【1:45】 Blue Sky 第二部
- 1 :エンタ :2007/08/04(Sat) 21:25:44 ID:nMqzbP/M
- ごぶさたです、エンタです。
お待たせしました(待ってない人も)、第二部の書き込みを
カメのようにトロい更新頻度ながらもやっていきたいと思います。
本日某メッセに行って、改めてポケモン人口の多さを知り…少しでも多くの人に読んでもらいたいと強く思いました。
応援よろしくお願いします!
P.S.あなたは某メッセでタッチペンを口にくわえた不審者を見かけたりしましたか?笑
- 36 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:00:19 ID:dHycQM..
- 第32話 トバリシティ
「ここに来るのも、久々じゃなぁ…」
どこまでも続く藍色の空の下で、イッセンはしみじみと溜め息をついた。
トバリシティ。
数々の神話や石の眠る町にして、昼も夜も決して眠ることのない街。
シンオウ地方における将来住みたい町ナンバーワンをヨスガシティと争っているとか。
ダイゴがシンオウに来ている間、滞在していた町でもある。
仮にミクリならヨスガかナギサに住むだろうし、ヒサヤならクロガネに住むのだろう。そして花屋三姉妹なら確実にソノオに住むはずだ。
そんなことを考えながら彼がのんびり歩いていると、鮮やかな桃色の髪の女の子がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
「おじさぁーん!!」
「おぉ、スモモちゃん」
伯父、というよりお爺さんみたいな反応を返すイッセン。しつこいくらいだが、彼は45歳である。
「お久しぶりですっ」
「なんじゃ、また転んだのか? でっかい絆創膏なぞ、顔に貼っつけて」
「えへへー」
無邪気に笑う小柄な少女。やんちゃなのはいいが、顔に大きな傷でも作ればお嫁に行けなくなるのではないか、と危惧してやまない。
「お家のほうは、今大丈夫かの」
「はい。お母さんも今いますよ」
「そうか。では、早々に用事を済まさせてもらうとしようかのぅ」
のんびりと言った彼の表情は、しかし真剣そのものだった。
おじさん、との呼び名どおり、桐崎イッセンは六文銭スモモの伯父である。
つまり、彼女はイッセンの姪にあたる。
だがイッセンは生来の孤独で親もなく、兄弟もひとりとしていなかった。
だからスモモはイッセンと血が繋がってはいない。彼の『大切な人』の妹の娘である。
幼い、本当に幼い頃、とある文献に興味を持ちこの地を訪れ、そして出会った。
六文銭ヒナタ――すなわちイッセンにとって世界一大切な人と。
「何の用」
久々に顔を合わせての第一声が、これである。たまったものではない。
だが、それが仕方ないものだということは、イッセンにもよくわかっていた。
六文銭ヒカゲ。ヒナタの妹である。
「ちょ、お母さんっ」
スモモが慌てて宥めにかかるが、彼女の態度は変わらない。
「いいんじゃよ、スモモちゃん」
「…ふん。今さら、何をしに来たというの」
氷のように冷たく研ぎ澄まされた視線が、イッセンの身体を貫く。
「あなたとの縁は切ったはずよ」
「これを返したくての」
腰にさげていたものをそっと床に置き、包んであった布をほどく。
藍に染められた、木刀だった。
「宝刀『陰(ひかげ)』。彼女が、お前さんを愛しておった証拠じゃ。長いことヒナタの墓前に供えてあったのだがの。ここへ返すのが良いと思った」
「それで、ノコノコと現れたわけね」
「お母さんっ…!!」
・・・長いので省略されました。 [全て読む]
- 37 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:00:45 ID:dHycQM..
