼくと時を共に過ごすよりは。
快適――なのだろう。
そして結局、ぼくが得た物は何も無かった。
温もりを――貰えると、思ったのに。
なんという笑い種だろう。
ぼくは彼女の残り香の残る自らの手を、足元の柔らかな土に押し付けた。
<Fin>
- 50 :40号@副管理人 ★ :2005/03/21(Mon) 20:22:02
- 語り手がニドランという自分としては異色な作品。
まああれです叶わぬ恋には敵わぬ敵が不可欠という事で。
しかし珍しく資料を見たにしては推敲していないという中途半端な作品。
なんていうか20分で仕上げた所為かストーリーまで中途半端ですね。
でもそんな中途半端の入り組んで出来ているのが恋関係なのだと考えればまあこれは文章全体で恋心を表している良い文なのかもしれないなあ等と戯れに思考する次第であります。
兎に角そんなこんなで中途半端な短編【素敵なる恋心と敵わぬ大敵】でした。
本当は小説コンテストとやらの為に書いたのですがちょっと長いような気がするし短いような気もしたのでやめました。
長さまで中途半端な作品でしたとさ。めでたしめでたし。
- 51 :1/2@40号@副管理人 ★ :2005/03/23(Wed) 20:27:51
【私の死にたかった衝動】
「もう疲れたよ。今日一日はゆっくりと過ごそうと思う」
行ってらっしゃい、と笑顔を見せる母を背中に、私は家を出た。扉を開けた途端、冷たい冬の外気が自分の胸の奥へと入って行くのが判った。――寒い。私は思わず身を震わせる。子供の頃から寒さは苦手だ。
吐く息が白い。そういえば子供の頃に『外気と吐息の温度差が……』と長々しくこの現象の説明がしてあった本を読んだ事がある。確かあれは父が「為になる」と言って買ってきてくれた物だったか。
しかしあの本、為になったかもしれないが役には立たなかった。いや、役に立ったのかもしれないが少なくとも私の生活に影響を及ぼしているとは思えない。
「だからこその――」
言い終わらないうちに口を閉じた。この寒さでは独白すらも充分に出来ない。本当に私は寒さが苦手なのだな、と実感した。
ところで私はさっき母に「今日一日はゆっくりと過ごそうと思う」と告げた。この言葉は追求の余地はあると思うのだが、別に嘘は無い。
ただ、今日は――否、もう二度と家へ帰るつもりは無かった。一日ゆっくり過ごした後の予定は決まっている。
それは――自殺だ。
当然ながら私は特技の如く暇つぶしの如く退屈しのぎの如くに自殺をするような趣味は無い。この決断は考えに考え抜いてのものだ。どんな次第でこの結論に至ったかは言いたくないし言う必要も無いだろう。
私は気持ちを落ち着かせるため、もう一度外気を大きく吸った。
- 52 :2/2@40号@副管理人 ★ :2005/03/23(Wed) 20:30:12
昼過ぎから降り始めた雪は、その勢いを衰えることなく降りつづいていた。私は雪が好きではない。雪なんてものは雨が固まったというただそれだけのものだ。雪合戦をする者は水溜りに手を突っ込む事ができるのだろうか。
――そんな感じの私の思考は、ポケモンセンターの日付変更を告げる放送の音で中断された。流石にこの時間帯、警備員のような感じの青年が一人携帯電話を弄っているだけで、他には誰も居ない。
二十秒に渡る放送が終わると再びセンターの中には静寂としか例えようのない静かなる時が流れ始めた。
そろそろ行こう。――私は腰を上げた。足が異様なまでに軽いのに気付く。まあ何かを終わらす時は気分が軽いものだ。しかも今度は全てを終わらそうときている。気分も足取りも、軽いに決まっているのだ。
「……はは」
少しだけ、愉快な気分になる。
死に対する恐怖や死に対する緊張。――そんなものは殆ど感じない。
自動ドアを潜り抜け、外に出る。外気は相変わらずに冷たい。雪が降っているので余計にそう感じる部分もあるのかもしれないが。
死ぬ方法は決めていた。飛び降りだ。確実に死ねるとは言えないが、考えられる中では一番手軽なやり方だ。そして、どこから飛び降りるか、というのも。
そんな事を考えながら歩いていると、ようやく目的地に到着した。私が飛び降りようと考えていたその場所――ミナモデパートだ。
ここは日曜の午後は営業していない代わり、土曜から翌日の正午にかけてはずっと営業している。日曜の深夜に営業した所で儲けは少なく眠気に襲われるだけだと思うのだが、しかしそこは偉い人の考えること。私に理解できるはずはないだろう。
店内に入る。いらっしゃいませ、と受付嬢が眠そうに言うのが聞こえた。この時間帯、時給はいくら位になるのだろうか。――まあ、そんな事はどうでもいいのだが。
エレベーターで屋上まで上がる。屋上は当然ながら雪が舞っていた。休憩用のベンチに薄らと雪が積もっている。私はそれを指で掬い取ると、頬に塗り付けた。私の体温ですぐに雪は溶け、雨水を付けたのと変わらなくなった。
「――死ぬ」
あまり日常では耳にしないそんな言葉をぼそりと呟き、私は柵を乗り越えた。少し立つスペースはあるが、殆ど塀の上を渡るようなもの。足を踏み外せば死ぬ。
私はそして――飛び降りた。
空中で体勢を変え、頭を下にする。これでコンクリートに頭を打ちつけ確実に死ねるだろう。
近づいて行く地面。小さく聞こえる誰かの声。思い出すあいつの言葉。
そして、私は――。
あれ。
これが、死ぬという事だろうか。地面が遠ざかって行く。もしや、死ぬと今までの人生が逆再生でもされるというのだろうか。そんな話は聞いたことがない。そんな戯言を思考しているうちにも私の体は上へと昇って。
「……どうして」
死に損ねた。どうしてだろう。こいつが余計なことをするからだ。決まっている。
「邪魔を――するな」
私は、自らの唯一のポケモン――サーナイトに、告げた。
いつの間に来ていたのだろう。
死ねると思ったのに。なのに死に損ねた。
「私は……死のうと思ったんだ」
答は返ってこない。ただ。
――その瞳が哀しげな色に染まった事だけは、理解できた。
「もう、いい」
私は、その瞳を理解する。このサーナイトは私を守ろうと――助けようとしたのかもしれない。だけれど、私にとってそれは邪魔だった。初歩的なすれ違いだ。
例え時間を戻すのに必要なエネルギーがどれほど莫大なものであったところで。
空間を捻じ曲げるという不条理を私の為だけに使ったという事実があったところで。
判っては――いるのだけれど。
「今から、死ぬ。邪魔をしないでくれ」
その言葉に――サーナイトが、私に抱きついた。
柔らかな感触。しかし、一体何をする気だろう。
……サーナイトが何か言うのを――否、何か感じるのを――感じた。
死の抱擁。シンクロニズム。ブラックホール。未来予知。
私の体が何処かへ落ちてゆくのを――感じた。
<Fin>
- 53 :40号@副管理人 ★ :2005/03/23(Wed) 20:35:43
- おりじなりてぃ溢れる作品もどき。
少なくともポケモン界では見かけないような感じかも。
実体験に基づいていたりはしていなく、適当に書きました。誤字がありそうでひやひや。
しかしまあ死にたいだなんていう考えは理解できません。正直な話死んで何かが変わるのかといえばもしかしたら変わらないかもしれないし。
死んで今より悪環境に行ったら虚しいだけですよね。そんなこんなでマックシェイク100円の喜びを噛み締めつつ【私の死にたかった衝動】を締めくくらせてもらいます。
正直、書いたらすぐにどこかに発表しなくちゃ落ち着かない性質なのでコンテスト用にする事が出来ませんでした。
まあコンテストに自殺云々の話は相応しくないですよね。
- 54 :1/2号@子持ちししゃも@副管理人 ★ :2005/04/03(Sun) 11:05:44
- 【タケシ】
岩というものは本当に硬いのだろうか。――タケシはその細い目を閉じ、思考する。
良い結論は、浮かばない。
傍らにあった石を握り締めると、彼は「畜生」と呻くように漏らした。
汗に塗れた手の中で、何より硬き筈の石が砕ける音を聞いた。
――ニビシティのポケモンジムには、二日前から戸口に「臨時休業」の札が提げられていた。ニビは元々挑戦者の少ない地域なので二日や三日程度の休業など、特別困る事は無い。そんな事も考えて予定した、三日間の休業であった。
今から三日前の日付が変わる直前。――ニビジムに、一人の少女がやって来た。
聞けばその少女は、ジョウトという地から来たジムリーダーを志している者だという事だった。
良いだろう、胸を借りるつもりで来い。――と、大見得を切ってタケシはその少女の挑戦を受けたのだったが。
――しかし、負けてしまった。
負けること自体はそれほど珍しい事ではない。だけれど。
少女の使っていたのは、イワークに良く似たポケモンであった。顎の部分がしゃくれた様なその体は、夜の光を浴びて白銀に輝いていた。
そのポケモンはゴローニャの体当たりを軽く受け止めると、その長い体を大きく振りかぶりゴローニャ向けて振り下ろした。
――刹那。
次の瞬間、タケシのゴローニャは目を回しながらジムの床に倒れていた。
その様子を見て、少女はポケモンをボールに戻しながらわずかに笑んだ。
「そのポケモンは、『はがね』という最近発見されたばかりのタイプを含んでいます。――言わずもがな、その硬さは完璧です。いえ、鉄壁とでもいうべきでしょうかね。――ああ、バッジは要りませんよ、これからジョウトに戻るところですから。それでは、失礼致します」
――タケシは、ゴローニャをボールに戻すのも忘れ立ち竦んでいた。
「師匠……」
遠い昔に師と慕っていた一人の男の顔を思い浮かべつつ、タケシは呼び掛ける。
「一体、どうすれば良いというのでしょう? 何をしろというのでしょう?」
誰も居ないジムに呼び掛けたところで、返事が返ってくる筈も無く。
しかし、タケシは呼び掛ける。
「岩というものは硬いのでしょうか? ――ならば鋼とは何なのでしょう?」
音は、虚しく。響き、続ける。
「師匠――助けて下さいよ……」
と、その時。
「了解した」
そんな低く唸るような声と共に、ジムの扉が開き、
「師匠――!」
剥き出しにされた逞しい上半身。肩に掛けられた白い袋。
其処には、ポケモン界での最高峰ともいえる四天王の一員――シバが立っていた。
- 55 :2/2=1号@子持ちししゃも@副管理人 ★ :2005/04/03(Sun) 11:06:13
格闘ポケモンを巧みに操り、自らの力とポケモンとの力を集結させてどんな相手にも本気でぶつかる。――それこそが彼の優しさであり強さであり礼儀である、というのが彼を知る者の言葉であった。
格闘系のポケモンだけでなく、岩属性のポケモンも操ることから、彼を師と慕う者は少なくない。タケシも、その一人であった。
「――何故、此処に?」
タケシの問い掛けに、シバは大して表情を変えることもなく、
「ニビジムがここ最近休業していると聞いてな」
その言葉に、タケシの表情が曇る。思い出したくない記憶を呼び起こさせてしまったかもしれない。――そう考えたシバは少し声を大きくして言った。
「お前の独白、確かにこの耳に入った。事情は知らんが、先程の疑問くらいには答えてやらんでもない」
「……師匠」
大丈夫だ、とシバはそこで初めて笑顔を見せた。
「俺も同じ疑問にぶつかった事があってな。――最も、事情は少し違ったが」
はにかむようなその笑顔に、タケシは無意識に遠い昔の記憶を辿っていた。
大きな山の頂上で、彼は一つの事を教えてくれた。それは、ポケモンの奥義というものについて。
『ポケモンと心を通わせ、互いを助け合おうとする心の繋がり。――それがトレーナーに必要不可欠なものなのだろう』――これがシバの言葉であった。
脳裏から薄れていたその言葉を再認識すると、タケシは拳を固く握り締めた。
「――鋼が何を成分として成り立っているか、知っているか?」
「鉄……ですか?」
「その通りだ」
意図が全く読めないシバの質問に、少し戸惑いつつも答える。
ふっ、と格好良く笑うと、シバは肩に掛けられた白い袋を弄り、中から何かを取り出した。
「ここに鉄の塊と岩の塊がそれぞれ、ある」
それをジムの床に適当に放ると、シバは更にモンスターボールを取り出し、軽く投げた。出てきたのは、長身の鶏のようなポケモン。少なくともタケシにとっては見た事のないポケモンであった。
「こいつはバシャーモという格闘ポケモンだ。昔ホウエンで修業していた時にゲットした奴だから、こっちではあまり見ないかもしれないな。――さあバシャーモ、火炎放射」
何をするのですか、等と口を挟む間もなくそのポケモンの口から勢いよく炎が放たれる。そのままで二分、三分――その内にジムの中に熱気が篭ってきた。
「バシャーモ、もう良いぞ」
その指示に、ようやくそのポケモンは炎を吐くのをやめたようだった。少し安堵しながらシバに近づくと、彼は鋭い声で問い掛けてきた。
「あれが見えるか」
シバが指差した先には、真っ赤に焼けて煙を噴いている石と、どろどろに溶けた黒い液体状の鉄があった。
「鋼の成分は鉄。――ならば鋼に同じ事をした場合も、ああなるだろう」
はい、と頷くタケシにシバは続ける。
「引き換え、あの石を見てみろ。溶ける事もなく、逆に熱気を体に溜め込んでいるだろう。これは、石の持つ柔軟性――応用力、と言えるのではないだろうか」
「つまり――岩の良さは、硬さだけではないと」
ああ、とシバは頷いた。
「岩は硬い。鋼はもっと硬い。だけど、それ以上に岩は柔らかいんだ。使い方次第でどうにでもなる」
そこまで言うと、シバはタケシの方を向き。
「岩に限った話ではないぞ。――お前も、もっと柔軟になれ」
そして、ふっと息をつき。
「こんな答で、満足して貰えたか」
「――ええ。とっても」
その言葉に満足そうに頷くと、シバはポケモンをボールに戻してゆっくりと出口の方へと向かい。
「何かあったら、また会おう」
「……はい」
口では応じたものの、もう暫くは貴方に会う事もないでしょう――そう感じていた。
それは本能なのかもしれないし、直感なのかもしれない。
「では――さらばだ」
「……さようなら」
シバの背中を見送ると、タケシは足元に転がった無数の石の中から一つを取った。
黒く丸い石。――それを硬いジムの床に投げつける。かつん、と軽い音と共に石は砕けた。
……けれども。
その一断片を手に取る。
砕けた石のその断面には、何物にも変えがたい確かな硬さと柔らかさがあった。
<Fin>
- 56 :40号@副管理人 ★ :2005/04/03(Sun) 11:17:19
- 何でもかんでも比べれば良いってモノじゃないんですよ。ポケモンとドラクエ比べられても困りますし。
なんかこの間なんてボク自身とベーコンレタスバーガーを同列に並べられてビビりましたし。
NDSとPSPなんかも共通点が多いから比べたくなるのかもしれないけど比べられるほうにとってはいい迷惑ですよ。
ボクがNDSだったら「おい任天堂なんでPSPと同時期に発売しやがるんだ」って感じですし。
NDSは新感覚。PSPは操作性。まあそんな風に自分で適当にまとめられれば問題は何もなくなるわけです。平和な世界は気持ちが良いですね。
ロケット団が居ない現在平和なカントーのジムリーダーを久々に書いてみました。
適当に悩んで適当に解決です。全て適当に終わらせる事ができるならそれが一番良いですね。
そんな感じで推敲も適当だったりする【タケシ】を適当に終了します。
謝辞を贈る相手もいないのでデュルー氏に一言。
前々から思っていたのですがぶっちゃけこうやって作品を1/2、2/2と二つに分けているのも文字数制限のせいなんですね。
それなのに(1)(2)というまとめ方で掲載されているのはアレですないやなんでもない。
とりあえず一レスあいている所は二行開けという感じでいいのでまとめて掲載頼むです。
それではまたお会いしましょうさようなら。
- 57 :でる@新パソコン :2005/04/03(Sun) 18:10:31 ID:NUbkDXuU
- >>56
サイズにもよります。ちょうど1と2に分けると大きさが……ね。
- 58 :40号@副管理人 ★ :2005/04/03(Sun) 19:46:59
- いやはやデュルー君がボク如きの戯言に一々目を通してくださっているとは驚きですね。
>>57
ならせめて1/2,2/2という表記を頼めませんでしょうか。
(1),(2)だと一章二章というような感じで少し合ってないような気も。
- 59 :でる@新パソコン :2005/04/04(Mon) 07:58:45 ID:4sxCHCmY
- >>58
了解。部活から帰ってきてから処理します。
- 60 :でる@新パソコン :2005/04/04(Mon) 10:00:40 ID:4sxCHCmY
- 処理完了@新PCだとはやーい。
- 61 :40号@副管理人 ★ :2005/04/11(Mon) 19:27:44
【サカキ】
モノクロテレビに映る映像のような世界。白と黒のただ二色で構成された世界。
――何の脈略もなく何の筋書きもなくただ其処に、私と誰かの二人だけが、存在していた。
「久しぶりです……ね」
誰かの声。それは恐らく、私に最も近く最も遠い彼。
顔を見たのは――何年振りだろうか。
「久々だな。元気にしていたか」
ええ、とその誰かは頷く。
「――そうか。私正直、心配していたんだ。手ぶらで地方を出たお前をな」
「あれから俺は一件、盗みをしました」
私の言葉を聞いているのかいないのか。――彼はゆっくりと、独白する。
「そして、悪を滅ぼすという名目で――三人、人を殺しました」
言葉に出てきた、『悪』。
その言葉が表すものは……判っている。
「それが、俺の罪です。俺一人の、罪です」
そうして彼は一旦口を閉じ。
「敵対した俺を――貴方は許してくれますか」
聞きたくなかった言葉。返答は決まっていて、そして判っていた。
「貴方に敵対したのでもなく、貴方のやり方に敵対したのでもない。――正直な話、敵対したかったんです」
そう言った後彼は、悪に、と俯きながら付け加えた。
「敵対する事が正しかったとは思わない。ただ俺は、悪を滅ぼすという正義の立場に――立ってみたかった」
「そんな立場には――立てたのか」
言葉に対し小さく、いいえ、と自嘲する。
「俺も、悪」
返す言葉は、無い。
「悪が悪を滅ぼす。この図式を世は理解しません。したとしても、仲間割れ、裏切り……そんな言葉でしか」
当時の私が彼に抱いていた怒り。急にそれが不当なもののように思えてきた。
マフィアのボスの息子という一つの肩書きから抜け出せずに苦悩した彼が――哀しく思えてきた。
「生まれは一生を大きく左右する、と判りました。悪の道理に則って悪を滅ぼすなど――其れこそが悪なのですね」
「――すまなかった」
懺悔、していた。
未だに幸せにしてやれていない我が子へ。
無理矢理この子を産ませてしまった、天国のあいつへ。
そして、私自身へ。
「いえ。これは俺の運の弱さです。貴方が詫びる事は――無い」
若き頃の私によく似た目でそう言って。
「――これが俺の生き方です。俺はこうして生き抜いていきます」
眩しさに何も見えなくなり。
暗闇に全てを遮断され。
気付いた時には……汗で。
全身が濡れていた。
これは。
許されざる夢。
組織を選び親子の縁を切った私には。
息子を敵対させてしまった私には。
許されざる、夢。
あいつは一体今何処で、何を。
そして私は一体今何の為に、何を。
――これは、許されざる夢。
<Fin>
- 62 :40号@副管理人 ★ :2005/04/11(Mon) 19:37:22
- やる気の無さが垣間見える作品。
実際やる気入ってないです。
っていうかもっとナニカを書きたいんですがスランプなのか思うようにいかないんです。
まあこれもこれでいいですよね。夢なんて思い通りにはいかないモノですし。
テーマは特に定めてないです。拾えたもの全てをテーマと位置付けて貰えれば結構なんです。
ではここまで、レトルトカレーを冷凍するような良い子の皆に贈ります【サカキ】でした。
っていうかここまで書いて熱を測ったら38度ありました。
次回からはもっとクオリティの高いものを書きたいと思うので今日はこの辺りで。
Good bye...