- 第33話 清風渡る水脈(ミオ)
ボートで海を渡ること数時間。突出した森だらけの陸地を大きく迂回して、北側から入り江に船を運ぶ。
地図の通りに来られたならば、眼前に広がる町並みはおそらく「ミオシティ」だろう。
シンジがいくつもある桟橋のひとつに船を泊めると、早速町の船乗り達が集まってきた。
「おい、あんた…この辺では見ない顔だが、どっから来たんだい?」
「ジョウトからだ。この港は使わせてもらっても?」
「ああ、構わねぇぜ。港に船着けんのに誰の許可が必要ってワケでも、船をいくつ泊めて困るワケでもねぇしよ」
「心遣い痛み入る。ところで、ここから北方の周辺海域に詳しい者はいるか?」
「それならナミキさんが適任だろ」
4、5人いた船乗りの中から、ひとりがシンジのほうへ進み出た。
「海原ナミキだ。北ってことは、こうてつじままで修行に来たクチか?」
「……? いや違う。俺はしんげつじまに行きたいんだが」
船乗り達の空気が固まる。一瞬の後に、どっと爆笑が湧き起こった。
「はっははは、そりゃいいぜ兄ちゃん!!」
「ジョ、ジョウトの奴らってのは、あんな御伽噺を本気にしてるってのかい!?」
「頭の中もあったけぇなぁオイ!!」
「…何だと、貴様ら…!!」
故郷を侮辱されて、シンジが熱り立った。
「黙らねぇか、お前らァぁ!!!」
ナミキの怒号が飛んだ。途端に皆おとなしくなる。
「…済まねぇな。なにせ、しんげつじまってのは俺ら船乗りの間でも真偽のほどが定かじゃねぇ伝説なんだ」
「そう…かもしれないな」
「だから島の存在を本気で信じてないヤツも多いってワケだ。同じように、ダークライの存在もな」
「ダークライ……それが悪夢の名か…」
「!! 知ってるのか!?」
「当然だ。俺は俺の悪夢を終わらせるため、そいつを捕獲しにここまで来たんだ。何も無いなどとは言わせん」
横暴な言い方だが、ナミキの心を揺さぶるには十分だった。
「へっ、面白ぇ兄ちゃんだぜ! いいだろう、俺が船乗り人生30年の歳月で培った船乗り魂で、お前さんを必ずしんげつじままで導いてやるぜ!!」
威勢のいい大声に、他の船乗り達の心も徐々に動きつつあった。
「でもよ、がむしゃらに突き進んだってしょうがねぇぜ? まずはあらゆる情報を元に、正確な海図を作らないとな! 俺は図書館に行ってくるぜ、今は神話でも縋ってやらぁ!!」
「そういえばよ、対になってるまんげつじまには、みかづきのはねがあれば簡単に行けるだろ? ホラ、クレセリアさまのご加護があるっていう。淡い光が島まで導いてくれるらしいって話じゃねぇか」
「ってことは、みかづきのはねと対になってるアイテムがあるかもしれねぇってことだよな!?」
慌しく駆け回り始める船乗り達をよそに、シンジはひとつ思い当たるところがあったらしく荷物の袋をまさぐり始めた。
「みかづきのはね……確か、こいつのネットの材料、ヨルノズクの羽毛にそんな別名があった気が…」
ネットというのは、モンスターボールの素材のひとつだ。鳥ポケモンの羽や、虫ポケモンの糸などを網状に編み込み、ポケモンを捕獲するためのネットにする。
もうひとつの素材、ぼんぐりから精製するシェルという部分の組み合わせによってモンスターボールの効果、性能が決定される。
「…ムーンボール、こいつなら。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!」
シンジが自らのスペックを発動すると、ボールから夜空色の波動が放たれる。普段は相手のポケモンに向かって飛んでいくはずの眠りの波動が、海を越えまっすぐ北へと伸びていた。
「…やはり。ムーンボールの波動が、まんげつじまを察知したか。ならば…」
船乗りの一人が言っていた、対になるアイテムというのは…。
「ヒントが簡単すぎるぞ、ダメ親父め」
そう呟くとシンジは船着場に飛び移り、フレンドリィショップへと駆け出すのだった。
- 38 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:01:06 ID:dHycQM..
- 第34話 ダークボール
「…もう一度言ってくれ」
「ですから、当店ではダークボールは取り扱っておりませんので…。誠に申し訳ございません」
「バカな…」
ここに来て、シンジは思わぬ壁に激突していた。
ミオシティのフレンドリィショップでは、ダークボールを取り扱っていないというのだ。
それどころか、問い合わせてもらったシンオウフレンドリィショップ協会によれば、ダークボールを取り扱っている店舗はシンオウの中心線に聳えるテンガン山脈を隔てて東側の町にしかないらしい。
ヤミカラス、いやドンカラスがいないので徒歩でいくほか無く、行って帰ってくる頃には新月の夜はとうに終わってしまっている。
「残念だったなぁ。ま、他にも方法があるかもしれねぇぜ」
そう言って、ナミキは船の整備を始めるため船着場へ向かった。
シンジはうな垂れた。
「古臭い情報をくれたものだな、クソ親父が…」
昔はこのミオシティでもダークボールを取り扱っていたが、ホウエンはデボン社開発の新型ボールがシンオウにも出回るに連れて需要が減ったらしい。なぜなら夕日が西側よりも早く山に沈み、夜になるが早い東側のほうがダークボールの売れ行きがいいからだ。
「…どうする…?」
ダークボールが無ければ、しんげつじまへの海路を見出すことは出来ない。次の新月までの1ヶ月間を、再び悪夢とともに過ごすのも癪だった。何か方法は無いか…?