- 63 :鳥人 :2005/04/17(Sun) 18:52:23 ID:oiUJYn4I
- 初めまして。
お熱は大丈夫でしか?
- 64 :40号@副管理人 ★ :2005/04/17(Sun) 19:27:23
【ミナキ】
あれは恐らく、幻だったのだろう。
闇夜の見せた幻覚。
日常に見えた幻想。
そうとでも考えなくては……やっていられない。
あの夜私が見た姿は、幻視で。
追っていたあの姿は、幻像で。
そうとでも考えなくては……やっていられない。
現物を、実物を、逃してしまったなどとは――信じたくはない。
しかし、無駄に幻覚を追いかけていたとも――信じたくはない。
矛盾と正当の狭間で立ち竦んでいるのが、私なのだろう。
真相は、見えている。
あれは幻覚などではなく、一匹のポケモン。
通った水が澄み渡るという言い伝えが実在している以上、あれはポケモン。
実際の所は。
あの少年に取られたあのポケモンを忘れようと。
あのポケモンを記憶からなんとか消し去ろうと。
自分に都合のいいように考えているだけなのだ。
記憶を消す為。全てを忘れる為。
――――――――――?
待てよ、と私は思い直す。
記憶を消すなら。全てを忘れるなら。
打って付けの行為があるじゃないか、と。
あの少年の背中が、遠く眩しい。
私は一瞬の躊躇も無く。
青空の下、舌を噛み切った。
薄れゆく意識の中。
水色の美しい幻影が目の前を駆け抜けて行ったような気がしたが、それは多分気のせいだったのだろう。
<Fin>
- 65 :40号@副管理人 ★ :2005/04/17(Sun) 19:40:02
- 「40号クンは自殺が好きなんだね」
…友達の言葉。しかしボクは別に自殺が好きなんじゃないですよ。他殺も嫌いですけど。
しかし何にせよ安易に死というネタに走るのは良くないですね。反省するかも。
さてと、二回目の【ミナキ】です。
前回書いたのは出逢い、今回書いたのは別れ。
対称的であって全くの同一面もあるという矛盾と正当の狭間で読み比べてみてください。
…いや、前作はあまり読んで欲しくないんですけど…。
>>63
全然大丈夫です!…っていう文は正しくないんですよね。
しかし新しい日本語として流通しつつあるならそれはそれでいいんじゃないかな。
まあ大丈夫です。これからも頑張ります。ありがとう御座います。
- 66 :あっと :2005/04/18(Mon) 21:02:53 ID:4nbDPWvk
- 短いのにちゃんとまとまってるってすごいです!!
あたし、ハヤトくんを愛してます(>w<)
「キキョウジムリーダー、ハヤト。此処に有り――。」
ってすごくかっこよかったです☆
- 67 :40号@副管理人 ★ :2005/04/22(Fri) 18:35:32
【キクコ】
――茶色い髪をした少年の真っ直ぐな背中を見つめていたキクコは、扉が閉まる音に振り向いた。
恍惚したような放心したようなそんな虚ろな目は、何処か遠くを向いている。一体その目が何を向き、一体彼女が何を見ているのか。――きっとそれは自身にすら判らないのだろう。
全てが理解できた、その時。
全てが理解できなくなるのだ。
「……大きくなったねえ」
何処からか出していた三枚の写真に向け、彼女はそう呼びかけた。一枚目の写真に写っているのは、一人の赤子。モンスターボールがデザインされた産着を着て、無邪気に笑っている。
そして二枚目に写っていたのは……その赤子ともう一人、少女だった。
大人っぽい顔立ちのせいで年齢は上手く判別できないが、しかしそれでも大体九歳前後だという事くらいは判る。――写真は、その少女が赤子を抱いているところだった。
……三枚目には、さっきの赤子ともう一人の赤子。対称的ともいえる顔立ちだったが、その中には何か通じるものがあった。
「本当に、大きく……」
もう一度繰り返すと、キクコは手の甲で目頭を拭った。室内の電飾の光がその手の甲に映る。
「もうバッジを八つも……本当に……」
うんうん、とまた一人キクコは頷くと、ぱちんと手を鳴らした。
その途端。
すっ――と、影が現れた。
その影に向け、ゆっくりと言う。
「孫の勇姿を見られる日がくるとはね。しかもこんなに早く。――そういえばあのポケモンは爺さんに貰ったものかね……」
少年が最後に出したポケモン。それは少年のものの中でも一番強そうであった。目つき、風貌、鳴き声――そして何より、少年との信頼が感じられた。
故に、戸惑ってしまい、故に、躊躇してしまい、故に、敗北してしまったのだ。
しかしそれも一つの戦術だろう。――キクコはそうも考えていた。少なくとも、負けたけれど全然悔しくはない。清々しい気分だった。
ふう、とキクコは息を吐き。
「本当に――大きく、なったよね」
それは直接言いたい言葉であった。
もし人生を違えていれば隠蔽する必要も無く「家族」となっていただろうあの少年に。
もし少し歯車が狂っていれば毎日でも触れ合う事になったかもしれないあの少年に。
しかし歯車は違わず、人生は狂わない。――否、もしかしたらこれが違えた結果なのかもしれないし、これが狂った結末だったのかもしれない。
今、少年とキクコは家族ではない。――事実はそれだけで、それだけだ。
「本当に、大きく……」
――がちゃり。そんな扉の開く音に、言葉は中断される。
また少年だった。赤帽子を目深に被っていて、表情を伺うのは難しい。
しかし、その体からは気迫のようなものが感じられた。
良く来たね、とそんな台詞を口にしながら、写真を仕舞おうとし。
「――――――――っ!」
三枚目。――二人の赤子が写っている写真に目を留め、何かに気付く。
写真と少年を見比べ。
「お前……名前は、何と言う!」
問い掛ける。
暫くの沈黙。
そしてその後、少年はゆっくりと。
自らのトレーナーカードを、見せた。
その名前を見て、確信する。
少年が誰であるかを。
本当に――幼馴染でライバルだな、と。
彼女は可笑しそうに笑う。
不思議な目でそれを見つめる少年。
それを見て、また笑いそうになる。
二人があの部屋で出会ったらどんな顔をするだろう。驚くかもしれないし驚かないかもしれない。
しかし少なくとも、出会わない、ということは無いだろう。
二人の内の一人が突破した道を。
もう一人が突破できない道理は無い。
「始めようかい」
頷く少年。
負けると判った勝負だったが。
それはとても愉快だった。
<Fin>
- 68 :40号@副管理人 ★ :2005/04/22(Fri) 18:40:54
- 【キクコ】は何時か書きたいなあだとか考えていたんですよ。
ネタは無かったんですけどね。とりあえず今回はこじ付けなこじ付けでこじつけて強引に書きました。
いやはや、好きなキャラを書くのはいいですね。実感しましたようっふん。
とりあえず話の解釈は適当にしてみて下さい。
>>66
纏まってるように見えるだけですよきっと。
ハヤトは確かに格好いいですよね。鳥だし。
これからも頑張ってまたハヤトをネタに書きたいなあとか思ってますのでよろしくです。
- 69 :40号@副管理人 ★ :2005/04/23(Sat) 14:11:09
【イブキ】
兄様。
私は、兄様が、好きです。
思えば、私と兄様は。
いつも、一緒でした。
フスベジムの前に捨てられていた私を救ってくれたのは。
当時ジムリーダーだった、兄様の祖父様でした。
それから、私たちは。
いつも、一緒でした。
兄様と共に鍛えられ。兄様と共に教えられ。
兄様と共に傷つき。兄様と共に苦しみ。
兄様と共に生き。
もしその時さえ来れば――私は兄様と共に死ぬつもりです。
だから兄様。
行かないで下さい。
兄様。
今のままでずっと。
兄様。
私は兄様の傍に居たいのです。
兄様の傍で兄様を見て兄様を感じ。
兄様の隣で兄様に通じ兄様と過す。
そんな日常が、幸せでした。
そのままで。
そのままで良いのです。
だから。
四天王などになって欲しくはありません。
だから。
ジムリーダーのままで、フスベに居てください。
兄様。
繰り返します。
私は。
私は兄様が好きです。
兄様。
行かないで下さい。
兄様――?
<Fin>
- 70 :40号@副管理人 ★ :2005/04/23(Sat) 14:17:52
- 微妙なカタチで書いてみました。「兄様」への呼び掛けです。
しかしまあカタチに囚われているのは良くないですよね多分。
オレンジジュースはどんな形の容器に入っていてもオレンジジュースですし水は水です。
味に大差はないんですよ多分。
まあそんな感じでとりあえず【イブキ】で喉を潤してくれればそれでいいです。
しかし今週三本目とは何とも働き者ですねボクは。
デュルーから謝礼金を貰っても良いくらいですよ。
- 71 :40号@副管理人 ★ :2005/05/03(Tue) 23:24:07
【カツラ】
地の響く音はまだ聞こえていた。この分ではジムは完全に崩壊するだろう。否、島が全滅ということも充分に考えられる。
『噴火には気をつけろ』――これは父の言葉だったろうか。母の言葉だったのかもしれない。誰の言葉であるにしろ、何度も聞いた覚えのある言葉だった。となると、この噴火は教えを忘れた私への戒めだったのかもしれない。
潮風が、濡れた体にべっとりとまとわりつく。一心不乱にここまで泳いできたのはいいものの、しかしあれは文字通りに火事場の馬鹿力というもの。再び泳いで戻れるかと訊かれれば答えは非だ。
そうだ、ポケモン達は無事だろうか。あいつさえ居れば島に戻れる。――私は肌にべっとりと張り付いた長ズボンのそのポケットからモンスターボールを五つ、取り出した。その中のどれにも外傷は無い。私は少しだけ考えてから、ポケモンを一匹ずつ出してみる事にした。
ギャロップ、ウインディ、ブーバー。キュウコンにリザードン。皆、以前モンスターボールに収めたままのその姿。
「……そうか。皆、無事」
私のその言葉は突然の爆発音によって遮られた。ジムに爆発物は無かったと思うが、だとしたら何処だろうか。……可能性としては二つ程考えられるだろう。私は一つのモンスターボールを足元に叩きつけた。出てきたリザードンにそのまま跨る形となる。
「島が見えるところまで」
了解、と言わんばかりに急上昇して行くリザードン。
――そして暫くし、ようやく視界が安定した。私は少しだけ背筋を伸ばし、島を見て、地獄を見た。
人の姿は見えない。しかし、マグマに埋もれた島の全体像だけは視覚出来た。ジムの隣のポケモン屋敷は激しく燃え盛っているようで、赤々とした炎が見える。きっと、すぐにあの火は燃え移るのだろう。私の大事な――ジムへと。
「もういい、リザードン」
私は溜息混じりに、言った。虚しさを通り越し、呆けるを通り越し……この感情は何なのだろうか。
気付いた時には地面に着いていた。ボールをポケットに戻した私は辺りを見回す。すぐ傍にある小さな洞窟の中は空洞になっている。――否、ただ一つ。その中には、今気付いたが、釣り人の忘れ物か、壁に立て掛けられた釣竿があった。
一つ、私は思いつく。確か白衣の胸ポケットの中にはあれが入っていた筈だ。――考えながら探ると、すぐに見つかった。紅蓮に輝くバッジ。じゃらじゃらと、胸ポケットだけで十個近くあった。
「……これだけ、あれば」
何が出来るか、なんて云うまでも無い。
恐らく……この感情は、愉快なのだろう。
私に残された財物は――無限であり夢幻では無い。
<Fin>
- 72 :40号@副管理人 ★ :2005/05/03(Tue) 23:30:00
- えーと何かを失った時に立ち竦むというのはやはり大切な訳でしかしすぐまた歩き出すというのも言わずもがなでありまして。
しかしまあ歩き出す前に深呼吸しないと倒れますよって感じでまあ立ち止まることも必要なのです。
とにかく【カツラ】はそんな事を伝えたいという気持ちで執筆されたという噂が流れてます。
いやこじ付けかもしれませんが。文章的には満足ですとりあえず。
そういえば多分カントージムリーダーの中で書いてないのはエリカさんだけですよね。
まあその内…です。
- 73 :73 :2005/05/27(Fri) 20:49:29 ID:734sH7LI
- フレぇーフレぇー
40号@副管理人 ★さん、それぇえー
- 74 :40号@副管理人 ★ :2005/08/03(Wed) 17:25:02
【ヤナギ】
死にたいと思った事は多々あった。死にたくないと思った事も。
その度に様々な情動を堪え、様々な衝動を抑え、そんな風に生きてきた。
妻が死んだ、あの日。
相棒が消えた、あの頃。
手を片方失った、あの後。
余命を宣告された、あの時。
死にたかった。死にたかった。死にたかった。死にたくなかった。死にたくない。
指摘されるまでもなく、判っている。私は我儘だったのだろう。
死にたくて死にたくて死にたくて、死にたくない。それは天邪鬼のような。
「……うう……」
締め付けられるような胸の痛みの中。
私は何かを、思い出した。
――それは、妻の最期の言葉。
「私は、つい今まで死にたくないと思っていましたよ。だけど、今は違います。
今、昔を想っていたらね、貴方を感じました。貴方との幸せを、感じましたよ。
ああ、本当に幸せな気分です。だから、だからこそ、このまま死んでしまいたいの」
ああ、と気付く。私は、幸せだったんだな、と。
妻が居て。子供が居て。相棒が居て。家族が居て。
とても幸せだったんだな、と。今更ながら。
ただ。
最後に一つだけ、我儘を言っても。
罰は当たらないのではないか、と。
そんな事を、思ってしまった。
だから、一つ。
「――だけど、死にたくなかったよ」
ありがとう。
<Fin>
- 75 :40号@副管理人 ★ :2005/08/03(Wed) 17:31:47
- 間が妙にぽっかりと空いてしまいましたがあまり気にしてはいけません。
えーと【ヤナギ】を書いた意図はといいますと先日それなりに縁のある人が他界いたしまして、まあそんな感じです。
正直悲しくて悲しくて悲しかったけどしかしそれだけでした。僕は元々ジャンプ力がないので悲しみをバネにする事は出来ません。
しかしまあ高く飛び上がって落ちたらその痛みは洒落になりませんね。とまあこんな感じです。
>>73
凄い今更に返答してしまってすまないなあと思うんですけど、アレですね、IDも73を表現してますね。
お尻に余分なものがくっついてるけどそこがまたいいです。
まあえーっととにかくまた頑張ります。バネなんて無くてもね。よろしくです。
- 76 :Sign ◆PXPHB5eCOM :2005/08/04(Thu) 14:43:01 ID:o32/i.Mk
- >>69
零崎の試験のある部分と酷似してま(りゃ
ヤナギさんのイノムーが好き。
- 77 :40号@副管理人 ★ :2005/09/10(Sat) 17:09:34
【アカネ】
「こんにちはー! 皆、元気やったかなー?」
そんな声が自分から発されているという事実にも、やっと慣れてきた。自分にこんな事が出来るのかどうかと思っていた時期もあったが、昔の事。
自分の事を操り人形だと感じていたあの頃に比べれば随分と余裕も出てきた。
「今日は、オーキド博士とクルミちゃんと共に、楽しくポケモンを紹介していくで!」
正面に居たスタッフが、親指を上に突き出す。それに小さく目配せすると、私は原稿に目を落とした。
思えば、昔。
標準語が上手く話せず、人と会話するのが苦手だった。髪が赤い事が原因で苛められてからは、完全に誰とも話をしなくなった。
次第にポケモンと仲良くなり、バトルに情熱を燃やすようになった。そして、ジムバッジを手に入れる為に町を廻っていた時、容姿に目をつけられアイドルになったのだった。
赤い髪も、大阪弁も、全てが私の武器となった。その時私は『何か』を確信したのだった。
「アカネちゃん、次のジム戦はカメラが入るから……」
「そうやね。――任せといてや、いい映像撮らせたるでな!」
助かるよ、と頭を下げるプロデューサー。下手に出るやり方、それがこの男の処世術なのだろう。アイドルを踊らす事など楽勝だと、世界を動かす事など簡単だと、きっと心の奥ではそう思っているに違いない。
そういう考えも、あるのだろう。否定するつもりは、ない、けれど。
鼻歌交じりに携帯を操作するプロデューサー。その眼鏡の奥の目が嫌らしく笑んだような気がした。きっと、自らの人の扱いの上手さに酔っているのだろう。
踊らされてるんじゃない、踊ってやってるんだ。――私はクッと、小さく笑った。
<Fin>
- 78 :40号@副管理人 ★ :2005/09/10(Sat) 17:15:27
- 【アカネ】に出てくるアカネはアカネであってアカネではない!