思考を巡らせ…るまでもなく、シンジはひとつの結論に辿り着いた。
「…俺は、馬鹿か?」
そうだ。俺が何者か、俺自身が忘れていた。
船乗りの一人が、図書館があると言っていたのを思い出す。その辺にいた住人らしきアロマな女性に、シンジが勢い良く声をかけた。
「すまない、図書館はどっちにあるかわかるか!?」
「えっ…? あっちですけ、ど…」
「あの建物か、恩に着る!!」
いろいろと思慮に欠けた物言いで礼を述べ、一目散に図書館へ向かった。
図書館に駆け込み、「静かにしてください」と叱られつつ図書館案内に目をやる。
「1F・ポケモントレーナー関連書籍…これか」
アイテム関係の本棚から、モンスターボールについての資料を探す。
「あった! これだ!!」
「お静かに!!」
周囲の痛い視線も気にせず、シンジは「モンスターボール大全・第八版」を手に取り読み始めた。熱くなると周りが見えなくなるのが彼である。
「ダークボール、材料…。くろぼんぐりと、ヤミカラスの羽根…」
ビンゴだ。両方とも、現在彼が所持している。シンジは本を元に戻すと、図書館を後にした。もちろん、三度目の正直とばかりに注意を喰らいながら。
ボートに置いておいた袋から、くろぼんぐりと、ハンマー、金床を取り出し、ポケットに入れてあったヤミカラスの羽根を引っ張り出した。ドンカラスに進化したとき、記念にとっておいて良かった。
「サイドン…かえんほうしゃは使えるか?」
ハイパーボールから出したサイドンに問うと、嬉しそうに頷く。主の息子の力となれることが素直に嬉しいのだろう。
「お、おいおい…アンタまさかボールを…!?」
そばに立っていたナミキが不審そうにシンジを見つめている。
シンジは手ぬぐいを頭に巻き、後ろ髪をゴムでまとめて、言った。
「その通りだ。俺がここでダークボールを打つ」
やってやるさ。
俺は、全国一のボール職人、ガンテツの弟子なのだから…!!
「…ん? どうした、サイドン」
・・・長いので省略されました。 [全て読む]
- 39 :エンタ :2008/05/06(Tue) 19:01:28 ID:dHycQM..
- 第35話 ドサイドン
「…いいぞ。そのくらいやる気を見せてくれれば問題ない。いよいよもって、伝承のポケモンとやらに会うのが楽しみになってきた」
新種のポケモンを前にしてなお、冷静かつ不敵な表情をしていられるシンジに、ナミキは改めて感心した。
彼としては、既に自分の手持ちの2体が新たな進化を遂げているわけだから、ここまで来れば驚かないといった開き直りもあるのだろうが。
「いいか、サイドン。かえんほうしゃを…」
ふと、このポケモンは既にサイドンではないことに気づく。
「そうだな、お前に新しい名前をつけてやる」
シンジは進化したサイドンの身体をじっくり観察し始めた。一回り巨大化した体躯に、鉄球のように変化した尻尾、そして何より大砲のような形状をした両腕。そう、まるで戦闘兵器のようなポケモンだった。
「…そうだな、超弩級のサイドンだから…お前はドサイドンだ!」
「そっ…そのネーミングは、ダサイドン…」
「………」
ナミキのあんまりなツッコミ。やはり彼には、ネーミングセンスが皆無なのであった。
しかし、2人は知る由も無かった。その名が、後にそのポケモンの正式名称となろうとは…。
町のど真ん中で、黙々とぼんぐりを打ち続けるシンジ。鈍い金属音が、ミオシティ中に響き渡る。
そう広くない町だ。すでに彼の噂は人々に知れ渡り、住人皆が知る伝承に挑むという青年を一目見ようと集まってきている。
すぐ傍で、絶え間なくぼんぐりに炎を放ち続けるドサイドン。時折、シンジの額から噴き出す汗が熱された金床に滴りジュッと音を立てた。
やがてぼんぐりを打ち終わり、シェルとしての加工は残すところ冷却のみとなった。しかし急激に冷やすと脆くなる危険性がある。れいとうビームなどもってのほかだった。
いまだ赤く輝き続けるシェルは、ナミキが自宅に持っていった。潮風に当てるのもあまりよくない。
ゆっくりゆっくりシェルを冷やしている間、今度はネットの作業を開始する。手元がよく見えるよう、ピントレンズを左目に装着した。
浮かぶのは、2人の師匠の顔だ。
「…大丈夫、できるさ」
自分自身に向けて呟き、たった一枚しかないヤミカラスの羽根をゆっくりと解き始めた。
ゴクリ。誰かが生唾を飲み込む音。
緊張の糸が限界まで張り詰めた中、作業は開始された。
「…でき、た…」
冷却の済んだシェルに、ネットを編み込む。最後にしてもっとも重要な作業が、今、完了した。
ダークボールの完成だ。
どっ、と歓声が巻き起こる。シンジも、今まで周りにギャラリーがいることなど気づいていなかったかのように驚いた。
「な、なんだ…!?」
「おめでとう! みんなアンタの働きっぷりを褒め称えてるのさ!」
「やるじゃねぇか、兄ちゃんよ!!」
「漢(オトコ)見せてくれるねぇ!!」