意味が判りませんね、はい。お互い様です。
まあそうですね、某作品の影響をかなり受けちゃってます。
面白い話で、十月から日テレ土曜九時でドラマ化されるらしいです。絶対見ます。
まあこの作品について語る事があるとすれば、一言。
アカネファンの皆様、すみませんでした。以上かな。
- 79 :40号@副管理人 ★ :2005/09/11(Sun) 11:31:13
【だからきっと】
「どう見られたいか、気になるの?」
綺麗なピジョンが――薄汚い僕に、言う。
「そんなに欲しいの? 綺麗な翼」
僕の欲しい物を全て持っている、君。憧れていて、だからこそ答えたくない。
「何とか言ったらどうなのよ。アンタの気持ちが聞きたいの」
「……………………」
答えたくはなかったけれど、しかし答えたかった。だから、僕は。
「欲しいですよ」
短く、答えた。
「綺麗な翼が欲しいです。どうして僕らは違うんですか」
途端、君は真面目な顔になり。
「綺麗な翼を持っていて、綺麗な身体を持っていて。ところでそれが何になるの?」
「見掛けは、大事ですよ」
僕も、吐き出す。
「綺麗な方がいいでしょう。要はそういう事ですよ」
「それじゃあアンタに質問よ。見掛けが一番大事なの?」
君の声は、僕に響く。後には、退かない。
「あなたの答えが聞きたいです。どう答えますかあなたなら?」
そうね、と考えるようにする。
「飛べない鳥に意味は無い。例えどれだけ綺麗であっても」
さらりとそう言うと、君は含みのありそうな表情で、僕を見る。
「アンタは――飛べるじゃない。この私より幾分速く」
納得しかけたその答え。けれどそれは――。
「何かが違うと思います」
僕は否定した。
「飛べない鳥に、意味は無い。言ってる事は、判ります。だけれどそれは、一般論。僕は綺麗な翼が欲しい。例え飛べなくなろうとも」
「……そう」
違う、違う。違うんだ。自分では判っている。君の答えは正しいと。
「アンタは自分を誤魔化したいのね。大して中身の無い自分を」
そして僕に背中を向ける君。駄目だ。最後にせめて――。
「例えば」
君の後姿に向けて。
「持つ能力が同じなら――綺麗な方がいいでしょう?」
「それは個人の問題よ」
意外にも、即答が返ってきた。足を止めた君は、振り返り。
「私は好きよ、アンタみたいなの」
「……何ですか、それ?」
うふふ、と彼女は笑んだ。
「自分に自信が無いのなら、私が一緒に汚れてあげる。だから――」
だから。だから。だから。
彼女は――言ってくれる。
だからきっと――大丈夫、かな。
<Fin>
- 80 :40号@副管理人 ★ :2005/09/11(Sun) 11:36:51
- デュルー君に捧げます、【だからきっと】。
自分の気持ちを文章にするって言うのは難しいです。
まあ裏も深みも無い作品で、言ってる事が全てなんですね。
だからこそ、デュルー君に捧げたい。そんな失敗作。
最近は原点に戻ってまたポケモン系を書いてます。
色んなジャンルをやってみた方がいいといわれたので。
ノベライズだの何だのにも他サイトで挑戦中。
僕の文章を見かけたら微笑んで下さい。いや別になんでもいいけど。
- 81 :40号 :2005/11/12(Sat) 10:58:04 ID:gIueUkcI
- 【ENDING】
「お前の実力は――本物だ」
幼い頃からのライバルに言われ、赤帽子の少年は静かに微笑んだ。
ジム制覇。四天王撃破。殿堂入り。
そして――全ては、エンディングを、迎える。
少年は、静かに微笑む。ただただ、微笑む。
そして、気付く。
エンディングの後にあったのは。
虚しさ、だけだった。
空虚さ、だけだった。
世界は終わる事も無く、巻き戻される事も無く。
何も変わる事は無く、ただ自分だけが日々変わって行く。
それは、単純な話。そこが現実ではないから、だ。
少年は、それに気付き。
そうして彼は、役目を終える。
非現実的な世界の中で仰せ付かった役目を。
ポケモン? そんな物、知らない。
学校に――行かなくては。
仮想空間の中で何をやろうと。
現実は、変わらない。
自分を誤魔化す事も、もう限界だ。
少年は――携帯ゲーム機の電源を、落とした。
「もう、卒業かな……」
<Fin>
- 82 :40号 :2005/11/12(Sat) 11:00:16 ID:gIueUkcI
- 語るべき言葉などありません。
ただ、一つだけ。
現実は、とても楽しいです。
そんなこんなで、【ENDING】でした。またの機会はございません。さようなら。
- 83 :No.40 :2006/01/29(Sun) 11:01:54 ID:AcUVeTDw
【世代交代】
「――私の父はいつかのこの季節、ここでこう私に聞いた」
それは、小高い丘の上。そこに二人の影が、座り込んでいる。
和服の男が、同じく和服の青年に、そう語り掛けた。
「お前に質問だ。……鳥使いに必要な物とは何か。お前は判っているか?」
突然の問いに、青年は「父上?」と男を向く。向いた先の真面目な顔に暫く考えるようにした後、静かに、そして俯き気味に。
「……判り、ません」
「そうか」
何の気も無さそうにそう応えると、男はくすりと笑った。昔を懐かしむようなその仕草。
「……父上?」
今になって初めて見る父の仕草に、青年は少し戸惑っているようだった。その様子に、男は目を細める。
「――ああ。それで良いのだ。その答は、お前が自分で見つけてゆくものなのだからな。嘗て私がそうしたように」
嘗て、とは。――青年は考える。嘗て、とはやはり父の父……自分の祖父に当る者が生きていた頃の話なのだろうか。父と母が出会う前の話なのだろうか、と。
「さてと。そろそろ、行かなくてはな」
独り言のようにそう言うと、男は立ち上がる。青年も、少し寂しさを感じつつも続く。
「ふう……父上」
「どうした?」
「セキエイに行かれても、頑張って下さいね」
「ああ。お前も、ジムをしっかりと」
男から放たれたピジョットが――額に傷のあるピジョットが、ゆっくりと翼を動かした。
青年の放ったヨルノズクも――別方向へ向け、大きく翼を広げる。
「さようなら」
季節は、秋。
いつか自分もこの場所でもう一度、秋風を感じる事になるのだろう、と。
そう思いつつ、青年は新たなるキキョウのジムリーダーとして羽ばたき出すのだった。
<Fin>
- 84 :No.40 :2006/01/29(Sun) 11:04:28 ID:AcUVeTDw
- 【世代交代】ってのも今時聞きませんよね。
まあそんな感じで久々に執筆してみました。最後の方が綺麗に纏まると嬉しいです。
…書くことがありません。
日曜日の空気が美味しいです。
- 85 :40号 :2006/02/12(Sun) 18:18:50 ID:sq8a9aUg
【むかしばなし】
「ふうん――変わっちまったもんだ……」
その老婆は、コンピュータに向かいながら呟く。
「やっぱり、あいつが勝ち組だったのかねえ……?」
画面には難解そうな文字列が、頭が痛くなりそうな程に並んでいた。順々にスクロールしていくと、二枚の画像がサムネイル表示される。
「全く、今じゃあジジイ、世界的な有名人だ。全国図鑑なんて洒落た物まで……」
二枚の画像の内の一枚を拡大しながら、彼女は溜息を吐く。そこに写っているのは、ポケモン図鑑。
彼女の嘗ての同胞が創り上げた――世界的で画期的な、そんな機械。
「そもそもあの頃は思われてなかったからねえ……まさかポケモンが150種以上居るだなんて。――馬鹿げた研究を、と思ったもんだが……どうやらあたしは、年のとり方を間違えたらしいねえ」
老婆は自虐的に笑みつつ、もう一枚の画像も拡大表示する。
それは、ポケモン図鑑の開発者。老いた、それでも強固たる意思を秘めた目をした、そんな一人の男性のモノクロ写真であった。
「ジジイ、昔は強くていい男だったのにねえ。今となっちゃ見る影も無いが……それでもカンナくらいの実力なら軽く凌いだだろう」
――カンナ。四天王の一人であり、即ち……彼女の同僚。《四天王》と言うだけでそれはカントーで五本の指に入るほどの実力者を指す。それを軽く凌ぐだけの実力が――男には、確かにあった。
「――にしても、今更になってあの図鑑が評価され出すなんて……ジジイもこれで浮かばれるだろうねえ……」
フェッフェ、と咳混じりに彼女は哂う。
「にしてもジジイ、最期まで気付かなかったようだが……あたしはあいつの事――」
――嗚咽が漏れた。
「――本当に好きだったのにねえ……愛してたってのに……」
それだけを殆ど一息で言い切ってそうして――彼女は机に顔を埋める。
わっ、と我慢していたかのように呻いて泣いて喚いて。
コンピュータの画面に映り続ける白黒画像。
それは一つの時代の終わり、そして同時に始まりを示していた。
<Fin>
- 86 :40号 :2006/02/12(Sun) 18:20:54 ID:sq8a9aUg
- 短くまとめるってのは難しいなあ、とか思いながらも書き上げ。
あんな頃もあったなあ、とかそんな【むかしばなし】。
- 87 :40号 :2006/02/18(Sat) 20:47:26 ID:OAIE3G0I
【カリン】
それはかつて、彼女が強さを追い求めていた頃の記憶。
『デルビル、《火炎放射》――ヤミカラスは《騙し討ち》』
単純作業を繰り返すように、そんな風に彼女は淡々と技を命じていた。――否。彼女の声の中には一つだけ、混じっている感情があった。
『……何をやっているの、デルビル。そんな風では……勝てないわ』
そう、それこそは苛立ち。
苛立ちという一つの感情が、彼女の中には確かにあった。
――カリンという少女の存在は、四天王の間でも話題となっていた。まるで毎日の日課のようにセキエイで四天王に挑む、一人の少女。しかしいつも勝ち抜けず、苛立った表情で去って行く――そんな少女だったが……ここ暫く、顔を見せていないのだった。
その理由は、《特訓》。
力を手に入れる為に――彼女はチャンピオンロードに、篭っていたのだった。
『――カリン』
その少女は、受付の係員に自らの身分証明書とそして専用のケースに美しく並べられた自らのバッジを見せる。
……そう、久々の再戦なのだった。
『今日は、必ず……勝ってみせる』
自らを奮わせるようにそう呟き挑戦したのだがしかし彼女は――四天王の三人目である《ゴースト》遣い――キクコにやはり、すんでのところで敗北したのだった。
『良い勝負だったよ……成長したと見えるね』
肩で息をしながら、キクコは少女に微笑む。キクコにとっては久々の彼女との再戦であったが――実際に、実に、彼女は強くなっているように思えた。
しかし彼女は肩を震わせ、唇を噛み締める。《良い勝負》とキクコは言ったが……しかしそんな言葉に意味は無いのだった。
『そういえば――今日はイーブイが出てこなかったね……どうかしたのかえ?』
キクコは彼女に聞く。四天王からの初めてのそんな質問に、少し戸惑いつつも。
『イーブイは……使わない事にしました。弱いから』
『…………』
その答にキクコは、暫し沈黙して――その後、静かに口を開く。
『アンタにとってポケモンって――何だい?』
『え……?』
『《友達》《兄弟》《仲間》《相棒》《道具》……そんな感じで答えてくれればいいよ。アンタにとってポケモンは、何なんだい?』
友達。兄弟。仲間。相棒。道具。……しかしその語群の中に相応しい言葉は無いように思えた。
彼女が答えに詰まっていると、『フェフェフェ』と。
『喋りすぎてしまったかねえ。やっぱり今の質問は気にしなくて良い。……だが、これは判っておかなければならない事だよ。ポケモントレーナーとしてね』
一呼吸置いて。
『四天王の四人目――ワタルは、遠く離れた地でそれを学び続けたトレーナーだ。これが判らない人間に、あいつは倒せまいね……』
それから。
彼女は《友達》としてイーブイを育て――そしてそのイーブイは、進化し《相棒》といえる存在になったのだった。《友達》以上に頼れる、《相棒》に。
結局相応しい言葉は見つからなかったが――彼女はそうして、四天王を破るという快挙を達成したのだった。
そうして――。
あるホテルの一室。ソファに身を任せつつ目を閉じて昔の記憶に浸っていたカリンは、吸っていた煙草が灰に変わっていく感覚に、ゆっくりと目を開いた。
短く短くなってしまった煙草を灰皿に押し付け、口から煙を吐き出す。
「ふう――」
悩み事があった時に思い出すのは、幼い頃の記憶だった。全く今となっては恥ずかしいとも思えるような若かりし日の思い出。あの頃を思い出せば、自分が抱えている悩みなど小さなもののように思えるから不思議だった。
「はあ……それにしても……」
《四天王》というのは破るものではない、破られるものだ。――今となっては、そんな風に感じるようになっていた。それは、自らが挑戦者ではなく四天王の一人となったという事……そう、環境の変化というものも理由としてあるのかもしれない。
「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手……か」
自分で見つけた、自分なりの答。
「本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき……よね」
好きなポケモンは、強いポケモン。いつか聞いたそんな言葉の意味が判るようになるまで、随分時間は掛かったが。
だが、答はいつでも、側にあったのだ。
「――うん。ラキ、これからも宜しくね」
彼女の足元のブラッキー。その目は優しく微笑んでいた。
<Fin>
- 88 :40号 :2006/02/18(Sat) 20:51:57 ID:OAIE3G0I
- んー、サブタイトルを付けるとしたら【原点回帰】とかその辺りでしょうか。
まあ何でもいいんですけど、結構いい感じに纏まったなあ、とか。
カリンさんには「強いポケモン弱いポケモン…」という名言があるのでその内書きたいなあ、とか三年位思い続けてたんです。
でも彼女は何かキャラが立ってないから如何せん書き難かったんですよね…まあ色々勝手に書いちゃいました。
まあそんな感じで、【カリン】でした。最近になって頑張りだしている40号の次回作にご期待ください。
- 89 :40号 :2006/02/25(Sat) 12:48:31 ID:C3b57G2A
【シジマ】
愛妻家の彼が大切な人を亡くしてから、もう一週間が経とうとしていた。
原因は、事故だった。他地方へと旅行に出掛けた際の、不慮の事故。
彼は――妻を守れなかった自らに対し怒りを、そして責任を感じていた。
「……シジマ、さん」
そこはタンバのジムの中。扉の開く音と聞き慣れた声に、彼――シジマは俯けていた顔を起こす。そして、ゆっくりと入ってきた一人の青年に目を遣って。
「――よう」と、静かに呟いた。
「どうも」
青年もそれに応じ、そしてシジマの目前の床に、直に腰を下ろす。ぎい、と少しだけ床が軋んだ。
「……一体、何の用だ?」
言葉に、青年はじっとシジマの顔を見つめ――そして俯く。嘗ては逞しさに溢れていた彼。しかしその頃の面影は、もはやほぼ失われていた。
「……………………」
何か話を続けようと、奥さん、と言い掛けて青年は咄嗟に口を噤む。自分にはまだ、愛する人を失う悲しみが判らないのだから――だから、今のシジマに対してそんな事を言う気にはなれなかった。
「今日は……リーグからの通達を届けに」
「むう」
ポケモンリーグからの――通達文書。それは、ジムリーダーとしてのシジマに対する物だった。
……タンバは海に囲まれた島である故に挑戦者もそうは来ないのだが、しかしそれでもジムを一週間も閉鎖しているなど、許されはしない。直ちにジムを開けるように――それが、通達文書の主な内容だった。
「……そうか」
シジマは文書に一通り目を通した後、そう言って――そして、ジム全体を見回した。何十年も続けてきたジムリーダーという仕事。辛い事もあるが喜びにも溢れている、そんな仕事。しかしその仕事をやってこれたのは――妻の存在があったからだった。
だから、シジマは――文書に対する答を。
「なあ。……俺は、ジムリーダーを辞めるつもりだ」
その青年は、一瞬呆けたような表情を見せた後――「何故ですか」と、短く問う。早口で、そして少し裏返ったような、動揺を隠しきれていない声音。
「貴方は――これまで実力者の代名詞――ジムリーダーとして、やってきた」
「うぬ」
「それなのに――何故ですか」
青年は酷く動揺しているようだった。シジマが――決して弱音を吐かない存在だと信じてきた者が、脆くも堕落していく様に驚愕しているのかもしれない。
「――俺は」
弱々しく俯いていたシジマは、そこで少しだけ昔のような顔を見せた。
「確かに俺は、これまでジムリーダーをやってきた。だがそれは――全てあいつと共にやってきた事だよ。
あいつが強い男が好きだと言ったから俺は鍛えた。あいつが勧めてくれたからこの道にも入った。
あいつと共に、辛い事も嫌な事も耐えた。あいつと共に、嬉しい事も小さな感動も分かち合った。
俺は――あいつと共に生きてきたんだ」
しっかりと、一言一言に力を入れつつそう言って。
「今はもう――あいつが、居ない。――だから、伝えておいてくれ」
シジマは、青年に背中を向ける。