「お疲れ様ですっ」
船乗り達や先ほどのアロマな女性が、次々に彼に労いの言葉をかける。シンジもどことなく嬉しそうな表情で、手ぬぐいとゴムを外し、汗を拭く。
「いい頃合いだな、日は沈んだようだ。これでしんげつじまへの道が示される。『魔球(ボングリック・リベレイト)』!」
造りたてのダークボールから発された力強い光が、海の向こうに真っ直ぐ伸びていた。
「よっしゃ、テメェら! 舵をとれ!! 目指すは北! 挑むは伝承!! しんげつじまに向け、面舵いっぱいヨーソローってなモンだァァ!!!」
『ウォォォォオオオオ!!!!!』
一斉に挙がる鬨の声。新月の下を、一艘の船が北へと奔(はし)り出した。
「…もし、そこの方」
船を見送るひとりの女性に、男が背後から声をかけた。アロマな女性は振り向いて会釈しながら、笑顔で言った。
「こんばんは。今日はよく話しかけられる日みたいです。あなた方も図書館へ?」
「いいえ、アナタに用があるのですよ…マドモワゼル」
- 40 :エンタ :2008/06/04(Wed) 17:54:15 ID:hvaa2aOw
- 第36話 宝珠と巫女
「でもさ、こうして巫女が3人揃うって、初めてじゃないかな?」
ルネシティに向かう道中、ペリッパーの口の中でマナカが唐突に言った。
「そう…ですね。私とマナカさんは決戦の後よくおしゃべりしていましたけれど…」
「申し訳ないです」
「あ、いやいや別にミズホちゃんを責めてるわけじゃないって」
ミズホは、ホタルからのファイヤーに乗せていくとの申し出を自ら断った。マナカとヒスイに、謝らなければならないと思ったからだ。
「…そのことだけでは無いです。私は、巫女は本来、ホウエンの平和のために在らねばならないというのに。私は闘争と破滅の片棒を、望んで担いでいたのです。それと知って協力していたのです」
「う〜…で、でもそれはその、さ。ホラ」
マナカが口ごもっていると、助け舟でも出すかのようにヒスイが喋り始めた。
「ミズホさんにはミズホさんなりの正義があったのでしょう? それを貫くための方法が、少し私たちと違っていた…それだけのことですよ。私はあなたの為そうとした正義を否定しませんし、あなたなりに導き出した考えを咎めもしません」
ヒスイが優しく諭すように言った。普段の彼女はふわふわしていてどこか天然だが、こういう時は力強い意志があらわになる。
「…前から思ってたんだけどさ、ヒスイちゃんて見かけによらずアツいよね」
「へ? そ、そうですか?」
「なんていうか。あたしの知ってる『そーゆー人たち』と似てるって思ってさ」
そーゆー人たち。それだけで、何か2人には伝わるものでもあったのだろうか。
「…それ、ユウキさんのことですか?」
「もしくは、ホタルさん…?」
「あっはは。さぁねー。違うかもしれないし、そーかもしんない。片っぽだけかもしんないし、両方かもしれないね?」
はぐらかしているのか、誘導しているのか。いまいち意図の掴めない返答だった。何も考えてないのだろうか。
「ふふっ」
「あはははっ!」
「……くすっ」
その瞬間を、2人は見逃さなかった。
「あー!! 笑ったよ!!」
「ええ、やっと笑ってくれましたねっ♪」
「え、あ!? あ、うぁ…!?」
当然、困惑もする。
「そ、その…」
「ほら、やっぱり笑ってるほうが絶対いいって! 楽しいし、嬉しいし。笑ってる人も、それを見てるこっちも」
「そう…でしょうか」
「それとも一番大事な笑顔はホタちゃんのためにとっときたい?」
ミズホの顔が爆発したように赤くなった。
「そ、そのへんにしておきましょうよ、マナカさん…」
「あはは、ちょーっとイジメ過ぎちゃったかな? ごめんごめん。ほら、もう着いたみたいだよ」
ペリッパーのくちばしを、コツコツとノックする音がした。
「しかしスゲェな。人を背中に乗せるならともかく、口に入れて運ぶなんてよ」
「溺れているポケモンを救助するためとも言われているからな。それなりの大きさは必要なんだろう。私のペリッパーは通常よりいくらか大きいが」
ファイヤーをボールに戻しながら感心して言うホタルに、ミクリが説明する。何だかんだで、この2人もすっかり普通に接していた。
「んっん〜!! いい空気だねぇ〜」
いささか狭い口内で凝った身体を伸ばしながらの深呼吸。
かつて火口だった場所がカルデラ湖となり、そこに人が住まうようになったのがルネシティのはじまりだ。かつて太古の昔、グラードンとカイオーガが激突したのがこの地といわれ、今でもいくつもの伝承が残っている。
その名残のひとつが、彼らの目の前にある洞窟の入り口……めざめのほこら。神の意識に最も近い場所。
「この奥に、宝珠を保管してあるんだ」
見張り番をしていたルネシティジムのトレーナーと思しき女性に話を通し、一行はめざめのほこらの深部へと向かった。
「…なんだか、海底洞窟の雰囲気と似ています」
「同じさ。海底洞窟には神の肉体が、そしてここには神の意識が眠っている。ここで宝珠を破壊すれば、神の肉体は失われるだろう」
それはつまり、マグマ団とアクア団の目的である神の力の利用を完全に阻止するための手段。
・・・長いので省略されました。 [全て読む]
- 41 :エンタ :2008/06/21(Sat) 23:38:18 ID:BUHs/.jc
- 第37話 宝珠を破壊せよ
「さぁ、皆自分の宝珠を手に取ってくれ」
3つの台座の中心に立ったミクリが指示をする。
マナカはべにいろのたまを、ミズホはあいいろのたまを手に取った。
「まずは、それぞれの神の意志にアクセスしてくれ。彼らの意識を眠らせるんだ」
言われたとおり、彼女らは宝珠に向かって念じ始めた。が、マナカは集中できないのか、すぐに息を切らしてしまった。
「はぁっ、はぁっ、これ、案外キツイね…」
「無理をさせてすまない。私は何もしてやれないが…、頑張って、くれ」
「…OKっ」
再び、汗に濡れた額を宝珠にぴたりとくっつける。
「ヒスイ君、きみはレックウザの意識にアクセスしてくれ」
「えぇっ!? こ、ここからですか?」
驚くのも無理はなかった。ヒスイがレックウザの意識にアクセスできるのは、そらのはしらなどレックウザの付近のみである。
2匹の意識に最も近い場所、つまりホウエン最深部であるめざめのほこらからの神通は、困難をきわめるであろうことは分かりきっていた。
「…無理は承知だ。しかし、2匹が完全に眠ったのを感知できるのはおそらくレックウザだけ。マナカくんとミズホくんには、干渉する力はあっても感知する術はない」
べにいろ、あいいろのたまとそらいろのたまでは、そもそもの由来が異なる。
前者の二色は、かつてレックウザがグラードン、カイオーガの意識を封印した楔。対してそらいろのたまは、レックウザが人の心を繋ぐための宝として人間に預けた物である。そう、ダイゴは言っていた。
「きみがレックウザと意識を共有することで、2匹が完全に眠るのを感知することができる。そのタイミングで、宝珠同士をぶつけ合わせ破壊する…。3人の巫女の力が揃わないと上手くはいかないんだ」
ヒスイが躊躇いがちに台座に置かれた宝珠に目をやる。確かに、記憶が戻ってからは宝珠に触れても意思を支配されることは無くなった。危険は、きっと無いと思う。
「…わかりました。やって…やってみます」
「ありがとう。頼んだ…」
そらいろのたまを手に取る。色は変わらない。向こうに拒絶の意思は無い、ということだろうか。
そっと目を閉じ、力を込める。
「ッ!?!?」
両の腕に、雷が迸ったような衝撃を受けた。危うく宝珠を取り落としそうになる。
「ヒスイ君!?」
「す、すみま…せ、ぁぐっっ!!」
なおも電撃はバヂバヂと薄気味の悪い音を立てながらヒスイの腕に流れ込んでくる。
「拒絶の…意思が…!? 宝珠から力が逆流しているのか! ヒスイ君ッ!」
「こっちに来んじゃねぇ!! テメーはミズホとガキんちょの面倒見てろ!!」
はっ、と振り返ると、マナカは今にも倒れそうなくらいにふらつき、肩で息をしていた。慌ててミクリが身体を支える。
「…すまない! ヒスイ君を頼む!!」
「へっ。それでいーんだよ」
ホタルが懐からキラキラと輝く何かを取り出す。
「それは…?」
「こうえんのはね。不死鳥ファイヤーの羽毛だ。こいつをこうして、使うんだよ!!」
燃えるように煌く羽根を、ヒスイに向けてかざす。すると、心なしかヒスイの顔から疲労の表情が薄らいだように見えた。
「外傷が無くて助かったぜ。こいつは命に灯す不死の炎。怪我さえなけりゃすぐさま全快よ」
かつての友を解毒したファイヤーの炎を思い出す。浄化と回復に長けた、生命の炎だ。
電撃によるヒスイの身体へのダメージを、受けたはしから回復していく。これにより、ヒスイはレックウザの意識にアクセスし続けることができた。…少なくとも、身体的には…だが。
「…驚いた…。生命の導者以外にも、逆流衝動を防げる者がいたとは…」
その煌きに魅入られたように、ミクリはただホタルのかざす羽根を見つめていた。
「何だよ、見とれやがって。そんなに不思議か? 伝説の炎だから無理もねぇけどよ」
「いや…。今まで私は、炎など、略奪し破壊するのみの野蛮な力に過ぎないと思い続けてきたのだが…与えることも、できるのだな…。そう、そんなことを考えていた」
「ヴァーカ。破壊するためにやってんだろ」
「それもそうだ」
やがて、そらいろのたまに変化が起きた。電撃がより一層激しくなったのだ。それとほぼ同時に、ヒスイが声を振り絞って叫んだ。
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- 42 :エンタ :2008/06/21(Sat) 23:38:42 ID:BUHs/.jc
- 第38話 昏き微睡・其の一