もう、彼女は、居ない。
判りきった事実に、シジマは静かに泣いた。
リーグからの返事は、保留との事だった。しかしシジマはもう、ジムを後継者に明け渡す準備をしていた。
自宅の物置代わりに使っていた、ジムの床下の格納庫。そこを整理していたシジマは――古ぼけた一冊の日記帳を、見つけた。
「…………? これは――」
表紙に刻まれた四桁の数字は、それが書き込まれた年代を示している。――今から何十年か前。
ぱらりぱらりとめくって見ると――写真が挟まっているページを見つけた。
「――――?」
シジマと、妻と、そして二人の娘が写った写真。しかしその写真を撮ったのは――今から七年前。どういう事だろうか、と思ってそのページに記された文を読む。……それは、彼が妻と出会った時の、一つの記録だった。
嘗て、自らが彼女を守った――その時の一つの記録。
「……そうだな」
そうして。
彼は、ポケモンリーグに連絡をとる。
対応が『保留』であって助かった。危うく――大切な物を失うところだった。
ジムを開けると間も無く、一人の腕白そうな少年がジムに飛び込んできた。
「よう、ボウズ――じゃあ、三対三のハーフマッチでいいか?」
少年が頷いたのを見て、シジマは右手にモンスターボール、そしてポケットに入れた左手には一枚の写真を握り締めて――不敵に笑う。
今度こそは、大切な人を守れるようになる為――彼は更なる高みを目指す。
<Fin>
- 90 :40号 :2006/02/25(Sat) 12:52:05 ID:C3b57G2A
- さて、さてさて、さてさてさて。【シジマ】です。
個人的にシジマ好きです。超シジマ好きです。めっちゃシジマ好きです。
今後の課題は更に短く纏める事。頑張ります。
- 91 :40号 :2006/03/04(Sat) 15:36:33 ID:1nWrF2c2
【春】
――彼と以前会ったのは、およそ一ヶ月前だった。突然何の用だろうか。そう思いながら、彼はチョウジジムの扉を開く。中はがらんとしていて――氷の床を隔てた向こうにジムリーダーのヤナギと、その足元に彼のイノムーが居るだけだった。
「――やあ」
ヤナギは扉の開く音でこちらに気付いたようで、軽く一礼する。グリーンは扉を閉めると、氷の床を綺麗に滑り、彼の前に立った。
「グリーン――呼付けてしまって、すまなかったな」
「いえいえ……それで、御用件は?」
ヤナギの顔は、以前会った時よりも少し変わっていた。丸くなったような印象、といった所か。……そんな事を思いつつも聞くと、返ってきたのは意外な答だった。
「私はそろそろ、この役目を――ジムリーダーという役目を終えることにする」
「え……?」
チョウジジムリーダー、ヤナギ。氷のエキスパート。固き氷に身を閉ざすその姿から、《永久氷壁》という通り名で恐れられる彼。
その彼がジムリーダーを辞める。……俄かには信じられない事だった。
「一人の少年と戦った事でな、色々と見えたんだよ」
静かな言葉。
「氷が解ければ春になる。そんな事、ずっと忘れていた……春なんて季節、思った事もなかったな……」
ぽつりと、漏らすように――ヤナギは、呟いた。
「ヤナギ、さん……」
「ずっと――冬の中、必要以上に寒さに耐えてきたのかもしれない。春が来るまで、なんて思わずにその時のことだけを考えて。そんな無茶をしている内に、私の心の中の季節はいつしか冬だけになってしまっていたんだろう――」
ヤナギは言って、足元のイノムーを抱き上げる。
「でもな――この前こいつがお前のピジョットと戦った時の傷も、もう完治した。氷は解け始め……私にもようやく、春が来たのかもしれない」
そして暫く黙った後――ヤナギは、ゆっくりと暖かい目で言う。
「――お前は、若いな。……羨ましいくらいに」
「……………………?」
「春を忘れていた私と違って……お前には、沢山の時間がある。ポケモンと共に春を過ごせるだけの時間が――若いお前には、まだ沢山ある」
ヤナギは、イノムーを足元に戻すと――微笑んだ。
「その時間を――《春》を、大切にな」
ヤナギの言葉に、何かを見つけたような気がして――ゆっくりと一人頷き、そしてグリーンはまた歩き出す。
冬の寒さに耐えてこそ――気持ちの良い、春が来る。
<Fin>
- 92 :40号 :2006/03/04(Sat) 15:43:50 ID:1nWrF2c2
- 季節ネタも散りばめる40号素敵!とか。
そう、もう【春】なんですね。寒すぎて気付きませんでした。
金銀をやったらヤナギさんの台詞が素敵すぎたので、それが主。矛盾など知らぬッ。
反省点としては、まあ全体的な文章のバランス。やはり小説は上の行から書いていくのがいいのかもしれません。
- 93 :1/2的な40号 :2006/03/19(Sun) 20:39:46 ID:6o.VqdGQ
【君と唄っていたかったな】
――そこは、とある洞窟の中。
「おーい、ラプラスぅー!」
「クゥゥー!」
そのラプラスは、ずっとここに居ました。地底湖の中、周りにポケモンは居ません。ラプラスは、一人ぼっちでした。……少し、前までは。
「ラプラス、今日はあたしクッキー焼いてきたよ!」
「ククゥー!」
一人の少女が、今日もラプラスに駆け寄って微笑みます。
その少女は――ラプラスの、友達でした。
……それは、今から数ヶ月前。
一人の少女が、洞窟を通り抜ける途中――ラプラスの住む湖に辿り着いたのです。
『……あなた……図鑑で、見た事ある。確か……ラプラス?』
『クゥ』
ラプラスは、湖の縁までやって来て、少女に背中を向けました。
『乗れ……って、言ってるの?』
『クゥー』
恐る恐るといった感じに少女が背中に足を乗せると、ラプラスはゆっくりと泳ぎ始めました。
『……きゃっ!』
ラプラスはゆっくりと、ぐーるぐーると、湖を廻り始めます。
『……あはは』
しばらくすると、初めは怯えていた少女も、笑顔になりました。
そして――
『あたし、ウタネ! ……よろしくね!』
――二人は、友達になりました。
それから、少女は毎日洞窟に来るようになりました。
二人は、毎日楽しい時を過ごすのです。
少女は、ラプラスの背に乗りながら、よく曲を口ずさんでいました。
――『あたしね、将来歌手になりたいんだよ』。少女はいつも、そう嬉しそうに繰り返していました。それを聞く度、ラプラスは幸せになります。
……ラプラスは、気付いた時から独りでした。
だからこそ、少女――ウタネの存在を、とても暖かく感じたのです。
- 94 :2/2的な40号 :2006/03/19(Sun) 20:40:14 ID:6o.VqdGQ
……一年が経ちました。
近頃、少女はあまり洞窟に来なくなりました。
「――ラプラス」
「クゥー!」
ある金曜日。ちょうど一週間ぶりに来た少女は、ふらりふらりとラプラスの所へ寄ってきます。お姫様が背中に乗ったのを確認すると、蒼き王子は動き出しました。――そう、いつものように。
ラプラスは、ゆっくりと泳ぎます。
「ねえ、ラプラス。はっきりしたよ。今日、お医者様が言ってくれた」
ラプラスは、ゆっくりと、泳ぎます。
「あたしの病気……声が出なくなる病気なんだって」
ラプラスは――ゆっくりと泳ぎます
「入院、しなくちゃ駄目だって。手術しても、助からないかもしれないって」
ラプラスは――ゆっくりと、泳ぎます。
「しばらく、あなたと会えないかもしれない」
ラプラス、は――ゆっくり、と、泳ぎ、ます。
「もう――ずっと、会えないかも、しれない」
……最後の声は、消え入りそうな小さな声。その声は、ラプラスには聞こえなかったようでした。
もうすぐ――ぐるりと一周してしまえば、ウタネとは会えなくなるのかもしれない。
……そんな事を考えながら、ゆっくりと。ゆっくりと、王子は姫を運びます。
「――ありがとう、ラプラス」
ウタネは、言います。
「とっても、楽しかったよ」
その笑顔は、どこか淋しげでした。
それから、一週間後の金曜日。ラプラスは少女を待ちました。
少女は来ませんでした。
それから、二週間後の金曜日。ラプラスは少女を待ちました。
少女は来ませんでした。
それから、三週間後の金曜日。ラプラスは少女を待ちました。
少女は来ませんでした。
それから、一ヶ月間。その次の月。ラプラスは少女を待ちました。
少女は来ませんでした。
それから五年後のある金曜日。ラプラスはまだ少女を待っていました。
少女は来ませんでした。
ラプラスにも、本当は少しだけ判っていました。
もうウタネは、戻ってこないのだと。
けれども。
今日はウタネはどうしたのだろう? ――ラプラスはそう、思い続けます。
そして。