「さぁ、着いたぜ」
船乗りナミキの声で、シンジは我にかえった。
見れば、真っ黒な空と海の中、ぽつんと浮かぶ小島に数艘の船が寄せられていた。
疲れて…眠っていたのか。
たかだかボール1個で精根尽き果てるとは、何とも情けない。師匠には遠く及ばない。…精進せねば。
「おい、兄ちゃん?」
「あ、ああ。すまない」
考え事をしていると周りが見えなくなるのは、彼の悪い癖だった。
「ここがしんげつじま…か」
ぽつりと呟いたのはシンジではなくナミキの方だった。当然だ。その存在の真偽さえあやふやだった幻の島に、いま自分がこうして船をつけているのだから、感慨深くもなる。
「ここにダークライが…」
「お、おい。あまり進みすぎるなよ。何しろ相手は闇を司る伝承のポケモンなんだからな?」
しんげつじまの存在が明らかになったことで、ナミキの中に段階的にダークライの存在に対しての確信が芽生えていた。今となっては伝承すら疑うことなどできはしない。
「わかっているさ。船乗りの皆はここで待機していてくれ。もし何かあったら迎えに来てくれると助かるがな」
「なんだ、ちゃんとビビってんじゃねぇか」
「周到な措置と言ってもらいたい」
とはいえ、シンジも確かにビビってはいた。
それが自分でわからないほどバカではないし、自分の力も弁えているつもりではある。
ただ、過去に一度伝承のポケモン――セレビィを捕獲した経験があるという過信が、ほんの少しの油断を招いていた。
「では、行ってくる」
明かりも何も無い真っ暗闇の森の中へ、シンジは勇んで足を踏み入れた。
「思ったほどではないな」
新月の夜、人里から遠く離れた海の上…。視界は最悪だろうと思っていたが、いざ目が慣れてくると案外とよく見えるものである。
木を避け、草を掻き分け進むことができるほどには、シンジの視界は良好だった。
方向感覚には自信がある彼が、森をどんどん奥へ奥へと進んでいくと、やがて開けた場所に出た。
「いかにも何か出そうな場所だな」
冗談まじりに呟く。ドサイドンをボールから出した。
腰につけてあったダークボールを取り、神経を研ぎ澄ます。作ったときから、このボールで捕獲すると決めていた。
耳を澄まし、その伝承のポケモンの足音を聞き取ろうとする。…何も聞こえない。静寂。静寂。
(…こっちか?)
一応、耳を澄ましながらでも全方位に気を配ることは重要である。そう思い立った彼が振り返った瞬間――
目が合った。
青く、暗い光を宿した双眸。
息を呑む。
あまりに突然のことで、何をしていいか分からなかった。
相手はぷかぷかと浮かんでいた。だから足音が聞こえなかったのか。
と、黒い衣のような身体からいきなり脚が生えた。いや、隠していた脚を出したというのが正しいのだろう。
両の手で、眼前に広がる景色よりも黒い球体を形作り、
相対するシンジの足元に向かって投擲する。
その一連の動作を、ただ呆けて見ていることしかできなかった。
気付いたときには遅かった。
一人と一匹は、すでに相手のわざの支配下にあった。
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- 43 :エンタ :2008/06/21(Sat) 23:39:00 ID:BUHs/.jc
- 第39話 黒空の神子・其の一
「ヒスイ…君……?」
そこにいたのはヒスイのはずだった。
だが、その瞳は曇り空のように黒く淀み、恐ろしいほどに感情を持たなかった。
「ふむ。久しいな、この身体は」
「貴様……!! ヒスイ君ではないな!?」
「そうだ。あの穏和で臆病なか弱い少女が、このような大胆な行動を取るとでも?」
冷たい床に横たわるホタルを足蹴にし、ヒスイだった少女は変わらぬ声音で言い放った。
「…っ!!」
イーブイが、ボールから放たれ、ヒスイだった少女の脚に体当たりをかます。
「ホタルさんから離れてください!!」
「…天罰を受けるか、巫女よ。こことて聖域の一部。足を踏み入れし者がたとえ巫女であっても容赦はかけぬぞ」
ネイティオがイーブイに向き直る。
「…キミは、何者だ…?」
「わたしは空の意志を伝える者。何と呼ぼうが、貴様らの勝手だ」
言うが早いか、ネイティオがイーブイに向かってくちばしを突き出しながら突進した。すんでのところでそれをかわす。
「く…レ、レジアイス!!」
たとえ相手がヒスイの姿をしていようと、傍観はできない。ミクリは受け取ったばかりのレジアイスを出した。
「…貴様らと戦う理由はわたしには無いが…空がお怒りだ。貴様らが聖域を傷つけ、宝珠を破壊した以上…手加減する理由も無くなった」
宝珠を破壊した、ということに対しての態度を見て、ミクリは異変を感じた。
「空の神ではない…?」
「無知とは愚かしいな人間。空の神とわたしの言う空は、別の空だ」
「どういうことだ…。貴様が言っている『空』とは、そらいろのたまの先にいる何者かとは…レックウザのことではないのか?」
「貴様に何を話しても、解することもできまい。おとなしく空の裁きを受けよ」
ネイティオがレジアイスに向かって突撃してきた。イーブイが体当たりで迎え撃とうとするが、高く飛ばれては届かない。レジアイスのれいとうビームも、照準がまるで定まらないようだった。
「くそっ……!!」
「遅いな」
「な、なぜですか!? なぜネイティオが、あんなに早く動けるのです!!」
「人間のお前たちにはわかるまいが…偉大なる空の暗示を受ければこの程度の速度上昇はわけも無い」
無茶苦茶な、とミクリは思ったが、今相手にしているのは正体不明の存在だ。何を持ち出されても不思議ではない。そう自分に言い聞かせ、心を凪ぐ水面の様に落ち着けた。
「…撃て!」
掛け声と同時に、レジアイスの両手から太めのれいとうビームが射出され見事にネイティオに命中した。
「…ふん」
モンスターボールにネイティオを戻し、新たにトゲチックを繰り出す。
「…手持ちを全滅させれば、とりあえず攻撃はやめてもらえそうですね」
「彼女の手持ちは…ネイティオとトゲチックだけのはずだ」
レジアイスが再びトゲチックに狙いをつけた。しかし、そこにすでにトゲチックの姿は無い。
「なっ…!?」
途端に、轟音が巻き起こった。レジアイスが、四方八方から連射されたシャドーボールに襲われたのだ。
センリの使用するシャドーボールとは違い、空気中から影のカタマリを作り出して撃ち出すタイプのものだ。命中率はセンリのものに劣るが、速射性に長けている。
「いつの間に…!? くっ、素早い!!」
ミズホは、頭を抱えながらブツブツと呟いていた。
「こんな…イーブイがサンダースのままだったら…。私が未熟じゃなかったら、はかいこうせんは喰らわなかったはずなのに…」
「過ぎたことを悔やむな!! 頼むぞ、ヒンバス!!」
ふらつくレジアイスをサポートするため、ヒンバスをボールから出す。
「雑魚が。この巫女の育てたようなポケモンにも後れを取るとは」
しかし、ミクリは知っていた。ヒスイはセンリの教えを受けたトレーナーであること、トゲチックとネイティオはもともとジムリーダー所有クラスのポケモンであることを。
「速さで勝てないなら…ほかの何か…何でもいい、勝てる力が欲しい!!」
「落ち着けミズホ君!! 願っても戦況は覆らない!! ヒンバス、ミラーコートを半球状に!!」
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- 44 :エンタ :2008/07/06(Sun) 19:48:02 ID:Bk1mNjCo
- 第40話 昏き微睡・其の二
「おい、いくら何でも遅すぎねぇか?」
岸で待機しているナミキが、仲間たちに呼びかけた。
彼の帰りが思っていたより遥かに遅い。何かあったら呼びに来てくれと言われていた以上、このままのんびり待っているままというわけにもいかない。
「心配性なんだよ、ナミキさんは」
「そうそう。何かあったら合図のひとつやふたつくらい出すだろ」
ドーン、と大きな音がしてあたりが光に包まれた。
「ほら、あんな風に……って!?」
「合図だ!!」
森の中心から上がった号砲、いや花火というべきか、その「合図」があった方向を、船乗り達が一斉に振り向いた。
「行くぞ、お前ら!!」
「お、おう!」
方向感覚には自他共に評価できる技能を持つ船乗り達は、寸分の狂いもなく合図のあがった場所へと揃って駆け出した。
――暗い。
ここはどこだ?
俺は確か、あのポケモンと戦っていたはず…。いや、戦えてすらいなかったかもしれない。気がついたら攻撃を受けていた。
その後、どうなった? 眠った――のか? いや、そんな生易しいものではない。
あいつも言っていた、与えられるのは永眠だと。
俺は、死んだのか? …ならここは、地獄か。見くびりすぎていたな、伝承のポケモンとやらを。
しかし、それなら何故この世界はこんなにも穏やかなんだ?
あのポケモンは、付近で眠る者に悪夢を見せるとあいつは言っていた。だとしたら、俺は何故悪夢に苛まれていない?
考えられる理由は……ヤツが、俺から離れた?
バカな。
せっかく技を当てた相手に、何もせずに去る? 馬鹿げている。敵意がないのなら、最初から攻撃などするはずもない。
ならば、誰かがヤツの気を引き、俺から遠ざけている…?
まさか船乗りの皆が?
まずい。彼らは戦闘手段と呼べるものを持っていない。太刀打ちするには、あまりにも無力だ――!!
……ん?
なんだ、この光は。つきのひかりに似た、淡い光だ。
どういうことだ? ここは地獄、いやヤツの作り出した暗闇ではないのか?
この、闇の切れ間から差し込むような微かな、しかしハッキリとした光は――何なんだ?
!? くっ、眩し…これでは、目を開けるほか…!
…目を、開ける?
道理が間違っては、いない…か……?