――今日もラプラスは独り、唄います。
少女と同じあの曲を、地底湖で――ラプラスは唄い続けるのでした。
<Fin>
- 95 :40号 :2006/03/19(Sun) 20:47:57 ID:6o.VqdGQ
- つながりの洞窟にラプラスが居た事に、発売日からやってた癖して今日初めて気付きました。
言い訳させてもらうと、僕は金曜日はゲームをやらない主義なんです。
…いや、嘘ですけどね。だって金曜日につながりの洞窟なんて、(省略されました。)
どうでもいい話。
【君と唄っていたかったな】なんて台詞を一度は吐いてみたいです。
あと「ここは俺に任せて先に行け」とか。
「この戦争が終わったら俺」なんてのも良いですよね。一度は言ってみ、……。
40号でした。
- 96 :40号 :2006/03/26(Sun) 15:58:49 ID:B3krQwh2
【センリ】
夢のある子供、と幼い頃にそんな風に形容されたことがあった。夢。そんな言い方をしてしまえば聞こえは良いが、実際にはそんな表現はそぐわない、ともずっと思っていた。私が持っていたのは夢ではなく――押し付けられた理想であり、幻想であったから。
「――なるほど。つまり、ジムリーダーになったのは御両親の意思、と……?」
ええ、と私は答える。
「ただ、今では思っていますよ。この仕事に就けて良かった、とね」
「ほほお……」
甘ったるい空気の漂う小さな喫茶店の中、私は小さく溜息を吐く。
――雑誌の取材、という言葉はどうやら嘘ではなかったようだった。最近は取材と称してジムリーダーを呼び出して
怪しげな組織への勧誘を行う輩が増えているという旨を協会の方から聞いた事があったので少し訝しんでいたのだが、これは別にそういう訳でもないようだった。……ただしかし、取材を受ける場所がこんな場所だとは思わなかったが。
インタビュアーは二人組の若い男女だった。女の方が質問して、男の方がメモを取る。真剣なその目には、何となく気圧されてしまう部分があった。
「それにしても――流行ってるんですか、こういう所」
男がメモを取っているタイミングを見計らって、暇そうに目を泳がせている女に向けてそう訊いてみた。え、と女は一瞬虚をつかれた表情をしたが、すぐに「ああ」と頷く。
「土曜日とかは若い子達で賑わうみたいですね。私もたまに来ますけれど……とりあえずコーヒーは美味しいですから」
その言葉に、私は右手で何となく触っていたコーヒーカップを見つめた。こういう場所でコーヒーを飲むのは新婚以来のような気がしたが、確かに不味くはない。
ほど良い苦味は、私の頭を活性化させてくれた。また今度、あいつが旅から帰ったらこの店に来たい、とそんな事を思わす味。
「んーと。それじゃあ……センリさんは、将来に夢を見た事は……ないと?」
男がメモを取り終えたのを横目で確認すると、女はまた私に聞いた。
「――いいえ」
私は、それを否定する。
「ただ、一つだけ。私が自分で見つけた、一つの夢が――ありました」
女は、私を静かに見つめるとやがて口を開いた。
「その夢は……叶ったんですか?」
「ええ。――もう、叶いました」
そう言って、私は微笑む。
あいつの産声を聞いた時から見ていた、その夢。
「そう、ですか」
今度はあまりメモを取るのに時間は掛からなかったようだった。男は満足そうに、しきりに何度も頷いていた。
「――えっと、それじゃセンリさん。最後の質問です」
女は、私に微笑む。
そして、ゆっくり。
「今、幸せですか?」
「……ええ」
私は頷く。
「とっても、幸せですよ」
<Fin>
- 97 :40号 :2006/03/26(Sun) 16:00:24 ID:B3krQwh2
- ホウエンのヒトを書いたのは初めてです。
だから言い訳はしません。
まあ読み取ってみて下さい。【センリ】でした。
- 98 :40号 :2006/07/14(Fri) 13:32:48 ID:zt2soi26
【カツラ】
廃墟と化したこの無人島に普段灯りはない。しかし今夜は一つだけ――小さな紅い炎が一つだけ、微かに辺りを照らしていた。
地味な紅に揺れるその炎は、静かに歩く一匹のヒトカゲの尻尾からのもの。
活火山があったこの街、一時期は野生の炎ポケモンも数多く居たのだが、そのヒトカゲは野生という訳ではないようだった。……そもそも最早火山も冷え切っていて、この辺りには今となっては炎ポケモンは殆ど生息していないのだから。
「――今やもう夢の跡、か」
突然に背後から聞こえてきた男の声に、そのヒトカゲはぴくりと反応した。後ろを不安そうに振り向き、指示を仰ぐように立ち止まる。
「驚かせてしまったか、カゲ。……もう少し炎を照らせるか?」
すぐにヒトカゲはこくりと首を振ると、また前に向き直って微かに体を震わせた。徐々に徐々に、視界が少しずつ明るくなる。
「よし。……それで、充分だ」
その炎は、ヒトカゲの背後に立っていた男の顔もゆっくりと照らし出した。
サングラスに白衣。そしてスキンヘッドを隠すように茶の登山帽。そんな少しちぐはぐなファッションに身を包んだその男の名は――カツラ。
「――月が出てきたな、カゲ。……丁度もう目的地だ」
登山帽を両手で押さえつけながらヒトカゲの後ろをゆっくりと歩いていたカツラは――静かに立ち止まり、そして溜息を吐いた。
- 99 :40号 :2006/07/14(Fri) 13:33:29 ID:zt2soi26
- カツラが立ち止まったその場所は、島では一番高い場所だった。建設中だったオブジェに火山灰が降り積もって固まって出来た小高い丘。
グレン火山の噴火の際に、溶岩に押し流されなかった為に出来た唯一の丘。その場所で一人と一匹は座り込み、火山とそして廃墟を静かに見つめていた。
「――此処はもう」
静寂に包まれた空気の中、静かに口を開いたのはカツラだった。
「此処はもう、私の居るような場所ではないのだろうかな……なあ、カゲ」
突然の言葉に、ヒトカゲは驚いたような目でカツラを見つめる。
「お前は知らないだろうな。あの頃は……ここが街であった頃は、楽しかったんだ。私はやりたい事が出来、そしてそれを受け入れてくれる人々も居た。私の居場所はここにしか無いと、そんな風に信じていたんだ」
……とても静かな口調だった。しかしカツラの様子はいつも通りではなく――とても歪な感じがした。
「――だけれど。私はその唯一の居場所を失ってしまったんだよな。噴火の時はまだやれると思っていたのに……セキエイの本部はそれを許してはくれなかったんだ。危険な場所にジムを置くのは不適切だとね」
そして今度は自嘲気味に笑うカツラ。
「なあ。やりたい事をやる為の居場所を失った人間は、やりたい事まで失ってしまうんだよ、カゲ。昔だってそうだった。……お前は知らないよな、私が以前この島で友人と共に進めていた研究の事は。
……だが研究は見事に失敗し、友人の一人は命を落とし、そしてもう一人は研究から離脱した。三人の仲間内、それが私の唯一の居場所だったというのにな……居場所を失った私はそして、バトルの道に入った」
淡々と話しながら、カツラは登山帽を脱ぎ膝の上へと置いた。と、それを見てヒトカゲは何かを伝えるように小さく鳴く。カツラはそれを右手で制すと、静かに溜息を吐いた。
「今からじゃあ……無理だよ。あの時は私には若さがあったんだ。だから乗り切れた。けれど……」
カツラは俯き気味に、あの頃は友も居たからな、と早口で言って、そして今度は廃墟となった街の方へと体を向ける。
「今からじゃあ、無理なんだ……なあ」
――その時。
強い風に煽られ、カツラの膝の上の登山帽が飛んだ。
「……やっぱりか」
登山帽の方を向き――否、ポケモン屋敷と呼ばれていたその建物があった方を向いて……カツラは独り言のように――否、風で飛ばされた登山帽に向けて大きく息を吐いた。
「すまないな、カゲ。これで――吹っ切れた。もうこの島に未練は無い」
「……カゲ?」
「帰ろうか……なあ」
FUJI、と刻まれていた登山帽が風に舞うのをを眺めながら、カツラは呟いた。
それは、数日前に息を引き取った旧友の形見だった。
前が見えなくても、進むしかない。
そんな事は判っていたが、
それはやっぱり苦しかった。
<Fin>
- 100 :40号 :2006/07/14(Fri) 13:34:28 ID:zt2soi26
- 書いたものが全てです。
書いたものの全てです。
<Fin>
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Colorful Board System Version1.01 by ミライいろ。