「気がついた!!」
シンジは、眠りから覚めた。周囲には、明かりを持った船乗り達が囲むように立ち尽くしている。ナミキが月のような輝きを放つ羽根をかざしながら言った。
「クレセリア様のご加護だな。昔、せがれが眠ったきりになってうなされ続けてたときも、旅人に譲り受けたこの羽根で起こすことが出来たんだ」
「あいつの言っていた特殊な方法とは…これのことか」
シンジは、よろめく身体を無理に起こした。
「ここへはどうやって…?」
「号砲さ。こいつが撃ったみてぇだな」
見ると、背後でサイドン…いや、ドサイドンが、心配そうにシンジを見下ろしていた。横になった状態から見上げると、かなりの迫力だった。
「一足先に目覚めていたと、そういうわけか…」
シンジが感謝の気持ちを込めて弱々しく微笑みかける。それから、草の生い茂る地面に手をつき、飛ぶように起き上がった。
「お、おい!! まだ…」
「俺が森に入ってから、どれくらいの時間が経った?」
「え? い、1時間くれぇか…な」
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- 45 :エンタ :2008/07/06(Sun) 19:48:24 ID:Bk1mNjCo
- 第41話 黒空の神子・其の二
「こ、この子は…?」
「イーブイの、新たな進化形だというのか!? しかし何故…」
困惑する2人をよそに、ヒスイの身体を乗っ取っている何者かは、状況を理解しているかのように呟いた。
「ちっ。『永久氷壁』の影響か。この状況下で進化を遂げるなどと、まったくもって悪運の強い巫女だ」
言ってから、『彼女』はしばし自分の言葉を反芻する。
「いや…『海幸(ラッキー・カード)』の能力のうちなればこそ、その進化も必然…か」
途端にトゲチックが背中の羽根を輝かせ、空を飛びまわるスピードをさらに上昇させる。
(このポケモンは筋がいい。さっきのやつに比べて、さほど強い暗示を与えなくともかなりの速度を誇る)
命令無しで、シャドーボールを四方八方から乱射する。
トゲチックの体力も徐々に削られ、完全に不利となり始めた『彼女』に、もはや全力を出さない理由は存在しなくなった。
「さぁ、影に果てろ!! 愚かな人間どもよ!!」
撃ち出された全てのシャドーボールが、ほぼ同時にミズホたちに襲い掛かった――。
「……なぜだ」
ヒスイではない何者かは、憎々しげに呻いた。
「なぜ一発も命中していない!?」
全てのシャドーボールをその身に受けたかに見えたミズホとイーブイの進化系は、『彼女』の予想に反してまったくの無傷だった。それどころか、状況が理解し切れず立ち尽くすミクリと、そのポケモン、レジアイスまでもが。
「ふふふ……。ラッキー、でした」
「全て…回避した!? バカな、そんなことが!!」
「そこに1%でも確率が存在しているなら、私の望み方次第でその確率を引き当てることができる。どうやら私の能力は、そういうものだったようですね」
さっきまでとはうって変わって得意げに、ミズホが微笑を浮かべる。
「巫女の能力は、生まれた時から発現している。私の場合は自覚無しに使っていたですが、先ほどの攻撃の中で、確かに声を聞いたです。ラッキー・カード…とね」
「レジアイスを自分のもとに『運良く』流れ着かせたのも、遥か海底から『運良く』生還できたのも、その能力か…。し、しかしトレーナーの経験から考えて、今のシャドーボールが外れる確率は0%だったはず。どうやって回避率を生み出したんだ…?」
戸惑いながらも冷静な意見を述べるミクリに、ミズホは笑って答えてみせた。
「この子の能力みたいです。砂に隠れて敵を討つ砂漠のポケモンに似た、あられに紛れ、敵の攻撃を回避するとくせい――そう、言うなれば「ゆきがくれ」ですね」
「そんな僅かな確率から、全てのシャドーボールを回避するという恐るべき事象を引き当てたというのか…」
「くっ…。この私が、敗北…だと? おのれ…!」
本来の目的――『彼女』の言う、空の裁きを与えられず敗北したことに、『彼女』は怒り、震えていた。
意識を回復しはじめたホタルがよろよろと立ち上がり始める。
「さぁ…きみは負けた。おとなしく、ヒスイ君の身体を返してもらおうか」
「ちっ…覚えていろ。空は必ず、再び貴様ら人間を潰す! これは土産だ、とっておけ!」
鬼のような形相が一瞬にして崩れ、眠るように目を閉じたヒスイが冷たい床へと倒れ込んだ。
「ヒスイさんっ!!」
あられが止み、それでも寒さの残るほこら内の状況に混乱したホタルが、ミクリに向かって悪態をついた。
「寒ッ!? おいどういうことだアホミクリ、状況説明しやがれ!!」
「…悪いが、どうやらそんな悠長なことを言っている暇はないらしい。ミズホ君、ヒスイ君を急いでこっちへ!!」
「えっ!? は、はい!!」
ミズホがヒスイの身体を抱きかかえて、ミクリの傍へと移動した。青い水晶のようなものがところどころ床に刺さっている。これはあいいろのたまの破片なのだと思い出すのに、そう時間はかからなかった。
「おい、どうなってんだよ!!」
「こっちへ来るな!!」
「…あァ? 意味が…」
いまだボールに戻していなかったレジアイスのパンチが、ホタルを反対側の壁へと突き飛ばしていた。
「っ痛!! おいテメェ、何しやが」
ズズゥゥゥゥゥゥウウウウウン……
「………は?」
罵倒しようとした相手は、すでに視界の先にいなかった。
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Colorful Board System Version1.01 by ミライいろ。